第二回、部屋王

「じゃあ、第二回、部屋王を始めるよー!結月賞だーー!」

 その夜、三奈ちゃんの元気な声でそれは始まった。

「部屋を見て回って、誰の部屋が一番素敵か決めればいいのね?」
「そうそう!男女混合だよ!」

 皆の部屋を見られるのは面白そうだな。

「ちょっと待ったぁぁ!!」

 何やら男子たちが物申してきた。

「自分の部屋だけ公開しないなんてずるいぞ、結月!」
「峰田くん……」
「俺らの部屋を審査するんだから、審査員の部屋も見せてもらわねえとなあ?」

 別に私、好きで審査員になったわけでもないけど……瀬呂くんの言葉にうんうんと頷く一部男子。

「別に特別面白いものがあるわけじゃないし、普通の部屋だよ?」
「その普通がいいんじゃないか!」

 何故か力を込めて尾白くんが言った。尾白くんが言うとなんか説得力があるような……。

「理世ちゃんのお部屋、可愛いお部屋だったよ!」
「可愛い部屋か!いいじゃんっ見てえ!」

 透ちゃんの言葉に食いつく上鳴くん。
 ……まあ、絶対に見せられない理由もないし。

「……良いけど、そんなに期待しないでね?」
「「うぇ〜〜い!」」


 本当に普通な部屋だけどなぁ。


「(結月さんの部屋……!)」
「(結月の部屋か……)」
「(……まあ、暇潰しに見てやっか)」


 私の部屋は、最上階の百ちんの隣だ。


「――これが、私の部屋だよ〜」
「「おおぉ!!」」

 勉強机に、ベッド、テーブル、スタンドミラーなどなど。置いてあるのはごく一般的な家具たち。

「模範的な女子って感じの部屋!」
「どことなく結月っぽいな!」
「良いニオイが……」
「はい、峰田くん。これ以上入るの禁止」
「なんでだよー!差別だ!」
「顔がアウトだからだよ!」
「結月さんは推理小説が好きなんだね」
「たくさん並んでんなー」

 本棚を見ながら、尾白くんと砂藤くんが言う。

「これでも厳選して持ってきたんだよ〜」
「びゃっことらしょうもんに、ギャングオルカのぬいぐるみもある!」

 ヒーローグッズに食いついたのはもちろんでっくんだ。ベッドに飾ってある三つのぬいぐるみは、特にお気に入り。

「ギャングオルカも好きなのか」
「神奈川県民だからね。応援してるよ」

 焦凍くんの言葉に答える。
 
「あら……(片付けの時には置いてなかった写真立て……)」
「!(この写真、結月さんの亡くなったご両親と幼い結月さん……!)」

 ――!!

「?どうかしたのか、八百万くんも緑谷くんも」
「(私のマトリョーシカが……!)」
「(僕のペンギンキーホールダーが……!)」
「「(写真立ての隣に飾ってある――!――!――!!)」」きゅん
「どしたんだ!?泣いてるのか二人とも――!!」
「?」


 ――皆には自室で待機してもらって、お部屋拝見に出発だ。
 まずはお隣さん、百ちんのお部屋から。
 一度、百ちんの自宅の部屋には遊びに行った事はあるけど……

「!キングサイズのベッド、そのまま持ってきたんだね!?」

 どーんと部屋を占める天蓋付きベッドが、真っ先に目に飛び込んだ。(他の家具が追いやられてしまってる)

