「……――というわけなの。夜嵐くん、手伝って!」
やりたい事を説明すると、夜嵐くんは突然雄叫びを上げた。……!?
「素晴らしい案っス!!俺ならそんなこと全然思いつかんから、結月さん頭いいんスね!!俺、結月さんについていくっス!!!」
なんかついてくの言葉の勢いがすごすぎて、別の意味に聞こえてくるけど……。
「協力してくれるってことね。ありがとう」
「だが、その経路はどうする?」
「大丈夫です!ここに入ってますから」
もじゃもじゃの人の問いに、自分の頭を指差して答えた。他のヒーローたちの救助活動拠点と、救護所へ繋ぐ線はばっちり描いている。
***
夜嵐くんの"個性"のおかげで、想定していた経路が一瞬でできた。
そして、間近で見ると、思わずその"個性"に見とれてしまう。
「ここで最後っスね!」
「うん、最低限の経路。実際に救急隊が到着する事を想定してだけど、ヒーローたちが移動する際も役に立つと思う」
「おっしゃー!!気合い入れるっスよ!皆さん!そのままで大丈夫っス!!ここに救護所までの道を作ります!!」
「は?道を作るって……」
一見、大雑把な烈風かと思いきや、それは無数の風の集まりだ。
瓦礫の大きさに合わせて……人を避けて。
その風の吹き抜けた所は、そのまま安全な道になる――。
「す、すげえ……!」
「風の通り道かよ!」
"個性"のコントロールがいかに大事か知っているからこそ、
「夜嵐くん、超リスペクト」
きっと、相当な訓練を積んだんだろうな。
「リスペクトってなんスか!?」
「私たちも救急の手伝いをしよう。奥に閉じ込められている救助者がいたら、夜嵐くんの"個性"の出番!」
「俺にまかせるっス!!一人残らず助けてやる!で!結月さん、リスペクトってなんスか!?」
夜嵐くんと共に救助に向かうと、突如、大爆発が起こった。
「んな……!!?」
「爆発……!?」
それは一ヶ所ではなく、複数で――
「きゃ!」
「!?危ないッ!」
すぐ近くで爆発が起きて、飛んできた瓦礫を、夜嵐くんが風で吹き飛ばしてくれる。
「ごめん、反応遅れた」
「いや、一体何が……!」
「演習のシナリオだね」
事故による二次災害も考えられるけど、きっとこの場合は……
『敵が姿を現し、追撃を開始!』
「エクストラハードだねぇ」
『現場のヒーロー候補生は敵を制圧しつつ、救助を続行して下さい』
この場合、制圧と救助に適した人材で分かれなければならない。
「救護所のすぐ前から現れたぞ!」
「あっちに援護に行くべきか!」
「いや、でもこっちの一時期救助所を離れるわけにはいかない!」
そんな飛び交う声に、そう簡単なことではないと知る。
とりあえず、敵は待っていてはくれない。
「夜嵐くん!」
「ああ!結月さんとはここまでっスね!俺、行ってきます!!」
「存分に暴れて来て!」
「まかせるっス!!」
いや、夜嵐くんがMAXで暴れたら大変なことになる?そう思った時には、夜嵐くんは風を纏って飛び上がっていた。
「おい、現れた敵って、ギャングオルカかよ!?」
(ギャングオルカ――!)
馴染みあるヒーローの名前に反応する。
ギャングオルカの超音波は強力だ……!
――あ!
