里に戻ってきてから早数日。 日野さんに渡した砂饅頭のお土産は、どうやら気に入って頂けたようです。 良かった。 Priceless Moments On the Day 里はずれにある自宅兼茶店。 今日は滅多に出歩かない里内に足を延ばしていた。 月一程度に補充しなければならない生活用品の買い物は必須ですからね。 「っ…あ」 ぽろぽろと転がっていく買い物袋から落ちたトイレットペーパー。 包装袋まで破れてしまっていたのか、中身のひとつひとつが足元に転がっていた。 腕に抱えた袋に気をつけながら、そっと腰を降ろす。 私は手元のトイレットペーパーを拾い上げると、反対の袋から落ちていた石鹸に気づかずにその場に立ち上がった。 「お嬢さん、ここにもひとつ落ちているぞ」 「え」 「なーに気にする必要はない。さっ受け取ってくれ…?ん?君は確か…」 「あ…あなたは…」 起き上がる際にスッと視界に差し出された手。 それを辿ってゆっくりと顔を上げれば、そこにはいつか森で出会った男性がいた。 きらきら笑顔でこっちを向いている。 「熱き心の持ち主、いつかの天使ではないか!」 「あ、あの時はありがとうございました」 「なに気にする必要はない。それよりさぁ、手を貸そう。こんなところで座っていては危ないぞ」 「すみません」 差し出された手を躊躇いがちに掴めば、そっと引き上げてくれる。 「はっはっはっ」と笑いながら他にも散らばっていた物を拾ってくれたその人。 私はそれらを受け取りながら改めてお礼を伝えた。 「今日は森ではなく里で青春か?」 「え?あ…今日はお買い物です」 「そうか天使にも生活があるんだな。だがその荷物では一人で運ぶのは大変だろう。そうだ、俺が手伝ってやろう!どこまで行くんだ?」 「え、大丈…」 「―――夫です」と言葉を続ける直前。 その人はニカりと笑うと、返事をする間もなく私の手から颯爽と荷物を奪っていった。 そして「さあ行こう」と一言告げると、私の前を歩き始めていた。 やっぱり言葉を挟む隙がない…。 私は急いでその人の後を追うと、これまた改めて「ありがとうございます」と伝えた。 ついでに、家は反対方向だということも忘れずに伝えて。 「なにっ!」 振り向いたその人の顔は、初めて見るほどに硬直していた。 (そう言えば自己紹介がまだだったな) (俺は木ノ葉の気高き碧い猛獣、マイト・ガイだ!)