これぞ、雄英式救助訓練・前編

 拝啓、安吾さん。
 三日間に渡る外部訓練は終了し、今は必殺技訓練と同時進行で、仮免取得試験に向けての訓練に励んでます。
 寮生活になってだいぶ日も経ちましたが、安吾さんはいかがお過ごしでしょうか。

 ご飯はちゃんと三食食べてますか。
 徹夜はほどほどにしてますか。

(私がいない間に安吾さんの社畜化が進んでないか心配……じゃなくて)

 安吾さんの体調だけが、心配です。
 私は元気でやっているので、安心してください。

 PS.太宰さんが私のことを自殺愛好家になった等と言っていたら、丁重に否定しておいてください。


 ***


「仮免の取得試験は例年、災害時における救助を目的としたものが多く出題されている。よって、今日は……」

 ――午前中から仮免取得に向けての授業の日。

「クラスを2チームに分け、仮免試験を想定した救助訓練を行う」

 時間ぴったりに教室に入ってきた相澤先生は、さくさくと話を進め、黒板にはAチームとBチームに分けられた表が現れた。
 すでにチーム分けは済んでいるらしい。段取りが早い。

(私は……)

Aチーム
蛙吹梅雨
飯田天哉
麗日お茶子
上鳴電気
切島鋭児郎
常闇踏陰
轟焦凍
爆豪勝己
緑谷出久
八百万百

Bチーム
青山優雅
芦戸三奈
尾白猿夫
口田甲司
砂藤力道
障子目蔵
耳郎響香
瀬呂範太
葉隠透
峰田実
結月理世

「結月はBチームか」
「だね」
「チームが別れてしまい残念ですわ」
「別チームだけど、お互い頑張ろうね、焦凍くん、百ちん!」
「ええ!……救助訓練はチームワークが大切。よろしくお願いしますわ。轟さん、常闇さん」
「ああ」
「全力を尽くすぞ」

 席が近い二人とは別れちゃって残念だけど「理世ちゃーん!よろしくねー!」一番前の席から、透ちゃんが元気よく声をかけてくれて嬉しい。
 私もよろしくね〜と、透ちゃんに手を振り返す。
 女の子たちなら、耳郎ちゃんと三奈ちゃんとも一緒だ。

「俺はAチームか」
「飯田くん、梅雨ちゃん、同じチームだね。よろしく!」
「よろしくね、ケロケロ」
「よろしく頼むなっ」
「まかせろって!」
「クソデクと同じチームかよ」

 似たような会話が教室内で飛び交いうなか、先生が再び口を開く。

「では、これより救助訓練を開始する。全員ただちにコスチュームに着替え、グラウンドβに集合しろ」

 気になる内容の説明は現地で行うらしい。
 コスチュームに着替え、グラウンドβに集合すると……

「結月。お前がBチームのリーダーな」

 唐突に、私は相澤先生にチームリーダーを任命された。

「私、参謀タイプだから、リーダーって柄じゃないんだけどね〜」
「ま、この中じゃ結月が一番適任なんじゃね?」
「先生からの任命だしな」
「リーダー結月!まかせた!」

 瀬呂くん、尾白くんが私の呟きに反応し、続けざまに三奈ちゃんが元気よく言った。
 ちなみに、Aチームのリーダーは天哉くんだ。

「みんな、雄英生の名に恥によう、この救助訓練を完遂させようではないか!」

 張り切っている様子が声でバッチリわかる。

「結月さん、僕がリーダーの役目を代わろうか☆」
「オイラもいいぞ」
「うん、やるからにはリーダー一生懸命全うさせてもらうね!」

 青山くんと峰田くんの申し出にはささっと断り、話を進める。別に二人がリーダーに向いてないとかではなく(向いてるか、向いてないかでは……うん)
 リカバリーガールと一緒にいる相澤先生の視線に気づいたからだ。『はよ進めろ』と無言の圧が強い。(リカバリーガールが待機してるってことは怪我が伴う可能性があるのかなぁ)

「じゃあ、訓練を始める前に状況を再確認しておこうか。はい、三奈ちゃん」
「アタシ!?えぇと、ショッピングモールで火災が発生したんだよね?」
「そう」

 相澤先生から事前に受け取った機械を作動する。
 機械からはショッピングモールの構造を立体的に映し出され、階段、エスカレーター、エレベーターの位置など一目でわかり、テレポーターにとってなんともありがたい装置だ。

