神出鬼没のテレポートガール

『第一種目は障害物競争!!この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!!』
「おい」
『ルールはコースアウトさえしなけりゃ何でもアリの残虐チキンレースだ!!各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!』
「俺いらないだろ」


 ――さて。ロボ・インフェルノの残骸の上にテレポートする。

 切島くんが下敷きになってたけど、あの"個性"だから無事だろう。もう一人、一緒に走ってた鉄哲くんは大丈夫か。(見た目は丈夫そうに見えるけど)

「お、おい誰か下敷きになったぞ!!」
「死んだんじゃねえか!?死ぬのかこの体育祭!!?」
「死ぬかぁーーー!!」
『1−A 切島潰されてたーーー!!』
 
 残骸の下から勢いよく切島くんが飛び出した。あ、思ったより元気そう。ばっちり硬化している。

「轟のヤロウ!ワザと倒れるタイミングで!俺じゃなかったら死んでたぞ!!」
「だよねぇ!」

 私がいなかったら、あの普通科の生徒たちも危なかったんだから。(まさか、それを見越して倒したんじゃ……?)

「おっ結月!」
「切島くん、そこから出るの手伝おうか?」

 テレポートでちょちょいと。

「A組のヤロウは本当嫌な奴ばかりだな……!」
「「ん?」」
「俺じゃなかったら死んでたぞ――!!」
『B組、鉄哲も潰されてたーーー!!ウケる!!』
(……女子高生?)

 切島くんと同じように、勢いよく残骸の下から飛び出してきたのは鉄哲くん。

「B組の奴!!」
「鉄哲くんっ!無事で何より!」

 あれ?鉄哲くんの"個性"って、もしかして……

「おぅ、結月!A組のヤロウは本当嫌な奴ばかりだな!!」
「うん、それさっき聞いた」
「"個性"ダダ被りかよ!!ただでさえ地味なのに――!!」
「あっ切島くん!」

 そう叫びながら切島くんは、キラリと涙を光らせ走り去ってしまった。
 そんなに地味なの気にしてたのね……。(確かにダダ被りは嫌だけど)

「同じ"個性"だと……!!あいつには負けられねぇ――!!」

 鉄哲くんもその後ろをすぐさま追いかける。
 その"個性"で下敷きになっても大丈夫だったとはいえ、二人とも元気過ぎない?

「良いなあいつら……潰される心配なく突破できる」
「とりあえず、俺らは一時協力して道拓くぞ!」

 ほう、一時協力。他の人の"個性"を把握するのに持って来いだ。(物間くんじゃないけど、皆の"個性"はやっぱり気になるし)

 観察しやすい頭上に向かう。

(……ん。この派手な音は――)

 続けざまに響く短い爆発音は、だんだんと近づいて来る。

『1−A爆豪、下がダメなら頭上かよー!!クレバー……ってアレ!?上にはいつの間にA組、結月の姿がいるぞ!!あんな所に座って何してんだ!?』
『他の生徒たちの"個性"を観察してんだろ』

 相澤先生、その通りです。ロボットの頭の上で、足を組む。休憩タイムもかねてね。まあまだそんなに体力使っていないけどね!

 どこからか「馬鹿と煙は高い所が好きって言う諺あるよね!」そんな物間くんの声が聞こえた気がするけど、ここから地上は離れているしまあ気のせい。

「あれー?爆豪くん、てっきり前にいるのかと思ってた〜」
「アァ!!?テメェこそ、ちんたらしてねぇでさっさと行けや!!」
「そうだねぇ、爆豪くんの先行っちゃうと思うけど」
「俺の前に出たらブッ殺す!!」
「どっちなの?」

 俺の後ろをついて来いってこと?亭主関白か!

「おめーこういうの正面突破しそうな性格してんのに、避けんのね」
「便乗させてもらうぞ」
「あ、瀬呂くんに常闇くん」
「結月?何してんだ?」
「敵情視察」
「なるほど。高みの見物か」
「そんなとこ?」

『一足先行く連中、A組が多いなやっぱ!!』

 ……――A組の面々に活躍が多く見られるのは、同じヒーロー科のB組が実力を出し惜しみしているのも大きいだろうな。物間くんの策略で。
 賛同しなかったらしい塩崎さんの"個性"の茨の髪や、骨抜くんの地面を柔くする"個性"など、侮れない実力なのは確か。

