掴め!仮免取得試験

「安吾さん、行ってまいります!」
『理世。気を付けて行ってらっしゃい。あなたなら、きっと大丈夫です』

 カメラ通話で安吾さんの顔を見て、しっかり挨拶する。なんてたって、今日は……


 ヒーロー仮免許取得試験!!


「降りろ、到着だ。……ほら、結月起きろ」
「…………ン」

 相澤先生に起こされ、目を開ける。
 バスの窓から外を見ると、不思議な形をしたドームが目に入った。

 国立多古場競技場だ……。

 雄英に負けず劣らずの巨大施設。試験会場はどこでやるのか聞かされていなかったけど、ここでやるらしい。

「緊張してきたァ。試験直前でも寝れる理世が羨ましいよ」
「だって、耳郎ちゃん。隣の席が相澤先生で静かにしなきゃだから、寝るしかないよ〜」
「そこで寝れるというね」

 爆豪と轟もだけど――耳郎ちゃんは、二人を見ながらそう付け加えた。私もあまり緊張しないタイプだけど、寝起きの二人も無縁そうだ。

「多古場でやるんだ」
「試験て何やるんだろう。ハー仮免取れっかなァ」
「峰田、取れるかじゃない取って来い」
「おっもっモロチンだぜ!!」

 峰田くんが弱音を吐いた途端、すかさず相澤先生の激が入った。
 ダランと腰を曲げ、峰田くん目線で言った相澤先生は、背筋を戻すと続けて皆に向けて言う。

「この試験に合格し、仮免許を取得出来ればおまえら志望者タマゴは、晴れてヒヨッ子……セミプロへと孵化できる」

 私は自分の身を守る為にも、ここで必ず取得しないとならない。

「頑張ってこい」

 短くも、我ら担任の相澤先生の激励だ。皆にいつもの元気と笑顔が戻った。

「っしゃあなってやろうぜ、ヒヨッ子によォ!!」
「いつもの一発、決めて行こーぜ!」

 賑やかし組の上鳴くんと切島が言う。いつものとは、雄英お決まりの……

「せーのっ、"Plusプルス……」
Ultraウルトラ!!」

 ……!?切島くんの後ろから、被せるような大声と共に突然、顔が現れた。一瞬誰だって思ったけど、知っている顔だ。

「勝手に他所様の円陣へ加わるのは良くないよ、イナサ」
「ああ、しまった!!」

 そう、士傑高校の……

「どうも大変」

 一度会ったら忘れられないキャラの……

「失礼」

 夜嵐く……

「致しましたァ!!!」

 ――ヒイイ!!!

 頭を勢いよく下げ過ぎて地面に激突!(前にも合ったこの展開!)

「なんだこのテンションだけで乗り切る感じの人は!?」
「飯田と切島を足して二乗したような……!」

 瀬呂くん、それだ!

「……相変わらず声がでかい……」
「夜嵐くんも受験者だったんだな……」
「大丈夫なのかしら……」
「すごい音したよね……」

 常闇くん、天哉くん、百ちんと共に唖然と呟く。士傑高校と合同訓練に参加した私たちは、夜嵐くんの事を知っているけど、そのテンションには皆と同じく圧倒されてしまう。

「待ってあの制服……!」
「あ!マジでか」

 周囲の人たちも気づき、夜嵐くんに注目が集まった。

「アレじゃん!!西の!!!有名な!!」
「――東の雄英、西の士傑」

 ぽつりと言った爆豪くんは、実力を測るような目を向けている。

「数あるヒーロー科の中でも雄英に匹敵する程の難関校――……」
「士傑高校!」

 夜嵐くんの他にも、実力ありそうな人ばかりだ。(確かあの女の人はケミィ先輩で……あの細目の人は、肉倉先輩だっけ)
 名前を思い出していると、ケミィ先輩と目が合い、にっこりと微笑まれた。(こんな雰囲気の人だったっけ……?)

「一度言ってみたかったっス!!プルスウルトラ!!自分、雄英高校大好きっス!!雄英の皆さんと競えるなんて光栄の極みっス。よろしくお願いします!!」
「あ、血」(額から垂れてきた!)

