不知火さんと行動を共にしてから早数日。 平和な任務をこなす日々が続いていました。 月夜の晩 「今日の任務も終わりだな。俺は報告に行ってくるから、今日はこれで解散だ」 「…はい」 「ったく、いい加減慣れろよな」 クシャッと乱雑に頭に置かれた手。 ミュウツーさんとは違った雑な所作に、私はふるりと肩を震わせてしまった。 「ん?嫌だったか?」 「?びっくりしました」 「フッ、そうか。じゃーな、明日もまたちゃんと来いよ」 「はい」 ひらひらと手を振って里に戻って行く不知火さん。 ここ数日で、不愛想な彼は意外にも表情豊かだということを知った。 微小ですけど笑ってくれたり、今みたいに不意に褒めてくれたり。 私は、不知火さんの背中を見送ってから、帰路についた。 その日の夜。 なんだか久しぶりに眠れない。 私はのそりとベッドから起き上がると、ふとベッド脇に佇んでいたミュウツーさんに目を留めた。 「(……)」 「ありがとう」 眠れない私を見とがめて、ミュウツーさんは私を再び外へと連れだしてくれるみたい。 私はそれに甘えることにした。 すると、ミュウツーさんは私をしかと抱きしめ、一瞬で夜の蚊帳へと飛び出していった。 「……せっかくの夜なのにね」 「(……)」 けれど、不幸なことに、今夜はツイていなかったみたい。 里の外に連れ出してくれたミュウツーさんと二人、川辺の小岩に背を預けて月を眺めていれば、不意に感じた数人の気配。 それは、毒々しい殺気を放って私たちに近づいてきていた。 ミュウツーさんが私の横にぴたりとくっつく。 その顔には剣呑な眼を携えていて、森の奥の方に向けられている。 私もそれにつられて森の方に視線を投げるけれど、ポンと肩上に置かれたミュウツーさんの柔らかい手が私の視線を遮った。 「ミュウツーさん?」 「(……)」 「…久しぶりに?でも…私も」 「(……)」 「ん、それじゃ。半分こ」 ちらと合わせた互いの視線。 月の光を反射させたミュウツーさんの眼はとてもきれいだった。 「ここで待ち合わせ?」 「(……)」 「…わかった」 交わした視線を外したその瞬間。 月の照らす小岩の傍に二つの辻風が舞った。 「…こんな夜は、久しぶり、だね」 月夜の血飛沫は、この世界を初めて知った日を思い出させた。 (終わった?) (「…」)