これはまた早急な。 ですが、やってみましょう ―――地域運動。 On Behalf of... 今日も今日とて、慣れ親しんでしまった店準備をいそいそとしていれば、不意に開店前の扉に伝わったノック音。 「?」 開店前の時間に誰だろう? その事実にわたしは小首を傾げた。 作業していた手を止めると、店内へと足を進めました。 「すみませーん」 「…?はい」 扉に近づけば見えて来た人影。 相手方も私の気配に気づいたのか、ノックしていた手を下げ、代わりに呼びかけの言葉を発していた。 その声に返事をしつつ、わたしは引き戸の鍵を開ける。 そうすれば、カラカラと引いた扉の先に、見たことのない若い女の人を見つけました。 「?」 「すみません、朝早くからお訪ねしてしまって」 「いえ…」 「ですがそれも承知で、尚且つ更なる無礼も承知ですが、お願いを聞いて頂けますでしょうか!!」 「…っぅえ?」 突如現れた見知らぬ女の人。 その人はわたしと声を交わすも、直ぐに、わたしの両手をしかと握りしめ涙目で言葉を走らせた。 驚きもそのままに硬直してしまったのは無理のないことかと思います。 「今日はこの地域の商店で出し物をする催しの日なのですが…」 「…え、えぇ」 「うちは三代続く里一番の老舗茶店って、あっ…うちは日野鹿子(ヒノカノコ)って言うんです」 「…あ、はい」 「じいちゃんが鹿の子好きだからカノコって名前とか?フザけんじゃねーコノヤローって感じな…って違う違う、あのですね!」 「……」 ぽろぽろと零れ落ちてくる言葉に吃驚していれば、がしっと握りしめられ直したわたしの両手。 それをひしりと持ち上げられ、涙の溜まった大きなブラウン眼をわたしに向ける日野さんは、寄せた眉を必死に解いていた。 登場してからのテンポが速過ぎて、先日の人物を想起してしまったけれど、なんとか目の前の彼女に意識を戻す。 「じいちゃんが昨晩から熱で魘されてるんです!早く逝けなんて思ってないんですけどね、親父は親父で先週から他国に出張中でっ!」 ―――今日の和菓子講習をやってくれる人がいないんです! 「…」 最後に聞こえた言葉。 わたしはその言葉に目を開くと、目の前に掲げられた日野さんの瞳から、彼女がここへ来た理由を一瞬で読み取ってしまった。 そう、なぜ彼女がここへ来たのか。 たらりと嫌な汗が背中を伝った。 「お願いします!本当は老舗の茶店がこんなこと頼むのもコンチクショーなんですけど、講習を開けない方が一族の恥!」 「……」 「悔し悔しも、火影様というか、いろんな人に聞いてみれば、幻の一品?はぁ?じゃないですけど、客も滅多に来ないような里の辺鄙な場所にある菓子屋が里一に旨いって話じゃないですか!!コンチクショー!」 「……あ…あの」 「だから、お願いします!じじいの代わりに今日の和菓子講習やってください!つか、やって、ここ探すのにどんだけ朝から走り回ったと思ってんの!やってください」 ―――お願いします。 ガバリと下げられた頭。 わたしは頼まれてるのか、貶されているのかよくわからない話を聞きながら、日野さんの肩にゆっくりと手を置いた。 「あの…」 「……っ」 「顔を上げてください」 ゆっくりと、けれど確かな声で伝えれば、日野さんは眉を下げながら(少し上がっているかな?)顔を上げてくれる。 そして、わたしは店内の席に彼女を促すと、腰を着けた先で徐に口を開いた。 「お話はよくわかりました」 「……で」 「ですが、まずは催しのことを聞かせて頂けますでしょうか」 「…それは…」 ゆるりと向けられる眼差し。 それは先ほどとは少し異なった柔らかな光を含んでいた。 「えぇ、お手伝いも何も…知らなければ何もできないですから」 「…っ!」 こちらこそよろしくお願いします、と笑顔を向ける。 すると、驚きに満ちていた彼女の顔は一気に安堵と笑顔に変わっていく。 けれど、それもすぐに高圧的なものを含んできて、きっとこれが彼女らしいんだろうなという態度に変化していた。 「ふふ、まあ老舗のうちを弾くトコなんてないと思ってたけど」 「…えぇ」 「評判がいいからって調子に乗らない方がいいわよ」 「?調子ですか?」 「…ッまぁ、いいわ。今日の講習頼んだわよ」 「それで、その講習とは何をすればいいんですか?」 カタリと椅子を鳴らして立ち上がる日野さん。 その顔には、ニヤリと効果音がつきそうな程に歪んだ口元。 そして一言、わたしに笑い掛けると「失敗は許さないわ」と付け加えて、わたしの腕を引っ張っていきました。 もちろん外へ… (和菓子の作り方を里の参加者に教えんのよ) (えっ…?) (手取り足取りちゃーんと教えんのよ!) (……自己流なんですけど…) (突っ込むトコそこォォオ?!)