 夜嵐くんが雄英好きなのはよく分かったけど、それより……

「とりあえず、血を拭いたら?夜嵐くん」

 顔面ホラーになっているところに、ハンカチを差し出した。

「うおおお!結月さんじゃないスっか!!?」
「落ち着いて!血が吹き出してる!」

 夜嵐くんは「血スか!?平気っス!好きっス血!」と、謎の返答をし、勢いよく続ける。

「結月さんがヴィランに攫われたとニュースで見て、めちゃくちゃ心配したんスよ!!ご無事で何よりっス!!」
「あはは……心配してくれてありがとう。今日はお互い頑張ろ」
「もちろんっス!!」

 その直後「行くぞ」と、肉倉先輩が足を進めながら夜嵐くんに言った。
「それでは!雄英の皆さん、失礼します!」
 夜嵐くんは最後にそう挨拶して、その後ろをついて行く。

「……すごい前のめりだな。よく聞きゃ言ってることは普通に気の良い感じだ」
「結月たちは合同訓練であいつと顔見知りだったのか」
「うん、夜嵐くんのクラスと合同訓練だったの」

 瀬呂くんの言葉に答えて、必要なかったハンカチを再びポケットにしまった。(夜嵐くん。あの顔のまま試験に挑むのか……?)

「夜嵐イナサ」

 その背中を眺めながら、静かに名前を呟いたのは相澤先生だ。

「先生も知ってる人ですか?」
「ありゃあ……強いぞ」

 続けて「いやなのと同じ会場になったな」と、先生は言う。

「合同訓練の時には、彼の"個性"に苦戦をしたな」
「実力は確かだったよね」

 天哉くんと顔を見合わせながら思い出す。
 広範囲の攻撃が出来る"個性"は、私の"個性"とは相性が悪い。(戦いたい相手ではないなぁ)

「夜嵐。昨年度……つまりおまえらの年の推薦入試、トップの成績で合格したにも拘わらず、なぜか入学を辞退した男だ」
「え!?じゃあ……1年!?ていうか推薦トップの成績って……」

 実力は轟くん以上――……!?
 そう、皆の視線が焦凍くんに集まる。

「むしろ焦凍くんも夜嵐くんのこと知ってるんじゃない?」
「……知らねえ」
「そうなの?」

 会場で一度見かけたら印象に残りそうだけど……。まあ、夜嵐くんの方も焦凍くんを知っている素振りはないみたいだったしな。

「雄英大好きとか言ってたわりに、入学は蹴るってよくわかんねえな」
「クラスの方も理由はご存じないようでしたし……」
「ねー……変なの」
「変だが"本物"だ。マークしとけ」

 相澤先生の忠告に、揃って返事をした。

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!」
「!」

 ん、相澤先生の知り合いの人?……その人の顔を見た瞬間、相澤先生が全身で警戒したのに私は気づいた。

「テレビや体育祭で姿を見てたけど、こうして直で会うのは久し振りだな!!」
「あの人は……!」

 大道芸人のようなカラフルな格好からしても、でっくんが反応した事からしても、きっとプロヒーロー……

「結婚しようぜ」
「しない」
「わぁ!!」ドキー!

 公衆の面前で唐突のプロポーズ……!?(笑相澤先生、速攻で断ったけど)

「しないのかよ!!ウケる!」
「相変わらず絡み辛いな、ジョーク」
「ねえ、結月!もしやこれって、相澤先生のスキャンダルじゃない!?」
「生徒の試験前に先生もぶち込んできたねぇ」
「……お前らその辺にしとけよ」

 聞こえてた。振り返った相澤先生の鋭い眼力に、慌てて三奈ちゃんと口を閉じる。

「スマイルヒーロー《Ms.ジョーク》"個性"は《爆笑》!」

 代わりに口を開いたのはでっくんだ。もちろん、ヒーローオタクであるでっくんの話はここで終わらない。

「近くの人を強制的に笑わせて、思考・行動共に鈍らせるんだ!彼女のヴィラン退治は狂気に満ちてるよ!」
(狂気に満ちてる……!)

