今回の"バディ"

 暗い部屋を照らすのは、ディスプレイからの光のみ。男の顔が青白く見えるのは、その光のせいだけでなく、元々のものだ。

「今日は面白い話があるんですよ」

 男は口角を上げ、画面の向こうに言った。

「ほう……。どう言ったものかな?」
「あなたに少なからず因縁がある人物に関するものです――……」
「…………なるほど。それは面白そうな話だ。しかし、よく情報を集めて来るものだ。感心するね」
「鼠は……どこにでも潜んでいますから」


 ***


 ――青い空が眩しい、夏らしい夏休みに。


「結月さん!見てください!この人ですよ、この人!この写真の人がデヴィット・シールド博士です!!」
「あー……うん。どんなにすごい人か、事前に発目さんによく聞かされてもう十分知ってるから……」


 私は、発目さんと共に空の上を飛んでいた。


「デヴィット・シールド博士。ノーベル個性賞を授賞した"個性"研究のトップランナー。オールマイトのアメリカ時代の相棒で、ヒーローコスチュームを手掛けた天才発明家――でしょ」
「そうです!発明家の中では神のような人ですよ!!」

 そう話す発目さんは、まるででっくんがヒーローについて話す時のようだ。
 あの病的に自分本意の発目さんが尊敬するんだから、神というのもあながち大袈裟じゃないだろう。

「パーティーに参加できるってことは、デヴィット博士に会えるってことですよね!」
「うん、会えるね」

 無邪気にそう笑う発目さんは微笑ましく……

「直接デヴィット博士に私のドッ可愛いベイビーをアピールするまたとないチャンス!!」ヌフフフ……!
「……………………」

 やっぱり発目さんは発目さんだった。(ブレない自分本位!)
 さすがだなぁとある意味感心しながら、窓の外を眺める。

 ジェット機が向かう目的地は『I・アイランド』だ。

 学術人工移動都市で、多くの科学者たちが住む人工の島。
 どこの国にも属さず、移動機能も備えたまるで大きな船のよう。何故島なのかというと、研究成果や科学者たちをヴィランから守るためらしい。(警備システムはあの特殊拘置所のタルタロスに相当するとか)

 船では行けず、専用のジェット機でしか入国できない。そもそも何故、私と発目さんが行く事になったのか。


 それは遡ること数週間前の話――……。


「「ありがとうございました!」」

 その日のヒーロー基礎学を終えると、あっと思い出した私は、爆豪くんを引き止めた。

「爆豪くん。期末試験で借りた手榴弾、返すね」
「あ?ああ……」

 意外に思ったのか、爆豪くんは少し驚いた様子だった。
 ちょうどこの間、科学の申し子とかいう梶井さんと知り合えたので、お願いして作ってもらったもの。はい、と爆豪くんにそれを手渡す。

「ッレモンじゃねえか!!!」「待って待って待って!!!」

 怒りのままその場に叩きつけようとした爆豪くんを慌てて止める。

「見た目レモンだけど、ちゃんと手榴弾だから!!」

 危ないなぁ!

「アァ!?」
「ほら、体育祭でレモン型の地雷ってあったじゃない?それ作った人が作ってくれて……」
「んでレモンなんだよ?」
「なんか……美しき棒錘形は幾何学の究極にして、退屈の世界の破壊者……なんだって」
「……。意味不明過ぎんだろ……」

 うん、私も同感。

「でも、手榴弾より見た目可愛いから爆豪くん腰に付けたらギャップが……」
「付けるかッ!」
「爆弾関係の開発に関して腕は確かだってパワーローダー先生も言ってたし、爆豪くんも一度会ってみたら?」
「……ふぅん……」

 爆豪くんは手の中のそれを興味深げに眺めた後「まあ、威力見てみっか」と、ボール投げの要領で遠くへ投げる。

 それはぽとりと落ちて、地面を転がり、やがて止まった。

 ……………………。
 しーーん。

「やっぱタダのレモンじゃねえか!!!」
「あっれーー!?」


 爆豪くんにめっちゃ怒られた。


「すまない!レモンと手榴弾を間違えて渡したようだ!」

 そう悪気なく笑う梶井さんの隣で「間違えたって危ないですよ!」と、名も知らぬ先輩の顔が青ざめている。
 本物のレモン型手榴弾は色々な道具たちと一緒に机の上に転がっていた。本当に危ない!

