※vs月下獣side
外部特訓という名の、vs新人プロヒーロー月下獣と黒獣との第二戦目。
1−Aのクラスメイトたちは、誰もが皆、勇ましい顔で挑む――。
(まずは二人の分断。轟くんの氷結で……)
出久は轟に目配せすると、轟は無言で頷いた。すでに彼の右半身は、静かに冷気を発している。
スタートの合図と共に、轟の右足から氷結が生まれた。
氷柱が逆に生えるように、それは高さを増し、月下獣と黒獣の間に迫る。
二人は左右に飛び退いた。
分断成功――昨日と同じく、クラスメイトは大きく二手に別れて相手をする。
(フルカウル……!)
近接戦闘を得意とする出久は、同じく飯田と共に真っ先に月下獣を迎え撃った。
だが、向こうも近接戦闘向けの"個性"で、かつ自分以上に経験豊富だ。
練習途中の蹴りを、あっさり受け止められる。
「……昨日も思ったけど、緑谷くん」
「へ!?」
攻防する中で、急に月下獣に話しかけられ、出久は驚きに喉が詰まった声が出た。
「力を制御してるように感じる……。パワー系の"個性"だよね?僕に気を遣わないで、本気で打ち込んできていいよ」
僕、頑丈だから――そう人の良い笑顔と共に月下獣は言った。
噂通りの人だなぁと、出久は思う。
「僕の"個性"、自分もボロボロになるリスキーパワーでもあって……その辺の加減が難しいんです……!」
正直に話すと「そっか」月下獣は残念そうに言って、自分の顔を掠めた出久の足を、掴んだ。
「!?」
今まで月下獣は受け身や避けるだけで、反撃はなかった。会話もしていた事もあり、完璧に出久は油断していた。
「じゃあ、先にこっちからいかせてもらうね!」
「うわぁ……!!」
「緑谷く――ふぐっ!」
振り上げる過程で、飯田を巻き沿いにし、月下獣は出久をぶん投げる。
「……!?」
「緑谷、止まってーー!!」
二人の援護をしていた、芦戸と青山に向かって。
「――ふぅ、危機一髪!」
「っごめん!ありがとう、瀬呂くん!」
二人に衝突する寸前、瀬呂がテープで出久を捕まえて阻止した。
「ハートビートファズ!」
「……くっ!」
フリーになった月下獣に主導権を握らせないように、カバーに入ったのは耳郎だ。衝撃音のような音に、月下獣は耳を押さえる。
「……小さきものよ……彼を翻弄して足止めするのです……!」
次に口田の"個性"によって、月下獣の足元をネズミたちがうろうろする。
「わっ、ネズミ……!?」
普通の者なら、踏まないように迂闊に足を上げられないが、月下獣もその中の一人であった。
その足止めには意味がある。
(大きいものを創るのには、時間がかかってしまう……!これからは、もっと短縮できるようにしなければ……!)
八百万の"個性"で創造するまでの時間稼ぎだ。創り出したのは、巨大なスリングショットのようなもの。
瀬呂と口田、梅雨たちがゴムをぎりぎりまで引っ張る。
「位置はバッチリですわ!切島さん!いきますわよ!」
「ああ……!いつでもいいぜ!」
玉の代わりにゴムの中心にいるのは、切島だ。腕をクロスさせ、身構える。
「放すぜ!!」
瀬呂の言葉を合図に、手がぱっと放された。お茶子の"個性"によって無重力状態の切島は、弾丸のように飛び出した。
人間パチンコ――!
矢となった切島は、一直線に月下獣の元へ飛ぶ。
「!?はっ……!」
突っ込んで来るのが岩だったら、月下獣は拳で打ち返したかもしれない。だが、もの凄い勢いで突っ込んでくるのは生身の人間だ。
思考するには時間が足らず。
かつ自分が避けたら彼は壁に突っ込んで危険ではないか、と真っ先に案じる考えが月下獣の脳裏に浮かんで――
「……っぐう!!」
切島を受け止める形で、月下獣は後ろに倒れた。
『敦くんは性格が優しいから、一番の弱点はそこかな』
という、妹弟子の言葉は当たっていた。
「すんません!月下獣!」
切島は謝りながら、彼の腕にテープを巻き付けた。
ちなみに玉が切島だったのは、例え月下獣が避けても、硬化のできる切島なら壁に突っ込んでも多少平気だからだ。
「いたた……まさか、突っ込んでくるとは思わなかったよ」
テープを巻き付けられて負けても、月下獣は嬉しそうに笑った。
「「やったあああ!!」」
その場に喜びの声が上がる。――それは、氷の壁を挟んだ向こうからも。
どうやら、向こうのチームも黒獣にテープを巻き付ける事に成功したようだ。
「二人の弱点を突いた、なかなかの発想だ」
「21人が集まって知恵を絞れば、予想外の発想も生まれるってか……」
太宰と相澤が眺める先にいるのは、昨日よりも少し成長した、生徒たちの姿だ。