休日だったはずの日曜日。 それはやはり平日に成り代わっていた。 コーンコーン、と厳かな音を学園内に響かせる授業終わりのチャイム。 その音が鳴り終わると同時に、先ほどまで静寂に包まれていた教室内に多くの声が溢れ始めた。 昼休みということもあり、多くの生徒が教室内から姿を消していく。 一人また一人と消えていく中、私はぼんやりと窓の外を見つめながら頬杖をついていた。 「ルカさま」 そして、クラス中の生徒たちが見えなくなった頃、ここ一年で聞き慣れた声が背後から掛けられた。 私はそれに驚くこともなくゆっくりと視線だけを向ける。 すると、そこには学園内には似つかわしくない漆黒の燕尾服を纏った男が立っていた。 「昼食をお持ち致しました」 「……」 「本日出掛けられる際にお持ちにならなかったと伺いましたので。出過ぎたことかと思案いたしましたが、こちらにお運びさせて頂きました」 緩やかに口角を上げて、こちらに小さな包みを差し出す男。 それは、この世界での私の住居で働いている人間、俗にいう使用人だった。 「…ハルト……」 最初の頃は、驚き過ぎて首を傾げるばかりだったけれど、一年も経てば徐々に慣れて来た。 どういう理屈かはいまだにわかっていないけど、現実世界の週末の二日間だけなぜか別次元に飛ばされてしまう自分。 そのなかの世界の一つが今いる、ここ。 そこでの住居が所謂お屋敷みたいな感じで、その家に仕えている人たちの一人がこのハルトだった。 「……今日あまりお腹が空いてなくて」 「そうでしたか」 「ごめんなさい、持って来てもらったのに」 「いえ。そんなことはございません。それでは、取り敢えずお持ちいただくだけお持ち下さい。帰宅までの間、もし空かれるときがありましたらぜひそのときに」 ニコリと笑うハルトは、そっと机の端に包みを寄せる。 私は着いていた肘を下ろすと、ハルトの方に向き直った。 「……ありがとう」 「いえ」 ポツリと呟いた言葉は、どうやら届いたらしい。 色白のハルトの肌にかかる漆黒の前髪が、大きく細められる瞳に揺らされていた。 「それでは私はこれで失礼いたします」 精巧な所作で一礼をしてから教室を去っていくハルト。 その背中を見送ると、私は誰もいなくなった教室でそっと目を閉じた。 そして、残された包みにゆっくりと目を向けると、控えめに添えられた一輪の花に気がついた。 「……クチナシ」 それは、いつかの思い出を擽る真っ白なクチナシの花だった。 5月21日。 一年前のこの日。 私が戸惑い涙を流す傍らで…そういえば、あなたはこの花を贈ってくれたね。 あぁ……あれから一年か。 随分と月日が経ったんだね