この二人の場合

※代表挨拶小ネタ


「……別に"個性"が使えなくなったわけじゃないから安心しろ」

 包帯から覗く相澤先生の目が、少し和らいだ気がした。見えてるみたいだから、大丈夫って事なのかな……。

「それより……ついでだ。おまえに伝えて欲しい事がある」
「?」

 伝えて欲しいこと?

「今年の体育祭の一年選手代表の挨拶なんだが、推薦一位のやつが辞退してな」

 そういえば、轟くんが一位は別にいるみたいなこと言ってたっけ……。
 せっかく推薦入試でトップの成績で合格したのに、雄英を蹴るなんて何か深いワケがありそうだ。

「繰り上げで、轟。つまりは一年選手代表の挨拶は爆豪と轟になった」
「……なんか水と油みたいな組み合わせですね」

 混ざらないし、混ぜるな危険的な。

「最初はバランスよく男女で八百万だったんだが、世のイケメンブームに乗って、二人にしようと校長のご判断でな……」
(校長!!)

 確かに二人はイケメンではあるけど……そう説明した相澤先生の目が死んでいる。(まさか先生の口から「イケメンブーム」という言葉が出るなんて……!)

「そこは絶対、八百万さんの方が良かったと思います」
「奇遇だな。俺も同意件だ」

 なんでもメディア向け優先らしい。まあ、スポンサーは大事という事で……。

「てなわけで、轟にこの事を伝えておいてね」
「私がですかぁ?」

 不服そうに言ったら「おまえ、隣の席だろ。若干」と返された。
 確かに隣の席だけど、若干。

 まず、轟くんとまともに話した事がないし。


 食堂に来ると相変わらずの賑わいっぷりだ。
 お茶子ちゃんたちを探すのも面倒なので、適当に空いてる席に座る事にした。(今日は長崎ちゃんぽん。酢をたくさん入れて食べるのが好き)

「あっ轟くんだ!」
「……」
「ここ、席空いてる?」
「……あぁ」

 冷蕎麦をすすっている轟くんの了解を得て、前の席に座る。
 お蕎麦とは大盛りみたいだけど、食べ盛りの男子にしては渋いチョイスだ。

 まあ、でもちょうど良かった。

「轟くん、相澤先生から伝言を預かっているんだけどね」
「伝言?なんだ?」
「今年の体育祭の一年選手代表の挨拶は、爆豪くんと轟くんなんだって」
「…………」
「何でも、推薦一位の人が辞退したから繰り上げて轟くん」
「…………」
「そんな嫌そうな顔、私にされても」

 蕎麦をすすりながら、めっちゃ眉間にシワ寄せてる。

「……興味ねえ」
「だろうねぇ〜」
「辞退すると伝えておいてくれ」
「いや、私、伝書鳩とかじゃないから。それにたぶん、校長のご意向みたいだから轟くんに拒否権ないんじゃないかな〜」
「……………………」


 だから、私にそんな顔をされても!


 ――そして、迎えた当日。


 控室ではなんやかんやあって。入場ではやたらA組が持ち上げられて。
 ヘイトの的になりそうだなぁという雰囲気の中。

「静かにしなさい!!選手代表!!」

 その時は来た。
 
「1−A、爆豪勝己!!同じく1−A、轟焦凍!!」

 ミッドナイト先生に呼ばれた、爆豪くんと轟くんが壇上に上る。

「え〜かっちゃんなの!?」轟くんは分かるけど!
「あいつ一応入試一位通過だったからな。轟は推薦入試枠だな」
「推薦入試、他にトップがいたけど、その人が辞退したから繰り上げで轟くんになったんだって」

 瀬呂くんの言葉に補足。
 まあ、あれだね。壇上に二人が並んで、女子の黄色い悲鳴がどこからか飛び交う。

「選手宣誓。僕たちは……」
「せんせー俺が一位になる」

 ……………………。

「「絶対やると思った!!」」

 さすが爆豪くん。期待を裏切らない!
 隣の轟くんは口を閉ざして、やれやれと呆れている様子。

「調子のんなよA組オラァ」
「何故、品位を貶めるようなことをするんだ!!」
「イケメンだからって調子に乗りやがって」

 ……それは関係ないんじゃないか。

「ヘドロヤロー」

 それはもっと言ってやって。

「やーい!ヘドロヤロ〜」
「クソテレポぶっ殺す」

 なんで私だけ!?

「せめて跳ねの良い踏み台になってくれ」

 クイっと親指で首を切る仕草をする爆豪くん。どこまでも煽るね〜君。

「テメェもだ、半分野郎!!」

 次に隣にいる轟くんにも、クイっとやる爆豪くん。

「……俺は踏み台じゃねえからならねえ」
「アァ!?」
「物理的に無理だろ……」
「物理の話じゃねえ!なに呆れ顔してんだ!呆れてんのはこっちだわ!」
「それと、選手宣誓の挨拶を考えて来てたんなら先に言え」
「考えて来てねえわ!!俺があーだこーだ考えて宣誓したと思ってんのか!クソダセェだろうが!!」
「?違うのか」
「テメェ……今ここでぶっ潰してやろうか!?」
「爆豪、勝負は壇上じゃなくて競技でするんだ」
「アァア……!!」
「「……………………」」


 ――私たちは、一体、何を見せられているんだろう。

 あのぅ、ミッドナイト先生、そろそろ止めた方が……。
 私が代表して言うと「面白そうだからもう少し見てみましょう」というこれぞ雄英教師らしい自由な言葉が返ってきた。


 ***


「――爆発音!?ヴィランか!?」
「これ……花火じゃないか、芥川。景気よく見せるのに打ち上げることにしたのかなあ」


 第XX回、雄英体育祭1年ステージ。

 史上初、体育祭が始まる前に瞬間最高視聴率を記録したらしい。


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