「ええ、部屋の広さをちゃんと確認しておけば良かったのですが……」

 確かに、寮の部屋は元の百ちんの部屋の半分……いや四分の一の大きさかも知れない。

「あ、以前の時よりも本が増えてるね」

 本棚を見ると、そこにはさまざな国の図鑑シリーズや百科事典がぎっしり詰まっていた。

「お父様がプレゼントしてくださったんです!」
「優しいお父さんだっ」

 百ちんのお父さんには会った事がないから、どんな人か話を聞く。
 おしゃべりもそこそこに、百ちんの部屋を出ると、次は同じ階の梅雨ちゃんルームに向かった。

「いらっしゃい、理世ちゃん」
「うわぁ、可愛い!しずく柄〜」

 しずく柄のカーテンやベッドカバーに、観葉植物が多く、緑が目に優しい落ち着いたお部屋だ。

「家族の写真、いっぱい飾ってあるね」
「ええ、寂しくないように。寮になるって言ったら、妹も弟も大変だったの」

 その時のことを、梅雨ちゃんは話してくれた。(仲が良い家族だから、こんなに早くから離れて暮らしたら家族も寂しいよね)

 ――梅雨ちゃんの部屋で癒された後は、四階の三奈ちゃんルームへ!

「見て見て結月!カワイーでしょー!」
「ギャルっぽい!可愛い!」

 三奈ちゃんらしい個性があってキュート!

「それに三奈ちゃん、洋服オシャレだよね〜」

 並べてあるアクセサリーや、帽子を眺める。

「洋服好きでさ!あ、これなんて結月に似合いそうじゃない!?」
「また派手なのチョイスしたねぇ」

 着てみて!という声に、"個性"を使ってちゃちゃっと着替えてみた。

「いーじゃん!超似合うよ!」
「え、本当?この格好でお部屋訪問しちゃう?」
「それナイスアイデア!アタシのセンスをみんなに見せつけてきて!」
「OK!分かった」

 三奈ちゃんの洋服を借りて、次に向かうのはお茶子ちゃんルームだ。

「お茶子ちゃーん!私が〜〜来た!」
「あははっ、オールマイトのモノマネ!待ってたよ――って、理世ちゃんハデ!?」

 私の格好を見て、驚くお茶子ちゃん。

「さっき三奈ちゃんのお部屋訪問した時に、コーディネートしてもらったんだ。似合う?イケイケ?」
「理世ちゃんのイメージとちょっと違うからびっくりしたけど、これはこれでええね!イケイケ!」

 麗かな笑顔を浮かべながら、お茶子ちゃんは部屋に入れてくれる。

「理世ちゃんが一度ウチに来てくれた時とあんま変わってへんと思うけど……」
「あはっ、本当だ。お茶子ちゃんの部屋だ〜」

 以前遊びに来た時と、同じような雰囲気の部屋だ。

「お茶子ちゃんの部屋ってなんだか落ち着くんだよねぇ」
「ほんま?いつでも遊びに来て来て!そんで、これからもいっぱい話そう!」
「うんっ!」

 お茶子ちゃんの部屋で緑茶をごちそうになって、うっかりくつろぎそうになりながら、透ちゃんルームに向かう。

「わお!理世ちゃんイメチェン!?ドッキリ!?」
「三奈ちゃんのコーディネートだよ!」
「確かに三奈ちゃんっぽい!」

 透ちゃんのお部屋にお邪魔すると……

「可愛い!ファンシーな女子部屋!」
「えっへへー!」

 さくらんぼ柄のカーテンにぬいぐるみや可愛い小物たち。なかでも目に入ったのは――

「この大きなぬいぐるみ……」
「可愛いでしょ!私のお気に入り!」
「根津校長に似てない?」
「!ちょっと待って理世ちゃんッ」
「顔とか足の肉球とか……ほら」
「待ってー!本当に校長先生にしか見えなくなっちゃう〜!」

 ぬいぐるみを動かしながら「やあやあ、葉隠さん」と、校長のモノマネをしたら、どうやら透ちゃんはツボにはまってしまったらしい。

「もう〜理世ちゃん、笑いすぎてお腹痛いよー!」
「あはは〜これ以上笑わすと透ちゃんが大変なことになりそうだから、次にいこっかな」

 ――耳郎ちゃんルーム。

「耳郎ちゃんの部屋、イメージ通りだ!」
「ホント?ちょっとハズいな……」

 パンクでロックでかっこいい部屋だ。
 楽器やアンプやヘッドフォンなど、音楽関係のものがたくさん。

「今の私の格好にぴったりな部屋じゃない?」
「確かに!じゃあ、ちょっとギター持ってみてよ」

 耳郎ちゃんにギターを借りて、ポーズを決めてみる。アイドルバンドにいそうって笑う耳郎ちゃん。褒め…られてる?