「中瓶先輩!」
「結月ちゃん!?」
顔見知りになったばかりの、先輩の姿を見かけてそちらに駆け寄る。
「先輩!この場合、救護所を守りつつ敵を制圧し、その隙に要救助者を避難されるってことで合ってますか!?」
「う、うん!戦闘に巻き込んじゃ可能性があるから、戦場から避難されるのがセオリーかな」
その辺の判断がまだよく分からなかったから、経験が多い先輩に聞きたかったんだ。
「敵出現地から離れた西側に、他のヒーローの方々が拠点としてる場所があるんです。そこに避難するっていう案はどうですか?」
「え、えぇと……」
答えを淀む中瓶先輩の代わりに「その案、良いと思うぜ!」と、声が響いた。
「道はあんたとあの声がデカイやつが作ってくれたから、移動はスムーズなはずだ。この場にいる者たちは要救助者を連れて避難するか、敵制圧に向かうか分かれよう!」
「じゃあ私は"個性"上、敵制圧に向かうわ!」
「僕は機動力に優れている。救護に回ろう!」
……さすが先輩方。私のぱっと思いついた発案に説得力を持たせてくれて、すぐにその場はまとまった。
「結月ちゃんは?」
「私は補助しつつ、状況確認して新たな避難先の誘導をします」
バラバラに避難するより、一ヶ所にまとまった方がいい。今、救護所は混乱しているはずだ。
「さすが、テレポートガール」
「私、ヒーロー名はトリックスターなんです」
「こりゃ失礼、トリックスター!」
笑って頷き、その場を後にした。
「――でっくん!」
「結月さん!?」
救護所付近では、夜嵐くんだけでなく、焦凍くんも駆けつけてくれたみたいだ。
「私は避難誘導してきたの!敵から遠ざけ、救助者を一ヶ所に集めよう!」
「場所って……」
「もう決めてある!その通路もできてるから、でっくんも他の人に伝えて!」
「うん!制圧能力が高い、轟くんと夜嵐くんが来てくれたのは大きい……!」
矢継ぎ早にでっくんに伝えると、すぐに飛んで、避難を率先しているヒーローに伝える。
「さすがね!敵をこのまま食い止めてくれれば、避難はなんとかなりそう!」
「私は他の場所も見てきます!」
では――と、再び飛んだ。
「梅雨ちゃん!」
「理世ちゃん」
「状況はどう?」
水辺付近で見つけたのは、梅雨ちゃんと口田くんの姿だ。
「轟ちゃん、三奈ちゃん、尾白ちゃん、常闇ちゃんが向こうの応援に行ったわ。こっちの救助はまだ終わってないから、私と透ちゃんと口田ちゃんは残ったの」
「理世ちゃん、私はここにいるよ!」
梅雨ちゃんが話した後に、そう透ちゃんの元気な声が聞こえた。三人にも、今の避難状況を伝える。
「分かったわ。ここは私たちに任せて。理世ちゃんは他の場所に伝えに行くんでしょ?」
「うん!ありがとう」
「私も頑張る!」
「うん……!」
この場は三人にまかせて、次の場所に向かった。
アナライザースコープを駆使して、周囲の生命反応を見つつ移動すれば、救助の状況が把握できる。
(あれは――……)
「てめェら、はよ動け!俺はこいつら救けてさっさと敵をぶっ殺してェんだよ!」
「(何て口の悪さ……!ヒーローらしからぬ。減点1だな)」
「ちゃんと動いてるって!」
「こっちの瓦礫は撤去したぜ!」
――爆豪くん、上鳴くん、切島くん!
どうやら、瓦礫に閉じ込められた救助者を救けようと奮闘しているらしい。
「三人とも手伝う?」
「お、結月!」
「てめェの手なんぞいらねえわ。この状況でやって来たっつうことは用件があんだろう。はよ言え」
「さすが爆豪くん、話が早いね」
他と同じように、今の状況を手短に三人に話す。
「救助者優先で、敵を制圧しつつ救護所から避難する動き。新たに地点を設定し、他の一時救護所と合流する流れ」
「りょーかい!俺らもここの救助終わったらそっちに向かうぜ」
「おう!ここは俺らにまかせてくれ!」
「勝手に決めんじゃねェ!」
(爆豪組……)
なんだかんだこの三人は良いチームかもしれない。救護所の方へ戻ってみると、避難は順調そうだ。……いや。
(敵たちが最終ラインを突破して来てる……!?焦凍くんと夜嵐くんは何してるの……!)
激しく渦巻いている炎は、焦凍くんの"個性"のものなんだろうけど、風向きがおかしい…………そうか。
(夜嵐くんの風と、上手く連携が取れていないんだ)
そっちも気になるけど、これ以上敵の突破を許してはならない。応援の到着がまだということは……
(ワンオペきついけど、足止めやるっきゃない!)
