雄英体育祭開幕

「雄英に来るのも久しぶり――て、感じでもないか」
「卒業してよもやすぐに訪れるとは」
「理世ちゃんの活躍がリアルタイムで見れないのは残念だけど、僕らは警備をしっかり行おう」
「無論。与えられた依頼はこなす。この世に悪意を阻止する術があるとするなら、それは唯一報復だ。ヴィランが再び侵入しようものなら罪科と恐怖を敵に刻み付けるぞ、人虎」
「ちょ芥川!雄英がヴィランに襲撃されて怒ってるのは分かるけど!僕たちはプロヒーローなんだから、いい加減物騒な発言やめろって」
「お前らは卒業してもまだ、"足の引っ張りあい"をやってんのか」
「「相澤先生……!!?」」


 ――雄英体育祭、本番当日。


『群がれマスメディア!今年もお前らが大好きな高校生たちの青春暴れ馬……雄英体育祭が始まディエビバディアァユウレディ!!??』

 警備強化として全国から集めたプロヒーローの中には、敦くんと龍くんにも依頼が来て、警備をしているという。
 基本の活動地区は横浜近辺だけど、依頼が来たのは二人が卒業生という事もあるのだろう。
 中也さんも会場にいるみたいだし、私も頑張って活躍しないと!(の前に……)

 控室に向かう通路で、爆豪くんを捕まえ話しかける。

「爆豪くん。代表挨拶、宜しくお願いね〜?」

 選手代表の挨拶文を考えたのは私だ。
 その代わり、打ち合わせ通りにやってねと彼に約束を取り付けた。(打ち合わせ一回もやってないけど)
 間違っても周りを煽ったり、余計なことはしないでねという意味で釘を刺しておく。

「わーってる。何度も言うな」

 適当に返事する爆豪くん。君一人なら煽ろうが暴れようが全然構わないんだけどね……。(……あれ。爆豪くんがキレなかった?もしや緊張している?いや、それはないか)

「皆、準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
「飯田くんがいつも通り委員長をやっているのを見ると落ち着くよ〜」
「そうか?俺は常に委員長として恥じぬ働きを心がけているぞ!」
「コスチューム着たかったなー」
「公平を期す為、着用不可なんだよ」

 各々好きなように待機する中、私は心臓が飛び出しそうにしているでっくんに話しかけた。

「でっくん、緊張するね〜」
「結月さん!……って、結月さんは全然緊張してるように見えないけど……」
「そんなことないよ〜口から心臓が飛び出さないだけで」
「あはは……本当に飛び出したら怖いけどね」

 控えめにでっくんは笑う。少しでも緊張が解れればなぁって思ったんだけど……ん?
 轟くんがこちらに向かって歩いてくる。ちらりと私を一瞥した。

「緑谷」

 用があるのは隣のでっくんらしい。話の続きを促すように、一歩二歩と、後ろに下がる。

「轟くん……何?」
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん……」

 宣戦布告?牽制?轟くん、唐突に切り込んで来たなぁ。

「お前、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねえが……お前には勝つぞ」
「おお!?クラス最強が宣戦布告!!?」

 そう興奮気味に言ったのは上鳴くんだ。上鳴くんだけでなく、他の人達も二人のやりとりに注目している。

「急にケンカ腰でどうした!?直前にやめろって……」
「仲良しごっこじゃねえんだ。何だって良いだろ」

 止めに入ろうとする切島くんの手を、轟くんは払い退けた。
 ケンカを売っているというよりは……

「轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのか……は、わかんないけど……」

 おずおずとでっくんは口を開く。

「そりゃ君の方が上だよ……実力なんて、大半の人に敵わないと思う……客観的に見ても……」
「緑谷もそーゆーネガティブな事、言わねえ方が……」
「でも……!!」

 切島くんの言葉を大きく遮った。

「皆……他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって遅れを取るわけにはいかないんだ」

 ――僕も本気で獲りに行く!