 想像したら、確かにすごくカオスだ。夜に出会したくないな……。

「私と結婚したら笑いの絶えない幸せな家庭が築けるんだぞ」
「その家庭、幸せじゃないだろ」
「ブハ!」

 相澤先生のつっこみに、一人でケラケラ笑うMs.ジョークさん。"個性"もそうだけど、彼女自身は笑いのツボが浅いらしい。

「仲が良いんですね」
「昔、事務所が近くでな!助け助けられを繰り返すうちに相思相愛の仲へと」
「なってない」

 梅雨ちゃんの言葉に答えるMs.ジョークさんに、いつにない早さで相澤先生は否定した。
 プレゼント・マイク先生以外に相澤先生のコントっぷりを見られるとは……

「いじりがいがあるんだよな、イレイザーは」

 相澤先生はうんざりしている。

「先生〜!どうかしたんですか?」

 続いて聞こえたその声は、Ms.ジョークさんを呼んでいるらしい。上はグレーのポロシャツで、涼しそうな制服姿の人たちだ。

「何だ、おまえの高校とこもか」
「そうそう、おいで皆!雄英だよ!」

 彼女が手招きすると、生徒たちがこちらに集まってきた。

「おお!本物じゃないか!!」
「すごいよ、すごいよ!TVで見た人ばっかり!」

 こうして他校の人から反応を見ると、雄英生ってだけですごいんだなぁと改めて思う。今年は体育祭だけでなくて……

「1年で仮免?へえーずいぶんハイペースなんだね。まァ色々あったからねえ。さすがやることが違うよ」

 ロン毛の男の人が言ったように、色々事件に巻き込まれたのもあるだろうけど。

「傑物学園高校2年2組!私の受け持ちよろしくな」

 傑物学園というと、市立でも有名なヒーロー育成高校だ。
 
「俺は真堂!今年の雄英はトラブル続きで大変だったね」
「えっあ」

 真堂と名乗った先輩は、いきなりでっくんの手を握り締めて挨拶した。

「しかし、君たちはこうしてヒーローを志し続けているんだね。すばらしいよ!!」

 そして、上鳴くんに耳郎ちゃんと、次々と彼は握手を交わしていく。

「不屈の心こそ、これからのヒーローが持つべき素養だと思う!!」
「「(まぶしい)」」

 バチコンッ☆って、ウィンクが上手な先輩だ。

「ドストレートに、爽やかイケメンだ……」
「笑顔が眩しい……!」
「他校の先輩いいじゃん!」

 確かにイケメンだけど、私の爽やかな基準は敦くんと賢治くんだからな。この先輩はちょっと笑顔にキラキラ感が足りない。
 もちろん口には出さず、そんな事を勝手に思っていると、視線を向けられた。

「中でも神野事件を中心で経験した結月さんと、爆豪くん」
「あ?」
「結月さんはルックスも相まってヒーローってより、ヒロインって感じだね!」
「へぇ?」

 褒めているかもしれないけど、なんかちょっと引っ掛かる言い方。

「二人は特別に強い心を持ってる」
「どうも」

 もやもやしながらも、差し出された手を握る。

「今日は君たちの胸を借りるつもりで頑張らせてもらうよ」
「フかしてんじゃねえ」

 反対に、爆豪くんはその手を払い除けた。

「台詞と面が合ってねえんだよ」
「こらおめー失礼だろ!すみません、無礼で……」
「良いんだよ!心が強い証拠さ!」

 爆豪くんの不躾な態度にも怒らないからやっぱり良い人?いや、爆豪くんを見る目が挑発的だったし、ちょっと裏表ありそう……。

「ねぇ轟くん、サインちょうだい。体育祭かっこよかったんだあ」
「やめなよ、ミーハーだなァ」
「はあ……」
「オイラのサインもあげますよ」
「ねぇ結月ちゃん、一緒に写真撮ってー実物もかわいいね!」
「やめなって……」
「いいですよ」
「オイラも写真いいですよ」

 ミーハーな先輩は、中瓶先輩というらしい。流行りのポーズで、一緒に写真を撮ったら喜んでくれた。

「おい、コスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」
「「はい!!」」

 交流はそこそこに、傑物学園の先輩方と別れ、会場へ向かう。

「なんか……外部と接すると改めて思うけど」
「やっぱけっこうな有名人なんだな、雄英生って」イヤハヤ
「あの真堂って先輩、イケメンだったね!」
「性格も爽やかだし、あんな先輩ほしいー!」
「いやぁ、性格は分かんないよ〜。ねえ爆豪くん」
「あの腹黒野郎が性格良かったら世の中善人だけだわ」
「いや、さすがにそこまでは思ってないけど……」
「その言い方だとオメーも善人に含まれんだろ」
「それこそねえわー」
「男の嫉妬は見苦しいぜ?」
「てめェら、試験が受けられねえ体にしてやろうか……?」

 逃げる瀬呂くん、上鳴くん、峰田くんを追いかけ、手のひらを小さく爆発させる爆豪くん。また相澤先生の怒声が飛ぶんじゃないと、こっそり後ろを見る。

 相澤先生は、じっと私たちを見ているだけだった。

(……?)


