私のいる世界は、こういう世界だということを知りました。 だから、彼がずっとそばにいてくれたんだということも。 里入り 「…あ、かでみー?」 「(……)」 ある日、ぽつりと伝えられた言葉。 私は持っていたスコップを地面に置くと、目の前のハーブ畑から顔を覗かせた。 すると、ぱちりと目が合うのは、もちろんミュウツーさん。 ミュウツーさんは、その大きなしっぽを揺らしながらこちらにゆっくりと歩いてきた。 「『あかでみー』って?」 「(……)」 「私が…いくの?」 「(……)」 ミュウツーさんは、私のそばに寄ると私の身体をひょいと持ち上げた。 そして、そのまま家の方へと歩き出すと、いつの間に摘み取ったのか、数本のカモミールの葉を私に差し出した。 いい、かおり…。 「(……)」 「里?でも、私行ったことないよ」 「(…)」 「ん…ミュウツーさんが言うなら…」 「(……)」 「ん…いく」 ぽむぽむと撫でられる頭。 随分と慣れてしまったミュウツーさんの頭を撫でてくれる手。 それは、見た目に反してとてもやわらかくて、ひんやりとしてとても気持ちがいい。 それに目を細めれば、ミュウツーさんはもう一度頭を撫ぜてくれた。 玄関を通り越して、寝室へと入っていく。 するり、とベッド上に降ろされると、私は目の前に佇むミュウツーさんを見上げた。 すると、ミュウツーさんは私の肩に羽織物を掛け、どこから取り出したのか、ひとつのボストンバックを手渡してきた。 その顔には、こちらに向けられる真剣な眼差しが二つ。 そろりと見つめ返せばミュウツーさんは静かに片手を差し出した。 私は黙ってその手を握り返す。 そうすれば、ミュウツーさんは再び私を抱きかかえて、一瞬でその場から姿を消した。 家には何も残さずに。 いつの間にか片されていたようです。 (木の葉の、里?) (「……」)