 放課後。開発工房に訪れると、変わらずサポート科の人たちは、熱心に作業に取り組んでいた。

「近々、I・アイランドで展覧会が開かれるんだけど、僕の作品も展示するからその準備に忙しくてね」
「あ、知ってます!じつは、I・エキスポのプレオープンに代理で参加することになって……」

 乱歩さんの代わりに。I・エキスポ関連企業の依頼を受けた乱歩さんが、華麗に事件を解決したお礼にと招待状をもらったものの……

『僕、興味ないから代わりに理世が行くと良いよ!大丈夫大丈夫、僕の弟子が代わりに行くって先方には言っておくから。チケット二枚あるから友達でも誘えば良いんじゃない?』

 という風に、乱歩さんから招待状を譲り受けたのだ。
 I・アイランドなら警備もしっかりしてると言うことで「楽しんで来てくださいね」と、安吾さんからも外出許可をもらっている。(そういえば……)

 そのとき、乱歩さんが――

『理世、I・アイランドは日本と法律が違うからね。よーく調べてから行くことをおすすめするよ。あと、迷ったら上に行くといい』

 なんて言ってたっけ。(上?)

「それは幸運だな!ぜひ僕の作品も見ていってくれ!」
「はいっ楽しみです!二枚もらったので、友達を誘って行こうと思います」

 問題は誰を誘おうかと……

「結月さん!!私をっ!一緒に連れていってくださいっっ!」
「わぁ!?」

 突然、ガラクタのような山の中から発目さんが飛び出して、驚きのあまり危うくテレポートしそうになった。

 い、いたんだね、発目さん……。

「I・エキスポのプレオープン……!素晴らしい……!ぜひ、私を連れて行ってくださいっ!」
「え、ええ……」

 近い近い!

「後生ですよぉ……!私と結月さんの仲じゃないですか!!」

 どんな仲!?

「わ、わかったからぁ……!」


 ……――と、そんな風に発目さんに押しきられ、一緒に行く事になった。


「最新精鋭のアイテムをこの目に出来るだけでなく、実際に体験も出来るとは……!」
(まあ、すごく喜んでるみたいだから良かったかな)

 隣でガイドブックを真剣に読み込む発目さんを見て、くすりと笑う。

「あ、ほらっ。発目さん、見えて来たよ!」

 窓の外を指差す。真っ青な海に浮かぶ巨大な丸い人工的な島が見えてきた。

「おおー!あれがI・アイランドですね!」

 発目さんが興奮した声で言うと、ちょうどピンポンとアナウンスを知らせるチャイムが鳴る。

『当機はまもなくI・アイランドへの着陸態勢に入ります』

 そのアナウンスに、周囲からワクワクとした声が飛び交った。

「いよいよですね〜。あ、結月さんはコスチュームに着替えるんでしたっけ?」
「うん、学校に申請したら着用が出来るみたいで」

 空港に着いたら、まずは着替えさせてもらおう。


 入国審査は全身スキャンなど、精密に行った。発目さんにとっては好奇心の対象らしく「ふんふん。全身をくまなくスキャンによって、パーソナルデーターと照合するんですね!なるほどー」と、熱心に興味深く観察している。

『入国審査が完了しました。現在、I・アイランドではさまざまな研究、開発の成果を展示した博覧会、I・エキスポのプレオープン中です。招待状をお持ちであれば、ぜひお立ち寄りください』
 
 ゲートが開き、いよいよI・アイランドの敷地に足を踏み入れる。

「わぁ……!すごいっ!」
「これが最先端を行く都市……!!」

 目前に広がる光景に、歓声が飛び出た。
 広大なエキスポ会場。
 まるで遊園地のような楽しげな雰囲気!