「くっそー……やってらんねぇ!」
「とにかくゴールだけはしておこうぜ」

 意外にパッとしないのは普通科だ。

 あの宣戦布告を言って来た人みたいに、もっとグイグイ来るのかと思ったんだけどな。

(むしろ……。"個性"を使いこなしてない、でっくんの方がよっぽどガッツがある)

 落ちてた装甲を拾って、ロボットを倒している姿が目に映る。初っぱなから"個性"を使うのはリスクが高いから……

「っと」

 八百万さんが創った大砲がロボ・インフェルノに当たり、一緒に巻き添えになる前に――宙にテレポートして回避した。

「チョロいですわ!」

 勇ましいな、八百万さん。(ジャージはだけてるけど……)

 半分ぐらい宙に落ちたところで、テレポートを繰り返し、再び前に進む。

 さーて、先頭の轟くんは「どこまで」進んだかな?


『オイオイ第一関門チョロイってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!』


 ザ・フォーーーーーール!!!


 谷&島。島間に渡してあるロープを辿って、向こう岸まで渡れというやつ。
 小島までテレポートして、その都度渡っても良いし。なんなら空中でテレポート移動するし。第二関門もチョロい的な。

(落ちればアウトって、これ落ちたらどうなるんだろう)

 なんか無駄に谷底深そう。

「大げさな綱渡りね」

 そう言って梅雨ちゃんは、ぴょーんと飛んだ。
 両手両足を使って、ヒタヒタと綱を渡って行く。
 簡単そうに渡っているように見えるけど、結構なバランス感覚が必要だ。

「さすが梅雨ちゃん!器用だね〜。じゃあ次は三奈ちゃん行ってみよう!」
「結月、自分が簡単に飛び越えられるからってズルいー!!」

 だって、三奈ちゃんの運動神経なら楽々渡れるでしょー?

「理世ちゃん……!私がもし落ちたら、その屍を越えて行って……!!」

 お茶子ちゃん。やる気に満ちてるのは分かるけど、戦場に行くみたいな顔になっているよ!(自分を浮かせられるよね?)

「フフフフフフ。来たよ来ましたアピールチャンス!」
「「?」」

 そんな笑い声が聞こえ、そちらに振り向く。

「私のサポートアイテムが脚光を浴びる時!見よ、全国のサポート会社!ザ・ワイヤーアロウ&ホバーソール!!」

 全身、メカで装備している女子がそこにいた。
 なんかちょっと怪しい雰囲気。マッドサイエンスト的な。

「サポート科!!」
「なるほど、サポートアイテムね」
「えーアイテムの持ち込みいいの!?」
「ヒーロー科は普段から実践的訓練を受けてるでしょう?"公平を期す為"、私たちは自分の開発したアイテム・コスチュームに限り、装備オッケー!と言いますかむしろ……」

 アイテムルールが知らなかった三奈ちゃんに、サポート科女子は説明してくれる。

サポート科わたしたちにとっては、己の発想・開発技術を企業にアピールする場なのでスフフフフ!!」

 説明中、彼女の横腹辺りに着けた装備から、いきなりワイヤーが飛び出した。

 それは遠く離れた小島に刺さる。

「さあ見てできるだけデカイ企業――!!」
(本音ただ漏れ!逆に清々しい!)

 叫びながら、崖から飛び降りたサポート科女子。

「私のドッ可愛いぃ……」
(ドッ可愛い?)

 刺さっているワイヤーに引き寄せられ、というか、むしろこのままだと崖に激突するんじゃ。

「ベイビーを――!!」
(ベイビー?)

 ボワっと足の装備が衝撃を受け止め、崖に着地。
 そのまま滑るように登っていった。

「すごい!負けない!」
「くやしー!悪平等だ!」
「思ったよりすごかった……!」

 てっきり見かけ倒しかと。

『実に色々な方がチャンスを掴もうと励んでますね、イレイザーヘッドさん』
『何足止めてんだ、あのバカ共』

 イラついた相澤先生の声がやけに鮮明に聞こえた。まあ、面白いもの(サポートアイテム)も見させてもらったし?
 相澤先生がお怒りだから私もそろそろ行くかぁ。

『さあ、先頭は難なくイチ抜けしてんぞ!!』

 先頭は轟くんで、その後を追いかけているのは爆豪くんらしい。
 花火のように起こる爆破に、どこにいるのかすぐ分かる。
 スタート時より勢いは増していて、彼はスロースターターなのかも知れない。


