それはまたしても偶然だった。 わたし、というよりは向こうの偶然だったらしいけれど。 こうも重なるものなんですかね。 木の葉は結構広いのに… Sudden Comes Suddenly 平日最後の昼下がり。 おやつ時の客足が途絶えたころ、カラカラと鳴った戸。 わたしはゆっくりと作業場の暖簾から顔を出して、驚いた。 「すまんな、茶をくれるか」 「…はい、ただいま」 とくんと高鳴る胸は脳に緊張を伝える。 どうして、こんなところに… 湧きおこる疑問を胸に、わたしは盆に茶をのせた。 一呼吸吐いてからゆっくりと胸に手を当てる。 そして、しっかりとエプロンの紐を結ぶと、店内に待つお客様に向かっていった。 「お待たせいたしました」 「うむ、すまんな」 「ご注文をお伺いいたします」 「そうじゃな、ゴマ餡をいただこうかの」 「かしこまりました。お持ち致しますので少々お待ちください」 「うむ」 掠れた声は低く深い。 その声をこんなにも近くで聞いたのは初めてだ。 わたしは笑顔を向けると、少し急ぎ足で作業場へと入っていった。 「ゴマ餡になります」 「ほぉ、これは見事じゃな」 「ありがとうございます」 注文された甘味をテーブルに載せる。 竹の模様が浮かぶテーブルには花菖蒲が置かれている。 その手元に寄せるように置いたゴマ餡は白と黒の二色だった。 「ではいただこう」 「それではごゆっくりお過ごしください」 そう告げて静かに戻れば、誰もいない店内には、その人が咀嚼するゴマ餡の音だけが響いた。 「うむ、うまい」 届いた声も低く掠れていて、それは、どこかわたしの心をくすぐる。 「うまかった」 ―――また頼む。 告げられた言葉と皺の寄った笑顔。 里の集まりなどで一度だけ目にしたことのあったその人は、とても温かかった。 (…火影、かぁ) (ねっね!いいとこだったでしょ!火影さまっ) (離れんか) (最近の私の一押しなのよ、あでも他の奴には教えちゃダメよ) (いい加減にせんかアンコ!) (やーね、火影さまだけよ)