「せっかくだから、みんなでバビリオンを見て周りましょうか!」
メリッサさんの提案に、私と発目さんと焦凍くんも一緒に同行させてもらう事になった。
「あっおい……!爆豪待ってて!わりィ、またな!」
そんな風に爆豪くんはさっさと行っちゃったけど……。慌てて追いかける切島くんって、すっかり爆豪くんの保護者だよねぇ。
「へぇ〜上鳴くんと峰田くんも来てるんだ!」
「ああ!なんでもエキスポの間だけ臨時バイトを募集していたからと……」
二人はカフェで働いているらしく、天哉くんは何でも委員長の使命感からずっと見守っていたらしい。さすがどこまでも委員長!(上鳴くんたちも真面目に働くしかなかっただろうな〜)
「二人ともウェイター姿似合ってましたわね」
「あいつらバカなことしないでちゃんと仕事してんと良いけど」
「あとで抜き打ちでそのカフェに行ってみようかな」
二人のウェイター姿も見てみたいし!
「私はデクくん来てたんにびっくりしたなー」
しかもあんなに楽しそうに、と含みある笑顔と共に、お茶子ちゃんはでっくんを見ながら言った。焦凍くんと話をしていたでっくんから、ぎくっと音が聞こえたような……。
「そうそう」
「あまりからからかわれては……」
頷きながらにやにや笑う耳郎ちゃんと、百ちんは苦笑いを浮かべている。
「?でっくんはオ」
「あああ、そうだ!結月さん!!」
何か言いかける前に、でっくんに手を引っ張られて「えっと…そのことは…!」必死に何かを訴えてる……?
うぅ〜ん?
「(僕がオールマイトの同行者ということは皆には内緒にしたい……!でも、結月さんに言ったら墓穴を掘ることになる……!どう説明したらぁぁ!!)」
…………あぁ!
なんだか分からないけど、とにかく察した。笑顔で「わかった」というように頷く。私にまかせて、でっくん!
「メリッサさんはオールマイトの相棒であり、有名な発明家のデヴィット博士の娘さんだからでっくんは知ってたんだね!さっきは発目さんもハイテンションで大変で〜」
フォロー&話題を変えるように言うと、ちょうど発目さんが自身の作品をメリッサさんにアピールして盛り上がっているところ。
「発目くん……相変わらずだな……」
その場の視線が二人に集まり、天哉くんの言葉に続いて他の皆も「ああ」と納得した。
「結月さん……あの……ありがとう」
「どういたしまして」
「って!手繋いだままで……!ごごごめん!!」
慌ててパッと手が離れる。申し訳なさそうにするでっくんに、相変わらずで笑った。
バビリオンでは"個性"を使ったアトラクションも多いらしく、その一つが……
「水を操る"個性"によるウォータースポーツか!」
「溺れる心配もないから誰でも楽しめるアトラクションよ!」
でっくんに続いて、メリッサさんが詳しく説明してくれた。
大きなプールが、本物の海みたいに波打っている。取っ手の付いたサーフボードの上に立っているだけで、簡単にサーフィンを体験出来るというものらしい。
「わぁ〜楽しそう!」
「小さなお子さんでも安全に楽しめる素敵なアトラクションですわね」
「みんなでやってみようよ!」
「立ってるだけなんて、理世にも出来るもんね」
……。そうだね、耳郎ちゃん。
「?」
「ああこの子、運動音痴なんです。筋金入りの」
「耳郎ちゃん、それは言わないお約束っ!」
メリッサさんは一瞬きょとんとした後、くすりと笑う。
「理世さん、可愛いなって思って……」
人の良さそうな笑みでそんな風に言われたら、まったく嫌な気持ちにならない。
「水を操る"個性"か……ヒーローとしても十分に通用する"個性"だ!水難事故はもちろん、町中の消火栓から操れば、攻撃や敵の拘束もできるぞ……!ウォーターホースの"個性"と似てるけど、水の上を歩いている人を見ると、性質も変化させられる能力か?……ブツブツブツ」
「……デクくん?」
「あ、メリッサさん気にしないでください。でっくんの通常営業なので」
あのメリッサさんが笑顔で固まってる!
