突然のなにか、は最近慣れてきたと思っていたんですが。 適応能力はまだまだのようです。 Atonements from Anonymous 先日の買い物から数日。 私は今日も今日とて、和菓子作りに勤しんでいました。 「客はいないようだな…」 「そうですねぇ」 ? おやつ時を過ぎ、店内に静けさが漂っていた午後。 店先から聞こえた話し声に、私は作業していた手を止めて顔を上げました。 戸が開かれる音はしなかった…と思うんだけど……。 お客さんかな? 「いらっしゃいませ」 前掛けで手の粉を拭いながら店内に顔を出せば、そこにはやはりお客さんの姿。 未だ立ったままの二つの影にそっと笑顔を向けると、私はその二人を近くの席へと案内した。 「菓子は何でもいい、茶をくれるか」 「はい。かしこまりました」 「ワタシは幾つかねりきりをいただきましょうか」 「こちらで見繕いさせていただいてもよろしいでしょうか?」 「えぇ。あとお茶もお願いしますよ」 「はい、かしこまりました」 注文を受けると、いつものように一礼をしてから作業場へとはけていく。 戻る際、ちりんと軽い鈴のような音がしたけれど、私はそれに気を止めることなく注文の品の準備に取り掛かった。 「焼き団子とねりきりになります。ごゆっくりとお寛ぎください」 「ああ、そう言えば少しよろしいですか」 注文された菓子とともにお茶を出し、再び一礼をしてから笑顔でその場を離れようとする。 けれど、不意に掛けられた声が私を留まらせた。 ?なんだろう 掛けられた声に自然と首を傾げてしまう。 私はゆっくりと声の先を見遣ると、初めて目にするお客さん二人の顔に視線を投げかけた。 「いえ、少々お尋ねしたいことがありまして」 「……」 「はい……」 顔を上げた先で見えた視線はふたつ。 そう言えばさっきは笠のようなものを被っていたから顔が見えていなかったんだ。 私は、ぼんやりと頭の片隅でそんなことを考えながら言葉の先を待った。 「この里は長いんですか」 「え…」 「いえ、そのなんといいますか。あまり馴染んでいないように見えましてね」 「…あ、そうですか?」 「えぇ」 不思議な顔の造形をした吾人にふわりと微笑み掛けられる。 けれど、その表情とは裏腹に伝えられた言葉はひどく直球だった。 この人、占い師か何かかな…。 初対面にもかかわらず、思い切り的を得た質問を投げかけて来た吾人に思わず見とれてしまう。 けれど、もう一人のお客さんがため息を吐きながら、その吾人に「おい」と静止の声を掛けていた。 「すまないな、コイツの言うことは気にしないでくれ」 「ひどいですねぇ。別にワタシは迷惑をかけているわけじゃありませんよ、イタチさん」 テーブル脇に立て掛けられた、包帯に巻かれた大きな何かに手を掛ける吾人。 イタチさんと呼ばれた人は、その動作に一瞥をくれると、小さくため息を吐きながら徐にこちらへと視線を向けた。 ?なんだろう…。 向けられた視線と、その場のよくわからない雰囲気にどうすべきか思い悩む。 そして、何か声を掛けた方がいいのかと口を開きかけたとき。 イタチさんと呼ばれた方が、不意に私の方に手を差し出した。 「…すまない、後で少々迷惑をかける詫びだ」 「え…?」 「つれないですねぇイタチさん。後でとは言わずにどうです?今ここで」 差し出された手につと視線を落とせば、そこには何やら小さなピンク色。 その人は、横から掛けられる声に無視を決め込んでいるのか、私の目をじっと見つめながら「受け取れ」と一言伝えてきた。 えっと…どうしたらいいんだろう。 それにさっきの言葉はどういう意味なんだろう。 私はよくわからない状況に、何の対処を取ることもできず、手に握らされた小さなピンク色を右手に包み込むのだった。 「いくぞ鬼鮫」 「まだ、ゆっくりしたいんですがねぇ」 「そんな眼で言っても説得力に欠けるな」 「ククッ残念ですねぇ。あぁお嬢さん、私からも一つ差し上げましょう」 茫然と何もできずに立ち尽くしていると、いつの間に食べ終わったのか。 二人はその場に立ち上がり、椅子の背に掛けておいた笠を被って戸口まで足を進めていた。 「ワタシからもご迷惑をかけるお詫びですよ」 「…え、あ…ありがとうございました」 そうしていつの間にか消えていた二人の姿。 私は、その二人が消えてからもしばらくその場から動くことができなかった。 何だったんだろう…。 あ…桜貝。 (次の日、店前の土道に大きな亀裂が入っていた事はしばらく近所で大騒ぎになりました)