「理世はなんか楽器弾けないの?」
「それが楽器はまったくやったことなくて」
「そっか、残念」
「耳郎ちゃんはこれ全部弾けるんでしょ?すごいよね」
「まあ、音楽が好きだからさ」

 そう自分の好きなことがしっかりある耳郎ちゃんは素敵だと思う。

 ……あぁ!

「忘れてたっ!」
「え、なに、急に」
「耳郎ちゃんっ5秒いや10秒待ってて!」
「は……って、消えちゃった」

 テレポートで自室に戻った。耳郎ちゃんにプレゼントしたいと思ってた中也さんのバンドのアルバム!(確かここに……あった!)

 CDを手に取って再びテレポートする。

「わっ!」
「はい、耳郎ちゃん!」
「これって……グラヴィティハットのバンドの……!」
「うん、新作のアルバム。耳郎ちゃんにあげようと思ってたのに遅くなっちゃった」
「ありがとう……!めっちゃ嬉しいよ!しかもサイン付きじゃんっ」

 満面な笑みで受け取ってくれた耳郎ちゃんに、喜んでくれて私も嬉しい。

 女子部屋訪問は終わって、次は男子部屋だ。

 男子棟と繋がっているのは一階だけだから、まずはそのまま一階に降りて……そこから男子棟へ向かう。造りは女子棟と変わらない。

 二階の最初は、常闇くんルームへ!

 ……すると。すでに常闇くんがドアの前で腕を組み、立っていた。

「あれ、常闇くん、もしかして、ずっとそこで待ってたの?」
「……あまり自室は人には見せたくないが、同士のお前なら見せても構わん」
「え〜嬉しいなぁ」

 常闇くんに案内されて入ると……

「か、かっこいい……!常闇の間!!」
「フッ……」

 黒を基調とした空間に、剣やらドクロやらコウモリの羽やら。胸くすぐられる空間!

「でも、常闇くん。素晴らしい部屋だけど、君の部屋には一つ足りない物があるね……」ふふふ……
「足りない物……だと?」
「魔方陣だよ!魔方陣柄のラグ引いたら完璧だと思うの!」
「!」

 そう言って、常闇くんに「魔方陣 ラグ」で、スマホで検索した結果を見せる。

「ポチろう」
「よく検討して。魔方陣によっては、この部屋の結界デザインに影響が出るかも知れない」
「慎重に選ぼう」

 真剣に考える常闇くんを残し、私は次の部屋に向かう。

「どうだい結月さん?僕の部屋、素敵でしょ!?」
「まぶしい!!」

 さっきまで薄暗い常闇くんの部屋にいたから余計に……!
 四方からライトで照らされる。
 ミラーボールに至っては上下にあるし。ディスコか。

「ノンノン。まぶしいじゃなくて、ま・ば・ゆ・い!」
「まばゆい!!」

 言い直してあげたら、青山くんは満足そうに回った。目にダメージを受けそうなのでこの部屋は早々に退散する。

 次は――でっくんね!

「私、でっくんの部屋はどんな部屋か予想的中できるよ。オールマイトな部屋でしょ?」
「ははっ、結月さん、正解」
「問題はオールマイトグッズ量が私の予想を上回るかどうか……」

 でっくんの部屋に入ると、目に飛び込む黄色と青のオールマイトカラー!
 机や本棚の上には、オールマイトフィギュアの数々。
 壁には一面にオールマイトのポスターに、あれは……お面??

「ど、どうかな……結月さん……。これでも減らして、ほとんど実家に置いてきたから……」
「!」

 実家にまだオールマイトがいる……!?