「デクくんのブツブツもどこまででもやね」
お茶子ちゃんの言葉に、皆ででっくんを暖かい目で見守って頷いた。
「わー!楽しいっ!」
サーフボードの上で取っ手に掴まっているだけ。
波に乗って、水の上を飛ぶ。
バランスを崩さないのは、波が支えてくれているからだ。(操ってる人すごいなぁ!繊細なコントロール!)
「すごい!本当にサーフィンしてるみたいだっ」
「緑谷はサーフィンしたことがあるのか」
「えぇと、実際にはないけど!」
「轟くん!いくら安全とはいえ、取っ手はしっかり掴まろう!」
「結月さんっなんか新しいアイデアが生まれそうです!」ひょー!
発目さんも楽しめてるみたいで良かった!
ウォータースポーツを楽しみ、次はどこに行こうかと歩いていると……
「焦凍くん。すごそうなジェットコースターがあるよ……!」
「結月、乗るぞ」
「「……?」」
「あ、結月さんと轟くんは絶叫系が好きみたいで……」
焦凍くんと意気揚々に乗り込み、スピード感を楽しむ!
***
「ふふ……理世さんも轟さんもとっても楽しんでましたわね」
「ああ」
「テレポートでは味わえないこの爽快感……!」
「ある意味説得力あるわ」
「理世ちゃんらしいや」
「デクくんも飯田くんも大丈夫?」
「さすがに……後ろ向きは……」
「……ああ…俺も同意だよ……」げっそり
『本日は18時で閉園になります。ご来園ありがとうございました』
陽も暮れ始めた頃、閉場を告げるアナウンスが流れる。
「楽しい時間ってあっという間だね〜」
「うん、色々体験できて楽しかったね!」
でっくんと顔を見合わせ、楽しかった余韻を味わう。
途中で焦凍くんは、エンデヴァーの代わりに顔を出さなければならない場所があると別行動になって、私たちが最後に向かう場所は、上鳴くんたちが働いているカフェだ。
「お兄さんたち。お仕事はもう終わったの?」
「(この声かけは……!)」
「(まさかの逆ナンか……!?しかも声可愛いっ)」
「「たった今、終わったところデス!!」」
ぐったりと座り込んでいたのが嘘のように、峰田くんと上鳴くんは勢いよく立ち上がってこちらを振り返った。
「へぇ〜二人ともなかなかウェイター姿似合ってるねぇ」
「って、結月!?」
「なんだよー逆ナンかと期待したじゃねーか!」
オイラの胸のトキメキを返せ!と峰田くんに怒られる。
まったく私悪くないけどごめんね?
「はっ……!良いオッパイの持ち主が!!」
「?」
「峰田くんやめなさい」
峰田くんの怪しい視線から発目さんを遮った。彼に限っては見るのもアウト!
「峰田くん、上鳴くん、お疲れさま!」
「労働、よくがんばったな!」
でっくんに続いて、天哉くんが労いの言葉と共に差し出したのは……
「なにこれ?」
「レセプションパーティーへの招待状ですわ」
訝しげな峰田くんに百ちんが答えた。
「パ、パーティー……?」
「俺らに……?」
二人は呟いて、その招待状を受け取る。あまりの感激から手が震えてる……!
「メリッサさんが用意してくれたの」
「せめて今日くらいはって……」
「余ってたから……よかったら使って」
耳郎ちゃんとお茶子ちゃんの言葉に続いて、メリッサさんは控えめに笑って言った。うるうると目を潤ませる二人には、きっとメリッサさんは女神に見えているだろう。
「上鳴……」
「峰田……」
「「俺たちの労働は報われたぁ!!」」
互いの名前を呼び、ひしっと抱き合う二人。
「良かったねぇ、上鳴くんも峰田くんも」
「ええ、本当に」
百ちんと一緒にその光景を微笑ましく眺めていたら、天哉くんが一歩前に出て、私たちを見回す。
「パーティーにはプロヒーローたちも多数参加すると聞いている。雄英の名に恥じないためにも、正装に着替え、団体行動でパーティーに出席しよう!18時30分にセントラルタワーの7番ロビーに集合、時間厳守だ!轟くんや爆豪くんには俺からメールしておく。では解散!」
そう言うや否や、天哉くんは"個性"のエンジンでびゅんっと行ってしまった。
「飯田くん、フルスロットル!」
すでに小さくなった背中に、でっくんはサムズアップする。いつも以上にはりきってるなぁ、天哉くん。
「じゃあ、発目さんのドレスはこれね!」
――宿泊するホテルへと戻ると、さっそく着替えの準備する。
時間厳守と言った天哉くんに、1分1秒遅れたら、どこぞの理想手帳の人のように厳しく怒られそうだ。
「了解です!これを着れば良いんですね」
持ってきた私のドレスを発目さんに手渡す。探偵社関連のパーティーにちゃっかり参加させてもらっていたから、何着か持っていたのが役に立った。
「発目さんに似合いそうなのを選んでみたけど……」
「着られれば何でも良いです」
「……。だよねぇ」
発目さんって、発明以外は本当に無関心だ。(……と、私も早く着替えないと。髪もアレンジしたいし)
「…………結月さん」
「ん」
「胸の部分がキツくてファスナーが上がりません」
………………!?
