先輩の"個性"は、奇襲と防御に特化しているかも知れないけど、攻撃は肉弾戦で、宙にいる敵への攻撃手段がない。つまり……
私が先輩に勝てないとしても、先輩も私に勝てない。
「結月……。あんなに大口叩いておきながら、引き分けを狙うとはな……」
「大口叩いたからこそ、負けたくなかったんです。勝てないなら、負けない戦法を私は取ります」
「ドヤるな」
「こうも欠点を見抜いて突いてくるとは!末恐ろしい子だ!!」
「……それは褒めてますか?」
結果は、引き分けに持ち越した。
一年生、全員倒されたという結果より、そっちの方が先輩に食い下がった感があるかなって……
まあ、一つ思い付いた攻撃方法もあったけど、仕掛けても一かバチかの賭けだったし。(正直、私の体術と反応速度より先輩の方が上だから)
ビック3という名は伊達ではなかった。
きっと、天喰先輩や波動先輩も同様の実力者なんだろうな。
「ギリギリちんちん見えないよう努めたけど!!すみませんね女性陣!!」
うん。本当にギリギリでしたよ。
「とまァ――こんな感じなんだよね!」
「わけもわからず全員、腹パンされただけなんですが……」
私以外。皆の様子を見る限り、私の選択は間違っていなかったと思う。全員、お腹を押さえて辛そう……。
「俺の"個性"、強かった?」
通形先輩がそう問うと、次々と声が上がる。
「強すぎっス!」
「ずるいや、私の事考えて!」
「すり抜けるしワープだし!轟、結月みたいなハイブリッドですか!?」
「お」
「あ、その可能性もなきにしてあらずなのか」
珍しいパターンだとは思うけど。(あとワープはないと思う)
すると、はーいと波動先輩が元気よく手を上げた。
「私、知ってるよ"個性"。ねえねえ言ってい!?トーカ」
「波動さん、今はミリオの時間だ」
相変わらずこっちに背中を向けたまま、天喰先輩が窘めるように言った。
「いや一つ!!「透過」なんだよ!君たちがワープと言うあの移動は、推察された通りその応用さ!……ごめんて」
ムスッとする波動先輩は自分が説明したかったらしい。(幼稚園児かな)
それはそうとして、透過であの高速移動はどういうカラクリが。
「どういう原理でワープを……!!?」
早速でっくんがめっちゃ食いついた。
「手メモ?」「もうクセなんだろうね……」
そんな会話をお茶子ちゃんとこそっとする。
「全身"個性"発動すると、俺の体はあらゆるものをすり抜ける!あらゆる!すなわち地面もさ!」
「あっ……じゃああれ……落っこちてたってこと……!?」
「そう!地中に落ちる!!そして、落下中に"個性"に解除すると不思議なことが起きる。質量のあるモノが重なり合うことは出来ないらしく……"弾かれて"しまうんだよね」
私の"個性"と一緒だ。正確には座標移動の方と。移動先に物体があると弾かれるから、普段はそっちの法則を駆使して、私は事故を未然に防いでいる。
「つまり、俺は瞬時に地上へ弾き出されてるのさ!これがワープの原理。体の向きやポーズで角度を調整して弾かれ先を狙うことができる!」
「……?ゲームのバグみたい」
「イーエテミョー!!」
"個性"の法則を利用した応用だから、バグというか裏技的なテクニック?
