Fallen What? 今日は週に二日のお休みの日。 通常、甘味処とかの飲食系は土日にお店を開いているものかもしれない。 けれど、わたしのお店は他の会社と同様、土日が定休日。 混むとかそういうのはあまり関係ないけど、なんとなく休みは土日っていう考えだったから。 だから甘味処でも休みは土曜と日曜の二日間。 それに、自分一人が食べていける分だけ稼げればいいしね。 「うん」 ということで、今日は休みの日を利用して、近くの森に和菓子に使う葉っぱや花を採取しに来ました。 採取とはいっても、自分ですでに何度も足を運んだ慣れ親しんだ場所だけれど。 心の中ではすでに自分の畑と称している…。 「え…と、柿の葉と…笹」 腰を下ろしながら、笹の柔らかい新芽の部分だけを選りすぐっていく。 柿の葉は高いところにあるから後で取ることにして。 「え?」 そうしていくらか地面に這いつくばっていれば、ちらと目に飛び込んできた赤色。 わたしは瞬いてからそれに目を遣った。 「…うそ」 漏れた言葉は素直だった。 驚きに気持ちが染まったけれど、それはすぐに喜びに変わった。 「どうしてこんなところに」 スッと伸ばした手が触れるのは、目をこすりたくなるほどに信じられないモノ。 わたしはこの世界でまさかの出会いに感激した。 「野生のラズベリーがあるなんて…」 信じられないモノを見るように、見つけた真っ赤な実をじっと見つめる。 それは、小さな丸が寄り集まったように形づくるひとつの実。 真っ赤に映えるそれは、間違うことなく西洋の実だった。 わたしは、嬉しさ余って無心でラズベリーを袋に詰め込んだ。 うーん、幸せだ。 まさかの出会いに「ありがとう」と何度も心で言う。 ほくほくとした気持ちが顔に出てしまいそうだ。 その場に徐に立ち上がったわたしは、頬に手を添えながら最後の目的、柿の木の下まで足を運んだ。 さて、素敵な出会いに感謝はしつつも、目的は達成しなくては。 わたしは、そっと目の前の柿の木に足を掛けると、ゆっくりと木を登り始めた。 「…ん、わっ」 剥がれ易い柿の木の肌。 ぽろぽろと木の肌がけずれていく様は、いつ見ても申し訳ない。 でも「柿の木様の葉っぱが必要なんです」。 そう心の中で謝りながら、滑る木肌に必死に捕まった。 そして、丁度いい感じの葉っぱを見つけたとき、わたしは慎重にその葉に手を伸ばした。 バランスを取りながら、そーっと、そーっと慎重に。 「………っ」 けれど、慎重になったときほど何かしら事は起きる。 笑いたくなるほどに、今回もソレに当てはまった。 「…っぅわ」 伸ばした手が、狙った葉にもう少しで触れる。 その瞬間、ぽろりと剥げ落ちた右足付近の木肌。 ずるりと嫌な音が耳に入ったのも直ぐだった。 「…っ」 ―――ガサササッ!! 随分と上に登ってきていたのか、何本もの枝を掻き分けて落ちていく身体。 真上に見えるのは真っ青な青空で、雲一つない。 わたしは身体に感じる重力に身を任せて、襲いくる衝撃に身を縮めた。 「……」 けれど、なぜかいつまで経っても衝撃が襲ってこない。 わたしは恐る恐る目を開くと、恐れよりももっとひどい衝撃に眼を見開いた。 「……」 「……」 開いた先にあったのは、青空を埋める、真っ黒。 真黒の中をじっと見つめれば、いくつかの真っ黒を見つけた。 「はーっはっはっはっは!」 「っ!」 「いきなり天使が降ってきたかと思ったぞ!」 「…」 きらんっと光が反射しそうな…(したかな?)歯を見せて笑う顔。 綺麗にそろえられた前髪が横風に揺られている。 「怪我はなかったか」 「……」 「ん、どうした?ハッまさか!どこか打ったのか!これはイカン!」 茫然と目の前に目を奪われていれば、トントン拍子に話が進んでいく。 言葉を挟む隙がない。 「しっかり掴まっているんだぞ!」 「え…」 「なーに気にすることはない、病院までひとっ飛びだ」 わたしはその言葉を聞いて焦った。 そして、咄嗟にその人の服を掴むと、挟めなかった言葉を無理やり挟み込んだ。 「あ、あの大丈夫です!」 「ん?強がりはいかんぞ!」 「い、いえ、強がりとかではなくて…本当にどこも痛くありませんので」 「だから、その申し訳ありません」と、そうぽつり呟けば、その人はようやく落ち着いてくれたようで「そうか」と一言安心したように言ってくれた。 「そ、それでその、助けていただいてありがとうございます」 「いや、当たり前のことをしたまでだ」 「それと、…あのーそろそろ降ろしていただけると助かります」 「いやっこれはすまなかった!逃げてしまいそうな勢いだったのでな!」 「…」 わーっはっは、と笑う声はとても大きい。 わたしは地面にそっと降ろしてもらいながら苦笑した。 「危ない所を本当にありがとうございました」 「いや、それよりどうして木の上なんかに」 キョトリとした顔を向けられ、改めて面前に現れる顔にやや驚く。 初めて見る太い眉毛に、感嘆してしまった。 「あ…甘味に使う柿の葉を採ろうと思ったのですが…」 「甘味?」 「和菓子です」 「でもこの通り」と土埃のついた服を広げて苦笑すれば、その人は考えるように顎に手を当てた。 再び笑い声を上げている。 「なんだそう言うことだったのか!」 「…?」 「菓子ひとつに熱い想いを掛けるとは、まさに青春!」 「…?」 青春? 「よし、ここは私が君の代わりに採ってこようではないか!」 「え…いえ、そんなご迷惑は…」 「気にしなくて構わん!これも里のため!熱い想いのためだ!」 そう言うと同時に目の前から姿を消したその人。 わたしは呆気にとられるのも束の間、次には再び姿を現していたその人に、文字通り呆気に取られてしまった。 「このくらいでいいだろう!」 「…え」 「さらば!熱き天使よ!」 ぽかん、言葉にするならそんな感じ。 テンポよく運ばれていった話に、パッと消えてパッと現れたその人は、わたしの目の前に大量の柿の葉を山積みにして、「わーっはっは」とその場を去ってしまった。 「…え」 この柿の葉どうしよう。 わたしは眼前の丸裸の木を見上げるのだった。 (カカシよ!今日は天使に会ったぞ!) (はぁ?何なの急に) (だーっはっは!そんなに羨むな!) (……) (はーっはっはっは!)