「少ない方だと思うんだけど……」
「…………」
「結月さん?」
「…………」
「予想より上回った?下回った?どうだったかな結月さん!?」
「…………」
「結月さーーーん!!」


 ――でっくんのオールマイト愛に「良いと思う!」そうサムズアップすると、でっくんはほっと胸を撫で下ろしていた。

 この階の最後のお部屋訪問は……峰田くんか。

「……………………」

 なんか、ドアの向こうから禍々しいオーラを感じる。……素通りしよう。

「おいこら結月!スルーするなよぉ!入れよぉ……!!」

 すげえから!って叫ぶ峰田くんを完全スルーして、エレベーターに乗り込んだ。

(何がすごいんだか……)

 ――三階、尾白くんルームから!

「さっき、でっくんの部屋の予想的中したんだけど、尾白くんの部屋も当ててあげる。一般的を模範した部屋」
「……。普通ってことね。披露する前に切り込まれたよ……。それより、結月さん。なんでそんな派手な服を着てるんだ?」

 ちゃんと最後は私の服装につっこんでくれた尾白くん。案内されて部屋に入ると、予想通りの光景だった。

「――普通の部屋さ」
「シンプルイズベストで私は好きだよ。私の部屋も普通だったでしょ?」
「結月さんの部屋は結月さんらしさがあったと思う。みんなの部屋を見て、俺ももうちょっと個性をだそうかなって考えてるんだ」
「?十分個性ある部屋じゃ」
「普通が個性ってこと!?」

 キャラが濃い生徒たちが多い中で、むしろ尾白くんは貴重な存在。

 ――さて。次は、我らが委員長の部屋だぁ!

「ようこそ、結月くん!」
「天哉くんらしい、きちっとした部屋だね!」
「そうか?」

 難しい本がぎっしり本棚に、真面目で優等生らしさを感じ………

「眼鏡、売るほどある!」
「売り物じゃないぞ!激しい訓練での破損をした際の予備だ」

 並べられた眼鏡がツボにはまって、声を出して笑っていると「麗日くんといい、そんなに笑うことないだろう」そう少し不服そうに天哉くんは言った。
 お茶子ちゃんが噴き出す様子が、簡単に目に浮かぶ。

「……こうして、結月くんが戻ってきてくれて、本当に僕は嬉しい。何か困ったことがあったら、いつでも相談してくれ。僕は委員長であり、君の友人だからな」

 最後に恥ずかしげもなくそう言う天哉くん。……こっちが照れるよ。

「相変わらず天哉くんは真面目だねぇ。……でも、ありがとう」

 まっすぐ差し出された、その頼もしい手を握った。

 ――さて、次は上鳴くんルームだ。

「待ってたぜ、結月。じゃーん、どうよ!?俺の部屋!」
「あー……そっちのチャラいかぁ〜」
「どっちのチャラい!?」

 今流行りのかっこいいものを揃えました的な。ちょっと雰囲気がヴィレッジヴァンガードっぽい。(つまりは統一感がない)

「つーか、結月の私服ってそんな感じだったっけ」
「これ、三奈ちゃんの服でコーディネートしてもらったの」
「あ、すげえ納得」

 上鳴くんの小物でちょっと遊んでから、口田くんの部屋へと向かう。

「わぁ、うさぎがいる!」

 出迎えてくれたのは、一匹の白いうさぎだ。

「可愛いね〜!名前なんて言うの?」
ゆわいって名前で……」
「結ちゃん?女の子だぁ」
「あ、オスなんだ」
「じゃあ結くんだっ」

 大人しくて、人馴れしているいい子だ。

「口田くん、写真撮ってもいい?」
「うん、いいよ」
「うさぎ大好きな女の子がいてね〜……」

 何枚か撮って、鏡花ちゃんに送ろう。

 その後、ゆわいちゃん(口田くんがそう呼んでた)の好物は、とか。いつから飼ってるの、とか。動物関係の話を口田くんとした。

 口田くんとこんなにおしゃべりしたのは初めてだ。

 ちょっと仲が深まった気がして嬉しく思いながら、エレベーターで四階に上がる。

(はっ、ゆわいちゃんに夢中で口田くんの部屋の印象がない……!)