「(オイラはずっと結月にこのもぎもぎをくっつけてしがみつくチャンスを狙っていたんだ……!そして今がチャーーンス!!)…………あ」
「あ、お茶子ちゃん待って。靴ひもほどけてる」
「ほんまや!ありがとう理世ちゃんっ」

 ?あれ、今何か後ろから……

「落ちるうぅぅぅ――!――!――!!」
「「峰田くん!?」」

『おーっと!1−A、峰田が落ちたぞ!!……あれ、これ落ちるとどうなるんだっけ?』
『なんだかんだ今まで落ちたやつはいなかったからな……俺は知らん』

 ちょっと待てぇ――!――!――!雄ーーー英ーーー!!!

『A組、結月がすかさず崖からダイビング!!次の瞬間にはその手に峰田を掴まえて戻って来たぞ!!すげえな!!』
『あいつの"個性"なら朝飯前だろ』
『ちなみに崖の下にはネットが張ってあるそうだから、安心して落ちて大丈夫だぜ!!』
「「……………………」」

 いやいやいや、確かに一番深い所にネットが張られてたけど……!!急いで助けに行って気力と体力を余分に消費したよ!

「結月……!助けてくれてありがとう!!お前が天使に見えるぜ……!!」
「天使な私を見て、ちょっとはその煩悩も浄化すると良いね峰田くんっ」

 峰田くんを近くの小島に置くと、そのまま次の小島に飛ぶ。

「悪女ーーー!!オイラをこんな所で放置プレイするなんて……!!」
「言葉のチョイス!!助けてあげただけ感謝してよぉ!!」

 やっぱりほっとくべきだった……!!
 どうも個性上、反射的に助けに行ってしまう。
 ……ん、あれは。

「恐らく兄も見ているのだ……」
 
 あ、飯田くんだ。
 
「かっこ悪い様は見せられん!!!」
『カッコ悪イィーーーーーー!!!』

 両手をまっすぐに伸ばし、指先までピンと。
 かかしみたいなポーズなのに、華麗な感じでロープを滑っている……!

(いや、バランス取るためなのはわかるよ!?わかるけどぉ!)

 やっぱり飯田くんは面白すぎる。思わず小島に佇んで眺めていると、気づいたその飯田くんと目が合った。

「結月くん!何をぼさっとしているのだ!」
(君が面白すぎるせいだよ!)
「レースでは1秒足りとも無駄には」出来ないぞ――……

(……。そうだね、飯田くん)

 後半になるにつれ、言葉がどんどん遠くなっていったけど、君の助言はしかと受け止めたよ……!

 私はその背中を追いかけ、追い越した。

「結月くんッ!?いつの間に前にぃーー!?」


『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねえからら安心せずにつき進め!!』
(物間くん、推理当たったね)

 私もだけど。上位っていうと、大体40人前後とかかな?

『そして早くも最終関門!!かくしてその実態は――……』

 って事は轟くん、最終関門に到着したんだ。素で走るのめちゃくちゃ速いもんなぁ。

『一面、檸檬型の地雷原!!!怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!レモンだからな!目と脚、酷使しろ!!』

「なるほどぉ、地雷かあ…………」

 ――って、何故レモン型!?何故にレモン!!
 ……まあ、ようは踏まなきゃ良いってことね。
 空中に連続テレポートして行けば楽勝。

(上から地面を見るとよくわかる。土の下から浮き出ている形は紛れもなくレモン)

『ちなみに地雷!威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!』
『人によるだろ』
 
 相澤先生の冷静なつっこみ。それはそうと、前方に爆豪くんの姿と轟くんの姿を捉えた。

「はっはぁ、俺は――関係ねーーー!!」

 爆豪くん。さっき見た時よりも爆破の威力が増している。
 すごい勢いで轟くんとの距離を詰めて――

「てめェ、宣戦布告する相手を、間違えてんじゃねえよ」

 ついに轟くんと並んだ。……いや、

『ここで先頭がかわった――!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!』

 じゃあ、さらに盛り上がる展開にしてあげようかな――!

