「貴様を葬りかつての過ちを今正そう!」 「木の葉の里はわしの住む家じゃ!火影とはその家の大黒柱として家を守り続ける存在。それは木の葉の意志を受け継ぎ託すもの。簡単にはゆかぬぞ!」 「木の葉の里には毎年多くの忍びが生まれ育ち、生き、戦い、里を守るために死んでいく。そんな里の者たちはたとえ血の繋がりがなくとも、ワシにとって大切な、大切な家族じゃ」 ワシは初代様、二代目様の木の葉の意志を受け継いだ男 ―――三代目火影じゃ 火の意志 『くらえ封印術・屍鬼封尽』 見上げた空に立ち上る白煙。 その中を流れる白雲は、ゆっくりと流れる別次元の生き物のようだった。 そんな流れるような時間の中、不意に風が頬を掠める。 誘われるように見遣った先には、いくつもの木の葉が舞っていた。 「(……)」 「そら…」 舞い上がった木の葉に誘われて見上げた先には、会場中心の建物の屋根。 先ほどから目の端にチラついていた紫色の四角形があった。 その背後に広がる空の青色はいつにもまして青い。 私は茫然とそれを見遣ると、ふと眩しさに目を眩ませた。 「え」 「(…)」 そうしてぼんやりと空を眺めていたのも束の間、いきなり感じた浮遊感に私は目を瞠らせる。 いつの間にか空高く浮いていた自分に、私を抱きしめているミュウツーさんの顔を見遣った。 先ほどまで座っていた下方に見える観客席を見れば、そこには伏している数人の忍びの姿がある。 ミュウツーさん、避けてくれたんだ。 「(…)」 「あ、りがとう」 その事実にポツリと感謝をすれば、ポスンと頭にミュウツーさんの手が触れる。 その冷たさに目を細めると、隣に浮いていたスイクンさんとも目が合って。 私は、二人の視線にへらりと頬を緩めてしまった。 けれどその直後、突として視界に湧いてきたミュウさん。 私は「どうしたのか」と首を捻ると、ミュウさんの尻尾が下の方を指していることに気がついた。 「?」 「(……)」 ミュウツーさんの腕からそろりと抜け出し、ミュウさんの尻尾の先に視線を送る。 すると、やはりというか、そこには先ほどの紫色の四角形。 ミュウツーさんが私の横に来て、あそこには蛇がいると教えてくれた。 透視で中を確認すれば、それは本当の様子。 それに、何やら見たことない生物がもう一体確認できた。 あれは猿?ゴリラだろうか? そんな私の興味に気づいたのか、ミュウツーさんはふと丸い指先で紫色の四角形を指差すと、「見てきてもいい」という許可をくれた。 「?(今日は珍しく…寛大だ)」 「(…)」 「ん」 私は珍しいミュウツーさんの寛容さにコクリと頷きを返すと、ふらりと紫色の四角形の真上に降り立った。 視認だけだと中の様子が全く見えない。 四角形の中はこれでもかという程に樹木で溢れかえっていた。 この紫色はどうやら結界みたい。 私は横に浮いているミュウツーさんたちに目配せをすると、同時に瞠目してしまった。 なぜなら、ミュウツーさんが姿を消して、スイクンさんもミュウさんも同じく姿を消していたから。 私よりも先に三人は四角の中へと入っていた。 え…早い、というより三人してこちらを見て待っている。 私はそんな三人にへらりと苦笑を返すと、ずぶりと四角形の中に身体を潜り込ませた。 「……木、ばっかり」 「(……)」 降立った木の幹はとても太い。 何十年もかけて育ったような木には多くのチャクラが練り込まれているようだった。 スイクンさんが楽しそうに木から木へと乗り移っている。 ミュウさんもその後を追いかけて、ふよふよと辺りを舞っていた。 「…ミュウツーさん」 「(……)」 けれど、そんな楽しい時間もほんの一瞬。 