 カラフルなバビリオンに、ウォーターアトラクションからは盛大に噴き出した水が文字になったり、楽器をモチーフにしたバビリオンからは音楽に合わせて音符記号が出現したり、可愛いなぁ!

「じゃあ、まずはホテルに荷物を置きに行かないとね」

 そう発目さんに言った後、見知った目立つ姿が視界に入る。「……あれって……」そちらに大きく手を振った。「オールマイト先生ー!!」

「結月少女!」
「結月さんに……発目さん!?」
「あなた見たことあります。誰でしたっけ?」
「緑谷出久だよ……!?」
「でっくんも来てたんだねっ」

 駆け寄ると、オールマイト先生の他にでっくんの姿もあった。(発目さん……体育祭で一緒に組んだでっくんの名前も覚えてないの……)

「もしかして、お友達?」

 そう首を傾げて言ったのは、金髪の綺麗な女の人だ。眼鏡をかけた下から、人が良さそうな笑みを浮かべている。

「あ、はい。同じクラスの……」
「結月理世です。初めまして」

 でっくんの言葉を引き継ぐように、自己紹介する。

「こちらはサポート科の発目明さん。代理で一緒にI・エキスポに遊びに来たんです」
「そうなの!私はメリッサ・シールドです。初めまして」

 差し出された手と握手する。

 ……シールド……

 ん?何やら発目さんがそう神妙に呟いた。

「もしや……あなた、デヴィット博士のご家族では!?」
「え?ええ、娘のメリッサです」

 メリッサさんがそうにっこり笑って答えると「やっぱり!」発目さんは大いに納得して……

「ぜひ、私の作ったベイビーを!!」

 早速!!

「ベイビー?」
「は、発目さん……!」
「(相変わらず売り込み魂が逞しいな発目少女!!)」

 メリッサさんに迫る発目さんの肩に触れて、反対側にはいテレポート。

「すみません。発目さんはデヴィット博士をすごく尊敬してるみたいで……」
「ふふ、パパをそんなに尊敬してくれてるなんて嬉しいわ!」

 嫌な顔を一つせず、そう嬉しそうに笑うメリッサさんは良い人だ……。

「じゃあ私たち、行きますね」
「ああっ、私のドッ可愛いベイビーをまだ……!」

 メリッサさんがデヴィット博士の娘さんなら、オールマイト先生にとっては相棒の娘さんだ。(でっくんはオールマイト先生の付き添いで来たのかな?)

 三人の邪魔をしたら悪いと、発目さんを無理やり引き摺りその場を後にする。

「でっくん、またね!」
「あ、うんっまた!」


 ガイドのお姉さんにホテルへの道を聞くと、発目さんを連れて空へ!


「ひょー!さすがテレポートガールの結月さんですね!」
「ここでは日本と違って、"個性"の使用が自由なんだって!」

 とは言っても、地元の横浜では移動時に"個性"はよく使っているけど。途中、丸いカプセルの乗り物に乗る子供たちに手を振ったり。

「プレオープンって言っても、たくさんの人がいるんだね」
「そりゃあそうですよ!中には研究者の家族や普通に生活している人もいますしね」

 情報漏洩を防ぐため、旅行などの外出は厳しいのだと発目さんは言う。その代わり、大都市にある施設は一通りそろっているとか。

「あ、見て!ゴジロ!」
「カイジュウヒーロー、ゴジロですか」

 大きい……!ゴツゴツの体で闊歩する姿に圧倒される。その巨体ゆえ、都市部では活動できないから会えてラッキーだ。

「……お!女の子が空を飛んでるぞ!」
「テレポートとちゃう?」
「テレポートガールじゃ!」

 漫才師のような二人組に「お〜」と手を振られた。

 ホテルに着くと、荷物だけ置いて、すぐにまた観光するのに出発だ。

「発目さん。その大きなリュックは置いていかなくていいの?」
「この中にはベイビーたちが入ってるんです。いつ何時アピールの出番があるか分かりませんからね!」
「抜かりないねぇ」