「何をしてたんだよ」
……――でっくん?
その時、でっくんの怒声とも言える声が耳に届いた。
あれは……、真堂先輩!
「やばい突破されてるこっち来る!」
「代わるよ!」
「結月さんっ!」
「真堂先輩は私にまかせて、でっくんは防衛を――」
「どいてろ、結月」
……呼び捨て?
弱っている(ように見える)真堂先輩は、私を押し退け、左手を地面につけた。
「わあ!!!」
そこを震源地に、一気に周囲の地面が崩壊した。足場が崩れ、敵たちは巻き込まれていく。
「真堂さん!オルカの超音波で動けないんじゃ!」ええ!?
「えっ、じゃあ結構な重症じゃ……」
あれをもろに受けたら、屈強な大男でも立っていられないはず。
「まァちょっとだいぶ末端しびれてるよ。音波も振動ってなわけで、"個性"柄、揺れには多少耐性あんだよ」
……なるほど。それにしても、真堂先輩。
「そんな感じで騙し撃ち狙ってんだよね!それをあの1年二人がよォ――!」
「「(キャラが)」」
爽やかオーラはどこへ!
「足は止めたぞ。緑谷は奴らを行動不能にしろ!結月は手分けして残りの傷病者を避難させるんだ!」
「はいっ!」
「御意!」
同時に、でっくんと反対方向に向かう。
「応援来ました!」
「テレポートガールちゃん!」
「こっちはあんたが作ってくれた経路と避難誘導で順調だ」
「あとは、他のやつらが敵をあのまま食い止めててくれれば……」
……大丈夫。きっとみんなもすぐに加勢に来るはず。
「重症な方からどんどんテレポートさせちゃいます!」
***
救護所の避難は完了――。敵たちは応援によって、こっちに来る気配はなし。
さすがに"個性"多用でしんどいけど、私も行かなきゃ。
……だって。
「で?次は?」
……私も。
「二人から離れて下さい!!!」
――ギャングオルカと戦いたい!!
「真打ち登場!……ギャングオルカ!!」
「!」
でっくんとは反対方向に蹴りを入れた。100%の不意打ちだったのに、ギャングオルカは――耐えた。
「フッ……思ったより、ずっと元気そうじゃないか」
でっくんと視線がかち合う。お互い無言で頷いた。
私、でっくんとなら共闘もばっちり上手くいきそうな気がするんだ。
「「!!」」
その時、ビ――という音が、会場に響き渡る。
『えー只今をもちまして』
続いて、目良さんのテンションの低い声が。
『配置された全てのHUCが、危険区域より救助されました。まことに勝手ではございますが、これにて仮免試験全工程』
え、ええ……!まさか……
『終了となります!!!』
「終わった!?」
「出落ちで終わっちゃったぁ」
これからって気合い入れた時だったから、がっかり感が半端ない。
『集計の後、この場で合否の発表を行います。怪我をされた方は医務室へ……他の方々は着替えて、しばし待機でお願いします』
「……焦凍くんと夜嵐くんは大丈夫なの?」
地面に寝そべっている二人に聞く。
「……ああ。ギャングオルカの超音波にやられただけだ」
「俺もだ……」
ゆっくり立ちながら、そこで無言になる二人。なんだか空気が重い。再びでっくんと目が合うと、彼はゆるゆると首を横に振った。
「シャチョー、すみません。仕事できませんでした……」
あれは……敵役のギャングオルカのサイドキックだ。
「やっぱ、"拘束用プロテクター"は動き辛いですね……」
拘束用プロテクター……!それ付けてあのでっくんの奇襲の蹴りを防いだの……!?
ぽかんとギャングオルカを見上げていると、目が合った。
「フフ……。結月、なかなか良い動きだったじゃないか」
わ、ギャングオルカに褒められた!
