これぞ、雄英式救助訓練・後編

「結月さんも障子も怪我はないみたいだな。無事でよかったよ」
「要救助者は俺らが見つけて保護したから、安心しろよ!」


 ――瀬呂くん、尾白くんたちと合流できたのは、不幸中の幸いにも、崩れた天井の穴から聞こえてくる声を辿ってだった。

「瀬呂くんたちも無事で何より。要救助者もこの状況で見つかってよかったよ」

 ダミー人形は尾白くんがしっかり背負っている。5階にある非常階段の踊り場で倒れていたらしい。

「ダミー人形は結構早くに見つけられたんだけど、瓦礫が降ってきたときは焦ったよ」
「尾白のおかげで怪我せずに済んでさ。助かったわ」

 降ってきた瓦礫は尾白くんの尻尾で跳ね返したといい、尾白くんの尻尾はふさふさだけど頑丈だ。

「非常階段と近くのエスカレーターは瓦礫で埋まって、他に脱出できる場所がないか探してたとこなんだ」

 尾白くんがそう言った直後、ぱっと明かりがついた。

「誰かが非常用電源を直してくれたのか……」
「それか、電源装置に電気を送ったか」
「ああ、上鳴の"個性"なら」
「いつも俺らも充電させてもらってんもんな」

 なんにせよ、明かりがついて助かる。要救助者を捜索する必要はなくなったけど、これでもう怖くない!

「とりあえず、エレベーターのところまで行って、予定通り耳郎ちゃんに要救助者を見つけたよの合図をしよっか」

 地下1階は下より被害は少ないとは思うけど……。耳郎ちゃんが無事なことを祈り、エレベーターへ四人で向かう。

 力もある障子くんが、エレベーターの扉を開けてくれる――あれ。

「非常用の縄梯子が掛けてある……!」

 上の方は明かりが届かなくて見えないけど、誰かが緊急事態に、探して用意してくれたのには間違いない。非常用電源の復活といい、みんな優秀だね!

「ここを登っていけば、脱出できそうだ」
「脱出なら私の"個性"でみんなを外に送るけど……」
「結月、俺たちは梯子を登って自力で脱出するから、先に要救助者の保護と他の皆の安否を頼む」

 障子くんに続けて瀬呂くんも「脱出ぐらいどうってことねえぜ。俺の"個性"もあるしな」同様に言って、最初に発言した尾白くんもそのつもりだったらしい。

「わかった。これ以上、なにも起こらないと思うけど、小さな崩落はあるみたいだし、三人とも気をつけてね」

 尾白くんからダミー人形を受け取り、最後にそう言い残して、"個性"を使う。
 ショッピングモールの外は、中で崩落があったのが嘘みたいに平穏だった。

「相澤先生!」
「結月か」
「要救助者を保護したのでお願いします。ショッピングモール内で二次災害による崩落が起こったので、私は皆の安否を確認してきます」
「はい、行ってらっしゃい」

 ダミー人形を相澤先生に渡すと、再び"個性"を使ってショッピングモールに戻る――。


「あの子はなにも聞いてこなかったねぇ」
「まぁ、こっちを見てリカバリーガールが来ているのを確認してましたし、これも想定内の訓練だと感づいたんでしょう」


 ***


 まずは地下4階から探しにいく。三奈ちゃんと砂藤くんペアだ。ここもなかなか被害が酷い。
 エレベーターの辺りには二人は見かけなかったけど、非常階段への道には、瓦礫をどかされた凄まじい痕跡があった。(砂藤くんの"個性"だ)
 そして、非常階段には防火用のシャッターが降りて、そこに人一人通れるような不自然な穴が空いている。

(酸で溶けている……これは三奈ちゃんの"個性")

 ここから二人は地上へ脱出しようとして、この先を進めば二人に会える!
 階段を駆け上がるのは体力を使うので、"個性"で上へ進んでいくと――

「三奈ちゃん、砂藤くん、発見!」
「結月〜!助けにきてくれたんだね!」

 ぱっと笑顔を向けてくれた三奈ちゃんとは別に、砂藤くんは……意識がない!?

「ううん。アタシたち、降ってきた瓦礫に閉じ込められちゃってさ。砂藤は瓦礫をどかすのに"個性"で頑張ってくれた結果、こうなっちゃった」
「ねむい……だるい……」

 座り込み、だらーんとしていた砂藤くんが、そう朦朧とした声で呟いた。なるほど……砂藤くんの"個性"使用の副作用だ。
 三奈ちゃんが砂藤くんを支えて、ここまで階段を上ってきたけど、疲れて休憩していたところらしい。

「結月が助けにきてくれて本当によかったよ〜なんか息苦しくなってきたし」

 地下で酸素が薄くなっているのかもしれないけど、体格のいい砂藤くんを支え、ここまで三奈ちゃんが頑張ってきたからだとも思う。

「障子くん、瀬呂くん、尾白くんは無事で、エレベーターの昇降路に下ろされた梯子を使って脱出中だよ」

 これまでの経緯も話し「要救助者も瀬呂くんたちが見つけてくれて、相澤先生に託したから安心して」そう最後に付け加えると、三奈ちゃんもほっとした顔をした。

「あいつらも無事でよかった!じゃあ、ミッションクリアだね!」
「私は他の人たちの安否も確認してくるから、二人はこのまま外へ送るね」

 三奈ちゃんと砂藤くんに触れて、"個性"を使うと、私自身も次は地下3階へテレポートする。

(峰田くんと青山くんは……。青山くんの"個性"なら瓦礫にも対応できそうだけど)

 探している最中、遠くで爆発音が聞こえた。崩落だけでなく、爆発まで?って思ったけど、もしかして爆豪くんの"個性"?