 笑っていると、ちょうどエレベーターが到着し、
「あっ」「お」
 開いた先には、これまた見知った顔に出会した。

「焦凍くん!」
「結月か」

 偶然だね〜と一緒にエレベーターに乗り込む。エンデヴァーの代理で焦凍くんが来てたのは知ってたけど。(他にも天哉くんや、百ちんと一緒に、厳選なる抽選で選ばれたお茶子ちゃんと耳郎ちゃんも参加してるはず)

「その体温調節ベスト!改良の予定はありませんか!?」
「……誰だ」
「発目さん。サポート科の」

 狭い空間で発目さんにグイグイ迫られ、焦凍くんが引いてる。面白い。

「焦凍くん。この後、予定なかったら一緒にI・エキスポ見て回らない?」
「別にねえが……」
「あ、私は構いませんよ。何ならお二人でどーぞどーぞ。私一人で好きに見て来ますので!」
「発目さんは単独行動禁止。連れて来た反面、今日は私が保護者だから」

 発目さんは目を放した隙に、なんか暴走したら困るし。

「分かりました!仕方ないですが、結月さんの言うことを聞きましょう」
「なんで発目さんが譲歩してる感じなの」

 やれやれみたいな顔してるけど!

「そういうわけで、一緒に見て回ろう焦凍くん」
「どういうわけなんだ……?」

 焦凍くんも巻き添え……じゃなくて、一緒に連れて。やって来たのは、I・エキスポのサポートアイテム展示場。
 ガラス張りのサッカーのスタジアムのようなパビリオンだ。

「素晴らしいです!!」

 発目さんが目を輝かせて、展示されている最新のサポートアイテムにへばりついている。「なるほど……可動領域を広くすることによって、立体的な動きを……」と何やら呟いて。

「なんか緑谷みてえだな……」
「確かに研究熱心な所はちょっと似てるね」

 私も展示品を見渡す。サポートアイテムと一口に言っても用途も種類も様々で、ヒーロースーツの改良とかの参考にもなりそう。

「ねえ見て、焦凍くん。このスーツ、上空に適してるみたいで、気圧にも低気温にも耐えられるんだって」
「へえ、すごいな」
「これ私着たら、もしハイジャックが起きてもすぐに駆けつけられるよ!」

