ふわりと降り立った場所。 そこは、前の世界では決してお目にかかれない「戦場」というものだった。 でも、この世界では何度目かな。 戦場 辿り着いた先で目に映った不知火先生の姿。 それは、試験会場の円形場で幾人もの忍びと闘う先生の姿でした。 不意に頭上から声を掛けてみる。 すると、不知火先生は驚いたように私の名前を呼んだ。 「ルカ?!おまっ、なんでこんなとこに」 「…先生、なにして…?」 「なにって…んなこと話してる場合じゃ…チッ、邪魔だ」 「?」 こちらを見上げながら、片手に持っていた千本で飛び掛かってきた相手を往なす不知火先生。 「今日は来なかったんじゃねぇのか」という声が、不知火先生にしては珍しく大きな声だった。 不知火先生のこんな大きな声初めて聞いた。 あ、また一人倒してる。 「つかおまっ浮いて…って、んなことよりルカ、ここから」 「…先生…戦ってるんですか」 「見りゃわかるだろ。いいかよく聞け!見て分かる通り中忍試験どころじゃねぇ。音と砂がこの騒ぎを起こしてくれた」 「…?」 「小首傾げんのもいいが、今日は大人しくどっかに隠れてろ」 「砂の奴がまだ残ってんだよ」と荒げる声は、やっぱり不知火先生らしくない。 私は、不知火先生に襲いかかろうとしている一人の砂忍を見つけると不意に手を翳した。 ―――サイコキネシス。 心の中で唱えた言葉。 瞬間、その男の動きが止まる。 顔半分に布を垂らしたその男は、驚いたように眼を見開いていた。 私はそのままその男をサイコキネシスで宙に持ち上げると、不知火先生の方に振り向いた。 「…これ?」 「なっ?!いつのまに…いや、そんなことよりそのまま掴まえてろ」 そう言ったと同時に、どこからかチャクラを練ったロープを取り出した不知火先生。 そのロープで私が押さえていた忍びを一括りに縛り上げると、不知火先生は深くため息を吐いた。 そして、徐に片手を振り上げると、縛ったその忍びを気絶させていた。 「取り敢えずここはこれでいいか。チッ…上の方はまだやってるな」 「…?」 不知火先生が見上げた先を目で追えば、そこは観戦席。 幾人もの忍びと複数名の木の葉の忍びが火花を散らせていた。 それを目にした不知火先生は、至極面倒くさそうにため息を吐いて、不意に私の頭に手を載せた。 ちらりと先生の顔を見上げる。 「どうやら俺はお前の力を見縊ってたようだな。任務じゃねェが、俺は今からあそこの連中に加勢する。ルカ、お前は十分にやった」 「……?」 「ま、お前にはどっかに隠れててもらいたいがな。木の葉の忍びたるもの今、できることをやれ」 「…」 ポンポン、といつもより強く無造作に撫ぜられた頭。 一瞬だけ瞑ってしまった瞼を開けば、すでにそこには不知火先生の姿はなかった。 …どうやら観客席のところの戦闘に加勢したようす。 私はくるりと辺りを見渡すと、円形場の狭まった空にも拘らず至る所から立ち上る白煙を眼に捉えた。刹那、湧き上がる何か。 「ど、しよう」 「(……)」 「すごく…きもち、わるい」 「(………)」 キュッとお腹に手を当てると、ずっとそばにいてくれたミュウツーさんが徐に私の額に手を翳す。 そして、すうっと何か冷気なようなものが当てられたかと思うと、私の中で燻っていた衝動のようなものがゆっくりとなりを潜めていった。 危ない、危ない…。 「…でも」 「(……)」 「ん。半分こ」 「(…)」 けれど、久しぶりの騒音にざわりと揺れる胸中はどうやら抑えがきかなかったみたい。 私は、ふうっと一呼吸だけ落ち着けると、ゆったりと口角を上げた。 そして、一瞬で観客席にテレポートをすると、不知火先生の目の前に飛び出した。 「……ここは、ぜんぶ、わたしの」 「っルカ?!」 不知火先生の前にいた忍びにふっと微笑み掛ける。 すぐ後ろで不知火先生が何か言っていたけれど、久しぶりの感覚に歯止めを掛けることができない。 木の葉の里は、前住んでいたところに比べてひどく穏やかだったから、最近はミュウツーさんも含めて私も抑えてばかりいた。 ミュウツーさんの顔色を一応窺えば、通路の端でこっちを見守っている様子から、好きにやっていいという意図が窺える。 さらに口角が上がってしまった。 