(……毎度、でっくんには驚かされるね)

 力強い眼差しは強い決心の現れ。以前、海で見た、弱気な姿はもういない。

「おお」

 少しの沈黙の後、そう一言だけ轟くんは返した。
 控室は、いつの間にか静まり返っていた。

「皆ーー!!入場だーー!!」

 突如響いた空気を読まない声。ちょうど入場時間が来たようだ。交通案内よろしく腕を大きく振り、控室から出るように飯田くんは促す。

 止まっていた時間が動き出すように、皆一斉に控室を出て行く。

「切島くん、私たちも行こ」
「お、おう!」

 二人のやりとりに呆気に取られていた切島くんに呼びかけ、並んで会場に向かった。

「切島くんって、素で良い人だよね」
「え?」

 入場口に続く暗い通路を歩きながら、隣を歩く切島くんに話しかける。

「クラスのムードメーカーで、まとめ役っていうか。爆豪くんとも普通にコミュニケーション取っててえらいし」
「いや、それ言うなら対等に掛け合ってる結月のがすげーと思うけど……」

 今もでっくんと轟くんの不穏な様子を察知して、真っ先にフォローしようとして。
 ヴィラン襲撃の時、心配して真っ先に駆け寄って来てくれたのも切島くんだ。
 他の場面でもちょいちょい周りをフォローするような発言をしたり、行動してくれている。(本人は無意識なんだろうけど)

「今も余計なお世話だったつーか、結局俺なんもしてねーし。かっこわりぃよな」

 ばつが悪そうに笑う切島くん。

 そして、意外に謙虚なんだよねぇ……。確かに今回は結果的にフォローは必要なかったかも知れないけど。切島くんみたいな人がいるから、クラスは上手く回っている。

「そんな風に思ったこと、私はないけどね。……あ!じゃあこの体育祭で切島くんのかっこいい活躍、楽しみにしてるねっ」

 パンと手を合わせて、思い付いた事を言った。

「無茶ぶりかよ!」

 切島くんは苦笑いする。

「代わりに、私も可愛いってだけじゃないところ見せるよ」

 にっと不敵に笑ってみせる。私たちも負けられない、そんな意味を込めて。

「っ……んなこと知ってらー!!よっしゃ!俺の男気見せてやるぜ!!」
「お〜!!」
「なになに?なんで二人で盛上がってんの!?アタシも混ぜろー切島ー!!」

 やっぱり、切島くんはうちのクラスの熱血キャラじゃないと!


『雄英体育祭!!ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!』

 実況はもちろん、プレゼント・マイク先生だ。声が通路までよく聞こえる。

『どうせ、てめーらアレだろ、こいつらだろ!!?ヴィランの襲撃を受けたにも拘わらず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!!』

(雄英自体がA組をめちゃくちゃ持ち上げてるし、これじゃあ他が面白くないのも当然か)

『ヒーロー科!!1年!!!』


 A組だろぉぉ――!――!――!!?


 明るい光に視界が開ける。その言葉と共に会場に入場すれば、湧き起こった大きな歓声に出迎えられた。

「わあああ……人がすんごい……」
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか……!これもまたヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」
「めっちゃ持ち上げられてんな……なんか緊張すんな……!なァ爆豪」
「しねえよ、ただただアガるわ」
「人が豆粒のようだ……」
「どっかで聞いたことあるセリフだと思ったらちょっと違ってたわ」
「でも、理世ちゃんの言ってることはあながち間違ってないわね」

 なんてたって、スタジアムの収容可能人数は日本一の約12万人。
 その広さに観客席の人たちが豆粒にしか見えず、歓声は洪水のようでちょっと頭に響く。
 規模が本場アメリカン並みで、いかに雄英がこの体育祭に力を入れているのか分かる。
 そして、毎年満席。ヴィランごときに中止に出来ないわけだ。

