最近、風の向きが変わった気がする。 自然の摂理って不思議なものですね。 Thank-you but, No-Thank-you 「ありがとうございました」 カラカラと閉じられる店の戸。 作業場から顔を覗かせて、お客さんにお礼を告げました。 うーん、今日はなんだか忙しい。 「すいませーん」 「はい、ただいま」 もちもちと練っていた手を止める。 サッと水で洗い流せば、呼ばれた店内へと駆けて行った。 「お待たせしてしまい申し訳ございません」 「いえ、そんなに待ってないんで」 「ご注文の方お伺いいたします」 「えっと、草だんごに栗鹿の子ふたつ」 「ありがとうございます。店内でお召し上がりになりますか」 「お願いします」 「はい、それではこちらのお席で少々お待ちください」 「あ、すんませーん」 「はい」 「こっちに柏追加でお願いします」 「ありがとうございます。お持ち致しますので少々お待ちください」 呼ばれた先に振り返れば、笑顔で追加をくださるお客さん。 わたしもそれに笑顔で言葉を返した。 ひー、今日はなんだか本当に忙しい。 平日ど真ん中の日和だと言うのに、開店から一刻、すでに店内は満席状態。 街の外れにあるこのお店には、こんなこと今までありませんでした。 どーいうことー、と心の中で大慌て。 一人で切り盛りするわたしには、少々堪えます。 けれど、来てくださることにはとっても幸せを感じるので、その気持ちにはこたえなければならない。 わたしはパタパタと足を急がせて、作業場の方へと姿を消しました。 ―――その頃、とある街角の一角。 「ふふふふふふふふふ、繁盛してる繁盛してるわ」 「……あなたって人は」 「ふん、なによ」 「ゴホッ…ずれてますよ」 「うっさいわね、あ、次行くわよー」 「…」 「分身の術!!」 ぼふんっ!と煙の中から出てくるのは、術者とは姿の異なった人間。 服装は普通で、顔も普通。 「よーっし、次はアンタが行くのよ!ダンゴいっぱい注文してきなさいね!」 「わかりました」 「よーっし!たらふく食って繁盛させてくんのよー!!」 その言葉に頷いた分身?人間は街角の隅に見える“甘味処”へと姿を消していく。 小さく漏れ聞こえて来た声は「すいませーん」と店主を呼ぶ声だった。 「ふふーん、さーてもっと繁盛させるわよ」 「……アンコさん、ゴホッ…お礼なら素直に行けばいいじゃないですか」 「…っうっさいわね!!」 「…ゴホッ、ほんとに困った人ですね」 「ハヤテ、アンタねぇ…怒るわよ」 「ゴホッゴホッ…なんだか風が強くなってきましたね、わたしはこの辺で失礼させて頂きます」 「あ、こらっ!待て逃げんな!っつか一人にすんなア!!!」 「あんまりやり過ぎない程度にしてあげて、ゴホッ…くださいね」 「はぁ!!?」 「一般の方なんですから」 「こらーっ!逃げんなー!!」 (やれやれ…ゴホッ、素直に感謝すればいいものを…) (ひー…忙しい)