「時刻は2時間前……地下にある大型ショッピングモールの最下層で火災が発生。現在、火災は鎮火し、中にいた人々の避難も完了。が、この地下街のどこかに要救助者が1人だけ残っているとのこと」

 AエリアとBエリアと分かれ、私たちBチームはそのままBエリアだ。要救助者はお馴染みのダミー人形である。

「俺たちはその要救助者を速やかに助け出すことがミッションだな!」

 砂藤くんが力強く言い、頷く皆もキリッといい表情をしている。

「地下街全域は火災によって停電しているものの、非常用電源は生きているみたい」
「つまり、明かりがなくても捜索はできるってことだね」

 耳郎ちゃんの言葉に私は頷く。

「……要救助の救出は時間との勝負だ」
「……っ」
「怪我をしている可能性があるもんね!」

 障子くんの言葉に口田くんがコクコクと頷き、透ちゃんが補足するように言った。

「ここは手分けして探すのがいいよな。……結月さん、組分けどうする?」
「あ、ねえねえ!もしかして、この辺り電波が届いてないかも」

 スマホを見て言った三奈ちゃんの言葉に、私も含めて皆がスマホを見る。「本当だ」「俺もだ」そう次々と声が上がるなか、私のスマホももれなく圏外だ。

「うーん、中継基地局も火災の被害を受けてっていうことかな」
「いつもは渡される無線通信機も今回はないし、連絡取り合うのにちょっと厄介だぜ」

 瀬呂くんの言ったことは、私も引っ掛かっていたことだ。それに加えてスマホも使えないとなると……

(なんかこの訓練、要救助者を救出だけじゃない気がする……)

「――まあ、いいや。連絡方法がないのは心配だけど、私が飛び回ってみんなの状況を把握するから」
「結月、過労死しそうだな」
「瀬呂くん、不吉なことを……」

 シャレにならないよ!

「……それを踏まえて組分け考えるよ。1分ちょうだい」

 う〜んと頭をフル回転させる。こういう時、"個性"の組み合わせが得意なでっくんがいると頼りになるけど、別チームなのでしょうがない。私なりの最適解を出す。

(これを訓練とは思わず、本番だと想定し……)

 考えるポイントはたぶん三つだ。

 要救助のあらゆる状況の想定と対応、二次災害の可能性、救出者自身の安全。
 それらを含めて、バランスよくメンバーを組み合わせなければならない。

「……この施設は地下6階まであるから、まずは地下1階を耳郎ちゃん、透ちゃん、口田くんのメンバーで。口田くんは"個性"で地下1階と地下2階の捜索をカバーしてもらっていい?」

 私の問いに、口田くんは真剣な顔でコクコクと頷いた。
 口田くんいわくグラウンドβや、他の訓練所にもねずみや鳥などの小動物がいるらしいから、今回はねずみたちの力を借りて捜索できるはず。

「透ちゃんは口田くんのサポートで」
「よしキタ!」
「耳郎ちゃんは緊急事態の際に合図するから、外部との連絡係として待機していてほしいんだ」
「合図?」

 火災は鎮火したとはいえ、現場への踏み込みでは二次災害は警戒すべきこと。
 緊急事態に備えて外部との連絡手段は確保しておきたく、そこで耳郎ちゃんだ。

「緊急事態なら2回壁を叩くから、耳郎ちゃんのイヤホンジャックで音を拾ってほしいの」

 よくコミックとかドラマであるやつ。耳郎ちゃんの"個性"ならばっちり聞こえて伝わるだろう。

「なるほどね、わかった。じゃあ、エレベーターの壁を叩いてよ。そこの壁なら地下から一直線に繋がって拾いやすいから」
「オーケー」

 要救助を見つけた際も合図することになって、その場合は3回に決まった。

 そして、一気に組み合わせと担当階を発表する。

 地下3階は青山くんと峰田くん――青山くんのネビルレーザーなら、万が一非常用電源が壊れて真っ暗になっても明かりになるし、要救助者が閉じ込められてたとしてもレーザーで破壊できる。峰田くんのもぎもぎは救助での使い道がなど汎用性が高いから。(以前、でっくんも言ってた)

 地下4階は三奈ちゃんと砂藤くん――溶かす&パワー。三奈ちゃんの"個性"の酸で壁を登ることもできるし、万が一火種が燻っていても酸の粘液によって延焼を防げる。
 砂藤くんのパワーと合わせれば、あらゆる場面で対応できるだろうという考え。