「……ギャングオルカ」
まだ言っていなかった言葉を、ヒーローに言う。
「救けに来てくれて、ありがとうございました!」
ギャングオルカはその言葉が意外だったのか、目を見開いた。
直接は関係していないかも知れないけど、多くのヒーローたちが力を合わせてくれた事は、無関係じゃない。
「……これからも救う側に立つのだな」
「はい!」
「君の活躍を楽しみにしているぞ」
――あの先生を困らせていた女の子が、立派になったものだ。
……クールに去っていくギャングオルカの後ろ姿を見つめる。(かっこいいなぁ)
「……でっくん、どうしたの?笑って」
「っや……なんか、良いなって」
「良いな?」
「うん、上手く言えないけど……」
そんな会話をしながら、でっくんと試験会場を後にした。
「こういう時間、いっちばんヤダ」
緊張のため息を吐き出す耳郎ちゃんに「わかる」「わかります」「わかる」と、お茶子ちゃん、百ちん、峰田くんが続く。
「わかる〜」と、私も言ったら「嘘でしょ」すぐさま耳郎ちゃんに返された。
私もこういう時間苦手なんだけどなぁ。入試試験の結果も、安吾さんと一緒に見てもらったぐらいだし。
「人事を尽くしたなら、きっと大丈夫ですわ」
百ちんは優しく耳郎ちゃんの肩に触れて言った。
(人事を尽くして、か……)
今の自分が出来ることは、出し切ったと思う。
一つだけ気がかりなのは、最後は私情を優先してギャングオルカに向かったこと。
いや、あの時点で救助の誘導は完了していたし、私が加勢に行ったのは間違っていない……はず。
私情かどうかは、端から見たら分からないし。
(……っうん。大丈夫、大丈夫)
自分に言い聞かせて、結果発表を待った。
『皆さん、長いことおつかれ様でした。これより発表を行いますが……その前に一言』
空の下が似合わない目良さんは、指を二本立てる。
『採点方式についてです』
採点方式……最初の説明ではポイント式って事だけだった。
『我々、ヒーロー公安委員会とHUCの皆さんによる、二重の減点方式であなた方を見せてもらいました』
減点方式……。その言葉でその場に動揺が走る。ポイント式より採点が厳しい。
『つまり……危機的状況で、どれだけ間違いのない行動をとれたかを審査しています』
間違いのない行動……自分の行動を一から思い返す。
『とりあえず、合格点の方は五十音順で名前が載っています。今の言葉を踏まえた上でご確認下さい……』
目楽さんの後ろにあった大きな画面に、ずらりと名前が写し出された。
「けっこう受かってるな!!」
「あ!私、あったァ、やったァ!!」
周囲からは、すぐにそんな嬉しそうな声が飛び交う。
「ばッ!!」
「み……、み…み…み…」
「みみみみみみみみみみ」
二人の声に「み」しか頭に入ってこない……!
「峰田実!あったぜ!」
峰田くんが声を上げると、他の皆の声も続々と続く。
「あったァ……」
「あるぞ!!」
「よし……」
「コエ――」
「麗日ァ!!」
「フッ」
「よかった……」
「メルスィ!」
「あったぜ!」
「っっ」
「わー!!」
「点滴穿石ですわ」
「ケロッ」
「やった――!」
「っしェーい!!」
もしかして、A組全員受かる!?すごい!!
私の名前は……――どうしよう、この空気に呑まれてドキドキしてきた……!安吾さん、一緒に見てーー!