「攻撃は全てスカせて。自由に瞬時に動けるのね……やっぱりとっても強い"個性"」
「いいや、強い"個性"に"した"んだよね」
梅雨ちゃんの言葉に、先輩はきっぱりと強く言った。
「発動中は肺が酸素を取り込めない。吸っても透過しているからね。同様に鼓膜は振動を、網膜は光を透過する。あらゆるものがすり抜ける。ただただ質量を持ったまま。それは何も感じることができず、落下の感覚だけがある……ということなんだ」
……想像以上に、困難な"個性"だった。話を聞きながら、その状態を想像して怖くなる程に。
自らの命を脅かす可能性が高い"個性"。
普通なら、日常生活を安全に過ごせるようにするだけで精一杯だ。
「わかるかな!?そんなだから、壁一つ抜けるしても、片足以外発動→もう片方の足を解除して接地→そして残った足を発動させ、すり抜け。簡単な動きにもいくつか工程が要るんだよね」
それをあそこまで……実戦に使えるまでにしたのは、相当な努力と精神力がいる。
(そんな通形先輩がヒーローを目指す理由って、なんだろう……)
「急いでいる時ほどミスるな。俺だったら……」
「おまけに何も感じなくなってるんじゃ動けねー……」
「そう案の定、俺は遅れた!!ビリっけつまであっという間に落っこちた。服も落ちた」
ビリからという事は、雄英の二年半ぐらいであの"個性"を、周囲が「無敵」と思えるまで昇華したって事だ。
……すごい。もはや落ちる服にギリギリまで見えないようにしたのも、努力の結晶かも。
「この"個性"で上を行くには遅れだけはとっちゃダメだった!!予測!!周囲よりも早く!!時に欺く!!何より「予測」が必要だった!そして、その予測を可能にするのは経験!経験則から予測を立てる!」
確かに技術だけでなく、その"個性"を最大限に活かす能力があってこそ。(予測か……。私の"個性"を活かすにも必要な能力かも……)
「長くなったけど、コレが手合わせの理由!言葉よりも"経験"で伝えたかった!インターンにおいて、我々は「お客」ではなく一人のサイドキック!同列として扱われるんだよね!それは、とても恐ろしいよ。時には人の死にも立ち合う……!」
……家族の、大事な人の死は知ってる。
自分の死を覚悟した事もある。
でも、まだヒーローとして、誰かの死に立ち合った事なんてない。
(……私は……乗り越えられるのかな)
――話を続ける通形先輩に、視線を戻す。
「けれど、恐い思いも辛い思いも全てが学校じゃ手に入らない一線級の"経験"。俺は、インターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!恐くてもやるべきだと思うよ1年生!!」
恐くてもやるべき、か……。その場に拍手が起こり、私も尊敬の意味を込めて、通形先輩に拍手を送った。
「話し方もプロっぽい……」
「189文字で済むことを747文字も……」
……。えっ、数えてたの百ちん!?
「「お客」か。確かに職場体験はそんな感じだった」
「危ないことはさせないようにしてたよね」
「……通形先輩って、最初の第一印象と違って、ビック3の名に恥じないすごい人だったね」
「うん……ただ強い人が雄英のトップにいるんじゃない……!通形ミリオ先輩……努力でトップを掴んだ人なんだ……!」
「そろそろ戻ろう」
「ねえ……!私たちいる意味あった?知ってる?」
「何もしなくて良かった……ミリオに感謝しよう」
その場が解散と雰囲気になった時――パチパチと一つの拍手が、体育館に響いた。(……?)
「ブラボー!素晴らしい戦いだった!君が噂のオールマイトの後継者かな?」
「……!!」
後継者――という言葉に、でっくんがどきっとなったのが分かった。
でも、どうやらその言葉は通形先輩に向けられている。
そこにいるのは、金髪のハリウッドスターのようなルックスに、びしっと質のよさそうな白のスーツを着こなしている男性だ。
テレビやネットで見たことがある海外の有名人。
(でも、どうして雄英に……?)
「誰だ……?」
「あの方は……」
「ヤオモモ知ってんの?」
「ええ。アメリカの実業家、フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルドさん。父の仕事の関係で一度お会いした事がありますわ」
さすが、お嬢様の百ちん。アメリカの有名人だから私も知っていたけど、直接会った事があるのはすごい。
「フランシスさん……まだいたんですか。そんな暇人ってわけじゃないでしょう」
相澤先生が嫌そうな表情を隠さずに、フランシスさんに言った。
「なに、じっくり見学させてもらっていてね。いずれ、この雄英高校は私のものになるからな」
「「は……!?」」
さらりと爆弾発言が飛び出してきた!