 まあ、厳しい搭乗審査でハイジャックは滅多に起こらないから、事故とかの際に。

「俺はこれが気になるな。熱を電気に変換する装置らしい」
「ほぉ〜焦凍くんの"個性"の幅が広がるね」

 こんな風に一通り見て回って、他のパビリオンに移動する。発目さんは早速、創作威力が湧いたみたいでうずうずして楽しそう。

「そういえば、発目さん。私のサポートアイテム進捗どんな感じ?」
「何か改良でもしてるのか?」

 焦凍くんの質問に「新しい武器的なものが欲しくてね〜」と答える。

「ヌフフ……もちろん色々と試作品が出来てますよ!今日も持ってきてます!」

 あ、そのリュックの中に入ってるのね。
 発目さんが取り出そうとした時――、ズンッと大きな破壊音がした。

「なんだ?」
「事故……?」
「あっちの会場から土煙が上がってますが……」

 発目さんが指差す方向には、確かに大きな土煙が。ただ、同時に歓声も聞こえてくるので事故ではなさそう。
 気になるので、私たちはその会場に行ってみる事にした。


「これはすご〜い!クリアタイム15秒、トップです!」

 MCのお姉さんが声高々に話す。

「"個性"を使ってヴィランを倒していくアトラクションか」

 その名も『ヴィラン・アタック』

「……あれ、爆豪くんだ」

 隣には切島くんもいる。

「あいつらも来てたのか」

 という事は、爆豪くんが最高記録を出したのかぁ。
 傍観していると突然、爆豪くんは手のひらを爆破させ、観客席の手すりまで一気に飛び上がった。

「うあ!?」
「なんでテメーがここにいるんだぁ!?」
「や、やめようよ、かっちゃん。人が見てるから……」
「だからなんだっつーんだ!」
「「……………………」」

 手すりに飛び付き、ガンガン揺らす爆豪くん。人目よりも自分の気持ちが優先らしい……。

「あれ、なんですか?」
「んー……柵越しに暴れる猛獣かな」
「緑谷たちも来てたんだな」

 こんな所まで来て猛……爆豪くんに絡まれるなんてでっくんも可哀想に……。
 ぎゃあぎゃあと吠える爆豪くんと戸惑うでっくんの間に「やめたまえ、爆豪くん!」と、天哉くんが割って入った。

「テメーに用はねーんだよ、こんなところまで委員長ヅラすんじゃねえ!」
「委員長はどこまでも委員長だ!」
(!名言出た……!)

 それはそうと。

「焦凍くん、私たちも参加してみようよ!」

 二人で爆豪くんの最高記録を塗り替えようぜと誘う。

「なら、結月さん!私のベイビーの出番ですよ!」


『さて、飛び入りで参加してくれたチャレンジャー。いったい、どんな記録を出してくれるのでしょうか!』

 先にチャレンジャーするのはでっくんだ。(爆豪くんの記録に挑戦するでっくん、まさにチャレンジャー)
 緊張気味の表情で、でっくんはスタート地点に立つも……その顔が覚悟を決めた時。

『ヴィラン・アタック!レディゴー!!』

 MCのお姉さんのスタートの合図と共に、猛スピードで走り、山頂付近まで一気に駆け上がる。(速い!)
 でっくんもますます"個性"をものにしてきてるなぁ……と思っていると、破壊音が次々とあっちこっちから響き渡った。

『これもすごい!16秒!第二位です!』

「おしかったねぇ、でっくん!」
「15秒切ればいいのか」
「それより結月さん!ぜひ、私のサポートアイテムをですね……!」

 続いては焦凍くんだ。スタート地点に向かうと、しゃがんで地面に右手を付ける。

『ヴィラン・アタック!レディゴー!!』

 スタートの合図がした途端、氷結があっという間に岩山を覆ってしまった。

『ひゃー、すごい!すごい!すごーい!!』

 MCのお姉さんもこれには興奮の声を上げる。
 さて、肝心の結果はいかに!?

『じゅ、14秒!現在トップに躍り出ました!』

 さすが焦凍くん!(私は14秒切るのが目標、と)

「轟くん!」
「彼もクラスメイト?」
「はい」
「みんなすごいわね、さすがヒーローの卵!」

 観客席が盛り上がってるなか、今度は下に飛び出して来た爆豪くん。

「てめぇ、この半分野郎!」
「爆豪」
「いきなり出てきて、俺すげーアピールかコラ!」
「氷溶かします」
「無視すんな!だいたいなんでテメーがここにいんだよ!?」
「招待を受けた親父の代理で」

 ……相変わらずテンションが噛み合わない二人。焦凍くんが氷を溶かしてくれたら、いよいよ私の出番だ。

「あのー、次の方が待って……」
「うっせ!次は俺だ!!」
「ふふふ……」
「!?そのわざとらしい笑い方は……!」
「真打ち登場ってね!!」
「「……!」」

 パッとテレポートで岩の上に現れてみせる。何故、岩の上なのかは、目立ってかっこいいかなって思ったからだ。「アホか!!」

「テメーもいやがったのかクソテレポ!!」
「名探偵の代理でね〜」

 答えながら、今度は爆豪くんたちの元へテレポート。

「悪いけど、次は私だから。焦凍くんの記録ごと塗り替えてあげるよ爆豪くん!」
「アァ!?」
「おう」
「てめえはすんなり納得してんじゃねえわ!半分野郎!!」


「ふふ、みんな仲良いのね!」
「あれは……仲良いのでしょうか……」
「登場の仕方が理世って感じ」
「結月くんも参加するんだな」
「あれ…結月さん、手に何か……」
「理世ちゃーん!頑張れーー!」


