vs新人ヒーロー

 敦くんと龍くんが同時に飛び出す。

 最初の一手――焦凍くんの氷結が地面を這い、爆豪くんの爆発音が大きく響いた。

(って、爆豪くん!なんで龍くんに向かってるのーー!?)

 相性悪いから敦くんの方にって、お願いしたのに!

「悪食がなんだが知らねえ!!」
「……飛んで火にいる夏の虫」

 爆豪くんが両手を龍くんに向ける。特大の爆破は、龍くんに届く前に、羅生門"個性"が空間を喰らい遮断する。

「それがっ……、!?」
「爆豪くんっ!」

 下から伸ばされた黒い布が次々と分裂して爆豪くんの足に絡み付く。

(って、私にも……!?)

 腕に黒い布が絡み付いた。(こんなに龍くんの射程長かったっけ?)

「龍くん、テレポートには無意味だって……!」
「おまえは空間を跨いで現れる。空間ごと喰らえばテレポートも不可」

 ……!?

「そして、おまえがどこに飛ぶかも見当がつく」

 その言葉通り、上手く使えなかった"個性"に、
「いっ……っ〜〜!」
 地面に叩きつけられて痛みに悶える。(……っ転移先の空間を喰らうとか……)

 職場体験の時や普段の手合わせとは違う戦法。……私は、分かっていなかった。

 龍くんの本気を……!!

「んな布、焼き切って……!」
「無論。ならば、手を拘束するのみ」

 爆破で足の布を焼き切った瞬間、龍くんは狙ったように爆豪くんの腕を拘束する。

「僕が助けてあげるよ!」

 両手を頭の後ろに回した青山くんが、お腹を向けた。目映いネビルレーザーが、爆豪くんに絡み付く布を裁ち切る。

「ナイス、青山くん!」
「もっと褒めてもいいよ☆」
「邪魔すんじゃねえヘソ!」
「ヘソ!?(ガーン)」
「つーか離せ、結月!」
「そもそも爆豪くんと相性悪いって言ったのに、なんで黒獣の方に突撃!?」
「知るか!……なんかムカついたんだよ」
「なにその理由!?」
「――っ結月さん!危ない!」

 でっくんの言葉に気づくと――弾けとんだ石つぶてが、ちょうど飛んだ先で迫っていた。(焦凍くんの炎に対して、敦くんは岩石を投げて反撃したのか……!)

「っ!」

 "個性"を使う前に、爆豪くんが片手を伸ばし、爆破でそれを蹴散らした。
 その衝撃に、爆豪くんの腕を離してしまう。

「俺は黒獣をやる!お前は月下獣の方をなんとかしろ!」

 落ちながら叫ぶ爆豪くん。すぐに両手で爆破をさせ、再び龍くんの方へ向かっていった。

(あーもう!今さら爆豪くんが言うことを聞くとも思ってなかったけど……!)

 ここは切り替えて、爆豪くんが龍くんを抑えてくれると仮定し……。

(尾白くん、切島くん、砂藤くんが近接戦闘に持ち込んでいる!常闇くんは援護!透ちゃんもこっそり近づいてるはず)

 龍くんは敦くんとは反対にフィジカルが弱いから、近接戦闘に持ち込むのが一番だ。

「――お茶子ちゃん!」
「理世ちゃん!」
「隙を見て、私がお茶子ちゃんを月下獣の元へテレポートさせるから……」
「分かった!私がタッチして、浮かせる!」

 いくら敦くんでも、浮かせられたらどうにもできないはず。(その隙が難しいけど……)

「ウェーイ」(!?)
「上鳴くんすでにアホ面モードになってる!?」
「最初の轟さんと爆豪さんが攻撃を仕掛けた時に……」
「一緒に意気揚々と突撃した結果がこれ」

 百ちんと耳郎ちゃんが呆れて言った。
 上鳴くん……生き急いで……!


「緑谷!飯田!氷と炎で行動を制限する!その隙にお前らは攻撃を仕掛けろ!」
「轟くん!分かった!行くぞ、緑谷くん!」
「俺もいるぜ!」
「オイラもいくぜ!」
「瀬呂くん!峰田くんも!」


 焦凍くんは右足から氷結を這わせると、敦くんは跳んで避ける。すかさず焦凍くんの左腕から炎が噴き出した。

「オラァァァ!!」
「いっけーー!!」

 峰田くんが敦くんのもぎもぎを投げつけ、瀬呂くんもテープを伸ばし……

「「!?」」

 鋭い爪が、すべて切り裂いた。

(……?まるで、"個性"自体を裂いたような……)

 でも、その後ろには!