それって、まさか買収的な……?驚いていると「校長がきっぱり断った。ならんから安心しろ」と、すかさず相澤先生が生徒たちに向けて言った。
「君たちの熱い戦いも観させてもらった。一方的なものに、他の者たちの戦いが見られなかったのは残念だが……」
そう言って、フランシスさんはぐるりと生徒たちを見回す。
「しかし、皆良い原石たちだ。どうだ?アメリカにある私のヒーローアカデミアに転入してみないか?皆、大歓迎するぞ!」
「「!?」」
アメリカのヒーローアカデミアは、雄英と同等の、それ以上に規模も歴史もある名門校で、あのデヴィット博士が卒業した学校もこの系統だ。
雄英乗っ取り発言だけでなく、堂々とした引き抜き。さすがアメリカ、やることのスケールが違う。
「生徒たちの引き抜きはしないとの話だったはずでは?」
「引き抜きではなく、勧誘だ。それに、生徒自らの希望なら止めることはできないだろう?」
静かに怒る相澤先生に対して、フランシスさんはにやりと笑って余裕で答えた。
(どんなにすごい学校でも、この場に転入希望の生徒はいないと思う)
この雄英高校で、共にこれまでの困難を乗り越えてきたから……。
最高のヒーローを目指すのも、ここだと――きっと、皆も同じ思いのはず。
「特にビック3と言われる君たちは、我が校でならさらなる成長が期待できるだろう」
フランシス氏は特に三人をロックオンしているらしい。
「お誘いはありがたいですが、まだここで学ぶべきことがありますんで!」
「右に同じく……」
あっけらかんとした笑顔できっぱりと断った通形先輩、さすが。
それに控えめだけど、天喰先輩も続き、波動先輩は……
「ねえねえ、ギルドって本当にあるの?噂?都市伝説?何する組織なの?私、知りたいことがいっぱいあるの!日本とアメリカのヒーローの違いって何かあるかしら!?」
「君はデンジャラスガールだな……」
さすが、波動先輩……!無邪気な質問攻めにフランシスさんも引いている。
「俺らも先輩方と同じ意見だよな!」
「アタシ、英語喋れないから無理ー!」
「勉強にはなるだろうけど、やっぱりここでヒーローになりたいし」
「つーか、いきなり登場してきていけすかねえ野郎だぜ」
「どうせ成金じゃねえの?」
切島くん、三奈ちゃん、尾白くん、峰田くんと続き、上鳴くんの言葉には「とんでもない!」と、百ちんが声を荒らげた。確かに成金ではない。
そして、こんこんとどんなにすごい人か説明する。上鳴くんはぽかーんとしているけど。
「すげえ人ってことはわかった……!」
「アメリカの高額納税者ランキングに、ヒーローと肩を並べて堂々と上位にランクしてる人だよ」
「マジかよ!?すっげーセレブじゃん!!」
そう簡単に言うと、やっと上鳴くんもすごさの実感ができたらしい。怖いのは、その莫大なお金でどうこうできそうなのと、その人脈だ。
「"個性"も稀にみない持ち主だし……。そんな人がわざわざ雄英を……」
「"個性"ってどんな"個性"なの?すごいの?」
透ちゃんの質問に、でっくんは再び口を開く。ヒーロー以外にもでっくんは"個性"に詳しいらしい。
「消費した金額に応じて自分の身体能力を強化する"個性"……。莫大な資産を持っていることによって、その凄さは計り知れないよ」
大富豪が持ってこその"個性"だ。こればかりは「天から授かり物」という言葉がしっくりくる。
「あれじゃんっそれって重課金じゃね!?」
重課金……!上鳴くんの的を射ている例え!
「今、雄英ゴタゴタしてるし、その隙を狙ってという感じなのかな」
「あの方ならば、そう考えてもおかしくないですわね……」
百ちんとそんな会話をしていると、こちらにフランシスさんが近づいて来る。
「これはこれは。八百万家のご令嬢の……」
「百ですわ。ご無沙汰しております」
一度会ったきりだと百ちんは言ってたけど、フランシスさんの方は覚えていたらしい。
他愛ない会話の後、彼の視線は私に移った。
「君の噂はアメリカにも届いているよ。テレポートガール」
「……どうもです」
ついにアメリカまで私の名前が轟いたのかと思ったけど、敵の被害者でもあるし、きっとネガティブな意味だよね……そう思っていたら。
「……君の"個性"も、その脳も素晴らしい。我が国に来たら確実な安全を保証しよう」