『後続もスパートかけてきた!!!だが、引っ張り合いながらも……先頭2人がリードかあ!!!?』
「二人とも、お互いに引っ張り合いして仲良いねぇ」
「「!?」」

 わざと、二人の正面に向き合う形でぱっと現れてみせる。

「仲良くはねえ……!」
「待ちやがれェクソテレポッ!!」

 瞬時に伸びる爆豪くんの右手。

「危ないなぁ」

 爆破される前に、斜め前にテレポートしてその攻撃を避けた。

『アレ!?いつの間に先頭が変わってるぅぅ!!?』
『やっと本気を出したか……』
『先頭は神出鬼没のテレポートガール!A組、結月だァァーーー!!結月、轟、爆豪による三つ巴を見逃すな!!』
 
 神出鬼没のテレポートガールかぁ!

 なかなか良い通り名。プレゼント・マイク先生って、自身のヒーロー名もそうだけど、センスあるよね!

『轟も爆豪も縦横無尽に宙に進む結月に追い付けない!!このまま結月が逃げ切るか!!?』

 最終コースも残りわずかに差し掛かる。

 後ろでは次々と地雷が爆発する音が聞こえてくるけど、そこから追い抜く走者はまだ現れない。(確かにピンクの煙と音が派手)

 三つ巴だったレースは現在は私がトップ。
 当然、このまま逃げ切る!!

「逃がすかァァコラァ……!!!」

 二人ともそろそろ体力も限界だと思うのに、一向にペースが落ちないとかどういうこと?

「……ちっ。(結月を氷結で攻撃しても、その隙に爆豪が先頭に変わるだけ……厄介だな)」

 轟くんはここまでぶっ通しで走って来て、さらに地雷と爆豪くんを気にしながらってもはや体力オバケか。

(……そういえば)

 でっくんの存在が薄い。
 彼なら何か仕出かして来そうなのに――……そう思った直後だった。

 後方で大爆発が起こったのは。

「!?」
『後方で大爆発!!?何だ、あの威力!?』

 先生方も予期せぬ事態らしい。まるで「地雷を何個も集めた」かのような大爆発。
(いったい何が……!?)
 気づけば驚きで地面に着地していた。
 そこに地雷が埋まってなくて良かったと、自分の運に感謝する。

「わっ……!」

 襲ってくる爆風に、飛ばされぬよう何とか踏ん張る。轟くんや爆豪も足を止めて後方を唖然と見ていた。

 あれって、まさか……

『偶然か、故意か――』

 雲のようなピンクの煙の中、そこから何かが飛び出した。目を凝らしてよく見る。

「……!でっくん!?」

 装甲の上に乗り。爆風の力によって飛んでくるその姿――

『A組、緑谷。爆風で猛追ーーーーーー !!!?』
 
 考えてた矢先。でっくんは予想を裏切らなかった。

(どういうこと!?あの装甲ずっと持ってたの!?)

『猛追――……っつーか!!!』

 ――轟と爆豪、結月……

(……そうか。この地雷を集めて、その爆発を利用して飛んだんだ)

 頭上を横切るでっくんの姿が、やけにスローモーションに見えた。その目は真っすぐ前だけを捉えて。

 いつだって、君はそうだった。


『抜いたああああーーーー!!!』


 マイク先生の実況に、はっと我に返る。抜かれてた――レースは終盤。

 ここでぼさっと見送っている暇はない!

「デクぁ!!!!!」
「!!!(かっちゃん!!)」

『元・先頭の3人――轟と爆豪は足の引っ張り合いを止め、緑谷を追う!!』

「俺の前を、行くんじゃねえ!!!」
「後ろ気にしてる場合じゃねぇ……」

 爆豪くんは手のひらの爆破の火力を上げ。
 轟くんは地雷を気にせず走るため、地面を氷結させる。

 走りに集中する二人はさっきより断然、速い!
 
『共通の敵が現れれば人は争いを止める!!争いはなくならないがな!』
『何言ってんだお前』

「――でっくん、君って本当、とんでもないことをやらかすね!」
「!」

 でっくんと並んだ。

「でも、私を追い越すことはできる?」

 これぐらいの距離、テレポートですぐに追い付くんだよ――。
 その先へさらに飛ぶ。そのすぐ後ろには爆豪くんと轟くんも迫っていた。

 ラストスパート!ここは抜かせられない!

 対して徐々に失速して落ちかけているでっくん。この後はどうする?

「結月さんが、教えてくれたから……!」
「……え?」
「武器は、自分自身だって!!」

 ――"個性"を、使わずとも!

