教室に戻るともう全員席に着いていて、私も慌てて自分の席に着いた。
それを見た担任の教師がクラス全体を見渡して…、はっとした表情で私の方を再度見た。
「……?」
私の顔…というよりも、胸元を見て驚いたような顔をする先生に、首を傾げる。
何か変なところがあっただろうか…?
慌てて自らの制服を見直すが、特に他の生徒と変わったところはない。
さっきの彼にもらった、このバッジがダメだったかな?
思わずそれに触れるが、先生はコホンと咳払いをすると、何事もなかったように話し始めた。
自己紹介やら授業の仕組みやらを説明した後、先生はもう一度私の方を見る。
「……最後に、金バッジの生徒は、一限の前にD会議室に行ってください。…以上」
え…?
先生はそう言うと、教室を出て行った。
私は呆然として、そのバッジを見る。
金バッジの生徒って…私の事?
明らかに私を見て言ったわよね、あの先生。
このバッジ…ただのアクセサリーじゃないの?
戸惑っていると、仲倉さんが恐る恐ると言った風に話しかけてきた。
「……紺野さん、金バッジだったんだね」
「え…?」
「ご、ごめんなさい。さっきは気安く話しかけちゃって…」
明らかに怯えた様子で謝ってくる彼女に眉を寄せる。
「なに、どういうこと? このバッジって特別なものなの?」
「え…知らないの?」
「さっき落し物探してくれたお礼にって、別クラスの男子にもらったの。これなんなの?」
「え、ええ!?」
仲倉さんは驚いたように声を上げると、きょろきょろと辺りを見渡した。そうすると、少し声のボリュームを落として言う。
「……それはね、学年で二人、理事長に選ばれた生徒だけがつけられるバッジなの」
「え…?」
「それを付けてる生徒は、学校でやりたい放題…じゃなくて、いろんなサポートが受けられるんだよ。授業に出なくても、絶対留年することもないし…」
その言葉を聞いて、驚きながらそのバッジに触れた。
このバッジがそんな特別なものだとは知らなかった。というか、それなら早く元の持ち主に返さなくては。
あの男子のクラスはどこだっけ? と思い立ち上がると、「ねぇ」と横から声をかけられる。
振り向くと、長身の男子が私の隣に立っていた。
「なに?」と首を傾げると、彼は無表情で私の胸元を指さす。
「それ」
「え?」
彼の指は金バッジに向いていて、よく見ると、彼の胸元にも同じものがついていた。
「紺野さん、だっけ? D会議室行くでしょ。一緒に行こうよ」
「あ、ええと…」
そう言えば、さっき先生がそんなことを言っていた。
じっと見てくる彼に、このバッジは私のモノじゃないと否定をしようとして……はっと気づく。
ただ学校で生徒として過ごすより、このバッジをつけて過ごした方が、情報を探りやすいのではないだろうか?
期限は三年しかないのだ。利用できるものは、全て利用した方がいいのでは?
そう思った私は、少し沈黙してから、笑みを浮かべた。
「うん。じゃあ、一緒に行こっか。えっと…あなたは…」
「俺は瑞木拓斗。これからよろしくね」
彼はそう言うと、無表情の顔を少しだけ和らげた。
瑞木拓斗…確か雅紀様からもらった名簿にあった一人だ。
なぜ私の名前を知っていたのかと聞くと、彼はクラスの生徒の名前は全部覚えたのだと言った。
「それにしても意外だな」
「え?」
「てっきり、もう一人の金バッジは稔だと思ったのに」
彼の言葉に、あっ…と思う。稔…確か千賀稔。彼の名前も名簿にあった気がする。
「この金バッジって、どういう基準で貰えるの?」
「……知らないでつけてたの? この学校への支援金が高い順だよ。家がどんくらい金持ちなのかって、ただそれだけ」
彼の言葉に、そういうことかと納得する。二人の名前が雅紀様からもらった名簿にあったのも、彼らが問題事を揉み消せるだけの家柄にあるからということだ。
ということは、さっき私にこれをくれたあの男子が千賀稔? なぜこんな大事なものをほいほいと私にくれたのだろう。
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