『B組に続いて普通科、C・D・E組……!!!サポート科F・G・H組もきたぞー!そして、経営科……』

「俺らって完全に引き立て役だよなぁ」
「だるいよねー……」

 近くからそんな不満の声が聞こえてきた。

 誰もが皆、あの宣戦布告の普通科の人みたいに、ヒーロー科への転入を狙っているわけじゃないらしい。
 半数以上がつまらなそうで、不満げな顔。

 すべての科とクラスが揃うと、1年主審の先生が登場する。今年は……

「選手宣誓!!」

 18禁ヒーロー《ミッドナイト》

 ぴしゃりとムチの音を立てる姿はどう見てもS……いや止めよう。
 それにしてもあの格好すごい……どういう構造になっているんだろう。スタイルが良いから様になってるけど。

「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」

 常闇くんの正論なつっこみに速攻峰田くんが答えた。そりゃあ君はね……。(保護者からクレーム来ないのかな)

「静かにしなさい!!選手代表!!」

 おっと、名前が呼ばれる。

「1−A、爆豪勝己!!同じく1−A、結月理世!!」

 爆豪くんの後に続いて壇上に上る。

「え〜かっちゃんなの!?」結月さんはわかるけど!
「あいつ、一応入試一位通過だったからな。結月は実技入試が爆豪と同率1位で、なんでも優秀だったかとかで校長からのご指名とか」

 瀬呂くん説明ナイス!本当の事は言っていないけど、嘘ってわけでもないよね。
 壇上に立つと、気を引き締めるように小さく深呼吸をした。

 観戦席に、全一年生徒たち――。

 この場にいる全員からの視線を、一身に浴びる。何はともあれ、与えられた仕事はきっちりやらなくちゃ。

「選手宣誓。私たちは……」
「せんせー俺が一位になる」

 ……………………。

「「絶対やると思った!!」」

 いや、私もやると思ったよ!?やりそうだなと思ったからあんなに牽制したのにぃ!!

「調子のんなよA組オラァ」
「何故、品位を貶めるようなことをするんだ!!」
「顔が可愛いからって調子乗っちゃって」

 ちょっと今言ったの誰!?私なんもしてないよ!

「ヘドロヤロー」

 それはもっと言ってやって。

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 クイっと親指で首を切る仕草をする爆豪くん。どこまでも煽るね君!?

「爆豪くん……。君、約束を破る男とは思わなかったよ……」
「約束をした覚えはねえからな。それに、どうせテメーはオマケだろ」
「……!(う、バレてた!妙に鋭いんだからぁ……)」

 そして、さっさと戻る爆豪くん。この状況で一人置いていくの……!!

「すみません、ミッドナイト先生。仕切り直しを……」
「盛り上がったからOKよ!!」
「…………。(そうだった。この学校はなんでもありな自由さが売りだった)」

 壇上を降りると、気分も一緒に落ちていく気がする……。

「私、絶対いらなかったよねー……」
「そ、そんなことありませんわ!」
「そうだよ!結月、どんまい!!」
「災難だったってだけで」

 側にいた八百万さんに三奈ちゃん、耳郎ちゃんに続いて皆が励ましてくれた。ありがとう。私が校長の気まぐれで選ばれたオマケだとしても、爆豪くんがA組全体を巻き込んだのには違いない。

 どこかできっちりこのお返しはしてやる――と、胸に刻む。

「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう」
「雄英って何でも早速だね」

 そうだね、お茶子ちゃん。

「いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわティアドリンク !!さて、運命の第一種目!!今年は……」
「早速ではないよね」

 そうだね、耳郎ちゃん。(ティアドリンク?)

「コレ!!!」

 近未来的なモニターに映し出されたのは。

「障害物競争……!」
「計11クラスでの総当たりレースよ!コースはこのスタジアムの外周約4q!」

 第一種目、早速私の"個性"が有利な種目、と思いつつ。
 雄英による障害物競争だ。
 何か仕掛けてあるだろうなぁ。だとしても、遅れを取るつもりはないけど。

「我が校は自由さが売り文句!ウフフフ……コースさえ守れば"何をしたって"構わない!」

 何をしたって、ねえ。私の場合、うっかりコースから外れないように気を付けないと。空から行ったら反則になりそう。

「さあさあ、位置につきまくりなさい……」
(つきまくりなさい?)