私は先程から伝ってきていた下方にある幾つかの気配に、お腹の中をずくりと疼かせてしまった。 ミュウツーさんが額に手を当ててくる。 視線を合わせるとミュウツーさんは「猿は下にいる」と下方を指差していた。 こくりとミュウツーさんに笑い掛ける。 すると、それを見止めたミュウツーさんは私をその腕に抱き留めると、スッと木の幹から足を踏み出した。 刹那、身体が浮遊感に包まれる。 私はミュウツーさんの腕に包まれながら、そっと辿り着いた先に視線を送った。 「っ!!」 「!」 「なんじゃ!」 音もたてずに辿り着いた先、そこには、中忍試験予選試合の時以来に対面する二人の姿があった。 あと、白い毛の大きな猿。 私はそろりとミュウツーさんの腕から顔を覗かせると、その猿に見惚れてしまった。 けれど、この場に現れた人間に驚いたのか、その場に居た全員がこちらに視線を送っていた。 不意に声が掛けられる。 「お主は…っ試験の、ときの」 「アナタは…」 「なんじゃお前は、くッ…一体どこから…」 三者三様にこちらに向けてくる視線と言葉はすべて怪訝なもの。 私は掛けられた声に振り返ると、剣に貫かれたままいつかの生臭い人間にしがみついている火影さんを見つけた。 猿さんがどうやらその剣を引き留めているようだ。 そしてそれとは相対して、生臭い人に視線を向ければ、その手には剣を動かすチャクラが纏われていることが見て取れた。 戦ってる最中だったみたい。 私はことりと首をもたげた。 「お主、こんなところにいるべきではない。早くこの場から立ち去るんじゃ」 「フフッ、三代目はこんな状況でも自分より里の人間の心配かしら。優しいのねェ」 「くっ」 「でもどうやらもう終わりのようね」 剣が引かれたり引っ張られたり。 その度に火影さんが呻き声を上げて「まだじゃ」と声を上げている。 私はそんな三人のやり取りを茫然と見ながら、ミュウツーさんの腕から降りると、ゆっくりと二人のそばに近づいた。 「クッ…寄るでない!」 「…」 「フッ、アナタ…やっぱり似てるわね。ここへ来て何とも思わないの?」 「大蛇丸…何を言っておる」 「いやーね。私はただ木の葉にもまだ有望な子がいると思っただけよ。ねェ?アナタここへは何しに来たの」 「?」 「首を傾げても無駄よ」 「こやつの話など聞くではないぞ!」 冷や汗を垂らしながら此方ににやりと笑い掛ける生臭い人。 けれど、その人の視線から遮るように、呻きながらも足をずらして火影さんが私の前に出て来た。 ずぶりと剣が奥深く突き刺さる。 瞬間、火影さんが再び呻き声を上げていた。 「…ね、うっ、アナタは見に来たのよねェ」 「ルカ、こ奴の話に耳を傾ける…ぐ、でないぞ。こ奴の戯言なぞ血迷い事よ…」 「フッ、この…う、老いぼれが!死ねェ」 足を動かしたことにより力が抜けたのか、その一瞬を見逃さなかった生臭い人が大きな声を上げる。 すると、思い切り動かされた指先に呼応して、火影さんの身体に突き刺さっていた剣が思い切り引っ張られた。 血飛沫が眼前に飛び散る。 私はその真っ赤を茫然と目で追いながら、足元から響いてくる猿さんの呻き声と悔恨の声を聞いていた。 「「「!!」」」 ぴちゃりぴちゃりと、赤い血飛沫がひとつひとつ鮮明に見えて。 それが着地を覚える前に、なぜか生臭い人の落とす汗の粒もぽたりと落ちるのが目に見えた。 「…」 そのときだった。 いつか感じたお腹の中の疼きを抑えきれなかったのは。 ずくりと下腹あたりが脈を打つようにズクリと疼いて、私は気がついたら口端を持ち上げてしまっていた。 「なっ!