 ――四階。トップバッターは爆豪くん。

「爆豪くーん!お部屋訪問に来たよー!開ーけーてー」

 ………………。

 返事がない。留守?居留守?ドアに耳を当ててみるけど、よく分からない。
「爆豪くーん?」
 もう一度話しかけても、返事はなし。
 まあ、あの爆豪くんが参加しそうにも思えないけど。

「…………」

(……爆豪くんも、ヴィランに攫われたんだよね)

 自分のことで精一杯だったから、あの時の状況は、軽く耳にした程度でしか知らない。
 それでも、後から知った状況は悲惨なものだった。
 毒ガスで昏睡状態に陥った耳郎ちゃんと透ちゃん……。ううん、二人だけでなく、ほとんどのB組の生徒たちも……。

 後遺症もなく回復して、全員復帰できたのは奇跡だ。

 こうして、皆と以前のように話せて、本当に嬉しいし楽しい。
 でも、同時に手放しで良かったとは言えない。
 被害にあったのは、生徒たちだけじゃない。神野の戦いに巻き込まれた人達。

 ――ラグドールも。
 
 救出されて、体調は回復したというけど、"個性"が使えない状態だという。

 オール・フォー・ワンに奪われたんだ。
 私の両親と、同じように――。

(取り返せないのかな……)

 今、オール・フォー・ワンは、タルタロスに厳重に確保されている。

 ある意味、一番安全な場所だ。
 復讐しようにも手が出せない。

(って、私は何を考えてるの)

 そんな事をしても意味がない上に、周りを裏切る行為でしかない。何より私は、ヒーローになるって改めて決めたのだから。

(じゃあ、この感情の行き場は――?)


「……痛ぁっ!!」
「あ」

 ――突然開いたドアが、顔面に直撃した。

「〜〜っいくらなんでもひどいよばくごうくん……」
「っわざとじゃねえよ!んな所につっ立ってんと思わねえだろ……!」

 あまりの痛さに涙が出てきた。

「……入れよ」

 爆豪くんは部屋に入れてくれた。

「そこに座って待ってろ」

 そう言われたので、大人しく椅子に座ってしばらく待っていると……

「ん」

 ビニール袋に氷を入れた簡易的な氷嚢を渡される。

「ありがとう」
「帰ってきた途端、面倒かけんなテメェは」
「その言い方だと、今までも私、爆豪くんに面倒かけてるみたいだね〜」
「…………大丈夫だったんか」

 主語はないけど、すぐに何の話しか察しがついた。

「大丈夫だったからここにいるんだよ。爆豪くんは……酷い目に合わなかった?」
「別に」

 ベッドに腰掛けて、そっぽを向いたまま爆豪くんは答える。

「あの顔なし野郎がお前の両親の仇か」

 こっちを向いて爆豪くんは、あまりに直球に言ったから、一瞬だけ、答えるのに言葉が詰まった。

「直球だなぁ。……そうだよ。爆豪くん、知ってたんだね」
「あの手の野郎が言ってたからな」

 手……死柄木か。

「デクは知ってんのか」
「でっくん?」

 唐突にでっくんの名前が出てきて、首を傾げる。

「さあ……」

 曖昧に答えた。たぶんオールマイト先生に聞いて知っているとは思うけど、それこそどこまで知っているのかは分からない。

 ……………………。

 ……ここで沈黙!?いつもは分かりやすい爆豪くんが今日は分かりにくい。

 ……しょうがない、話題を変えよう。

「爆豪くん、登山するんだね」

 部屋を見回しながら、本来の目的を果たす。
 シンプルでセンスの良い部屋に、彼の個性を主張するのは登山グッズだ。

「まあな。……おい、あんまジロジロ見んな」

 本棚には山関連の本や、壁に飾るのは山の写真。かなりの登山家なんだと窺える。

「私は登山って、"個性"でパパっと山頂に行けちゃうから縁がないなぁ」


 ――古今東西、口は災いの元という。


 その何気なく言った言葉に、爆豪くんはドン引きしたらしい。(……顔!)