 ちょいちょい言葉のチョイスがおかしいミッドナイト先生。
 機械仕掛けのように左右に開き、スタートゲートが現れる。

 この人数に対して圧倒的に狭い。

 入試の時といい、すでにスタート地につく勝負は始まっている的な。(まあ、私は後ろの方で良いけど。もみくちゃにされたら嫌だし)

 上の方に三つ並ぶライトがあり、全部消えたらスタートのようだ。

 3……2……

『スターーーーーーート!!』
「ってスタートゲート狭すぎだろ!!」
(分かりきったことだけどね)

 予想通りゲートで大混雑。ムダな体力は使いたくないし、もう少し風通りが良くなってからスタートしようかな。

「結月さん、さすがの余裕っぷりだね。結月さんの"個性"が有利な種目で羨ましいよ」
「あ、物間くん。この間のお昼以来だね」

 挑戦的なニヒルな微笑を浮かべる、色素薄い系男子こと、物間くんだ。口ではそう言っていても、羨ましくは思ってなさそう。

「そういう物間くん"たち"も、後方にいるってことは同じなんじゃないの?」

 物間くんだけじゃなくて、何名か見知った顔もそこにいる。取蔭ちゃんや唯ちゃん。たぶん、他の人たちもほとんどB組の人たち。

 ああ、なるほど。

「クラスそろって小手調べね。クレバーだねぇ、もしかして物間くんの作戦?」
「まあ、全員の総意ってわけじゃないけど。ミッドナイトの言葉をちょっと考えればこの種目の真意が分かるよね?君以外のA組はバカみたいに走って行ったけど」

 この予選では初っぱなから極端に数を減らすとは考えにくい。おおよその目安を仮定し、その順位にならないように走りつつ、後方からライバルたちを観察する……ってところかな。

「それはどうだろうね」

 意味深に笑って言う。確かに物間くんのそれは賢いやり方かも知れない。だからと言って、A組の皆がバカというわけではない。

「実力を知られたところでも、相手の実力を知らないのも、問題ないからかも知れないよ?」

 まあ、皆はそんな事を考えて走ってはいないだろうけど。絶対。

「っ!やっぱりあの時のあれは僕への挑戦……!」

 挑戦……?なんかあったっけ?

「せいぜい君は……」
「あ、物間くん、前空いて来たから私もう行くね!」

 じゃっとテレポートで前へ進む。やっぱりこの"個性"を持つからには上位にいかないと!


「……本当に調子に乗ってるよね。僕を無視するなんて!」
「……物間、どんまい」
「はあ!?なんで僕が励まされるのか意味不明だね!!」
「ほら、行くぞー物間」


 うわぁ、ご愁傷様――。ゲートを抜けてすぐ、漂う冷気に、足元が凍って動けない人たちが目に飛び込んできた。

『さーて実況してくぜ!解説アーユーレディ!?ミイラマン!!』
『無理矢理呼んだんだろが』
(ミイラマン!!)

 スタートしてから、わずか数分の轟くんによる妨害。最初のふるいってわけか。相変わらず容赦ないなぁ。

「甘いわ、轟さん!」
「そう上手くいかせねえよ半分野郎!!」

 前方から八百万さんと爆豪くんの声。この様子だとA組クラスは皆やり過ごしたようだ。
 まあ、同じクラスで轟くんの"個性"は把握済みだから当然だよね?

 状況を把握するため、一気に進まず、短い間隔でテレポートして進む。
 A組以外も、思ったより轟くんの妨害を避けたようだ。

「使いなれてんなあ、"個性"」
「……?(なにあれ、殿様?)」

 途中、あの宣戦布告して来た一般科の人を目撃した。
 他の人たちに担ぎ上げられてコースを行く姿はどこぞの殿。
 良いご身分だな――て、もしや"個性"によるもの?

「クラス連中は"当然"として、思ったよりよけられたな……」
「――スタート時から仕掛けて来たねぇ、轟くん」
「っ、結月か」

 轟くんの隣にぱっと現れるようにテレポートした。
 大体皆これで驚くけど、轟くんは少し目を見開いただけ。
 元々冷静な性格もあるけど、私の"個性"ならどこかで来る事は分かっていたのだろう。

「轟のウラのウラをかいてやったぜ、ざまあねえってんだ!くらえオイラ必殺……」

 ――GRARE……!!

