華麗なる騎馬戦・前編

 上を行く者には更なる受難を――。

「雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ」

 これぞ、"Plus Ultra"!


「予選通過1位の緑谷出久くん!!持ちポイント、1000万!!」

 皆のでっくんを見る目の色が変わった。
 挑戦するよりされる方が、遥かにプレッシャーがかかるはず。
 でっくんはこの重圧に堪えられるかな。

「制限時間は15分。振り当てられたPの合計が騎馬のPとなり」

 再び例えの写真が投影された。

 オールマイト先生が20P。プレゼント・マイク先生が5P。13号先生が10Pに……15P?
 あ、奥にスナイプ先生がいると気づく。
(さっきの写真では見えなかった)
 それでトータル50Pというわけだ。

「騎手はそのP数が表示された"ハチマキ"を装着!終了までにハチマキを奪い合い保持Pを競うのよ。取ったハチマキは首から上に巻くこと。とりまくればとりまくる程、管理が大変になるわよ!」

 ……説明を聞く限り、Pを維持するより、後半に動いた方が楽そう。ちなみにハチマキはとりやすさを追求したらしい。

「そして、重要なのはハチマキを取られても、また騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ!」

 最後の最後まで油断できない感じね。取って取り返しての泥仕合は嫌だなぁ。

「てことは……」
「43名からなる騎馬10〜12組がずっとフィールドにいるわけか……?」
「シンド☆」
「いったんP取られて身軽になっちゃうのもアリだね」
「あ、それ楽できて良いねぇ!」
「それは全体のPの分かれ方見ないと判断しかねるわ。三奈ちゃん、理世ちゃん」
「"個性"発動アリの残虐ファイト!でも……あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします!」

 それに、これはチーム戦。個人力だけじゃなく、試されるチームの"個性"の相性に、チームワーク。

「それじゃこれより15分!」
「「15分!!?」」

 プラス交渉術。

 なるほどぉ……。私の"個性"を活かして、欲しいのは強靭な騎馬!(もちろん騎手は私)

「チーム決めの交渉タイムスタートよ!」

 障子くん、砂糖くん、口田くん辺りと組みたい。その三人はどこに……ん。

 あの飛び抜けて大きいロボットみたいな人。強靭そうで良いなぁ。
 B組の人かな……って、隣にいるのは唯ちゃん?

 私も唯ちゃんと組みたい!

「唯……」
「――アンタが三位の結月さん?」

 声をかけようとしたら、逆に声をかけられた。
 あの宣戦布告の普通科の人だ。

「あ、君は……――」

 あ……れ?急に頭の中がもやがかかったように――……
 
 ***

「結月、俺と組まねえか?」
「結月さん、僕と組んで欲しい……!もちろん騎手は君で!」
「……緑谷」
「轟くん……!」
「彼女は人気者なんだな。まぁこの"個性"じゃ当然か。残念だけど、結月さんは俺と組むよ」

 ***

「15分経ったわ、それじゃあいよいよ始まるわよ」
『さぁ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経て、フィールドに12組の騎馬が並び立った!!』
「………なかなか、面白ぇ組が揃ったな」
『さァ上げてけ鬨の声!血で血を洗う雄英の合戦が今!!』


 ――狼煙を上げる!!!!


『"個性"を使って俺たちを向こうに飛ばせ』

 そんな声が頭の中に響く。その声には従わなくては。
 "個性"……どっちの能力を使えば……?

「――っは!!あ、あれ……?」

 ここは?一体何が起こったの!?なんか重い!!

「……驚いたな、自力で洗脳を解いたのか?」
「???」

 洗脳?……………………

「うあーーやられたっ!」

 不覚!一生の不覚!!他の生徒を操っているような光景は目にしたのに……!!

(洗脳のからくりはなんだ……?記憶が途切れる前。あの時、私は彼に話しかけられて……答えた!)