「おい、クソテレポ……。今の発言、地球上の登山家全員敵に回すぞ」
「えっ、そんなに?」
「今度、山に連れてってやる。どんだけテメェが的外れなことを口にしたか分からせてやるわ」
「……。ごめん、爆豪くん。その反応で十分わかったから許して」


 ……マジな爆豪くんは、ちょっと怖かった。
 逃げるように退散して、次は切島くんの部屋へ。

「おう!結月……って、デコ赤いし服が芦戸みてえだぞ!?どうした!!」
「かくかくしかしかで」

 切島くんに説明しながら、部屋に入れてもらう。

「結月にも俺の部屋の良さは分かんねーと思うけど……」
「男らしい!」

 燃える(柄)カーテンに、筋トレグッズ。
 壁には「気合い!」「漢気」など、手書きの文字が貼ってある。(寝るな……?)

「おお!結月には分かるか!?この漢らしい部屋を!!」
「男らしいということだけは。私の趣味ではないかな」
「…………だよなァ」

 がっかりする切島くん。ごめん。でも、切島くんが追い求めているものは分かった。

「切島くん、永ちゃん好きなんだね」

 YAZAWA!

「ああ!ボスの熱い歌声は俺の魂も燃え上がらせるんだ!!」
(ボス……!ガチファンだ……!)

 ――切島くんは永ちゃんの歌の素晴らしさを熱く語ってくれたけど、順応力が高い私でさえまったく分からず「へ、へえ……」と、相槌を打つ事しかできなかった。

(切島くん……さらに熱い面を見たな)

 ちょっぴり疲労を感じながら、障子くんのお部屋に訪れる。

「俺の部屋は面白くないだろう」
「めっちゃすっきりしてるね〜」

 家具は小さな背の低いテーブルと座布団、布団ぐらいしかない。

「あれ、こういうのなんて言うんだっけ……?ミニトマトじゃなくて……」
「……ミニマリストか」
「そうそう、それ。引っ越しの時は楽だね」
「ああ、一瞬で終わった」

 聞けば、障子くんは幼い頃からあまり物欲がなかったらしい。

「でも、あんまり揃ってないのも不便じゃない?何か必要なものがあったら、私呼んで」

 持っている物ならテレポートで飛んですぐに貸してあげられる。同じ保健委員で、何かと力になってくれる障子くんならお安いご用だ。

「フ……では、その時は世話になろう」


 ――五階。いよいよ、最後の階に到着。


「瀬呂くん、おまたせ!」
「待ちくたびれたぜ」
「では、お邪魔します……わあ!」

 クオリティ高いっ!

「すごい……!エイジアンテイストに統一されてめちゃくちゃセンス良い!」
「だろ?実は出来る男なのよ、瀬呂くんは」

 照明器具も小物もこだわりを感じオシャレ。
 今までザ・己の個性を主張した部屋が多かったから、感動すら覚える。

「これはちょっと上位に食い込むよ〜瀬呂くん」
「マジか!これはひょっとすると結月賞、俺が頂いちゃう感じ?」

 このハンモッグ型ソファ、寝心地最高。

「私も部屋にソファ置きたいなぁ。ほら、人をダメにする的なやつ」
「結月がそれ置いたら、ますます動かなくなってマジでダメになるんじゃね」

 …………。確かに。
 今でさえ、リモコンとか本とかその場から動かず"個性"を使って手にしているし。

 瀬呂くんの部屋の次は、焦凍くんの部屋だ。

 あのクール&天然の焦凍くんの部屋がどんな感じか想像つかないから、楽しみ。

「俺も普通の部屋だけどな」

 そう言う焦凍くんの後を「お邪魔します」と、ついて行き……

 !?