「?あれ、今何か……」

 というか誰か飛んでいったような……

「気のせいだろ。それより」

『さぁ、いきなり障害物だ!!まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 コースを塞ぐようにどこからか現れた、超巨大なロボットたち。
 
「入試ん時の0Pヴィランじゃねえか!!!」
「マジか!ヒーロー科あんなんと戦ったの!?」
(いや、ほとんどの人たちは逃げてたよ。私が知る限り)
「多すぎて通れねえ!!」

 そう、問題は多すぎる。後ろにもぞろぞろいるし、障害物というよりもはや巨大ロボットの壁。

「どこからお金出てくるのかしら……」

 追い付いて来た人たちの中から、八百万さんが不思議そうに呟いた。セレブの彼女が疑問に思うぐらいだ。さすが雄英、規格外のお金のかけよう。

「一般入試用の仮想ヴィランってやつか……確か、緑谷はアレをぶっ飛ばしたって言ってたよな」
「あ、うん。空高く跳んで、拳一つでこう……ぶっ飛ばしてたよ、でっくん」

 殴る再現をしながらありのまま言うと、轟くんは視線を私から、ロボ・インフェルノに移した。

 色違いの瞳が強く見据えている。

 爆豪くんも轟くんも、でっくんへの対抗心がすごいのは何故なのか。

「せっかくなら、もっとすげえの用意してもらいてえもんだな」

 そう言って轟くんは姿勢を下げ、地面に右手を付けた。
 一気に彼の周りの気温が下がる。
 巻き添えを食らう前にジャンプのようにテレポートして回避。再び足を着いた時には、辺り一帯、氷漬けになっていた。(相変わらずすごい威力……)
 
 ロボ・インフェルノがこちらを標的にし、襲いかかって来るけど、轟くんはまだ動かない。

 タイミングを見計らっているんだ。

「クソ親父が、見てるんだから」
「!(お父さん?でっくんじゃなくて?)」

 吐き捨てるように言いながら、右手を掬い上げるように――。氷の津波がロボ・インフェルノを襲い、一気に凍りつく。
 私でも間近でこれを受けたら、避けられないかも……。凍ったところでテレポートで脱出は可能だけど。

 それより、轟くんの口から突然出てきた父親の存在が気になった。(あの言い方は……不仲、なのかな……)

「あいつが止めたぞ!!あの隙間だ!通れる!」

 その場にいた人たちが唖然とする中、二人の見知らぬ生徒が飛び出す。
 その後ろを続くのは、切島くんと鉄哲くんだ。

「やめとけ。不安定な体勢ん時に凍らせしたから……」

 颯爽と走り抜けながら轟くんが言う。

「倒れるぞ」

 先程、タイミングを見計らってた狙い。足元を凍らすのならまだしも、えげつない。
 ロボ・インフェルノが地面に倒れて、大きな衝突音が周囲に響いた。

「――ふぅ、危なかったねぇ」

『1−A 轟!!攻略と妨害を一度に!!こいつぁシヴィー!!!すげえな!!一抜けだ!!アレだな、もうなんか……ズリィな!!』

「……あ、あれ?」
「……?俺たち無事?」

『おっと、さりげな過ぎて見落とすところだったぜ!普通科生徒を救出したのは1−A、結月!!希少なテレポートの"個性"の持ち主だ!!超便利!!ヒーロー科として恥じぬ働きもまたアリだぜーー!!』

(いやいや、むしろそっちの方が前提じゃないの!?)

 何はともあれ、今カメラに抜かれていると思うから、それっぽいカメラロボにヒラヒラと手を振ってみせる。

『体育祭での理世の活躍、楽しみにしてる……!』

 電話越しの声を思い出す。そんな小さな激励をもらったなら、応えないわけにはいかない。


- 19 -
*前次#