「「うおおおお!!!」」

 天哉くんとでっくんが飛び込んで、同時の蹴りが入る――!

「っく……!」

 両腕をクロスさせ、敦くんは二人の攻撃を防御した。

「!(片目が虎の眼……!)」
「(これが結月くんが言ってた半人半虎か……!!)」
(さすがのタフネスの敦くんだけど、……もらった!!)

「タッチ!!」

 敦くんの背後にテレポートさせたお茶子ちゃんが、その背中に触れたからだ。

「わっ……無重力っ?」
「テープを巻き付けさせてもらうわ」

 ……あれ!?梅雨ちゃん、いつの間にそこに!

「人虎!何をしている!?」

 龍くんの言葉が響いたと思えば、複数の黒い布が敦くんの体に巻き付いた。

「!?」
「味方に巻き付けた!?宙に飛ばないように押さえつけてんのか!」
「違うっ、あれは……!」


 ――月下獣羅生門・虎叢とらむらくも!!


 それは二人の共闘技。直後、台風みたいな凄まじいパワーが直撃した――……


「……っ!!」
「いてて……」
「皆……無事か!?」
「ウェっ………」
「……チクショウ……なんだよあのパワー……」

 …………そんな声が辺りから聞こえる。どうやら、私も含めて全員倒されたらしい。

「敦くんたち。最後に大技を出すとは、これは勝負……」
「……っ!まだ終わっちゃいねえ……!」
「おや、一番に立ち上がるとは、彼はやはりタフネスですね」
「ええ、ですが。残念ながら、時間切れタイムオーバーだ」


 ***


「あー!あとちょっとだったのにぃ!くやしー!」

 食堂で昼ご飯を食べながら、反省会だ。
 三奈ちゃんはテーブルの下で足をパタパタさせている。

「あんな連携技、私も初めて見た」

 たぶん、連携する前に大体ヴィランを倒しているんだろうな。

「明日はなんとしてでも勝たねえとな!」

 パンケーキを食べながら、砂藤くんが言った。

「そういえば、途中からそっちは気にしてなかったけど、どうだった?」

 爆豪くんとか。

「うん……なんていうか」

 尾白くんが気まずそうに口を開く。

「俺ら遊ばれてたよなぁ……なあ、爆豪!」
「遊ばれてねえわ!」

 切島くんの言葉に、爆豪くんが反対の席からくわっと振り返った。

「弄ばれてたと言えよう……」

 ……それ、言い方変えただけだよね、常闇くん。

「でもあの布、広範囲だから全然近づけなかったよー……」

 透ちゃんががっかりという声で言った。

「明日はしっかり計画立てて挑まないと……」
「今度は時間はたっぷりあるからな」
「ええ、夜にでも作戦会議をしましょうか」

 でっくん、障子くん、百ちんの言葉に口田くんも頷いた。

「明日もそうだけど、必殺技作りも頑張らなきゃあ」

 テーブルに両肘をつき、ため息混じりに言う。
 やりたい事はぼんやりあるけど、まだ全然まとまってないというか……。

「そりゃあ、ほとんどのやつらもだから安心しろって。俺もだし」

 瀬呂くんが励ますように言ってくれた。

「結月くんなら色々考えてそうだから意外だな」
「うん、すでに必殺技と呼べるものとかもあるけど……技名とか……」

 かっこいい感じに。

「技名かよ」
「バクゴーにつけてもらえば?バンバン技作ってんじゃん」

 三奈ちゃんの言葉に、再び爆豪くんが首だけこちらに振り返る。

「んで俺が……ク……結月に……」

 ………………ん!?

「さ、午後の自主練で頑張りましょう」
「TDLはB組が使うから、ウチらはUSJを使えばいいんだっけ」

 席を立つ梅雨ちゃんたちに続く。

 次はB組が敦くんたちと戦うらしい。それぞれ食器を片付けるなか、爆豪くんの背中に声をかけた。

「爆豪くん、私のこと名前で呼んでどうしたの?」

 クソテレポって言いかけてわざわざ言い直したのだ。これは絶対、何かある!

「……お前、悪いことは言わねえ」
「?」
「師はちゃんと選べ。あの包帯野郎はやめておけ」
「……!」


 真剣な顔で言った爆豪くん……。
 太宰さんと何があったの――!?


