「小豆は煮立たせない程度にしてください」 「生地は指のお腹をしっかりと使いましょう」 「ふん、なかなか悪くないじゃない」 Set to Work 日野さんに連れてきて頂いた?催し会場となる集会所。 街には滅多に顔を出さないわたしは、人の多さと会場の賑やかさに圧倒されていました。 「さっ、アンタにはここで和菓子の作り方を教えてもらうわ」 「…えっ、ここってここですか?」 「あたりまえでしょ」 そう言いながらぐるりと辺りを見渡してから、にやりと口角を上げる日野さん。 わたしはその日野さんの様子に、苦笑を向けることしかできなかった。 「この会場には菓子を始めとした飲食、工芸、服飾雑貨、忍具、刃物店、いろんな里の商店が集まってるの」 「…すごいんですね」 「あんた、もしかしてこういう集会があるの知らなかったとか言わないわよね」 「え…」 ぽけっと見つめた日野さんは呆れた表情。 でも、半年前にポッとこの世界に来てしまった私には、こういう催しがあるなんて知ることは難しい。 というより不可能だ。 「…アンタいつかのたれ死ぬわよ」 「…はは、困りました」 「はぁ…」 「まあいいわ」と言いながら、がしりとわたしの腕を引っ張る日野さん。 それに抵抗もせずに引かれていけば、辿り着いたのは『日ノ茶店』と掲げられた看板の元。 「ここがわたしたちの区画」 「…っわ」 「簡易だけど、他の店に劣るなんてあり得ないわね」 そう自信に満ちて言う日野さん。 でも、確かにそれは妥当だと思えた。 「まあ、競ってるわけでもないケドね」 「…え」 「いーい?アンタは和菓子の良さを参加する人たちに伝えるの!菓子職人の端くれならそんくらいわかってんでしょ」 ばしんと叩かれる背中は、意外にも優しい衝撃。 日野さんの顔を見遣れば、その顔は職人気に溢れるものだった。 「ここに来る人は、和菓子を知りたくて来る人たち。もちろん和菓子の和の字も知らない人もいるだろうけど、それも含めてアンタは菓子を教えるんだから」 ―――頼んだわよ。 「…はい」 言葉は強めのものが多いけれど、日野さんは本当に和菓子を愛している。 それが犇々と伝わってきた。 「それじゃぁ、わたしはわたしの仕事を」 「…フン、当たり前よ」 (それよりアンタ、あとでゴマ餡作って頂戴) (え?ゴマ餡?) (火影…さ、やっぱりなんでもないわよ) (え…?)