「……お前の名前はあるから安心しろ」
「え?」
静かに口を開いて、指差す焦凍くん。
確かに、"結月理世"という名前はそこにあった。良かったぁ、ちゃんと合格していた――ほっと胸を撫で下ろすも。……あ。
「……焦凍くん……」
「……当然の結果だな」
焦凍くんの名前がない――。ただ受け止めるように見つめる焦凍くんの横顔に、口を閉じる。
焦凍くんと夜嵐くんの間で何があったのかは分からないけど、あの状況で、二人が私情を挟んだという事は分かった。
敵を前にしてだけではなく、味方である真堂先輩も危険にさらしたことも。
「ねえ!!」
その大きく響いた声は爆豪くんの声だ。思わず表を見ると、爆豪くんの名前は――ない。
「爆豪くん、私が見た時はちゃんと救助活動もしてたのに……」
「要救助者に暴言吐いてたんだよ」
「そ、それは……」
驚きに思わず出た言葉に、上鳴くんがこそっと教えてくれた。(ヒーローは最低限の人格も大事か……)
……ふと、大きな影ができる。
「轟!!」
そこには、焦凍くんを見下ろす夜嵐くんがいた。
「ごめん!!」
「よ、夜嵐くん……!?」
勢いよく、焦凍くんに謝った夜嵐くん。下げた頭は止まることを知らず、地面に激突した。
「あんたが合格逃したのは、俺のせいだ!!俺の心の狭さの!!ごめん!!」
夜嵐くんらしい誠心誠意の謝罪の仕方だった。
「元々、俺がまいた種だし……よせよ」
焦凍くんは静かに言う。
「おまえが直球でぶつけてきて、気付けた事もあるから」
……その言葉を聞いても、夜嵐くんは頭を上げない。
「轟……落ちたの?」
「ウチのツートップが両方落ちてんのかよ!」
そこに、三奈ちゃんや瀬呂くんが集まってきた。
「暴言改めよ?言葉って大事よ。お肉先パイも言ってたしさ」原因明らか
「黙ってろ、殺すぞ」
上鳴くんの言葉に、さっそく暴言を吐いているけど、爆豪くん……。
「両者ともトップクラスであるが故に、自分本位な部分が仇となったわけである」
講釈を垂れるという言葉は、この事だ。
空気を読んで峰田くん。焦凍くんに絡む前に、天哉くんが無言で離してくれたから良かった。
「轟くん……」
「轟さん……」
心配そうに、でっくんと百ちんも焦凍くんを見つめていた。
『えー全員、ご確認いただけたでしょうか?続きまして、プリントをお配りします』
その時、目良さんの声が再び響き、グラサンのちょっと謎いスタッフさんたちが、名前を呼んでプリントを配ってくれる。
『採点内容が詳しく記載されてますので、しっかり目を通しておいて下さい』
「切島くん」
「あざっス!」
「よこせや……」
「そういんじゃねェからコレ……」
「……。笑わせに来てるの?爆豪くん」
「てめェのよこせや……」
「だからそんなじゃないってコレ……」
「上鳴、見してー」
「ちょ待て。まだ俺、見てない」
……ちょっといつもと様子が違う爆豪くんに、心配になってきた。
(さあて、私は――……)
『ボーダーラインは50点。減点方式で採点しております。どの行動が何点引かれたか等、下記にズラーっと並んでます』
「61点ギリギリ」
「俺、84!!見て、すごくね!?地味に優秀なのよね、俺って」
「待ってヤオモモ、94点!!」
皆が点数を言い合うなか――
(私、100点満点のパーフェクトだ……)
さすがにその点数には驚いて、しばし呆然と見つめる。
「結月は何点だったー?」
「……三奈ちゃん、私、天才かもしれない」
「アハハ、今さらなに言ってんの!結月、入学当初から自分で自分のこと天才だー言ってたじゃん」
「そだっけ?」
「そうだよー!」
そんな三奈ちゃんは私のプリントを見て「100点!?マジ!?」と、驚いた。その声に、皆が集まる。
「100点!?マジでか!?」
「見せて見せて!」
「私にも見せてください、結月さん!」
「僕にも……!」
「や、まだ私、見てな……」
……取られたし!
「すごいな!確かに救助において結月さんの右に出るやつはいないもんな」
「さすが理世ちゃんやね。ぐうの音もでんよ!」
「よこせや……!」
「爆豪!紙破けるから……!」
「……そうか、結月くんは飛び回って全体を把握しようとしていたのだな」
なーるなーると、読む天哉くんの隣で、でっくんがぶつぶつと思考している。
「救助の点も結月さんは適切な対処をしてるのはもちろんのこと。これからのヒーローのあり方に"必要な役目"の行動をしていたんだ。太宰さんも言っていたヒーローも"個"から"集団"へ……。試験も協力や、協調の姿勢を見られる内容だった。個々の活躍も大事だけど、さっきみたいな緊急時は一団となって動かなくちゃならない……ブツブツ」
(めっちゃ分析してる……!)