「……っ!」
私だけに聞こえるように――。予期せぬ言葉に、全身が警戒する。
「……どこで、それを……」
「我が国に来ることは、君にとって悪い話じゃないと思うがな」
「先程、相澤先生が生徒の引き抜きは禁止って言ってました。これは彼女に対しての明らかな引き抜き行為ですよね?」
(……っでっくん……)
困惑して言葉を返せないでいると、間に入るように、毅然とした態度ででっくんは言った。
「君は……。フッ。失礼した。さすが雄英生徒、意思が固い。俺は潔く退散しよう」
フランシスさんは余裕な笑みを浮かべて、部下を連れてその場を立ち去る。
その場はなんだったんだという呆気に取られるなか「俺たちも戻るぞ」と、再度相澤先生は告げた。
戻る途中、こっそり話しかける。
「……でっくん。さっきはありがとう」
「や……僕はそんな……それより大丈夫?」
「うん、平気」
……でっくんが助けてくれたから。
この言葉と気持ちは、内緒にしておこうかな。
「どうなんだろーね、インターン。1年はまだ様子見って、言ってたけど」
「通形先パイのビリっけつからトップってのはロマンあるよねえ」
ソファではお茶子、梅雨ちゃん、三奈ちゃん、百ちんが喋っていて、その後ろで「ゴミあるなら持ってこいやああああああ」と、爆豪くんが独特なゴミ集めをしていた。
でっくんが復帰したから掃除は爆豪くんだけだけど、見事に共有スペースはピカピカだ。(さすが爆豪くん。プロの仕事……)
「オイ結月!ゴミぐれぇ自分の足で捨てに来いや!」
「え〜」
飲み終わったジュースのパックを、ゴミの中にテレポートさせたら爆豪くんに怒られた。
さて、部屋に戻ったところで、パソコンの電源を入れて準備する。今回のリモート通話の相手は、安吾さんじゃなくて……
『やあ、理世。まずは仮免取得おめでとうかな。さすが、私の可愛い弟子だね』
画面越しでも、顔面が強い太宰さんだ。
「太宰さん。太宰さんはあの時、私の秘密を嗅ぎ付けて、別の敵にも狙われるかもしれないって言いましたよね」
両親のお墓の前で、改めてヒーローになると決意した時だ。
「それって、やっぱり私の秘密がもれてるってことですか?」
フランシスさんは「スペック」って言ってたし、これは知っていると考えておかしくないだろう。
『その話をする前に一ついいかい?』
「?はい」
『君から見て、私はいつもの服を着た太宰さんに見えるだろうけど』
「……?いつもの服着た、いつもの太宰さんですよね」
『カメラが映らないから下はパジャマなんだよ』
「どうでもいいですよ!!」
本当にどうでもいい。こっちは結構深刻に真面目な話をしているんですよ太宰さん!
『情報は売り買いできるからねえ。ギルドの長の彼なら、裏ルートから入手できるだろうね』
「本人に一円も入ってないのに、知らないところで売り買いされるって嫌ですね」
あれ……?そういえば、波動先輩も言ってたけど、ギルドって都市伝説とかじゃなくて本当に存在するの?
「太宰さん、ギルドってなんですか?」
『アメリカの経済を裏で操る組合だよ。その構成員の職業が様々だから、都市伝説みたいになってるね』
へぇ……って頷いたけど、なんか陰謀論みたいな話。
「これからインターンに行けるかも知れないのに、私こんなんで大丈夫かな……」
ため息が出た。せっかく仮免免許も取れたのに、厄介ごとになったら嫌だな。
なんかあの人「俺は欲しいものは必ず手に入れる」的なキャラっぽいし。
『その辺りに関しては、君が杞憂することはないよ。雄英が無くなることも、フランシスによって君がどうこうなるわけではない。私が断言しよう』
その言葉を聞いてほっとした。おふざけが多い太宰さんだけど、太宰さんのことは信用も信頼もしている。
『理世から連絡来た時点で、安吾も手を打つだろうしね』
「安吾さんに余計な仕事増やしちゃったかなー……」
『安吾の心配をしているのかい?理世は優しいねえ。私は心配していないよ。一体、安吾はいつになったら潰れるんだろうとかれこれ数年は観察してきたから』
「……。何気に安吾さん元気ですよね」
言い方はあれだけど。確かに安吾さんが潰れたどころか、風邪で寝込んだところも今まで見たことがない……!