アナタっ!!」 「っ!ルカ」 「!!」 すとんと、生臭い人と火影さんの間に降り立つ。 火影さんの背後には何やら物騒な感覚がするけれど、まぁいいかな。 驚きの色に染められた生臭い人の顔は、蛇のような瞳で私を真っ直ぐに見つめていた。 眉間に皺が寄せられていくのが見える。 「アナタっ…見に来た…だけじゃないの」 「…」 「ルカ!危険じゃ!こ奴には手を出すでない!!」 「もう、遅いわよ!」 大量の汗を額に滲ませる生臭い人。 私の登場に吃驚したのか、先ほどとは打って変わった面持ちでこちらを睨みつけると、右手に構えていた指を動かそうと思い切り顔を顰めた。 けれど、苦しそうに呻き声を上げる。 滲む汗が大量に噴出していた。 私は、その人の顔が歪んでいくのをじっとコマ送りで見届けると、不意に耳を掠めた鷹の鳴き声にゆらりとからだを動かした。 そして、ただ、静かに笑った。 周りの木々が笑ったように思えたから。 「―――っ!」 眼前の身体を貫いた己の手。 生臭い人は右手の動きを静止させながら、貫かれた自分の胸に眼球をぐるりと下ろしていた。 ぎょろりと動く目玉をがたがたと震えさせながら。 自分の胸に、照準を合わせていた。 そして、ほんの次の一瞬。 「…」 「「「っ!!」」」 私は生臭い人に微笑み掛けると、するりと腕を引き抜いた。 刹那、その場を占めるのは静寂だけ。 静止画の中にでも迷い込んだようなその場には何モノも動くものがなくなっていた。 そう。たったひとつの、とくりと動く真っ赤な臓器を除いて。 静寂だけがその場を支配していた。 「そ、それは、それは、わたしのよォォオオオ!!!」 けたたましく響き渡る中性音。 その悲鳴は里中に響かんばかりの音量を上げていた。 その証拠に四方から「大蛇丸さま!!」という声が届いてくる。 鼓膜が破れそうだ。 けれど、呼ばれている当の本人は己の眼前に浮かぶ赤黒い物体に血眼だ。 周囲からの声も、私の背後にいる火影さんと猿さんへの意識も完全に忘れてしまっているらしい。 瞳孔を見開きながら、ただただ不自由な身体を使って私に掴み掛かってきた。 「ルカっ…避けるんじゃ…」 「猿飛っ…お前も動くな」 不意に背後から聞こえた声に、眼前の蛇のような眼が更に鋭利なものと化す。 けれど、私はそっとそれに微笑み返せば、大蛇丸と呼ばれた生臭い人の目に掌の物体を晒した。 「このクソガキが…それはアタシのよォ!!」 「…ち、がう」 カッと見開かれた瞳孔。 刹那、こちらに飛んできた大蛇丸の顔。 けれど、向けられた牙と大蛇丸の動きが止まるのはどちらが早かったか。 「ぐっ…」 「「!!」」 それは口に出さなくとも明白だった。 「…」 だって、私は一人じゃなかったから。 「(……)」 「あり、がと…」 彼らがずっとそばにいてくれたから。 「…」 「アナタ…やっぱり、……似てるわ」 形を残したままに掌で静止を覚えた心臓。 私の首元の寸前で止まった色白い身体は、ぼたりとその場に崩れ落ちた。 「ミュウツーさん…」 瞬間、ぶわりと風が頬を掠める。 それはもちろん私の両隣に。 知り過ぎている三つの気配に私はゆるりと微笑んだ。 「お主…は」 「…」 けれど、それはすぐにどこかへ消えてしまった。 だって、目の前に見えてしまったから。 カランと金属音を立てる背後に振り返らなくても。 「まこと、不思議な者じゃった」 この世界に来てからよく目にする真っ白な花が、周りの木々に咲き誇っているのが見えていた。 「木の葉…は…永遠……じゃ」 真っ白な花がたくさん散っていた。 ―――振り向いた先には穏やかな笑みがあった。