 音以外、異変はないのでそのまま捜索を続行する。

 通路に二人の姿はないけど、エレベーターの扉が開いているのに気づいた。
 きっと、二人もここから脱出を――

「やあ、結月さん」
「うああ!?」

 昇降路を覗いたら、逆さまの青山くんと目が合って、悲鳴が口から出た。……本当にびっくりしたぁ……。

「あ、青山くん……?」

 よく見ると、青山くんは白いテープが足に巻き付き、宙ぶらりんな状態だ。そのテープの先にいるのは……

「結月か!」
「結月〜!オイラ、たんこぶできた!」

 瀬呂くんだ。(ついでに峰田くんの声も聞こえて元気そう)説明を聞かなくても、きっと梯子を登る最中、青山くんは足を滑らせ、瀬呂くんがテープを伸ばし助けたのだろう。

「危機一髪☆」

 そう言って、宙ぶらりんの青山くんはくるくる回っている。ちょっと楽しそうだけど、青山くんの顔は笑顔のまま固まって顔色が青い。可哀想なので、そのまま"個性"を使って地上に送ってあげることにした。

「上で耳郎さんたちが待ってるみたいなんだ!」

 姿は見えないけど、尾白くんの声が昇降路に反響する。尾白くんを含め、瀬呂くん、障子くん、峰田くんは順調に梯子を登っているみたいだ。

「そっちに行ってみる!」
「オイラのたんこぶはー!?」
「たんこぶなら大丈夫でしょ!」

 峰田くんの言葉に答えてから、地下1階へと飛ぶ。
 エレベーター前で耳郎ちゃん、口田くん、透ちゃんと合流できた――けど。

「透ちゃんっ!血が……!怪我したの?」

 透ちゃんの太もも辺りに包帯が巻かれていて、血が滲んでいた。

「傷は深くないから大丈夫だよ!口田くんが薬局を見つけて、応急処置をしてくれたんだ」

 明るい声で透ちゃんは言ったけど、口田くんも耳郎ちゃんも心配そうな目をしている。

「外でリカバリーガールが待機してるから治療してもらお!」
「理世がここにいるってことは、三奈たちは無事だったんだね」

 耳郎ちゃんの言葉に頷く。透ちゃんの怪我と峰田くんのたんこぶ?以外はみんな無傷だ。

「あの縄梯子、耳郎ちゃんたちが掛けてくれたの?」
「ずっとここで待機してたんだけど、崩落が起こったあと、峰田たちからの合図がすごくて……」

 耳郎ちゃんは苦笑いしながら言った。きっと、峰田くんたちはこれが訓練の内ではなくガチの緊急事態だと思ったに違いない。

「まあ、ウチもびっくりして相澤先生に報告しにいったんだけど、想定内のアクシデントだって諭されてね」

 そこで耳郎ちゃんは建物に備えられている緊急用の縄梯子を探し、昇降路に掛けたというわけだ。

「ナイス判断だよ、耳郎ちゃん!」
「見つけてくれたのは透だよ」
「へへ!探してる最中にうっかり怪我しちゃってね」
「透ちゃんもナイス!今後は全身用のコスチュームもあるといいかも」
「確かに、無防備だもんね」

 透ちゃんが身につけているのは手袋とブーツだけだ。RPGでいうと、防御力ゼロの状態だろう。

「全裸が私のヒーローコスチュームだよ!」

 当然のように胸を張って言った透ちゃん。勇ましい……!

(勇ましいけど、女の子としては……心配だ)

 ――その後、登ってきた障子くん、瀬呂くん、尾白くん、峰田くんとも合流し、無事、建物の中からBチームは全員脱出した。

「ほら、結月。オイラのたんこぶここ」
「え、どこ?」
「ここだってっば!」
「もぎもぎの頭しかわかんない」

 たぶん、峰田くんはリカバリーガールの治療も必要ないな。

「あ!結月たち、帰ってきた!」
「三奈ちゃん!」
「おう、結月!世話になったな。もう俺は大丈夫だぜ」

 三奈ちゃんが大きく手を降り、砂藤くんも副作用が治まったみたいで、青山くんもいつも通りきらめいている。

「A組のみんなも戻ってきてるんだね」

 でも、なんだか慌ただしい様子だ……。その疑問に、三奈ちゃんが答えてくれる。

「飯田が怪我したり、結構向こうは大変だったみたい。それに――……」


「でっくんと焦凍くんと爆豪くんがまだ中に残ってるの?」

 私の問いに、真剣な顔をしてお茶子ちゃんは頷いた。

「うん。デクくんが助けにいったってことは助けられるって確信があったからだと思うし、爆豪くんと轟くんも一緒で大丈夫だと思うけど……」
「私たちは救護班を作って、地下2階から探しにいくことにしたの」