「ルカ!危ねェ!!」 「ナニ?!ルカだと?!」 「木の葉旋風っ!!21、22!!」 ミュウツーさんから視線を戻せば、何やら目の端に銀色と黒色が割り込んでくる。 後続して私の名前を呼ぶ声も響いてきた。 けれど、私は聞こえたそれらすべてを無視すると、不知火先生と敵の間に入り込ませた身体をゆらりと前方に傾けた。 そして、そっと触れるのは相手の左胸に指一本。 するりと滑り込ませた。 「えっ…」 「「「!!」」」 音もなく、血もなく、キレイに抜き取った臓器。 私は相手の後ろに回り込むと、上げていた口角を元に戻してとくりと動いた掌の物体を握り潰した。 刹那、飛び散る血飛沫。 掌の向こうには、奴さんが「返して」と伸ばしてくる手が見えた。 でも、残念、届かない。 「「「!!」」」 「…」 ぼたりと相手が地に伏したあと、不知火先生と銀髪、黒髪の視線が痛いくらいに突き刺さる。 けれど、敵たちはそんな静寂を好機と捉えたのか、動きの止まった三者に一斉に突っ込んできた。 私はそいつらの動きに合わせて再び口角を持ち上げる。 「ぜんぶ、わたしの…」 「っルカ!!」 観客席の一部に寄り集まった三人。 四方から飛び掛かってきた十数人の忍びに、私はゆらりと手を振った。 ―――黒妖陣(ブラスト・アッシュ) 瞬間、四方に跳んだ光が忍びたちの身体に当たる。 はらり、と姿かたちを消した敵たちの身体は、キレイな灰色の灰となって円形場の方へと風に流されていった。 …も、おわり。 私は上げていた手を下ろすと、ちろりとミュウツーさんを見遣る。 すると、テレパシーで、まだ上に敵がいっぱいいるらしいことを教えてくれた。 けれど、伝えられた瞬間にミュウツーさんがその場から姿を消した。 たぶん半分こって約束したからミュウツーさんが上にいる忍びたちを片してくれるのだろう。 私は、ほうっとため息を吐くと近くの観客席に腰を降ろした。 スイクンさんが徐に私の横に腰を降ろす。 鬣が頬に当たって気持ちがいい。目を細めてしまった。 「…ルカ…お前」 「?不知火、せんせ…」 「なんということだ!あの数の敵をたったの一撃で仕留めてしまうとは!」 「…ルカ」 すると、不意に呼ばれた声。 顔を上げればそこには驚いた表情の不知火先生と…あ、はたけさん、あと…は見たことない上忍と思しき人が一名いた。 三者三様に形容しがたい表情を浮かべている。 どうしたんだろう? 「ルカ…お前そんな技いつの間に」 「?」 「俺もこれまであんな技は見たことがない。それに…」 「おい、カカシ、ゲンマ!言いたいことは多々あるだろうが、それよりも今はやることがあるだろう!」 「「!」」 「?」 眉根を深々と寄せる不知火先生とはたけさんだったけれど、突として割り込まれた黒髪の人の声にハッとした表情を浮かべた。 三人とも顔を合わせて、何かを確認するように頷き合っている。 そして、黒髪の人が「まかせろ」という言葉とともにその場を後にすれば、不知火先生とはたけさんが私の方に振り向いた。 「ルカ、お前には後でたんまり話がある。だが今はやるべきことをやらなきゃならねェ」 「そーだね。その話には俺も入れてもらいましょうかね。っとそれじゃ俺はここで失礼するよ」 「?」 真剣な眼を携えながらもへらりと笑ったはたけさん。 瞬身で消えた気配はどうやら周囲の奴さんたちのところへ飛んで行ったらしい。 言われたことにきょどりとしていれば、徐に不知火先生が私の頭に手を置いた。 「ルカ俺はこれからまだやることがある。お前も木の葉の忍びとして生き延びろ」 「…」 「これが今日の最優先任務だ」 「…(こくん)」 「フッ、わかってんじゃねーか」 不知火先生はそれだけ私に告げると、はたけさんのように瞬身でその場から姿を消した。 私は、不知火先生が向かったであろう方向をふと見上げると、たまたま目についた不思議なものにスッと目を細めた。 なんだろう? でも、取り敢えずはミュウツーさんが戻ってくるまではぼうっとしてようと、横にいるスイクンさんにぽてんと身体を預けたのだった。 「…」 「(…)」 (おか、えり。早かったね) (「……」) (ん?あそこ…不思議な四角形がある…) (「…」)