君たちB組

 大食堂"LUNCH RUSHのメシ処"

 今日は何にしようかな〜と悩んでいると、後ろにでかい気配を感じた。ん?

「おぅ!あん時のA組女子か!」
「君はあの時のB組の人」

 ワイルドな顔をしたその人は、今日は気の良い笑顔だ。

「お前、可愛い顔してなかなか言うじゃねーか!」
「うん、よく言われる」
「俺は鉄哲徹轍だ!お前の名前は?」

 てつ……て?なんて?

「結月理世」
「結月か!男も女も関係ねぇー!体育祭、お前にもヤンキーにも負けねえからな!!」

 熱血的な宣戦布告を受けた。誰かに似てるなぁって思ったら、熱い所がちょっと切島くんに似ている。

「鉄哲くん?」
「おう!」
「お昼は何にするの?」
「ん、そうだな……今日はこの一日分の野菜が取れる野菜定食にするぞ!」

 ワイルドな容姿にお肉料理をチョイスするかと思ったけど、意外に健康的だ。

「じゃあ私もそれにしよう」
「そうか!」


「俺らと飯を食いたいっつーから、A組女子を連れて来たぞ!」
「A組女子の結月理世ですっ」
「「!」」

 いきなり現れたものだから、B組の人たちは驚いてこっちを見上げた。

「ああ、もしかして鉄哲が言ってた度胸がある女子って……」
「おう!」

 そんな風にもうB組のクラスに伝わってたんだ。

「確かに度胸あるわー単独でB組うちらの所に来るなんて」
「それほどでも〜」

 黒髪ウェーブ女子の言葉に答えながら、空いてる席に着く。

「同じヒーロー科だし、気になって来ちゃいました☆」

 えへへと愛想笑いした。「なんだあのキメェ顔」どこからかそんな爆豪くんの声が聞こえた気がするけど、ここから席は離れているしまあ気のせい。

「クラスが違えど、私たちは同じヒーローを目指す者。私も仲良くしたいと思っていました。私は塩崎茨。宜しくお願いします、結月さん」

 胸に手を当て、ご丁寧に挨拶されてたのでこちらもペコリと頭を下げる。
 塩崎さん。髪が茨になっており、綺麗な顔立ちと丁寧な口調、どこか浮世離れした雰囲気。

「俺は泡瀬洋雪だ!宜しくな、結月!」

 泡瀬くんは黒髪にヘアバンドを巻いた今時っぽい人で、うちのクラスにはちょっといないタイプだ。

「フッ……」

 そうわざとらしく笑ったのは、色素薄い系男子。

「皆の目をごまかせても僕の目はごまかせないよ。君、本当はA組のスパイなんだろ?早く白状した方が身の――痛いっ!」
「!?」

 隣から伸びた手刀が彼の頭を直撃した。

「何するんだよ、拳藤!」
「ごめんな、うちのクラスメイトが失礼なこと言って。気にしないで良いから」
「あ、ありがとう……(横の人めっちゃ恨めしげに見てるけど)」
「あたしは拳藤一佳。こっちの失礼なやつは物間寧人って言うんだ。A組と仲良くできるならあたしも嬉しいよ」

 からっと笑う拳藤さん。美人さんだ。それに、性格も良さそう。

「そうそう。まさかそっちから先に会いに来てくれるなんて」

 取蔭切奈と名乗った女子は、でっくんのように緑がかった髪色と、

「嬉しいねぇ。よろしくね、結月ちゃん」

 にっと笑うと覗いたギザギザ歯が特徴的。
 なんとなく色気がある人だなぁ……取蔭ちゃん。

「おっ、俺は円場硬成だ!よろしく!」
「あ、円場ずりぃ!」

 席の向こうから、ぱっと手が上がって自己紹介された。
 楕円形の目が特徴的な男の子。

「俺は回原旋!よろしくな!」

 円場くんに挨拶を返す前に、その手前にいた男の子が遮るように顔を出した。
 回原くんも今時っぽい雰囲気の男の子だ。

「回原!邪魔だー!」
「へへっ」

 二人は仲良しみたい。そして――

「……ん?」
(あのボブの子、可愛い……!)

