必然だったのか。 偶然だったのか。 それは、放課後に光彦たちと公園で遊んでから帰宅した夜のことだった。 蘭と一緒にオっちゃんのところに顔を出していた園子が、茶菓子を口にしながら蘭と何気なく話をしていた。 その内容にちょっとした突っかかりを覚えたのだ。 「そういえばさー。アレ、どうなったのかしら?」 「あれ?」 「ほら、あの手紙よ」 「手紙…?何の話?園子」 ソファに腰掛けている園子に、お代わりの茶を手渡す蘭。 お盆を脇に抱えて、園子の言葉に首を傾げていた。 「いやーね、蘭。もう忘れちゃったの?うちの学年の男子が、一つ下の女の子の下駄箱に手紙入れてたって話よ」 「あぁ、その話ね」 「そーよ。相手の子、その手紙返事したのかしらと思って」 「さぁ…それは何とも言えないんじゃない?だってプライベートなことでしょ?それに連絡用のプリントだったと、私は思うし」 「なによ蘭ったら、まだそんな事言ってるの?!」 「だって……今の時代恋文なんて…ねぇ」 眉尻を下げながら園子の話に耳を傾ける蘭。 その様子に園子はどこか呆れかえっているようだ。 俺はくだらねぇと思いながら、オっちゃんが見続けているテレビニュースの続きに目を遣った。 「でも言ったでしょ?!私、その男子が手紙入れてるところ見たって」 「え…えぇ……」 「ちゃんと、結構間近で見たんだから」 「見たって…その、男の子を?」 「違うわよ!その手紙よ!!」 「ぇえ?!」 「だーかーら、ちゃんと封筒の形してたのよソレ!プリントが入るような大きさじゃなかったわ。どちらかというとカードサイズだったの」 「……それじゃぁ、ほんとに恋文?」 「だからそう言ってるじゃない」 「……うーん」 ふんッ、と鼻息を荒くしながら腕を組む園子は、どうしてもその手紙を恋文にしたいらしい。 …はは、恋する乙女ってか……?ばかばかしい。 折角のニュースも大して面白いこともやってねーみたいだし、嫌でも近くにいる園子の馬鹿でかい声が耳に入ってきちまう。 俺は半目になりながら園子に一瞥を投げると、早々に風呂でも入って寝ちまおうと席を立った。 「……あ、でもちょっと待って。考えてみれば変な手紙だったわね」 「変?手紙が?」 「そうなのよ。なんていうか、やけに淡白だった気がするのよ」 「?」 「宛名には何も書いてないみたいだったし、真っ白で模様もないし。それにほんとにカード一枚しか入ってないような薄さだったのよねぇ」 「男の人だからじゃないの?」 「ぇえー?でも普通、思いの丈を綴った手紙がそんな薄いものになるかしら?」 「うーん、男性だから一言しか書かないってこともあるかもしれないし」 「だからって……はがきみたいな薄さになるかしら?」 「それは…わからないわよ」 首を捻りだした二人は、どうやらすでにその手紙を恋文と断定したらしい。 恋文前提で話をすれば、確かにそう言った疑問が浮かぶんだろうよ。 ったく、女ってのはほんとに訳のわからねー生きモンだぜ。 「あれ?でももう一回ちょっと待って……そう言えば…その男の子」 「園子?」 「うちの学年の男子だったんだけど……うーん」 「?なに、どうしたのよ」 「ちょっと待ってよ?……うーん…っあ!?そうよあいつだわ!」 「え?ぇえ?!」 「蘭ッ!!」 「なに、ちょっとどうしたの、園子!」 すると、何をどうしたのか、いきなり席を立った園子が向かい側に座る蘭の肩を思い切り掴んで揺さぶり始めた。 蘭は突然のことにどうしたらいいのかわからず、園子を落ち着けようと必死だ。 おいおい、静かにしてくれ。 遂に恋愛畑の頭が爆発したってか……? 俺は、仕方ねェという風に蘭の傍へ近づくと、園子から蘭を開放してやろうと手を伸ばした。 「違うのよっ、蘭!アイツ確か、彼女いたはずよ!!」 「え?」 「だーかーら、彼女が三日前くらいにできたとか言ってたのを、私ソイツが手紙入れるその日に廊下で聞いてたのよ!」 「ぇえ?!」 「しかも、同学年の彼女って言ってたから、確かよ!!」 「浮気だわ〜」と声をくぐもらせる園子の顔は鬼の形相を浮かべている。 俺は、蘭に触れる間際に園子の両手から解放された蘭の身体を支えると、茫然とする蘭に声を掛けた。 「蘭ねーちゃん、大丈夫?」 「え?あぁ、ありがとうコナン君」 「ううん!」 どこもケガはしてねーみたいだな…。 蘭は俺に向かって笑顔を浮かべると、困ったように園子に向き直った。 憤慨する園子をなだめようとは、蘭もつくづくお人好しだな。 「くっそ〜っ!その場で思い出してれば一言言ってやったのにっ」 「ちょ、園子もう落ち着きなよ」 「だって蘭!女の敵じゃない!!」 「それは…そうかもしれないけど……」 「くっそ〜っ!!あの時なーんかひっかかったのはこれだったのね!!もうっ、ハトの大群が大量に出て来たからそっちに気を取られたのが不覚だったわ〜っ!」 「ッ!!」 ……ッ!鳩、だと?! 俺は部屋を後にしようとドアノブに掛けていた手を止めると、勢い良く園子に振り返った。 「園子ねーちゃん!その話もう少し詳しく聞かせて!!」 「え?コナン君?!」 「なによッ、ガキンチョ!!」 「いーから!!」 俺は未だに怒鳴りくさっている園子の服を掴むと、先ほどの話の内容をせがむように引っ張った。 「ガキンチョがませたことに興味持つんじゃないわよ!!」 「いーじゃん!気になるんだよ!!」 「服が伸びるから引っ張んじゃないわよ!!」 「あーもう、コナン君!園子も!!」 園子の服を引っ張る俺を背後から抱き上げる蘭。 俺はそれに文句を言いながらも、蘭が園子を説得してくれるのを待った。 「ダメでしょ?!コナン君、服引っ張ったら。園子にちゃんと謝りなさい」 「はーい。ごめんね園子おねえちゃん」 「フンっ、ったく」 「園子も意地悪しないでもう一回話してあげたら?」 「はぁ?!このガキンチョに浮気話しろって言うの?!」 「……そうじゃなくて。たぶんコナン君が聞きたいのは恋文のことでしょ?」 「うん!僕そういうの初めてだから気になっちゃって!!」 「……マセガキ」 くそ…、それはテメ―だろーが。 俺は嘲るような表情で俺を睨む園子に「へへ」っと子どもっぽい表情を返すと、降ろされた先のソファでもう一度園子に話の続きを促した。 「仕方ないわね、で何が訊きたいのよ」 「えっとねぇー」 そうして園子から聞き出したいくつかの情報。 俺はそのすべてをまとめ上げると、ニヤリと口角を上げた。 「コナン君?」 「どうしたのよマセガキ」 恋人ができたばかりのはずの高校生。 そいつが入れた手紙。 カード一枚ほどの厚さしか持たない封筒。 そして、極めつけは大群の鳩。 俺は微かに過ぎった可能性に小さく吐息を漏らすと、先日ぶりにご対面できそうな奴の姿を脳裏に浮かべた。 「…フッ」 先ずは調べる必要がありそうだな。 5月27日。 久々に本来の学校へと行ってみるとするか。 「蘭ねーちゃん!明日僕も高校行っていい?」 「ぇえ?!」 「社会科見学だから!」 名探偵の帰省