慌ててバッと発目さんの方を見ると、確かにその部分だけパツパツだ。
「……。なんてこった」
「なんてこったです」
体格はあまり問わないデザインだから大丈夫だと思っていたら痛恨の誤算……!
発目さんは百ちんに匹敵するほどのスタイルの持ち主だったと忘れていた……!(あの峰田くんが食いつくぐらいの)
なんか、少し敗北感を感じなくもなくもないけど、今はそれどころじゃない!
「私が上げてみるね」
「お願いします」
――苦戦すること、数十分。
「結月さん、ウエストも若干キツいです……!」
「それは我慢して……!」
「苦しいです……!」
「上がらない〜!どうしようっ」
「ドレス着ないとパーティーに出席出ませんか!?」
「たぶん……」
「そんな……!パーティーに出席してデヴィット博士にベイビーを売り込むという計画がぁ……!」
焦るその場にスマホが鳴る。着信は天哉くんだ。
「もしもし、天哉くん?」
『結月くん!君たちも遅刻だ!集合時間がとっくに過ぎているぞ!』
「今立て込んでるから先行っててっ!」
『立て……?一体何を、』
案の定の怒声に、こっちも声を大きくして返事を待たずに切った。
さて、本当にどうしよう。
「こうなったら、百ちんに頼んでドレスを……」
いや、百ちんなら喜んで引き受けてくれそうだけど、あまり甘えるのも……。こういう困った時は、太宰さんならどうするだろうとつい思い浮かべてしまう。
太宰さんでもこんな事は専門外だろうけど。
「はっ……そうだ。サラシを巻こう、発目さん!」
そうだよ、包帯で!
「サラシですか。確かに名案かもしれません!」
「待ってて。ホテルの人に包帯をもらえないか聞いてくる!」
受付までひとっ飛びして、軽く事情を説明すると幅広の包帯をもらえた。
急いで発目さんに巻いて、ドレスを着ることができ、ほっとするのも束の間。
慌ててホテルを飛び出し、発目さんを連れてセントラルタワーにテレポートを繰り返し急ぐ。
これ以上の遅刻は避けたい……!
「天哉くんたちとの待ち合わせは7番ロビーだったけど、直接パーティー会場に向かうから……」
そして、このセントラルタワーがまた広い。チケットを見ると、パーティー会場は二階のレセプション会場で行うらしい。
「エレベーターで行けるみたいですが、行き先によって違うようですね」
ずらりと並ぶエレベーターに、それだけで室内の広さと複雑さがよく分かる。
「ええと……会場へ行くエレベーターは――あ、これだね」
ボタンを押して、程なくして到着したエレベーターに乗り込む。やっと一息つけて、ふぅと小さくため息を吐いた。
エレベーターはすぐに二階に到着。
「レセプション会場は……こっちか」
降りたその直後だった。
室内に警報が響いたのは――。
「え、なに!?」
「警報……?」
『I・アイランド管理システムよりお知らせします。警備システムにより、I・エキスポエリアに爆発物が仕掛けられたという情報を入手しました』
「爆弾っ?」
「まさか、最高峰の警備を誇るI・アイランドにですか……?」
確かに……考えながらも、意識をアナウンスに集中した。
『I・アイランドは現時刻をもって厳重警戒モードに移行します。島内に住んでいる方は自宅または宿泊施設に。遠方からお越しの方は近くの指定避難施設に入り、待機してください』
島全体に放送されているであろうアナウンスは、続けて警告する。
『今から10分後以降の外出者は、警告なく身柄を拘束されます。くれぐれも外出は控えてください。また、主な主要施設は警備システムによって強制的に封鎖します』
あまりの厳重な警備に驚く。それほどの事がこの島で起こってるの……?