 なんて初見殺しな"個性"。……それはそうと。

「今、どういう状況?」
「……さすが冷静だな。騎馬戦が始まってすぐのところだ」
「騎馬戦……。あっ、私、騎馬だし!通りで重いわけだよぉ……。私、箸より重い物持ったことないのに!!」
「……絶対嘘だろ」

 よりによって私を騎馬にするとか!
 まあ、まずは状況確認だ。

 私は前騎馬で、隣には青山くん。(まさか青山くんと腕を組むことになるとは)
 私の後ろには尾白くんがいて、この組み方だと4人騎馬だと分かる。

(普通は3人騎馬だろうけど、ミッドナイト先生は2人以上って言ってたっけ……欲張りだな!)

 あと一人はここからじゃよく見えない。

「もう一人、後ろの人は誰?」
「さあ?B組のやつ」

 見境ないな……。このままなのも可哀想なので、洗脳を解いてあげたいけど。
 呼び掛けたり、隣の青山くんに足をげしげし蹴ってみるも、反応はなし。

「無駄だよ。簡単には解けない」

 かけた本人も解く気はない、と。

「だからこそ、アンタが解けたのが不思議なんだけど、どうやったんだ?」
「さあ?」

 例え分かっていても、こっちも教える気はない。
 解けた理由……「"個性"を使え」という命令をされたのはぼんやりと覚えてる。

 そこから考えられるのは、

 @私は"複合個性"だから、曖昧な命令に解けた。
 A命令が私にとって難題だったから、解けた。

 イレギュラー的な私の"個性"が関係するような気がする。

 ――以上、状況整理終了。

「君、名前は?」
「……心操人使だ」

 心操くんね。

「本格的に動く前に言っておく。私の"個性"は知ってるだろうけど、テレポート。自分以外をテレポートする時の条件は手で触れること。よって、チーム全体をテレポートさせることは無理」
「不便だな」

 むかっ!

「ちなみに私は体力のない儚げ女子だから」
「……儚げ?」
「君を背負って走るのも無理。むしろもう疲れた、重い、一歩も動きたくない」
「子供かよ……」

 つまりは、

「君の人選ミス。私を洗脳して騎馬なんかにするから……。せめて私を騎手にするのが最適解だったね!」
「自分で言ってて虚しくならないか?」

 ならない。

「まあ、こうなってしまったら仕方がない。私も勝ち進みたいし、協力はしてあげる」
「……どーも」

 開始数分も経っていないのに、フィールドはすでに激戦しているようだ。
 1000万(でっくん)が良い的になってくれてるおかげで、こちらの影は薄い。

(でっくんチームの人選は、お茶子ちゃんはともかく。常闇くんとサポート科のベイビーの人という意外な組み合わせ)

『さ〜〜〜まだ2分も経ってねぇが早くも混戦混戦!!各所でハチマキ奪い合い!!1000万を狙わず2〜4位狙いってのも悪くねぇ!!』

 さて、私たちは今のうちに作戦会議を……って言っても。
 心操くんの"個性"を活かすなら、後半に動いて奪うだ。彼もこの様子だとその辺り分かっているだろう。私も異論はない。

「三人の"個性"は解いてあげないの?」
「今さら解いても揉めるだけだ。このまま行くぞ」
「怒るとは思うけど勝ちに行きたいのはみんな同じだし、協力してくれると思うけどな」

 そもそも普通に話しかけて誘ってくれたら――って言うのは、無責任か。
 良い"個性"とはいえ、よく知らない、しかも宣誓布告して来た普通科の人だし。

「よぉ……クソテレポ。てめェこんな所に隠れてやがったのか」

 あー……忘れてた。首洗っとけとか何とか言われてたっけ、そういえば。

「デクと半分野郎の前に、まずはてめェからぶっ潰す……!!」

 ヒーロー志望らしからぬ悪役顔で現れた爆豪くん。

「結月、見ーっけ」
「ワリぃな結月!爆豪がうるさくってさ」
「結月が騎馬とか意外だな」

 布陣は三奈ちゃん、切島くん、瀬呂くんと、攻守ともに、バランスの良い騎馬を揃えている。
 その騎馬の上で、こちらを見下ろしながら指をボキボキと鳴らす彼は……殺る気満々だ。(この状況……私ピンチ!)