 もくもくと気にせず食べてる黒髪ボブの女の子と目が合う。

「ああ、あの子?彼女は小大唯だよ」
「……ども」
「LINEやってたら交換しませんか?」
「ん」
「「(ナンパ……?)」」
「あっ俺とも!」
「じゃあ、俺も!」
「回原、円場!小大も、なに敵と仲良く……っ」
「敵じゃないっての。ね、あたしも混ぜてよ」

 さすがに全員とは挨拶できなかったけど(お弁当組もいるし)B組の人たちもうちに負けず劣らず個性豊かだ。
 その"個性"の方も気になるけど、それはまたの機会にして。

「入学式にA組がいないから不思議に思ってたんだけど、まさかその日に体力テストやってたとか……」
「入学式をクラスでボイコットするなんてすげえなA組の担任」

 ――やっぱり。

 驚く拳藤さんと泡瀬くんの反応に苦笑いを浮かべた。
 入学式の日、姿が見えなかったB組はどうしてたのか気になっていた事を聞いてみたところ……

「あたしたちは翌日にやったよな」
「ん」

 こくりと頷く小大ちゃん。普通はそうだよねぇ、普通は。入学式をバッサリ切り捨てる担任なんて、相澤先生ぐらいだと思う。

「B組の担任はどんな先生?ブラドキング先生だよね」

 ちょっと厳つい見た目の。

「どんな先生って言うと……」

 泡瀬くんが隣の鉄哲くんを見る。

「一言で言うなら熱血だな!厳しいが、優しさもある良い先生だと俺は思うぜ!」
「鉄哲くんはブラドキング先生を尊敬してるんだね〜」
「まあな!」

 熱血の鉄哲くんが言うのだからさぞ熱い先生なのだろう。相澤先生とは真逆だ。

「君のところの担任の相澤先生だっけ?確かヒーロー名はイレイザー・ヘッド。"個性"はすごいけど、入学式の件といい見た目といいちょっと変わり者だよね」
「だから失礼だぞ、物間!」

 すかさず拳藤さんが窘めた。

「本当のことだろ?」
「物間くん……」

 アングラヒーローにも詳しいみたいだけど……

「本当ごめん、結月。こいつ失礼なことばっかで……」
「相澤先生はね、ちょっとじゃなくてだいぶ変わり者だよ!」
「「………………」」

 隙間時間は常に寝袋持参で寝てるし、見た目も不審者だし、やたら合理性を突き詰めてるし。

「でも、生徒を命がけで守る良い先生だよ。私は相澤先生を尊敬してる」

 それは本心。笑って言えば、B組の面々もふっと笑顔になった。

「だってよ、物間」
「泡瀬うるさいな。まあ腐ってもプロヒーローって……痛っ」
「あんな包帯ぐるぐる巻きなのは、体を張った証だもんな」
「もしかしてさ、理世の首に巻かれた包帯って……」

 ナチュラルに下の名前で呼んできたな、回原くん。まあいいけど。

ヴィランの一人に首絞められてね〜……結構私は命がけだったよ」

 苦笑いを浮かべる。

 ヴィラン襲撃事件で聞きたいことがあれば話すよと言うも、その事情を知った後ではさすがに皆は控えめだった。
 私も武勇伝みたいな話は残念ながらないし。
 尾白くんみたいに一人でヒット&アウェイで頑張ってたら、大いに語ってたけど。
 それでも、盛り上がったのはオールマイトの活躍だった。

「やっぱ、オールマイトはすげえな!」

 身を乗り出す円場くんの言葉にうんうんと皆頷く。
 No.1ヒーローオールマイトは、多くの人たちの憧れの対象だ。改めて考えると、オールマイトの本気の戦いを間近で見られた事は、大きな経験値だったかも知れない。