 爆豪くんに「はよしろ」と急かされ、スタート地点に立つ。
 始める前に、つっこみたいことがある。

「発目さん……このデザイン、私の美学に反するんだけど」
「何を言ってるんですか!めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!」
(ええ……)

 私が手にはめているのは、発目さん開発のサポートグローブだ。攻撃&防御の両方に特化していて、特殊素材によって殴った力を数倍にし、かつ衝撃が手に響かないらしい。(本当かな……?)

 デザインが……私の趣味ではない事は確かだ。まあ、後から変えてもらえるし、ものは試し!

「結月!頑張れよ!」

 切島くんからもエールをもらい、

『ヴィラン・アタック!レディゴー!!』

 お姉さんのスタートの合図と共に、テレポート!
 岩影に潜む、的のヴィランロボット。

「敦くん直伝!猫パーンチ!!」

 気合い入れて拳を打ち込む!

 私のパンチでも簡単に壊れた!
 確かに性能はすごいかも!


 …………………ん?


『!?突然の大爆発――!!一体何が……!』
「!結月っ無事かーー!?」
「――無事だよ、切島くん!」
「っうお!?」

 切島くんの隣に現れた。そして、すぐさま発目さんに抗議する。

「ちょっと発目さん!グローブ爆発したんだけど!?」

 あの瞬間、異変に気づいて咄嗟にテレポートで飛ばした私、さすがだった。(危うく手が持っていかれるところだった……!)

「私のベイビーがあぁぁ〜」
「私の心配は〜!?」

 しかもまるで私が壊したみたいに!

「ハッ、一体しか倒せず圏外だとよ!クソダセェ!」
「結月……やっぱり俺はハンドクラッシャーだ」
「ハンドクラッシャー?」
「何言ってんだコイツ」
「焦凍くん、今のはどう考えても発目さんのせいだから……」

 そして私の手、無事だから……

 お姉さんが気を利かせてくれて「もう一回チャレンジしますか?」という言葉に「次は俺だっつてんだろ!」私が答える前に騒ぐ爆豪くん。

「みんな、止めるんだ!雄英の恥部が世間に晒されてしまうぞ!」
「う、うん!」
「お、おう!」

 そうどこまでも委員長の天哉くんが真っ先に止めに入り(もう恥部は晒されていると思う)でっくんと切島くんも一緒に爆豪くんは取り押さえられた。

「だー、なんだてめぇら、放せ!燃やすぞ!」
「かっちゃん、落ち着いて」
「落ち着け、爆豪」
「これ以上、恥を晒すのはやめたまえ!」
「誰が恥だ!!」
「ここは悟ろうぜ、爆豪」

 これには見ていた観客席の人たちも苦笑い。

「爆豪くんには困ったものだよねぇ」

 私も観客席の手すり越しから、その光景を眺めた。

「いや、あんた……「今までずっとここにいました」って顔してるけど、要因の一つだからね」
「え〜」

 隣の耳郎ちゃんにつっこまれた。

「理世ちゃん、いつの間にそこに……!ほんまに神出鬼没やね」

 驚くお茶子ちゃんの隣で「フフ」と小さな笑い声。

「あ、ごめんなさい」

 メリッサさんだ。彼女は面白そうに微笑んで続ける。

「雄英高校って楽しそうだなって思って」

 その言葉に、同意するように私も笑ってしまう。

「少なくとも、退屈はしてないですわね……」
「「タシカニ」」
「メリッサさーーん!ぜひ、私のドッ可愛いベイビーを見てくださ〜い!!」


 こんな風に、雄英には個性豊かなキャラが揃っているからだ。





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発目さんと凸凹コンビ、誕生!


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