黒船来航

 北米アメリカ合衆国。金融、経済だけでなく、ヒーロー業も大国を誇る。

 そして、そんな大国を裏で操る『組合ギルド』という組織があった。

 構成員は財政界や、深窓の令嬢、はたまた神父など、バラエティーに富んでいる。
 ただ一つ言えることは、彼らは皆優秀な"個性"を持っており、表向きはプロヒーロー免許証を持つ事で、合法的に"個性"を使える事だ。

 その長が、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド。

 彼が所有するのは、超有名高級ホテルから航空会社から鉄道……。そして、アメリカ屈指のヒーローアカデミアの理事長でもある。
 手広く経営しており、アメリカで知らない者はいないだろう。
 彼は皆からこう呼ばれている。

 "華麗なるフィッツジェラルド"――と。

 そんな彼が今興味を惹かれているのは、アメリカから遥か北西の島国……日本だ。


「日本でのNo.1ヒーロー、オールマイトが引退か……。AFOオール・フォー・ワン……まるで、三文小説の悪玉ではないか。そんな悪役ヒール、このアメリカでもいないぞ」
「むしろ、それはあなたのことを指すんじゃないですか。――ボス」

 "ボス"と彼を呼んだのは、ジョン・スタインペック。
 ハンチング帽を被る、一見農家風の好青年だが、彼も組員の構成員の一人だ。ジョンがこの組合に所属している理由は一。

 金になるから。

 彼には養わなければいけないたくさんの家族がいる。大国だからこそ、庶民の貧困の格差は大きい。
 
「そ、それに伴い、日本の経済にも影響が出ているようで……株価も暴落してます……」

 控えめに言ったのは、ルイーザ・メイ・オルコット。
 本職は小説家で、日本でもベストセラー作品を出している。ギルドでは発案立案者であり、参謀的な存在だ。

「今、日本で活躍したら一気にNo.1になれるかな?」

 腕を頭の後ろに回して、お気楽に言ったのは、マーク・トウェイン。自称、冒険家。

「マークじゃ無理じゃね?」
「10位内にも入れるかどうか……」
「二人ともひどいなあ!」

 彼の"個性"であるハックとトムの言葉に、口ではそう言いつつ、マークはケラケラ笑う。

「…………眠い」

 部屋の片隅でぼーっと立っているのは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフト。
 彼は謎が歩いているような者だ。

「偉大なヒーロー一人に頼ったツケが回ったな、日本ジャパンよ」

 アメリカでは、日本以上にヒーロー育成に力を入れており、オールマイトと同等の実力者などわんさかいる。
 それ故、No.1という称号が手にいれるのが難しい状況だ。

 それに近い、"彼女"の存在はあるが。

「ヒーローとは何か?ラヴクラフトくん!」
「…………だるい」
「そうだ!ヒーローとはビジネス!」
「(ラヴクラフトに聞いた意味はあったのか……)」

 ちなみにギルドに適切なつっこみ係がいないので、大体ジョンが心の中でひっそりつっこんでいた。

「かつて、戦争が誰かの利益になったように……。ヒーローが職業と認められた時から、裏では膨大な金が動いている」

 フランシスは、高層ビルから眼下の街並みを見下ろす。一等地のその光景を目にする事ができるのは、選ばれた者のみ。

「俺はこの程度の光景では満足しない。今、俺が欲しいもの……」

 我らがボスの欲しいもの……。それは次の任務に関わる事であり、彼らがこの場に呼ばれた理由だ。

 彼らは次のフランシスの言葉を、待つ。

「日本そのものだ!」

 振り返って高々に言ったフランシスに「あんな小さな島国を?」と、マークは不思議そうに呟いた。

「俺は、日本をフィッツジェラルド王国にしようと思う!」

 ……………………。

 アメリカンジョークかと思ったら、フランシスは本気らしい。

「バカですか」

 ついジョンの口から本音がもれた。

「口を慎め、ジョン!フィッツジェラルド王国は始まりに過ぎん。日本を手中に治めれば、アジア――つまり中国への足掛けになる!」

 中国……?