 そんな元凶の太宰さんは、USJにいた。(私が必殺技作るのに手伝って、ってお願いしたんだけど)

「……理世。水難ゾーンのあの渦巻きに飛び込んだら楽しく死ねそうじゃない?」
「雄英に迷惑がかかるのでやめてくださいね」
「「………………」」

 ……爆豪くんがあんな風に言うのも無理はないかも知れない。

「あ、ねえねえ!結月のお師匠さーん!」
「何かな?」
「月下獣と黒獣に勝つアドバイスってありますか!?」

 単刀直入に三奈ちゃんは聞いた。太宰さんは面白そうに考えてから、口を開く。

「そうだねえ……最後に君たちが二人に負けた要因を探れば、自ずと答えが出るんじゃないかな?」
「俺たちが負けた要因……」
「……連携、ですか」

 八百万さんの言葉に、太宰さんは正解、と言うように頷いた。

「これからの時代、必要になってくる要素だよ」
「必要になってくるって……」

 でっくんの問いに、太宰さんは再び口を開く。

「今まではオールマイト……平和の象徴という一つの"個"を中心として、ヒーローとヴィランという対立ができていた。だが、彼が引退し、同時にヴィラン連合という大きな悪意の組織が表に生まれた」

 ヒーロー、ヴィラン共に、どちらにも大きな影響を与えた存在。

「古今東西、森羅万象において適応される絶対的な真理。――この世では、集団のほうが強い。小さな悪意も集まれば何倍にも膨れ上がる。だから、これからはヒーローも"個"から"集団"となって戦っていくべきだと……。そう、ヒーロー社会の偉い人は考えるだろうね」

 今までは個人活動だったが、チームアップが主流になる、と――。

「弱いやつらが束になったって勝てねえだろ」

 不意に爆豪くんが口を開く。

「……現に、俺たちはたった二人に負けた」
「……かっちゃん……」

 負けという言葉を口にしたのにもかかわらず、彼の顔つきは諦めてはいないものだった。

 次は、絶対に勝ちに行くという顔。
 太宰さんはその顔を見て、ふっと笑う。

「そりゃあそうだよ。君たちは束になってなかったんだから。連携――つまりチームアップとは、お互いの弱味を補い、強みを倍加することだ。月下獣と黒獣の二人の戦い方を見ていれば分かる」

 敦くんと龍くんを組ませたのは、太宰さん自身だ。

「近接戦闘が得意の月下獣と、中・遠距離攻撃の黒獣……」

 ぶつぶつと呟きながらでっくんは思考に入る。

「今のは現実的な話をしたが、ヒーローの半分は夢でできている。どんな困難をも乗り越えていくというのが、プロヒーローというのなら、最終的に君たちが目指すのはそこなのだろうね」
「結局は最強に強くなれってことか。……上等だ」

 雄英の教訓でもある。Plus Ultra更に 向こうへ――か。

「さて……これ以上教えると、相澤先生に怒られそうだ。あとは自分たちで考えたまえ」

 そう言って太宰さんは、さっさと話を切り上げてしまった。
 エクトプラズム先生も現れて、皆はそれぞれ自身の訓練を始める。

「理世は必殺技作りだったね」
「はい。新しい"個性"の使い方は大丈夫そうなんですけど、攻撃的な必殺技ってこの"個性"で思い付かなくて……」

 たとえば、馴れれば空間転移の方で、一度に大勢の人をテレポートさせることができるだろう。救助に活用できる。
 でも、戦闘で有利に進める使い方となると……。

「君はせっかく正しい使い方を覚えたんだ。"個性"を同時に使う方向を考えてみたらどうだい?」
「"個性"を同時に使う……?」
「あとはサポートアイテムを活用するのも、立派な必殺技なんじゃないかな」
「それは色々考えてて……」

 昨日、発目さんには頼んだ。

「そうだ、爆弾を梶井さんに頼んでいたんだっけ……」

 試作品できたかな?色々あって、すっかり梶井さんに会うのを忘れていた。

「爆弾?なら一つ、必殺技ができたね」
「え、どんなのですか」
「爆弾を相手の体内に転移させるのだよ。内側から爆発し、木っ端微塵。(自殺愛好家にとって)素敵な必殺技さ!」
「……。太宰さん。ヒーローはそんなモザイク必須な必殺技は使いません」

 そんなワクワクして言われても!発想が恐ろしすぎるっ……!

「まともなアドバイスでお願いします」
「まともというのはつまらないのだけどねぇ。例えば、今までの必殺技と呼べる捕縛術を極めたら?というアドバイスのように」
「確かに……標的が動かれると難しいし、精度を上げることは大事ですね!」

 そういうアドバイスがほしかった!