 更衣室でヒーローコスチュームに着替えてから、説明会を行う会場へ――。


「多いな……!」
「多いね……!」

 シンプルな会場は、ぎゅっとすし詰め状態だ。うなぎの寝床もないぐらい。この人の数に、雄英の入試試験をちょっと思い出す。
「入試の時みてえだな」
 切島くんの言葉に、思い出したのは私だけじゃなかったみたいだ。

「どんな試験をやんのかな?」
「この人数だと最初に一気に落とすだろうね〜」
「怖いこと言うなよ結月!」
「勝ち残ればいいのよ、峰田ちゃん」
「おお、だよな!梅雨ちゃん、男らしいこと言うな!」

 ざわざわと話し声は、マイクから「えー」とか「あー」とか声が響くと、ぴたりと止まった。

「えー……ではアレ、仮免のヤツを、やります」

 私たちは後ろの方だからよく見えないけど、司会の人は声といい、やたら覇気がないような……。

「あー……僕、ヒーロー公安委員会の目良です。好きな睡眠はノンレム睡眠。よろしく」

 好きな睡眠の紹介……?一体何故……はっ、もしかして……!

「?どうかした?結月さん」
「でっくん……。安吾さんの仲間みたいな人がいる……!」
「(仲間みたいな人……!)」

 ずっと、安吾さんと暮らしてきたから分かる。あのオーラは間違いない。

「仕事が忙しくてろくに寝れない……!人手が足りてない……!眠たい!そんな信条の下、ご説明させていただきます」
「「(疲れ一切隠さないな、大丈夫かこの人)」」

 やっぱり!

 一人予想が的中してすっきりしていると、目良さんは、淡々と試験内容の説明を始めた。
 
「ずばり、この場にいる受験者、1540人一斉に勝ち抜けの演習を行ってもらいます」

 こちらも予想的中。問題は何人まで落とすかだ。

「現代はヒーロー飽和社会と言われ、ステイン逮捕以降、ヒーローの在り方に疑問を呈する向きも少なくありません」

 "ヒーローとは見返りを求めてはならない"
 "自己犠牲の果てに得うる称号でなければならない"

 ――ヒーロー公安委員会も問題視するほど、ステインの影響力は大きかったみたいだ。

「まァ……一個人としては……動機がどうであれ、命がけで人助けしている人間に"何も求めるな"は……現代社会に於いて無慈悲な話だと思うワケですが……」

 プロヒーローの在り方はそう簡単には変わらないと思うけど、自己犠牲が当たり前とか、それが崇高という思想の世界になるのは嫌だな。

 そんなのを喜ぶのは、対岸で見ている赤の他人だけだから。

「とにかく……対価にしろ義勇にしろ、多くのヒーローが救助・ヴィラン退治に切磋琢磨してきた結果、事件発生から解決に至るまでの時間は今、ヒくくらい迅速になってます」

 良い事ではあるけど、活躍しないとヒーローは食べていけないというアンビバレンス。

「君たちは仮免許を取得し、いよいよその激流の中に身を投じる。そのスピードについて行けない者、ハッキリ言って厳しい」
(ということは、落とすような試験?)
「よって試されるはスピード!条件達成者、先着100名を通過とします」
「「!!?」」

 予想より大幅に少ない人数……!しかも先着順って、第一試験から荒れそう。

 すでに会場はざわめき立っている。

「待て待て1540人だぞ!!5割どころじゃねえぞ!!?」
「まァ、社会で色々あったんで……運がアレだったと思ってアレして下さい」
「マジかよ……!」

 抗議をアレで押し通すとは、ヒーロー公安委員会がそんな適当で良いのかな……。

「で。その条件というのがコレです」

 目良さんが取り出したのはボールと……、もう一つのはなんだろう、あれ。

「受験者はこのターゲットを3つ。体の好きな場所、ただし常に晒されている場所に取りつけて下さい。足裏や脇などはダメです」

 モニターに例えの映像が映し出される。頭に付けるは嫌だなぁ。ターゲットって事は、そこが狙われるわけだし。

「そして、このボールを6つ携帯します。ターゲットはこのボールが当たった場所のみ、発光する仕組みで、3つ発光した時点で脱落とします」

 よくある演習方法だと思ったけど、重要なのは次のルールだった。

「3つ目のターゲットにボールを当てた人が"倒した"こととします。そして、"二人"倒した者から勝ち抜きです。ルールは以上」

 最後のターゲットを狙うのもありってことだし、ボールを奪って無力化させることも可能。
 自身のターゲットが残り一つになったら、狙われる確率もぐんと上がりそうだ。

「えー……じゃ"展開後"、ターゲットとボール配るんで、全員に行き渡ってから1分後にスタートします」
「展開?」

 焦凍くんが天井を見上げながら呟いた。あれ、なんか動いている……?