「取蔭ちゃんは推薦入学者なんだね〜」

 話も変わり、推薦入学者の話題。

 取蔭ちゃんが言うには、八百万さんと轟くんはその"個性"からしてもやっぱり目立ってたとか。

「あと、もう一人は向こうにいる骨抜柔造」

 そう言って、取蔭ちゃんは奥を指差す。
 その男子生徒は色素が薄いブロンドの髪に、顔がちょっと骸骨のような強面……

「まァ、一位のヤツが辞退したから繰り上げなんだけどな」

 前言撤回。こっちに気づき、手を振ってにっこりと笑った顔は穏和だ。

「拳藤さんがB組の委員長なんだ」

 飯田くんや八百万さんとはまた違ったタイプの委員長。

「まあね。あと名前、呼び捨てでいいよ。さん付けってなんかくすぐったいし」
「じゃあ一佳!」
「いいね!じゃああたしも理世って呼ぶな」

 一佳は少し話しただけでも、竹を割ったようなさっぱりした性格で話しやすい。


「楽しい時間はあっという間ですね」
「もっと結月ちゃんと話したかったけど、残念」

 塩崎さんと取蔭ちゃんの言葉通り、休み時間もそろそろ終わりを告げる。

「またご飯一緒に食べような!」
「うん、ぜひ!」

 一佳の言葉に笑顔で答える。

「こっちは大歓迎だけど、同じクラスの奴らがすげー見てるけど大丈夫か?」
「本当だねぇ」

 泡瀬くんの指差す方を見ると、見知った面々がこっちをじーと見ていた。
 特に上鳴くんと三奈ちゃんの圧がすごい。

「良いのかい?クラスへの手土産に僕たちの"個性"を教えなくて」

 物間またお前は……って、呆れ顔をする一佳。

「聞いたら教えてくれるの?」
「ヒントぐらいなら教えてあげても良いよ」

 物間くんはニヒルな微笑を浮かべる。

「ふふ、みんなの"個性"は本番まで楽しみにしておくね〜」

 ああ、でも。

「お昼に混ぜてくれたお礼に、私の"個性"は教えてあげる――」
「っ!消えた……?」
「違うよぉ、君の後ろに移動したの」

 振り返る物間くんの顔は、驚いたようなくやしいような。それでいて余裕の笑みを浮かべようと、ひきつった複雑な顔になっていた。(イケメンが台無しだねぇ)

「私の"個性"は《テレポート》」
「君……!わざと僕の背後に現れたね!」
「さあ?どうかなぁ」

 くすくすと笑う。背後を取るのが私の専売特許ではあるけどね。

「自分だけじゃなく、触れた物もテレポート出来るよ。こんな感じに」

 おぼん、コップ、お椀……と順に触れて返却口へとテレポートさせた。

「どういうつもりだ?そんな易々と手の内を明かしてさ」
「ただのお礼だってば、物間くん」

 これぐらい、手の内とも呼べないし?

「じゃあ、私行くね〜。体育祭、お互い頑張ろ!」

 あ、どこかで見かけたら気軽に声をかけてね――最後にそう付け加えて、A組クラスメイトたちの元へ戻る。

 皆は興味津々な顔をして出迎えてくれた。

 ***

「鉄哲の言う通りだったね。可愛い顔してやり手だわ、ありゃ」
「……ん。中身はちょっと取蔭に似てるかも……飄々としてる所……」
「体育祭、待ち遠しいな!!負けられねえ!!」
「テレポートか……珍しい"個性"だな」
「可愛かったなぁ……」
「ちょっとイメージと違ったけど、有り!」
「お礼だってぇ?つまりは"個性"を知られても問題ないという僕への挑戦状!!」
「それはちょっと自意識過剰じゃない?物間」

 ***

「ねーねーB組と何話してたの、結月!」
「結月が拉致られたのかと思って心配してたんだぜ!」

 案の定、三奈ちゃんと上鳴くんが真っ先に話しかけて来た。

「んー……自己紹介と他愛のない話かな。担任の先生はどんなとか」
「"個性"の話とかはしなかったのー?」
「うん。だって、体育祭の楽しみにしたいし」

 そう言うと「なぁんだ」と三奈ちゃんはがっかりした顔をした。

「絶対、スパイだーって思ってたのに」
「やっぱりスパイなら私の出番っしょ!!」

 確かに透ちゃんの"個性"ならスパイ向きではあるけど、
「葉隠さんの場合、倫理的な問題が……」
 苦笑いを浮かべた尾白くんが思っていた事を言ってくれた。

「でも、結月さんは"個性"を見せてなかった?」

 そのままこちらに振り返り、尋ねる尾白くんに。

「うん。お昼に混ぜてくれたお礼に。見せても問題ないしね」
「君のその自信が羨ましいよ」

 にっこり笑って言えば、彼は眉を下げて笑った。


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