「普通の和室だ」

 いやいやいや、確かに普通の和室だけど、根本的な部屋の造りが違うよ……!?(劇的ビフォーアフター!)

「実家が日本家屋だから、フローリングは落ち着かねえ。リフォームした」
「すごい時間かかったんじゃない?」
「いや、引っ越し当日には……」
「どういうこと!?」

 ……謎だ。謎過ぎる……。
 私の期待を遥かに超えてみせた焦凍くん。

「本当逸材だよ、焦凍くん」
「?何のだ?」
「でも、家具とか高級感あるし、素敵だね」

 和ダンスや文机。確かに、元のフローリングなら違和感があっただろう。

「こういう和室も良いかも!」
「リフォームするなら手伝うぞ」
「今の所その予定はないかな〜」

 その時は焦凍くんにお願いしよう。

「……結月」
「ん」
「無理、すんなよ」

 焦凍くんの気遣う言葉に、笑顔で頷いた。
 焦凍くんの部屋を後にすると、いよいよ最後は、砂藤くんの部屋だ。

「おいしそうな甘い香りがする〜」

 お菓子を作る道具やオーブンなど、本格的に揃っていてさすが!(……ん。布団の模様がsugar!?)
 どこで買ったんだろう……。それより、この甘い香りはもしかして……

「おう!結月が来るから焼いてたんだ。前に食べたいって言ってたマフィンだ!食ってけ!」
「やった〜!」

 …………焼きたて美味!

「砂藤くん。マフィンめっちゃおいしいけど、私は公平に部屋審査するからね」
「はは!狙ってたのバレたか」

 頭を掻く砂藤くんに、ごちそうさまとお礼を言った。本当にマフィンはおいしかったよ!


 これで、すべてのお部屋訪問完了。


(あ、鏡花ちゃんから返信だ。"写真のうさぎすごく可愛い"……喜んでくれたみたい)


 ――結果発表は、一階の談話スペースで。


「さあ、待ちに待った結月賞の発表だよ!」

 司会の三奈ちゃんの言葉に、皆はごくりと息を呑む。(爆豪くんは不参加)

「さあ、結月賞は誰の手に!?」

 私は神妙に口を開く!

「結月賞は…………口田くんです!」
「「おおっ……――ええええ!?」」
「おいおい、あんなに俺の部屋を気に入っておいて!?」
「……っっ」

 抗議する瀬呂くん。瀬呂くんの部屋が素敵だったのは確かだ。

「結月さん、口田ルームを選んだ理由をどうぞ!」
「うさぎが可愛いかった」
「……だそうです!」
「「だから部屋は!!」」

 うさぎがいるのも部屋の一部だし、鏡花ちゃんも喜んでくれたし。

「……まあ、結月が選ぶ結月賞だしな」
「口田、おめでとう!」
「羨ましいぜ、このやろ〜」
「あ、ありがとう」


 ……――安吾さん。

 私は楽しく寮生活を送れそうなので、安心してください。


 ***


「…………」
「安吾先輩、その顔は理世ちゃんすか?」
「ええ、写真とメッセージが届いて、友達と仲良くやっているみたいです」
「まー先輩は寂しいだろうけど、理世ちゃんが楽しくやってるなら良かったっすね」
「……いずれ来る日が少し早く来ただけですよ。――さあ、僕たちは仕事に精を出しましょう。まだまだ徹夜三日目です」
「あの……坂口さん。急ぎの仕事もないですし、今日は家に帰って休まれたら……」
「家に帰っても仕方ありませんから。退勤しなければ出勤しなくてもいいですしね」

 カタカタカタカタカタ……

「……安吾先輩、ますますやばくないすか?」
「心の隙間を今以上に仕事で埋めようとしているな……」
「理世ちゃんロスっすね」


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