 !?

「各々、苦手な地形。好きな地形あると思います。自分を活かして頑張って下さい」


 ――ムダに大掛かりだな!


 私たちはすでに演習会場にいた。
 天井ごと、壁が箱を開くように展開し、周囲はビルやら岩やら様々な地形が広がっている。

「一応、地形公開をアレするっていう配慮です……まァムダです。こんもののせいで睡眠が……」
(闇深い……)

 配られたボールとターゲットを受け取った。
 どこに付けようかと考え、一つは心臓の辺りに付ける事にした。
 致命傷になりそうな部分に付けることによって、無意識に防衛するんじゃないか作戦。(実戦でもここ攻撃されたら終わりだしね〜)

「先着で合格なら……同校で潰し合いは無い……むしろ手の内を知った仲でチームアップが勝ち筋……!」

 ターゲットを付けながら、でっくんが自身の見解を話す。チームアップっていうと、あの外部演習はそれを見越したものだったのかも知れない。

「皆!あまり離れず、一かたまりで動こう!」

 おお!と元気よく答える声とは別に「フザけろ遠足じゃねえんだよ」と、さっそく爆豪くんはどこへ走っていく。
「バッカ待て待て!!」
 それを追いかけるのは、もちろん今では爆豪くんの保護者である切島くんだ。
 
「俺も大所帯じゃ却って力が発揮出来ねえ」
「轟くん!!」

 その反対で、同じように焦凍くんも行ってしまう。まあ、その理由は分からなくはない。

「緑谷、時間ねえよ!行こう!!」


 ――スタートを切る、カウントダウンが始まった。


「単独で動くのは良くないと思うんだけど……」
「何で?」

『4』

「だってホラ……!僕らはもう手の内バレてるんだ」
「雄英体育祭でね」

 そう私が付け加えると「ああっ」と、峰田くんも気づいたようだ。

「さっき、僕が言った勝ち筋は他校も同様なワケで……」

『3』

「学校単位での対校せんになると思うんだ。そしたら次は、当然どこの学校を狙うかって、話になる」
「って、ことは……!」

『2』

 手っ取り早く、"個性"もスタイルも弱点も割られている雄英高校――その短絡的な考えは、"敵の敵は味方"になる。

 つまり……

『1』

 STARTを切った瞬間。学校問わず、一斉に囲まれた。

「"自らをも破壊する超パワー"。まァ……」

 前方にいる真堂先輩が口にしたのは、同じく先陣にいるでっくんの"個性"だ。


「杭が出てればそりゃ打つさ!!!」


 ボールが四方八方から投げつけられる。
 速度も軌道もバラバラ。まるで数打ちゃ当たるだ。

(ちゃんと狙って当てにいかないと――)

 こっちだって、そう簡単に当たってあげない。

 三奈ちゃんは酸で防御。峰田くんはもぎもぎ。他の皆も、それぞれ"個性"を使って、ボールの嵐を回避や撃退する。

「お茶子ちゃんは軽々自分を浮かせられるようになったね」
「うんっ、まだ少しの時間やけど……特訓の成果だよ!」

 方法は違えど、同じように空中に回避したお茶子ちゃんと顔を合わせる。

「締まって行こう!!」

 そのでっくんの声は、ここまで耳に届いた。

「……こういう時のでっくんってすごく頼もしいよね」
「へ!?あっうんっ!そ、そやね」

 相手の先制攻撃を防ぎ、状況はお見合い状態。

「ほぼ弾くかァ――」
「こんなものでは雄英の人はやられないな」
「けどまァ……見えて……」
「真堂先輩!」

 地上にテレポートすると、真堂先輩に声をかけた。真堂先輩は爽やかな顔を引っ込めて、不敵に笑う。

「結月さんか。君の"個性"なら簡単に避けられると思ったよ」
「私、先輩とは合わなそうです」
「……へえ?」
「さっき先輩は『杭が出てれば打つ』って言ってましたけど、私は違います」
「…………!」

 目線をターゲットに移せば、真堂先輩は気づいたらしい。彼だけでなく……他数名も。

 自身のターゲットの一つが、光っていることに――。


「私は『杭は出る前に叩く』タイプです!」


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