第38話
「なかなか難しいものですね。戦ったり忍び込んだりって。」
同じ箱の同居人、本物のムーディにレンは独り言のように語り掛けるが、彼からの反応は戻っては来ない。
闇の帝王の娘という言葉を聞いて警戒しているのだろうとレンは思った。
が、ただただ何もせずに、何も出来ずに闇の中に居るのは耐えれなかった。
「ムーディ先生。私は失敗してしまいましたが、貴方は必ず救われます。もう少しだけ、此処で我慢していて下さいね。」
レンのその言葉にムーディは視線を此方へと向ける。
「大丈夫、絶対に…上手くいけばダンブルドア先生が貴方を助け出してくれます。」
レンのしっかりとした声色に、ムーディは唸るような低い声で言葉を紡ぐ。
「外で何が起こっている?」
レンはムーディに今外はどんな事が起こっているかを丁寧に話して聞かせた。
ムーディはその間一度も言葉を挟む事はなく、レンの考えや意見を混ぜて話している時は時折同意や感心した様に頷いて見せてくれるだけだった。
だが、レンは此処へ来る前にジョージに手紙を預けた事は言う事はなかった。
どこで聞かれているか判らない。
もし聞かれていればジョージの身に危険が及ぶ…それだけはどうしても避けたかった。

この暗闇の中ではそれから何日何週間何ヶ月が過ぎたか判らなかった。
どんなに時間が経ってもレンの瞳から光が消える事はなかった。
腕に身につけているブレスレットやネックレスが力を分けてくれている…そんな気持ちにもなった。
あのシリウスが無実の罪で何年も何年もアズカバンに入れられていたのだ。
それに比べたらこの程度…!と思える事が出来ていた。
ある日「ムーディ先生、無言呪文とはどのようにやるものなのでしょうか?」と尋ねれば、彼は少々驚いてみせ、無言呪文には強い精神力と集中力が必要と答えてくれた。
それから事が動き出すその日まで、レンは杖なしでも唱えられる魔法を無言で唱えられる様にと練習し続けた。
今回は失敗という形で終わってしまった…が、次はもう失敗をしたくない。守れるものがあるのなら守りたい。