入学式。その場にいる教師の顔を全て覚えようとしていると式は終わっていて、各自教室に戻るように指示される。

ぞろぞろと体育館を出ていく生徒達に続いて教室に戻ろうとして、ふと、中庭の方で蹲っている生徒を見つけた。

あの子…体調でも悪いのかな。

気になって、その生徒に近付く。


「あの…」
「うわっ」

声をかけると、その生徒はびくっとして振り向いた。その顔を見て息を呑む。茶色の明るい髪。子犬を思わせるような二重の目に、アイドルかと思うほど整った顔立ち。
芸能人、だろうか。きれいな顔…。この学校ならありえるけど。
胸元には私の同じ、新入生の証である花飾りがついていた。

「…大丈夫?」と声をかけると、彼は不思議そうに首を傾げる。

「え、なにが?」
「蹲ってたから…体調でも悪いのかと思って」
「あ〜」

彼は苦笑して、困ったように頬をかいた。

「大切なピアス、落としちゃってさ」
「ピアス…?」

彼の耳を見ると、確かに片方だけピアスがない。

て、いうか…

「この学校って、ピアス禁止なんじゃ…?」

事前に隅から隅まで確認した校則を思い出しながら言うと、彼はきょとんとして、ぷっと吹き出した。

「そんなの形だけだよ。みんなピアスぐらい空けてる」
「そうなの…」
「あのさ、悪いんだけど、ピアス探すの手伝ってくれない?」

こてんと可愛らしく首を傾げられて、うっと言葉に詰まる。

どうしよう…。そろそろ教室に戻らないといけないけど…。

「お願い! お礼はちゃんとするから!」

そう言って頭を下げてくる彼に、少し悩んでから渋々頷いた。

「わかった。少しだけね?」
「やった〜」






彼の落し物は、案外すんなり見つかった。
そのまま耳に付けようとする彼を慌てて止める。

「待って、泥ついてるから汚いよ」

ポケットからウェットティッシュを取り出して、そのピアスを拭いてあげる。
彼はぱっと顔を輝かせて「ありがとう」とはにかんだ。

「いいよいいよ。それよりもう教室戻らないと」
「うん。あ、そうだ。一緒に探してくれたお礼に、これ、あげる」

彼はそう言うと、小さなバッジのような物を私に差し出してきた。
金色にキラキラ光るそれをじっと見つめる。

「なに、これ?」
「金バッジ。それ胸に付けてると、良いことあるらしいよ〜」

そう言いながら、彼はそのバッジを私の胸元につけてきた。

「うん。似合う似合う〜」
「……ありがとう」

お礼にしては可愛らしくて、ふふっと笑ってしまった。




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