「"個性"という歴史の始まりは中国、軽慶市だ。あいつらきっとすごい"個性"や情報を隠し持っているに違い!」

 意気込むフランシスに、ルイーザは三人にこそっと話した。

「……先日、中国との金融取引で大揉めになったので、フランシスさま、根に持っているんです……」

 ……なるほど。

「まあ、壮大な計画にはなるのかな?」
「俺、日本の文化好きだよ。日本料理おいしいし」

 ジョンとマークも興味がないわけではない。どちらにせよ、ボスの命令には従うのみだ。

「俺自ら日本に出向き、まずは手始めに……」

 今、日本は偉大なヒーローの引退で混乱している。

 それに乗じて、手に入れてやろう。

 日本屈指の名門ヒーロー校であり、あのオールマイトの母校だともいう『国立雄英高等学校』を――。


 ***


 自家用ジェット機で、フランシスは日本に降り立った。目指す雄英高校は、てっきり日本の首都にあたる東京にあると思っていたら、違うらしい。

「何故、こんな郊外にあるんだ?」
「都心には広い土地がないんですよ」

 アメリカと日本の土地を比べてはいけない。

「交通が不便だな。俺が雄英高を手に入れた暁には、近くに空港を作ろう。フィッツジェラルドアカデミー空港だ」

 すでに空港の計画を立て、ついでにホテルも建てようと練っていると、ようやく車は雄英高校にたどり着いた。

「なかなか悪くない佇まいだ」

 フランシスはHの形をした大きな建物を見上げる。

「だが、この雄英バリアーと呼ばれるセキュリティは品がないな。祖国の最新精鋭のセキュリティに変えるべきだ。メモしておけ」
「はっ」

 道中、細かくチェックするフランシス。
 事務員の者は嫌そうに横目で見ながら、客間に案内した。


「実際にこの目にすると、実にコミカルな見た目だ。我が国の人気映画ハリウッドに出演できるだろう。ハイスペック・マウス……ネズミィ校長……」
「根津校長だっつーの!ちゃんと覚えておけ、リッチマン野郎!」
「マイク、落ち着け」
「おっと失礼。Mr.根津」

 雄英高校の客間のソファで、フランシスはふんぞり返っていた。その後ろでは上級秘書官のジェームズ・Lが姿勢よく立っている。

「遠路はるばるご足労頂いたわけですが、今日は何用で来られましたかな?あなた直々に来たということは、ただのわが校の見学でもないでしょう」

 根津は冷静に対応していた。その円らな瞳からは感情が読めない。

「では、単刀直入に言おう。この雄英高校の校長の座を受け渡してもらいたい」
「「!?」」
「無論、タダでとは言わん」

 その場に驚愕が走る中、フランシスは懐から小切手を差し出した。
 そこには見た事がない数の桁が書かれており、マイクが「なんじゃこりゃ!?」と、すっとんきょんな声を上げた。

「まさに目玉が飛び出るほどの額ですね……」
「一生どころか、ひ孫の代まで余裕で遊んで暮らせるな」

 13号とスナイプも同じように驚きながら口にした。

 国立である雄英高校は、国と取引するより校長の椅子を手に入れた方が早い、とフランシスは考えたのだ。

「何ならこの腕時計もつけよう。限定生産で特注ダイヤが――」
「いや、結構。雄英の校長の座はお金でやりとりできるものじゃないよ。命と一緒でね」

 毅然とした根津の対応に、フランシスは目を細めて彼を見る。

「神野の件でずいぶんとバッシングを受けたようだが、君たちには手に余る問題ではないのか?」
「貴様なら上手く立ち回れるとでも……?」

 唸るような声でブラドキングかフランシスに言った。

「君たちは二度もヴィランの襲撃を許しているのが、そもそもありえん。俺のヒーロー校のプロヒーロー教師たちなら未然に防ぐぞ」

 その言葉に、その場にいる雄英のプロヒーロー教師である彼らは、全員カチンときた。

「オイ、こいつ買収じゃなくて喧嘩売りに来ただろ」
「両方だろ」
「ずいぶんと好き勝手言ってくれるじゃない……?」
「ミッドナイトも落ちつけ……捕食者の目になってるぞ」

 教師たちの反応も気にせず、フランシスは続ける。

「話題性を求めて侵入しようとするヴィランが現れないとも限らん。ましてや、平和の象徴を失ったこの国で……」
「…………」

 以前の偉大なヒーローの面影は全くない――ガリガリ姿のオールマイトに、フランシスは視線を寄越す。

「嘆かわしい姿だな、オールマイト。今の君は、この日本で言う客寄せパンダ……お飾りだ」
「いくらなんでもオールマイトさんに失礼ですよ!」

 怒る13号に、オールマイトが「私は大丈夫だ」と宥めた。

「この学校の面子ブランドに、これ以上泥を塗りたくなければ、俺に受け渡せ」

 口調を強め、脅しとも言える言葉だった。その場は根津の返答を、固唾を呑んで見守る。

「この雄英高校が設立されたのは、とても深い願いと意味が込められている。それを譲り受けた私は、おいそれと売り渡すことも、簡単にこの椅子を下りることもできないのさ」

 根津は相変わらず表情が分からないまま返した。
 この場に沈黙が訪れたが、二人の間には、静かにバチバチと火花が散っているようにも見える。

「……フ。その"個性"は"人間以上の頭脳を持ち合わせる"という話だったが、嘘ではないようだな。中国人チャイニーズより手強そうだ。今日は諦めて、引くことにしよう。ああ、せっかくなので、校内を見学させてもらっても?」
「構わないさ。ただし、生徒を引き抜くような真似はしないでくれよ」
「生徒の方からわが校に転入したいとなれば、話は別ではないか?」

 最後に不敵な笑みを浮かべて、フランシスはジェームズを連れて立ち去る。

 唖然と苛立ちが起こるその場に、根津だけが「やれやれ。厄介な者が日本にやって来たね」と、冷静に呟いた。


(俺は、欲しいものは必ず手に入れる)


 フランシスの、もう一つの目的は――……


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