 目を見開く。映った光景に、反応ができなかった。
「っきゃあ!!」

『緑谷、間髪入れず前方と後続を同時に妨害!!なんと地雷原即クリア!!』

 乗っていた装甲を思いっきり地面に叩きつけたでっくん。
 地雷が激しく爆発し、背後からの爆風に煽れ、飛ばされた。
 地面に倒れる!ただの地面ならまだしも、そこにはうっすらレモンの形が。(待って待ってそれだけは避けたいぃ……!!)

 回避っ!!

「……ぎにゃっ!」

 痛みに顔を歪ませながら、やたら青い空を仰ぐ。

 間一髪。テレポートした先は、轟くんが作った氷の道の上。
 あのギリギリの瞬間、頭に思い浮かんだ安全に着地できる場所はここだったから。
 さすがに上手に着地は出来なくて、背中から落ちたけど。

「いたた……」

 背中を擦りながら起き上がり、地雷に巻き込まれるよりはマシかと思う。
 無駄に派手な爆発に、心臓がバクバクしているし。
 動揺や精神的ショックは、"個性"の発動に関わるのが私の弱点。

(でっくん……やるじゃないの。あの爆発、私が現れる瞬間を狙ったな)
 
『イレイザーヘッド、お前のクラスすげえな!!どういう教育してんだ!』
『俺は何もしてねえよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』
『さァさァ、序盤の展開から誰が予想出来た!?』
『無視か』

 コントか。

 つい実況につっこんでしまった。氷の上を滑らないように、ゆっくり立ち上がる。

『今一番にスタジアムへ還ってきたその男――……』

 急いでテレポートしたところで、もうトップには間に合わない。


『緑谷出久の存在を!!』


(本当にすごすぎるよ――でっくん)

 "個性"を使わずに、"自分自身"で1位を勝ち獲ったんだから。

 そして、次にゴールしたのは轟くん。
 となると、3位は……

「せめて上位3位には入りたいかなぁ。――ねぇ、爆豪くん?」
「ッ!!!てんめ……っ」
「お疲れさまでしたっ!」

 こっそり後ろから爆豪くんの肩に触れた。
 最上級の笑顔を贈り、はいっテレポート。

 どっか後方に飛ばす。

『ゴール直前!!ここに来てまさかの結月による妨害ーーー!!えげつねェ!!爆豪どこに飛ばされた!?!?』
 
 隙がない君が最後の最後に油断したね!(天敵二人が前にいるからって、後ろの私への警戒心を忘れたね)

「〜♪」

 選手宣誓での意趣返しも果たし、ルンルン気分でゴールゲートを走り抜ける。

『結月がそのまま余裕でゴールイン!!つーか走るの遅っ!!』
『"個性"に依存してんだよ、あいつは』

 …………。

 結果は3位。この"個性"で1位を獲れなかったのは、ちょっとくやしいけど。
 見事1位のでっくんは、何やら観客席を見上げている。(この大人数の中から知り合いでも見つけたのかな……)

 そして。

「…………」

 その後ろ姿を、じっと見つめる――轟くん。


「1位おめでとう、でっくん!」
「っ結月さん!」

 隣に現れて、声をかける。

「とんでもない方法で来るからびっくりしちゃった」
「あ、あの運が良かったって言うか……使えそうと思ったものがたまたま使えただけで……すごいのは僕の運というか……ブツブツ」
「運も実力の内じゃない?」

 でっくんは謙虚というか、ネガティブというか。

「あの時の……」
「?」
「結月さんのアドバイスがあったから、僕は諦めずに来れたんだと思う」

 ありがとう――そんな風に微笑まれて困惑する。お礼を言われるほど、私は何もしていないのに。

「……違うよ。全部でっくんの実力で……」
「クソテレポォォ!!!よくもやりやがったなアァァ……!!!」
「え!爆豪くん!?」

 でっくんが「ひぃ!!」と短い悲鳴を上げた。
 爆豪くんは息を荒らげて鬼の形相。いや、鬼も逃げ出すかもしれない。

「結構後方に飛ばした気がするんだけどもう来たの……!?」

 順位は――4位!?