「それらをまとめるには全体を把握できる迅速さ、的確な判断力、他のヒーローとの円滑なコミュニケーション。結月さんは適した"個性"だけでなく、それらの能力を持ち合わせていて、最大限に発揮したんだ……!」
「……結月。プリント読まなくてもよさそうだな」
「う、うん……」
……というか。
「特に評価が高いのは、安全な経路と避難ルートの確保に着目した点だ。一時救急だけでなく、その後の避難や救急隊の到着を想定したものとし――。うん、そのおかげで予期せぬ敵襲撃でも、迅速に誘導と避難できた。他には、他者に相談や頼る姿勢か。確かに、ヒーローは一人で何でもできなきゃって思ってたけど、自分一人で抱えて事態が悪化するよりは素直に頼るって大事だよな……。あと傷病診断も高いけど、そんなに授業ではやってないよね?結月さんはどうやって勉強したの!?」
(めっちゃ、私も分析されてるーー!!)
「は!もしかして、保健委員でそういうことも勉強したり!?」
「いや……少なくとも俺はやったことはない」
「デクくん。さすがに理世ちゃん引いとるよ」
「あ!ご、ごめんっ!」
引いているというか、そう口に出されると、恥ずかしいというか……。
『合格した皆さんは、これから緊急時に限り、ヒーローと同等の権利を行使できる立場となります。すなわち、敵との戦闘、事件、事故からの救助など……ヒーローの指示がなくとも、君たちの判断で動けるようになります』
――最後に目良さんは大事な話をする。
『しかし、それは君たちの行動一つ一つにより、大きな社会的責任が生じるという事でもあります』
「お肉先パイの言ってたこと、間違ってはいないんだなあ。でんき」
「?お肉先輩……?」
『皆さんご存知の通り、オールマイトという偉大なヒーローが力尽きました。彼の存在は、犯罪の抑制になる程大きなモノでした』
オールマイトがヒーローとしてデビューする前は、超人社会は今とは比べられないほど混乱してたという。
その時代を変えたヒーローだ。
『心のブレーキが消え去り、増長する者はこれから必ず現れる。均衡が崩れ、世の中が大きく変化していく中、いずれ皆さん、若者が社会の中心となっていきます』
オールマイトが守ってくれた平和を、今度は私たちが守らなくちゃ。
『次は皆さんがヒーローとして、規範となり、抑制できるような存在とならねばなりません。今回はあくまで"仮の"ヒーロー活動、認可資格免許。半人前程度に考え、各々の学舎で更なる精進に励んでいただきたい!!』
(私は100点の評価をもらったけど、そこに慢心しないで精進しろってことね)
『そして……えー不合格となってしまった方々』
不合格。焦凍くんと爆豪くん、それに夜嵐くん……。
『点数が満たなかったからとしょげてる暇はありません。君たちにも、まだチャンスは残っています。三か月の特別講習を受講の後。個別テストで結果を出せば、君たちにも仮免許を発行するつもりです』
「「!?」」
『今、私が述べた"これから"に対応するには、より"質の高い"ヒーローがなるべく"多く"欲しい。一次はいわゆる"おとす試験"でしたが、選んだ100名はなるべく育てていきたいのです』
……なるほど。それで、減点でも退場させずに最後まで続行させたんだ。
(確かに、この三人を落とすのは惜し過ぎる人材)
『そういうわけで、全員を最後まで見ました。結果、消して見込みがないわけではなく。むしろ至らぬ点を修正すれば、合格者以上の実力者になる者ばかりです』
(合格者以上――その言葉は聞き捨てられないなぁ)
『学業との並行でかなり忙しくなるとは思います。次回4月の試験で再挑戦してもかまいませんが――……』
「当然」
「お願いします!!」
……そして。三人とも、当然特別講習を受けることに決まった。
「やったね、轟くん!!」
「やめとけよ、な?取らんでいいよ、楽にいこ?」ひえらるきい…
「峰田くん……」
確かに、峰田くんに関しては合格者以上かも知れない。
「すぐ……追いつく」
そう答えた焦凍くんの口元は、僅かに微笑んでいるような気がした。
――仮免試験終了!!