「……エレベーターが停止してる」
「爆発物が仕掛けられたという情報だけで、ここまでしますかね?」
発目さんもそう怪訝に言う。
「……とりあえず、会場に行ってみよう。ヒーローたちもパーティーに参加してるし」
オールマイト先生もそこにいるはず。違和感を覚えながらも、会場へ向かうと――……人の気配。
「っ?結月さ……」
「しっ」
その異様な雰囲気を察知し、咄嗟に発目さんの腕を掴んで、曲がり角に隠れるようにテレポートした。
「――いいか?お前たちは入口を見張ってろ。万が一、他のパーティー参加者が来たら同じように人質として会場に閉じ込めておけ」
「……!?」
――まさか、敵?
会話の内容から察するに。一気に全身に緊張感が走る。
「……先ほどの爆発物を仕掛けられた件と関係が……」
「……わからない……」
小声で発目さんと会話しながら思考を巡らせる。
何故、敵がここに。
どうやって。何が目的で。頭の中で自然と生まれてくる答えのでない疑問たち。
「I・アイランドに敵が侵入したなんて前代未聞ですよ」
その信じられない出来事が起きるのが、いつだって現実だ。
「――……だめ。電波が通じない。天哉くんたちと連絡が取れればと思ったけど」
「ネットもだめですし、警備システムで通信電波を無効にしてるみたいですね」
一旦、敵の気配がない非常階段で発目さんと身を潜める。
「天哉くんたちは無事なのか……」
さっきの敵の言葉を考えると、一緒に会場に人質として捕まっている可能性が高い。
「あるいは……」
天哉くんは電話で「君たち"も"遅刻だ」と言ってたから、もしタイミングよく会場入りが遅れていたら……
(今の私たちのような状況になってる可能性もある)
「たぶん、この警備システムを作動したのは敵だと思います」
「ヒーローや人質を閉じ込めることができて、島全体に作用して外部との連絡も遮断できる……」
「結月さんの"個性"でここから脱出は無理なんですか?」
「私のスペックが足りなくて……窓越しとかなら可能だけど」
シャッターが下ろされた窓に、通路も封鎖されて、一階に戻ることもできない。
位置関係も分からないここから、テレポートは難しい……残念ながら。
(オールマイト先生を含め、たぶんヒーローたちは大勢の一般招待客を人質を取られて、身動き取れない状況と考えるべき……)
そうじゃなかったら……人質を取られる間もなく、あのNo.1ヒーローであるオールマイト先生がすでに事件を解決しているだろうから。
「……その警備システムって、どこにあるの?」
「このセントラルタワーの最上階にあるみたいです。ちなみに200階ですね」
200階……!
「確かに解除できれば、ここから脱出も可能です」
「警備システムを解除できればそれに超したことないけど……」
敵が乗っとり、待ち構えているなか、難易度は高い。
私たちで解除できるかもわからないし。
せめて、"個性"が使えそうな場所に出て、外の警察やヒーローたちにこの事態を伝えることができれば――。
「とりあえず、……上を目指そう」
"迷ったら上に行くといい"
名探偵のありがたい助言がある。
「このままここで隠れているのも性に合わないし、他に活路が見いだせるかも知れない」
それに、たぶん。
「私以外でもそうする」
そう笑って言うと、発目さんは「結月さん以外?」と不思議そうに首を傾げた。
(もし、私と同じ状況にいたなら)
でっくんなら――。ううん、ヒーロー志望の皆なら。どうにかこの状況を打破できないか行動するはず。
「発目さんを巻き込んじゃうことになるけど……」
もちろん、危険からは私が守る。
「フフフ……何言ってるんですか。今回の結月さんのバディはこの私、発目明ですよ」
――私のベイビーの活躍、間違いないし!
そう意気込む発目さんに、頼もしいなぁと笑った。
「じゃあ、相棒よろしくってことで」
二人で目指すは、セントラルタワーの最上階――。