 次に後ろを走っていた塩崎さんじゃなくて!?
 あそこから巻き返して来たってコト!?
 嘘でしょ〜うわぁドン引き。

「次の種目……首洗って待ってろや」

 次の種目、平和なものが良いな。

 爆豪くんは隣のでっくんの姿を視界に捉えると、チッと舌打ちして背を向ける。

「また……くそっ……!!くそがっ……!!!」

 食い縛った歯から漏れるように。止まない歓声の中、確かにその声は耳に届いた。


『さあ、続々とゴールインだ!順位等は後でまとめるから、とりあえずお疲れ!!』

 続々とゴールインの中には、飯田くんの姿もあった。眼鏡を外して、汗を脱ぐう。
 眼鏡を外した顔はなかなかの男前だった。

「この"個性"で遅れをとるとは……やはりまだまだ僕……俺は……!」
「一人称言い直さなくても大丈夫だよ、飯田くん。おつかれ!」
「結月くん!人命救助をしながら3位とはさすがだな!」
「ありがとう。一名助けなきゃ良かったって人いるけど」
「……理世ちゃん!ぜぇ、ぜぇ……さ、3位……お、おめ……」
「お茶子ちゃん!先に息整えて!」
「麗日くん!一緒に息を整えるんだ!スーハースーハー!!」
「飯田くん、余計お茶子ちゃんが苦しんでるよ!」
「えっと……君たち何してるの……?」

 異様な光景だったのか、珍しくでっくんのつっこみが入った。

「デクくん……!すごいねえ!一位すごいね!悔しいよちくしょー!」
「いやあ……」また近い……
「緑谷くんはすごいな……いや、結月くんもだが!」
「良いよぉ、私もそう思うし」

 こっちは"個性"を使いまくってこの順位だけど、でっくんは"個性"を使わず1位だもんね。

「くっ……こんなハズじゃあ……!あっ結月さん、助けて下さい……!!」
「八百万さんっ?」

 助けを求める声に振り向く。ヘトヘトになってゴールした八百万さんの腰に、引っ付いているのは……

「一石二鳥よ、オイラ天才!」ひょおおお
「サイッテーですわ!」
「ホント懲りないね……」
「痛てぇ!」


 ***


「ようやく終了ね。それじゃあ結果をご覧なさい!」

 ミッドナイト先生の合図と共に、順位が投影された。

「予選通過は上位43名!!!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!」

(物間くんは37位か……。狙い通りってわけね)

「そして、次からいよいよ本選よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!」

 取材陣はどーでも良いけど。第二種目は……

「さーて、第二種目よ!!私はもう知ってるけど〜〜〜……」

 ミッドナイト先生の前置き長い!

「何かしら!!?言ってるそばからコレよ!!!!」

 映し出されたのは『騎馬戦』の文字。えー?

「騎馬戦……!」オレ、ダメなやつだ……
「個人競技じゃないけど、どうやるのかしら」

 肩を落とす上鳴くんの後に、梅雨ちゃんが疑問を口にする。

「参加者は2人以上のチームを自由に組んで、騎馬を作ってもらうわ!」

 ひゅんと画面に映し出される例えの写真。何故にこれ。

 オールマイト先生を騎手に、前騎馬を13号先生、後騎馬をプレゼント・マイク先生。
 マイク先生、めっちゃ重そうな顔している。
 そりゃあそうだ、筋肉の塊のようなオールマイト先生を担いでいるんだから。

「基本は普通の騎馬戦と同じルールだけど、一つ違うのが……先程の結果にしたがい各自にPが振りあてられること!」
「入試みてえなP稼ぎ方式か、わかりやすいぜ」
「つまり組み合わせによって騎馬のPが違ってくると!」
「あー!」
「あんたら私が喋ってんのにすぐ言うね!!!」

 ミッドナイト先生がついにキレた!(A組以外の皆は静かに聞いてるな……)

「ええそうよ!!そして与えられるPは下から5Pずつ!43位が5P、42位が10P……といった具合よ。そして……」

 じゃあ、私なら……

「205Pか」
「えーと、俺は25位だからー……??」
「上鳴くんはちょうど100Pだね」
「マジ暗算早ぇよな、結月……!頭ん中どーなってんの?」
「頭の回転早いからねぇ、私」
「1位に与えられるPは1000万!!!!」

 …………。

 あれ、上鳴くんと話してたから聞き間違えたかな……。1位であるでっくんを見ると、滝のような汗を流している。

「1000万?」

 その声は裏返っていた。……どうやら、私の聞き間違えじゃなかったみたい。

(桁、えらい違くない?)

 つまり、1000万のPさえ奪えば、どの組でもトップになれるということで。


「上位の奴ほど狙われちゃう――……下克上サバイバルよ!!!」


 皆がでっくんを見る目が、すでに獲物を狙っている目だ。


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