生徒会室も、あのD会議室と同じでかなり広い部屋だった。

「座って。今紅茶入れるね。あ、ケーキもあるよ?」
「ケーキ、ですか?」
「うん。知り合いのパティシエの人ので、すごくおいしいの」
「はあ…」

キャッキャと楽しそうにお湯を沸かす緒川先輩に、適当に相槌を返す。
ケーキがどこのとかじゃなくて、なんで生徒会室にケーキがあるのかの方が気になるんだけど…。

「この部屋もすごく広いですね」

ティーセットを机に置く緒川先輩にそう言うと、彼女は「そうなんだよね〜」と人差し指を口元に置いた。

「この生徒会室と、金バッジの溜まり場のD会議室は特別。先生達もとやかく言えないからねぇ」
「支援金が高いからですか?」
「うん。紺野さんのお家もそうなんでしょ? この高校は家柄が全てだから、生徒会に選ばれる生徒も金バッジ程じゃないけど相当な名家の人ばかりよ」

自嘲の笑みを浮かべる緒川先輩に、苦笑して首を傾げる。

「なんか、変な感じですね」
「変な感じ?」
「普通、自分でそういうこと言わないですよ。他人事みたいな」
「そうかな? でもそれならあなたもそうでしょ?」

緒川先輩は妖艶な笑みを浮かべて私を見据えた。その視線が全てを見透かしているようでドキッとする。

「金バッジの生徒なんて大抵驕り高ぶってるのに、紺野さんは違う。ごく普通の生徒っていうか…あ、悪い意味じゃなくてね」
「……」
「なんだか間違えて選ばれちゃったみたいな」
「……」
「なんて、ね? ごめんなさい、怒らないで?」

無言でじっと緒川先輩の顔を見る私に、彼女はすぐに表情を緩めた。
そんな彼女をじとっとした目で見て、出された紅茶を啜る。

気付かれてるのか、ただの挑発か。

金バッジの生徒の情報がどういう管理をされているのかわからないが、生徒会には私じゃないことがバレてるのかもしれない。
他の生徒にもらったのだと言えば、怒られるだろうか。

「紺野さん? どうかした?」
「いえ、なんでもないです」

彼女の考えを必死で読み取ろうとしながら、ケーキを口に運ぶ。

「あ、このケーキ…、R.メアの新作ですか? もしかして、先輩の知り合いってR.メアの…?」
「え、紺野さん知ってるの?」
「はいっ。主人…じゃなくて、父が好きなんです」

雅紀様がよく食べていたから知っている。

「おいしい…」とケーキに夢中になりながら言うと、緒川先輩も「でしょ?」と嬉しそうに笑ってフォークを持った。随分とそのメーカーのスイーツが好きなようで、他にも好きな洋菓子の話をいろいろと聞く。

いい感じに話を逸らせてほっとする。でも…彼女の鋭さは怖い。



「……はぁ、楽しかった。私達ってすごく趣味が合うかもね!」

割と話が弾んで日が暮れ始めた頃、緒川先輩はそう言って席を立った。

「ごめんなさい、こんな時間まで引き止めちゃって。紺野さんに校舎の案内をするばすだったのに…」
「いえ、私もとても楽しかったです」

緒川先輩の言う通り、服のブランドやら料理やら趣味が同じで話しやすかった。

「あ、ねぇよかったら紺野さんも生徒会入らない?」
「え?」
「私、今期は生徒会長に立候補するつもりなの。よかったら紺野さんもどうかな?」

そう誘われて、しばらく考え込む。確かに、生徒会に入るなら情報ももっと探ることができそうだが…
金バッジに目を落とす。これをつけているだけでもかなり目立つ。その上で生徒会にも入ればより目立ってしまうだろう。
そうしたら、私の正体がバレてしまう恐れがある。

「ごめんなさい、少し考えさせてください」

そう言って頭を下げると、緒川先輩は「そっかぁ」と残念そうに肩を落とした。

「あなたが生徒会に入ったら楽しいと思ったんだけどなぁ」
「……」
「なんか私達って、似たもの同士だと思うの」
「似たもの同士ですか?」

そう、だろうか? 私は緒川先輩のような派手やかさなんて持ってないけど…。
首を傾げる私に、緒川先輩はそれ以上何も言わずにっこりと笑った。

「またよかったらお話してね」
「はい、機会があれば」

生徒会室を出て、お辞儀をして別れた。
たまに怖いところはあるけれど、それ以外は優しい人だった。
仲良くしていれば、いろいろと情報を探れるかもしれない。





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