 地下5階は瀬呂くん、尾白くん――緊急事態になっても、冷静に対応できそうな尾白くんと、瀬呂くんは機動力もあるから、脱出という場面になっても問題ないはず。

 最後、地下6階を私と障子くん――機動力がある私と捜索能力が優れた障子くんが最下層を調べるのがベストだ。

「"個性"で送り届けるから、それぞれ階の捜索をよろしく」

 なにかあったら各自柔軟に対応してね、と付け加えて訓練を始める――。


 ***


「非常用電源って聞いてたから、もっと薄暗いかと思ったけど、思ったより明るいんだね」
「ああ、そうだな」

 各階にチームを送り届け、最下層である地下6階を、障子くんと辺りを捜索しながら進む。
 店舗自体はシャッターが閉まっていて、雰囲気は廃墟化した街並みだ。
 店舗の中に要救助者が取り残されている可能性は少ないだろう。

 訓練前提での考えではなく、基本的に有事の際は店員が客を店から外に誘導することになっているからだ。

 地下6階で火災が発生し、逃げ遅れたという状況を考えると――煙を吸い込んで意識消失で通路に倒れているか、防火用のシャッターが降りて閉じ込められたかの……どちらかかな。
 上より下の方にいる可能性が高いと考える。

「俺たちが最下層を捜索なのは、結月の"個性"で移動できるからか」
「そういうこと。障子くんに一緒に来てもらったのは、異変が起きたらすぐに気づいてくれるかなって」
「……結月、早速なんだが……」
「……え?」

 障子くんは立ち止まり、複製した耳に意識を集中させている。

「地鳴りが聞こえる……」
「地鳴りって――」

 その数秒後、大きな地鳴りと共に床がぐらぐらと揺れ始めた。床だけじゃない、建物自体が揺れている……!?

「なにこれ地震!?」

 床に細い亀裂が入るのが目に飛び込んだ瞬間、ぱっと明かりは消滅した。天井からはパラパラと瓦礫の破片が落ちてくる――

「結月!天井が崩れるぞ……!」

 次から次へと……!なんて乱暴な"訓練設定"なの!


 ――……


「終わった……?」
「……いや、遠くから崩れる音が聞こえる……。まだ油断はできないだろう」

 スマホのライトを付けると、今しがた私たちがいた場所は、天井から落ちてきた瓦礫の山と化していた。危なかったー……。

「結月、助かった。お前の"個性"がなければ、危うく俺たちは瓦礫に埋もれていた」
「いや、暗闇でわからなかったから、障子くんがすぐに気づいてくれたおかげだよ」

 この崩落で非常用電源も故障したらしく、辺りは真っ暗でスマホの明かりだけでは頼りない。

「これは訓練の一環なのか……」
「たぶんね。リカバリーガールが現場にいたし。二次災害を模してるんだと思う」
「……だが、この状況では皆が無事か心配ではあるな。……確かめにいくか?」

 ここだけでなく、全体的な崩落だ。怪我をしてないか、皆のことも心配だけど……。

「……まずは要救助者優先で、この階を探し終わってからいこう」

 実際の現場でも、きっと私は、救助を優先する。
 今、自分にできることを。皆も自分にできることをしていると、信じて。

「わかった。要救助者は俺たちが来るのを待っている……ということだな」
「うん。意識があったら、今はすごく不安な状況だよね。1秒でも早く救けて、安心してほしい」

 先の通路をスマホで照らし、障子くんと共に先へと進む。
 円柱にもヒビが入っており、歩くわずかな振動でも崩落しないか、少し緊張してしまう。

(それに……)

 先が見えない暗闇。シャッター街。さらに足元には瓦礫が転がり、もはや廃墟地そのもの。

 まるで、ホラーゲームの舞台のような……

(あー!考えないっ考えないっ考えない!)

 …………

(……だめだっ!)

 シロクマのことを考えないようにすればするほど、シロクマのことを考えてしまうみたいに、怖いことが脳裏に過る!
 暗闇の先になにかがいそうとか、ライトになにかが映りそうとか……

(そう!もっと楽しいことを考えよう!!)

 例えば――太宰さんがコサックダンスを踊っているとか!

(……太宰さんがコサックダンスを踊ってるのって楽しいこと……?)

 あ、じゃあ、爆豪くんがコサックダンスを踊ったらどうだろう。

「ねえ、障子くん。爆豪くんがコサックダンスを踊ったら楽しいと思――」
「っし。結月、声が聞こえる……」

 ええ、ちょっと障子くんッ!怖いことを――

「この声は……瀬呂たちの声だ」


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