「あと、なんかかっこいい技名をつけたいですっ」
「ふふふ。では、私のセンスがきらりと光る技名をつけてあげようじゃないか。名付けて――捕縛術スターリングフューチャーミラクルマジカル・レッツシンデレラフィットなんてどうだい?」

 ルビが迷子!!
 
「そんなの叫んでる間に、敵に攻撃されますよね」

 だがしかし、絶妙に語呂はいい!

「君っぽい技名じゃない?」
「それっぽい単語並べただけじゃ……」
「じゃあ簡潔に。「それ!」とか「えい!」とか、かけ声系」
「某ゲームのテレポートキャラの技名は確かにそれですけどぉ……」
「シャンブルズ!」
「かっこいい!かっこいいし、好きなキャラですけどアウトですッ!」

 ――だめだ。技名を太宰さんにお願いしたら大喜利にしかならない。これは自分で考えることにして、特訓しよう……。

「あ、そういえば太宰さん。爆豪くんからの呼び方が二段階ぐらいいきなり昇格したんですけど、何か心当たりありますか?」
「ああ、あれね。大した事は言っていないよ?ただちょっと以前の授業参観日の打ち合わせで、爆豪くんのお母さんとも会って、色々話を聞いててね」
「……その際に弱味でも握ったんですね」
「やだなぁ、理世。弱味だなんて人聞きが悪い。人間誰しも他人に知られたくないことの一つや二つあるものさ」
「…………」

 それを人は、弱味という――。

 どんなものを握っているのか気になるけど、それよりも不憫さが勝った。(爆豪くん、ご愁傷さま……)


「太宰さん、もう大丈夫なので、特訓に専念することにします。ありがとうございました」
「そうかい?じゃあ私、ちょっとウォータースライダーしてくる」
「あれウォータースライダーじゃないですっ!」

 救助訓練用の激流!!


 ***


 ……――疲れた。
 太宰さんの相手をしながらの特訓で、二重に疲れた。

「あ、結月さん!お疲れさまっ」
「でっくんも特訓はもうおしまい?」
「うん。明日のこともあるし、今日の戦闘の内容もノートにまとめたいと思って」

 研究熱心な所が相変わらずでっくんだ。……あ、そうだ。

「私、でっくんと話したいことがあって……」
「僕と?」
「内密な話だから、あとで部屋に行ってもいい?」
「もちろ…………えええ!!?」

 頷きかけて、でっくんは急に声を上げた。

「へっ、部屋って僕の部屋……!?」
「うん」
「ま、まずいんじゃないかなぁ……。ほら、男子と女子で分かれてるし、もしバレたら……」
「それなら大丈夫。でっくんの部屋に一度行ってるし、直接テレポートで行くから」
「あ、それなら……?」

 ――いやいやいや!!

「じゃあ、着替えてくるね。また連絡するね」
「あっ、結月さ……っ」


 ――結月さんが、僕の部屋に!?


「あ、おーい。緑谷、更衣室の前で何してんの?」
「女子更衣室に突撃しようとしてんのか?」
「峰田、お前じゃねえんだから……」
「……僕の部屋ってことは、密室にふっ二人きりってことで……。……ゴクリ。いや何を想像してるんだ僕は!で、でも、ハンプニグ的なことが絶対に起こらないとは限らないんじゃ……!?」ブツブツブツ
「緑谷?」
「とりあえずっ、部屋を綺麗にしとかないと――!――!――!!」
「!?緑谷、着替えねえのか!?」
「どうしたんだ、あいつ」
「さあ……?」


