前回の世界から元の世界に戻って、再び週末がやってきた。 週末だけに訪れる別世界での一週間。 それは一体何なのか、追求するなんて野暮なことはもうしない。 だって、一年も前に……し飽きてしまったから。 だから今はこうして、週末だけに訪れる不思議な異世界旅行に付き合うだけ付き合うことにしている。 不毛な探り合いはもうしないと決めた。 「……」 今立っている場所は、そう、あそこだ。 明らかに前回の世界とは異なった雰囲気の場所。 現代社会の世界観は似通っているけれど、あの世界には『米花町』という地名が存在しない。 つまり、ここはまた別の『世界』ということ。 「……」 そして、明らかに異なっているもう一つの事実。 それは…… 「あらルカさん、ごきげんよう」 「……ごきげんよう」 「お久しぶりじゃなくって?」 「……」 「相変わらず口数の少ない方ね、あなた。高等部にもなって人付き合いがそれでは、先行きが不安になりますわ」 ――今度は、高校生ということ。 「まぁいいわ、ルカさん。私がわざわざ足を運んだのだからそれなりにもてなしなさいね」 ほほほ、と高飛車な笑いを携えて踵を返していく女性。 それはこの世界での所謂、私の従姉(いとこ)。 五歳上の彼女は、大学三年の女子医学生だ。 彼女の家は、代々医療に精通してきた名門中の名門。 それから外れることなく、彼女もまた日本の医療を引率していく一人の医者になることを志している……らしい。 そんな彼女が何故、この世界の私の元に来たのかと言えば、理由は単純明快だった。 「ルカお嬢さま」 「……」 「尹倚(いより)さまのご無礼、大変申し訳ございません。ですが、連日研修の最中ようやくお見つけになられた休日に、ルカお嬢様に会われたいとの一心でこちらにお邪魔させて頂きました。その旨、ご理解いただければ幸いに存じます」 「……わかって、ます」 「あぁ、やはり尹倚さまにはルカお嬢様しかおりません。この正宗、大変嬉しゅうございます」 そう、彼女は私の従姉であり、友人でもあったのだ。 「ルカお嬢様もお変わらず、こちらにおひとりで住まわれてるとのこと。私大変心配をしておりましたが、どうやらその心配は無用のようでしたね」 「……正宗さん」 「はい、なんでございましょう」 「尹倚さんが、あちらでお待ちです」 「…はっ、なんと?!しししし、失礼いたしますね」 「……」 そして、ばたばたと尹倚さんを追いかけていったのが彼女の付き人である正宗さん。 彼もまた、先祖代々、尹倚さんの家系に仕えてきた人間だった。 私は小さくため息を吐くと、二人が向かった部屋へと足を進めた。 「ルカさん、あなたなぜあんな普通の高校に進学したのかしら?」 「尹倚お嬢様……」 「正宗はあちらへ行って、お茶の準備でもなさい」 「……かしこまりました」 巨大なソファに腕を組んで腰掛ける尹倚さん。 彼女はこの世界での私の家なる場所に、勝手知ったる風に居座ると、視線だけで話の続きを促した。 「それで?私あなたから未だ何の説明も受けていないわ」 「……えっと」 「それにね、あんな普通の高校。何のセキュリティもないじゃない。あなたみたいな娘があーんな貧相な高校に行ってもしものことがあったらどうするの」 キッと睨むように向けられた視線は、ひどく鋭い。 私は尹倚さんと対角線上のソファに腰掛けると、どうしたものかと思考を巡らせた。 「あら、でもちょっと待って」 「…?」 「たしかあの高校、どこかの財閥の娘が通ってたような気がするわ…どこの子だったかしら?」 顎に手を添えて考え始めた尹倚さん。 私はそんな彼女の様子に一息つくと、「そういえば」と彼女の述べた事柄から今の私の立場を勘案した。 「正宗!」 「はい」 「あなた、ちょっとルカさんが今年から通ってる高校調べてきて頂戴」 「かしこまりました」 部屋の隅に佇んでいた正宗さんと言葉を交わす尹倚さん。 それを横目にちらりと窓に目を向ける。 前回この世界に来たとき、私はまだ中学3年生だったはず。 でもこの二人の話から察するに、私はこれまでの学校とは別の学校に進学をしたらしい。 どこの、どんな高校かはわからないけれど。 兎に角高校生にはなっているようだ。 「ルカさん、あなたから学校を変えた理由を聞くことはやめにするわ。あなたのことだから、どうせあの学園に飽きたとか、そんなところでしょうから。それに、もしその学校が貧相すぎるなら私が変えてあげるわ。安心なさい」 「……」 艶っぽい笑みを浮かべながら、そう言い放った尹倚さんに一瞥を投げる。 瞳の真剣さから考察すると、彼女の言葉は冗談ではなさそう。 私は特に否定も肯定もせずに、ただ小さく頷くと、その反応に満足したらしい尹倚さんから目を逸らした。 「さてと、少なからずあなたとまたこうして交流を図れたことだし。私はそろそろお暇させていただくわ。正宗」 「はい」 そして、話は終わったと言わんばかりにソファから立ち上がる尹倚さん。 肩にかかった髪を梳く様に払いのけると、尹倚さんはホールに向かいながら振り向かずに声を上げた。 正宗さんが、慌てて追いかけていく。 「ルカさん、今度は貴方が私の屋敷へいらっしゃい。って言っても、来ないのでしょうけど」 「…」 「まぁいいわ。このホテル、たしか貴方のお父様のものだったわよね?あら、もうあなたのモノだったかしら?いいわ、とにかく…やっぱり次も私が気兼ねなく来てあげるから楽しみに待っていなさい。摩天楼で一人は淋しいでしょうしね」 「……」 僅かにトーンの落ちた声色で呟かれた言葉。 私はそれに気づかないふりをして、そのまま彼女の背中を見つめた。 「それじゃあ」 「あ、お嬢様っ!……っルカお嬢様、本日は突然の訪問大変申し訳ございませんでした。また、改めてお嬢様とご挨拶に参りますので……」 「正宗っ!」 「は、はい!只今!!…っそれでは、これで失礼させて頂きます、ルカお嬢様お元気で!!」 デジャヴな姿で尹倚さんに駆け寄っていった正宗さん。 私は、そんな二人の姿をじっとその場で見送った。 「……明後日、か」 そして、手元に残された正宗さんの手書きメモを見つめた。 ――帝丹高校一年二組 ルカさまご入学の高校 一般家庭向け私立高等学校 セキュリティ多大に不備アリ 「……」 きっと、普通に過ごす分には問題ないと思う。 5月24日。 明後日からまた、遠い昔に終わったはずの学生生活が始まる。 知らない終わった過去の再来