さっそくもらった『ヒーロー活動許可仮免許証』を眺める。
そこには本名と写真はもちろん。
ヒーロー名『TRICK STAR』
(――かっこいい!!)
「尾白くんの尻尾、めっちゃ喜びを表してるね」
「嬉しさが隠しきれなくてさ」
私も一緒だ。
「デクくん、泣いとらん!?」
「いやァ、なんかね……こうね……」
……本当だ。でっくんを見ると、目に涙を溜めている。
「色んな人に救けられてきて、色んな人に迷惑かけてきたから……だから……何て言うんだろ……成長してるな!って証みたいで、なんか嬉しいんだ」
そう言ったでっくんは「お母さんとオールマイトに早く見せたい!」と、スマホで写真を撮るようだ。
私も……、写真を撮って安吾さんと太宰さんに、敦くん、龍くん、あと中也さん……あっ深月ちゃんにも!(見せたい人がいっぱいいる!)
「……あ、相澤先生だ!先生、見てください仮免許証!私、満点取りました!褒めてくださーい」
やってきた相澤先生に駆け寄って言うと、先生は一瞬面倒くさそうな顔をしながらも、
「……結月。でかした。褒めてやる」
ちゃんと褒めてくれた。言ってみるもんだね!
「優秀な生徒じゃないか、イレイザー。満点取るなんてそうそうないぞ」
一緒に現れたのは、Ms.ジョークだ。
「せっかくの機会だし、今後、合同の練習でもやれないかな」
「ああ……それいいかもな」
「おーい!!」おーい!!
次に夜嵐くんが、ドドドド、とすごい勢いでこっちに走ってくる!
「あら、士傑まで」
「轟!!また講習で会うな!!けどな!正直まだ好かん!!」
夜嵐くん、実直だ……!
「先に謝っとく!!ごめん!!」
そして「そんだけー!!」と、夜嵐くんはすぐさま来た道を戻っていった。嵐みたいだ……。
「どんな気遣いだよ」
「こっちも善処する」
「……すィ☆」
という事は、焦凍くんと爆豪くんと夜嵐くんは、一緒に講習会するんだ。……面白そう。
「彼は――大胆というか、繊細というか……どっちも持ってる人なんだね」
大胆と繊細……。その性格が夜嵐くんの"個性"のコントロールに繋がっているのかも知れない。
「青山くんって結構鋭いよね」
「僕の感性はキラリと光ってるからね☆」
「………あ!」
今度は、いきなりでっくんが士傑の方に走っていた。
「どうしたんやろ、デクくん」
「リュックからノートとペンを取り出してたから、何か聞きたいことがあったんじゃないかな」
***
「すみません!あ、あの!」
「?」
「気配消す訓練って、どんなことされてるんですか!!?」
「……?そんな訓練、していないが…………」
「?でも、あの唇プルっとした人が……。それに、あの人もっと話したそうにしてたので、お話できればと思ったんですけど……どこへ……」
「ケミィか?彼女は調子が悪いと先にタクシーで駅へ向かってしまったよ」
「えー……そっか……悪いことしたな……」
「そういえばあいつ……。君のとこのテレポートの子が気にしてたが、よく考えてみると、ここ3日くらい変だったな……。なんか普段と違うというか……」
***
『やっとつながった!どこで何してる!?』
――トガ!!
「素敵な遊びをしていました」
『定期連絡は怠るなよ!一人捕まれば全員が危ないんだ!』
「大丈夫なんです。私は今まで見つからずに生きてきたので、それに有益でした。弔くんが喜ぶよ」
渡我被身子、"個性"――『変身』
「出久くんの血を手に入れました。理世ちゃんのも欲しかったけど、知り合いだったのは誤算です」
――疑いの目って、ゾクゾクしちゃいますね。