 ***


「――お邪魔します!」

 ……と言った時には。自室からテレポートして、直接でっくんの部屋だ。

「ち、散らかってますが……」
「……でっくん。なんで正座」
「い、いやぁ」

 オールマイトに囲まれながら、ベッドの端に座らせてもらう。
 でっくんは勉強机の椅子に腰掛けた。

「……でっくん、遠くない?」
「健全ラインを越えると危険というか……」
「……?」

 ――小さなテーブルを出してくれたので、私は持ってきた二人分のペットボトルのジュースを並べる。

「どっちがいい?」
「じゃあ……こっちで」
「オールマイトがCMしてたもんね」
「うん、それで」

 改めて、話を切り出す。

「でっくんはどこまで知ってるのかなぁって、答え合わせがしたくて……」
「……どこまで?」
「オール・フォー・ワン、とのこととか」
「!」

 はっきり口にすると、でっくんは驚きに目を見開いた。

「どこまでと言うと……」

 話が話なので、困惑するでっくんに、私は言う。

「じゃあ、私の"個性"」
「君は……複合個性だよね」
「そう。……私が攫われた理由」

 でっくんは――言いづらそうにしながらも、やがて覚悟を決めたように、まっすぐと私を見て口を開く。

「たぶん、僕はほとんど知ってる。君の両親のことも……。君がどんな風に"個性"を使って、それがどういうことか」

 最後に「ごめん……」と謝るでっくんに、首を横に振った。

「良かった。でっくんには知っててほしいと思ってたから」
「……っ」
「私も知ってるの。たぶん正解を」
「えっと……何を……」
「オールマイトとの関係」
「……!」

 直接誰からか聞いたわけじゃなくて、推測でしかないけど……

(でっくんは、オールマイトの"個性"を引き継いでいる)

 平和の象徴の弟子にして、後継者――。

「結月さん……それは……ッ」
「他人に知られて困るっていうことも分かるから、私は知らないフリをするよ。……でっくんも、今のは聞かなかったってことで」
「……分かった」

 笑って言うと、ほんの少し、その表情が和らいだ。

「でも……。もし、そのことで悩んだり、秘密を抱えきれなくなったら……私に話して」

 ――絶対に、力になるから。

「……結月さん」


(今度は私が力になる。あなたが私にしてくれたみたいに)


 ……――その夜。一階の談話スペースで明日の対決の作戦会議が行われた。


「チームアップって言うけどさ。全員で足並み揃えるって難しいよなぁ」

 ソファに座って、揃った皆と顔を寄せ合い考える。上鳴くんの言葉にうーんと唸った。

「相手の"個性"に合わせて、人選したのは良かったと思うわ」

 梅雨ちゃん。

「最後の連携が、初っぱなから来られたらやべぇよな」

 砂藤くん。

「どうにか二人を分断か……」

 尾白くん。

「それなら、やはり轟くんの氷壁がいいのでは?」

 天哉くん。

「ええ、二人の間に壁を作るように……」

 百ちん。そして、皆の視線を受け、頷く焦凍くん。

「……全員、じゃなくて数人ならどうかな?」

 直後、ずっと考え込んでいたでっくんが口を開く。

「数人?」
「おっ緑谷、妙案か!」

 さすがっという切島くんの言葉に「妙案ってほどじゃないけど……!」と、慌てながらも説明してくれた。

「数名でまずチームアップして、そこから連携を組むんだ――……」
「なるほどなー」
「全員では難しくも」
「数人ならいけるんじゃない!?」

 でっくんの案を軸に、再び皆で意見を出しあって、作戦として形にしていく。

「――やっぱり、二人のことをよく知ってる結月さんの意見が聞きたい」
「そうだね……。向こうが本気なら、こっちも本気でいくっきゃないから」


 二人の弱味を、徹底的に突く!


 ――翌日、TDLにて。


 21人全員で、再び敦くんと龍くんと対峙していた。

「ルールは昨日と同じ。ちなみにB組は昨日こいつらに勝ったぞ」
「「!」」

 ニヤリと言った相澤先生のその一言で、空気が変わる。(え、すごいっB組のみんな!)

「マジかよ……!?」
「すげえな、B組!」
「こりゃ、俺たちは絶対に負けられないな」

 驚いたり、プレッシャーを感じたり……人それぞれだけど、結論は一緒だ。


 絶対に勝つ!!!


「昨日より、みんな良い顔をしてる」
「……ふん。やる気になるのが遅いな」


 21人の心が一つになった時、試合がスタートした。

「「!」」

 第一の作戦通り、焦凍くんの大氷壁での分断。二人の間を走る氷結に、彼らは左右に跳んで避ける。

「半分野郎!邪魔すんじゃねえぞ!」
「邪魔しねえ」

 焦凍くんの氷結を黒獣が空間を喰らって防ぎながら、同様に爆豪くんの爆破が炸裂する。

「――龍くんが、そんなに強いなんて知らなかった!」
「やっと打ち込んできたか……!」

 テレポートで現れてからの蹴りに、自身の肘で受け止める龍くん。「だが、軽い!」

 だって、それは目眩ましだから――。

「どけ、結月!!」

 背後からの爆豪くんの声が響くや否や、"個性"を使ってその場から消えれば、

「ぐっ……!」

 真っ正面から、龍くんは爆破を受ける。
 初めてまともな攻撃が入った!