衝撃の事実に気づいて驚いていると、太宰さんが先に口を開く。
『インターンが行けると決まったとして、理世は行き先は決めてあるのかい?』
「やっぱり、中也さんの所かなって。職場体験でもお世話になったし、何より地元なら安心だし」
『理世、中也以外の所にしよう。そうしよう』
「ええ……」
いくら太宰さん、中也さんと仲悪いからって私情挟みすぎじゃ……。
『では、私が今の君にぴったりなとっておきの事務所を紹介してあげよう』
「太宰さんがヒーロー事務所をですか?」
どこですか?と聞いても「秘密♡」と太宰さんは教えてくれない。
『正式に決定したら、また連絡したまえ。私自ら推薦状を書いてあげるから』
太宰さんがそこまで言うなんて、どのヒーロー事務所かますます気になった。
(でも、まずは1年生がインターン行けるかだよねぇ)
ビック3の先輩たちを呼んだぐらいだし、行く方向な気がする――と、考えていたけど。
「1年生の校外活動ですが、昨日協議した結果。校長をはじめ、多くの先生が「やめとけ」という意見でした」
相澤先生の言葉に教室がざわつく。
「えーあんな説明会までして!?」
「でも全寮制になった経緯から考えたらそうなるか……」
切島くんと上鳴くんはそれぞれ真逆の意見を言った。どっちの意見も分かるけど、やっぱり今後の為にもインターンはしたかったな。
「ざまァ!!」
謹慎明けの爆豪くん(話の流れは把握済み)の嬉しそうな声が聞こえた。(自分が行けないからってね。仮免の講習も危ういしね)
「が」
……お?
「今の保護下方針では、強いヒーローは育たないという意見もあり。方針として「インターン受け入れの実績が多い事務所に限り、1年生の実施を許可する」という結論に至りました」
インターン受け入れの実績……どっちにしろ中也さんの所は無理そうだな。
太宰さんの言っていた事務所はどうなのか、聞いてみなくちゃ。
「ガンヘッドさんとこどうなんやろー……」
「セルキーさん、連絡してみようかしら」
皆からも同じような考えの声が飛び交うなか「クソが!!」爆豪くんのくやしげな声が教室に響いた。
***
「結月!」
「切島くん?」
授業も終わり、寮に帰ったりそのまま自主練に行ったり、生徒が分かれるなか、切島くんに呼び止められた。
「結月にお願いしたいことがあってさ」
「切島くんにお願いされたら聞かないわけにはいかないね」
詳しく話を聞くと、インターンの件についてらしい。
「職場体験で行ったフォースカインドさんが受け付けてなくてさ。結月、天喰先輩と仲良いだろ?」
「いや、仲良いかって聞かれたら微妙なラインだけど……」
「俺、ファットガム事務所に行きたいんだ!結月、橋渡ししてくれね!?」
切島くんは顔の前で、パンッと手を合わせた。
もちろん二つ返事して、さっそく天喰先輩にコンタクトを取る。
(……天喰先輩、忙しいかな?私からの電話で怖がって出なかったとかだったらどうしよう)
あ、出た。
「――じゃあ、天喰先輩。こちらA組の良心こと切島鋭児郎くん。"個性"は硬化」
「センパイ!よろしくっス!!」
「よ…よろしく……。(う……、熱血系……)」
苦手なタイプだ――って顔しているけど、天喰先輩、むしろ得意なタイプはあるの。
「切島くん。ご存じの通り、こちら天喰環先輩」
「それで、結月さん……話とは一体……」
「インターンで、切島くんがファットガムの事務所に行きたいって……」
「お願いします!センパイ!!俺、もっと強くなりたいんス!!」
まだ話の途中なのに、切島くんはぐいっと天喰先輩に詰め寄った。
「じ…事務所なら、他にもミリオの所とか……!」
「ファットガム事務所がいいんス!!お願いします!!センパイ!!」
「ひぃ!た……助けてくれ、結月さん……!!」
(グイグイいってるなぁ、切島くん)
とりあえず、先輩がちょっぴり可哀想なので助けてあげた。
「……分かった。ファットガムに紹介しよう。あとは自分で交渉してくれ……」
「あざっす!!センパイ!!」
わずか数分で、天喰先輩はぐったりしている。
切島くんは押して押して落とした。
先輩は、ゆるりと私に視線を向けて。
「結月さんはインターン先はもう決まったのかい?君ならファットガムも歓迎だと思うけど……」
「結月、一緒に行こうぜ!」
ファットガム事務所にも行ってみたいけど……。
「正式に決まってないんですが、私の師匠が事務所を紹介してくれるみたいで、まずはそっちを検討したいと思います」
先輩は「だめになったらまた連絡してくれ」と言ってくれた。「ファットガムがちゃんと君と連絡とってるか確認してくる」……らしい。
太宰さんにはさっきインターンの話が動いたから連絡してみたけど……
(あ、返信来てる)
そこに書かれていた事務所名は――。