 お茶子ちゃんに続いて、梅雨ちゃんも状況を説明してくれた。
 最下層に地下水が流れこんできて、焦凍くんは氷結で皆の脱出の時間を稼ぐため残り、爆豪くんとでっくんも一緒に残ったという。

「なら、私も手伝うよ。危なくなっても私ならすぐ退避できるし」
「こういうとき、結月の"個性"は打ってつけだよな〜!」

 上鳴くんの言葉に笑顔で頷いてから「別チームですが、いいですよね。相澤先生」一応、先生に確認する。

「かまわん」

 そう一言、相澤先生は頷いた。

「結月、爆豪のことよろしくな!」
「まかせて。百ちん、そっちのAエリアのマップを見せてもらっていい?」
「ええ、こちらをお使いください」

 百ちんから機械を借りて、作動して建物の構造を確認する。うん、構造自体はBエリアと変わらないみたい。

「結月くん、緑谷くんと轟くんのことも頼んだぞ」
「うん!天哉くんはお大事にね」

 ストレッチャーに横になっていた天哉くんが、頭だけ上げて私に言った。リカバリーガールの治療は終わったみたいだけど、足を怪我したみたいだから無理は禁物だ。

 ――それじゃあ、三人を迎えにいきますか!


 ***


(おや、おや、おや……!?)

 でっくんたちを探してテレポートを繰り返していると、地下3階で三人を見つけた。
 そして、私の目に驚きの光景が映る。


「お。結月……」
「あ?クソ結月ー?」
「っ結月さん!」


 でっくんの肩に手を回し、支えられながら歩く、爆豪くんの姿が――。


「ごめんっ!私、空気読めなくて!」
「「?」」
「せっかく、でっくんと爆豪くんの間に友情が芽生えたというのに……」
「アァ!?」
「邪魔しないように、私帰るね」
「待て、結月」
「結月さんっ帰らないでー!!」
「なにしれっと帰ろうとしてんだ!?」


 ――三人に引き止められ、事情を聞くこととなる。


「とんだ勘違いしてんじゃねえわ。コイツはただの杖だ」
「そ、そう、僕はかっちゃんの杖で……」
「杖がしゃべんじゃねえ!」
「ごめんっ!」
「だぁからしゃべんなっつってんだろ!?」

 ……。え、なんなの、コントなの。

「俺も杖になるって言ったんだが、2本はいらねえって断られてな」

 杖になるって自分から言ったという焦凍くん、地味に面白い。

「俺は自分の力で杖ついて歩いてんだよ。だから、お前の助けは必要ねえ」
「わかった。帰るね」
「だから帰んじゃねえ!なにしに来たんだてめェは!?」
「どっちなの!?」

 私が帰ったところで、地下3階だし、Aチームのみんなもすぐに迎えに来てくれるとは思うけど。

「……てめェはナビになれ」

 …………はい?

「ここのマップ、全部頭に入ってんだろ。てめェはナビになって安全なルートを示せ」
「……まあ、別にいいけど。ナビは自動音声あるからね。私はしゃべるよ」
「んなもん音声オフだ!」
「なにかあっても、結月がいるから安心だな」

 ナビとはいえ、私がいる意味あるのかと思うけど、もしもの時ってことでいっか。

「そろそろ出口も見えてくるし、A組のみんなとも合流できるんじゃないかな」
「そうか。二人とももう少しだ、頑張れ」
「う、うん……」
「だからしゃべんな!」

 ――しばらく歩くと、崩れた上階からお茶子ちゃんの姿が見えた。

「いた!」
「おーい!……あれ、なんで結月は歩いてるんだ?」

 切島くんと梅雨ちゃんの姿も。でっくんと爆豪くんはお茶子ちゃんの"個性"で救出され、クラス全員が帰還し、サバイバルな訓練は終了となった――。


「え?緑谷は杖に、結月はナビになれって爆豪に言われたの?」
「うん」
「ははは……」
「だから、結月は歩いてたのか!」
「素直に助けられてくれないんだよねぇ、爆豪くん」
「助けなんて必要ねえんだよ!いい加減、ブッ殺――」
「はいはい、治療するから大人しくしてな」

 複雑な顔でリカバリーガールから治療を受ける爆豪くん。ちょっと面白い。
 爆豪くんの怪我も大したことないみたいだけど、日に日に授業も過激さを増してきたな、と思う。

(でも、きっと……これぐらいの困難を乗り越えなきゃ、仮免取得試験も突破できないってことなんだろうな……)

 そして、その先のプロヒーローにも。
 私たちは、まだまだたくさんのことを学ばなきゃならない。


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