「タイミングばっちりだねぇ爆豪くん!」
「合わせてねえわ!」

 そう、今のはアドリブ。

 だって爆豪くんは、昨日の作戦会議に参加してなければ、人の言うことなんて聞かない。
 だから、こっちが爆豪くんの行動を予想して動く。
 案の定、爆豪くんは飛び込んできた。

「行くぞ!尾白!」
「ああ!」

 間髪入れずに突っ込むのは、砂藤くんと尾白くんだ。

「羅生門・ムラクモ!!」
「「うわぁ……!!」」

 黒いコートが獣の爪のように変化して、龍くんは二人を弾き飛ばす。障子くんが両手を広げ、二人を受け止めた。

「ダークシャドウ!」
「アイヨ!」
「隙を与えぬ怒濤の攻撃か……」

 空間を喰らって躱すだけでなく、コートを布状に変化させ、それを支えに縦横無尽に龍くんは避けていく。

「炎は厄介だが、当たらぬなら無意味」

 焦凍くんの炎を中心から黒獣が喰らって、火輪のようになった。

(……!準備は整った)

 その熱で溶けた辺りの氷結。氷が溶ければ、水になる。水浸しになった地面に、龍くんが足をつけた瞬間。

 ――今だ!!

「上鳴くんッ!!」
「待ってたぜ――!!」
「!」

 すかさず上鳴くんは放電。水を伝って電撃が迸り、龍くんは感電する。

「ぐうぅ……!」

 回避不可能の電撃攻撃!膝をついた龍くんに、後ろからテープが忍び寄る。
 ダークシャドウにこっそり乗っていた、透ちゃんによってだ。

「確保ーー!!」
「……いつの間に……」

 龍くんが気づいた時にはもう遅い。その腕には、しっかりテープが巻き付けられている。

「「よっしゃあああ!!」」


 喜ぶその場に、爆豪くんだけが物足りなさそうで、不服そうな顔をした。


「みんな、昨日よりずっと動きがよくてびっくりしたよ!最後の連携は対処しきれなかったな」

 敦くんが困ったように笑いながら言う。
 向こうのチームも、敦くんにテープを負きつける事に成功したらしい。私たちの完璧な勝利!

「怒濤の攻撃と見せかけ、その裏で大きな仕掛けを用意していたのは、まあ悪くはない。多勢だからできる事だな」

 言い方はぶっきらぼうだが、龍くんも私たちの勝利を認めてくれたようだ。

「連携のなんたるかが少しは分かったようだな。時には力を合わすことも大切だと忘れるなよ。……二人に挨拶をしろ」
「「ありがとうございました!!」」

 どういたしまして、と笑う敦くんに、最後まで龍くんは仏頂面だ。

「おい、黒獣。相手してくれよ」

 帰ろうとする二人を、爆豪が引き止める。

「爆豪!力有り余ってんな!」

 切島くんの言葉に同意する。いや、確かに爆豪くんは、暴れ足りずに不完全燃焼だっただろうけど。

「……よかろう。後輩を育てるのもプロの役目」
「あ、じゃあ月下獣!僕もお願いしたいです!」
「デクくんもやる気満々だ!」
「ははは、うん。時間もまだあるし、いいよ」

 確かにプロヒーローと手合わせする機会って滅多にないし「俺も!」「アタシも!」と、二人の元へ皆が集まっていく。

「最後の作戦は理世かい?」
「発案は。二人が苦手な部分をとことん突こうと思って」

 笑って答えると、さすが私の愛弟子だねえと太宰さんは褒めてくれた。
 敦くんの方も成功したみたいで、あっちは優しい敦くんの性格を逆手に取った作戦だ。

「それより、太宰さんが手配した人って誰なんですか?」

 プロヒーロー?そう聞くと、太宰さんはいたずらっぽく笑って……

「今言ったら面白くないからね。来てからのお楽しみさ」
「じゃあヒントだけ!私も知ってる人?」
「そうだねえ……有名人ではあるから、君も知っているんじゃないかな?」

 プロヒーローの線が濃厚だ。でも、太宰さんの人間関係は謎だから、誰が来るか、見当がつかないなぁ。


 ***


「……太宰さん。とんでもない"個性"の人に、またお願いしましたね」
「なかなかできない経験に、生徒たちも良い刺激になるんじゃないかと思いましてね」
「確かに、普通に生きていりゃあ出来ない経験ですが……」


 ――明日の試合、あいつらはどうなることやら。


- 115 -
*前次#