「やあ、結月さん。探したよ。まさか君が騎手ではなく騎馬になってなんてね」

 面倒な時に面倒な人がもう一人来た――!!

「結月、ごめんな!物間がうるせーんだ」
「ってなわけで。正々堂々、ハチマキは俺たちがいただくぜ!」

 布陣は円場くん、回原くん。(円場くんと切島くんの台詞がほぼ一緒なんだけど!)

 もう一人は「…………」初対面の銀髪で肌が真っ黒な人!(なんかかっこいい。ダークな雰囲気で)

「あ?なんだテメェ」
「ん?君は選手宣誓の……」
「アンタ、本当に人気者なんだな」
「いやぁ、それほどでもぉ」
「…………」

 心操くん。蔑んだ目が似合うね。

「でも、向こうから来てくれたなら手間が省けて良かったでしょう?これも計算のうちってね」

 なんかその二人は、お互いバチバチと火花を散らしているけど。

「クソモブは引っ込んでろ邪魔だ!!俺ァ、こいつをブッ殺す用があんだよ!!」
「クソモブ……!?君、本当に口が悪いね。同じヒーロー志望として恥ずかしくなるよ!」
「アァ!?」

(なんか以前にも似たような台詞聞いたような……)

 むしろこのまま二人で潰し合ってくれたら楽なんだけどなぁ。

「僕は結月さんとこのPが目的だから、奪った後ならお好きにどうぞ。競技において無意味だけどね」
「〜〜!!上等だコラ!!てめェより先にクソテレポを完膚無きまでにブッ潰してP奪ったるわ!!」

 ………そう上手くはいかない的な。

「で。どうすんだ、この面倒くさい状況。計算のうちなんだろ?」
「なんか私、めちゃくちゃ恨み買ってる人みたいじゃない?失礼だよねぇ」
「日頃の行いが悪いんじゃないか」
「そ、そんなことはー……」
「………(マジで人選間違えたかも知れねぇ)」

 火花を散らしていた二人がこちらを捉える。
 例えるなら、前門の虎と後門の狼が正面に立ち塞がっている感じだ。
 こちらが圧倒的な不利な状況。
(まあ、戦うとしたらだけど)
 この場合の最適解は単純で簡単。

 戦わなければ良い――だって、この騎馬戦の本質は、戦って勝つ事じゃない。

「フフフ。二人に私たちからPを奪えるかしらぁ!?」
「!(コイツがベタな煽りをする時はロクなことしかねぇ!)」
「……!その余裕、いつまで続くか見物だね!」

 ぴくりと二人のこめかみが動いた。

「おい、余計煽ってどうすんだ……」
「私に考えがあるの。心操くん、ちょっと耳貸して」

 青山くんと組んでる腕とは、逆の手で手招きする。騎手の足の支えが一つなくなったところで、4人騎馬で安定感があるから大丈夫だろう。

「考えって?」

 体を前に傾け、耳を寄せる心操くん。
 目的は君の首に巻かれたハチマキだ。
 そのまま奪い取ると、なるほど簡単に取れた。

「……は?」

 意味が分からずきょとんとする心操くん。点数は全員合わせて500P。

 切りが良くて良い感じ!

「欲しいならあげる!早い者勝ちだけどね――!!」
「っクソが……!!」

『なんだ!?心操チームの結月が自らのハチマキを頭上高くにテレポートさせたぞ!!?』
『………』

「「!!!」」

 皆の視線がハチマキに向く。500Pはなかなか大きいPでない?

「自らのPを捨てるとはね!やけくそのパーフォーマンスかい?」
「物間くんは時間を無駄にして良いのかな?爆豪くんはさっさと行っちゃったよぉ〜」

 舌打ちと共に暴言吐きながらだけど。(ロクな死に方しないって、爆豪くんにだけは言われたくない!)

 二重の意味で爆豪くんは頭がキレるから、すぐに理解したのだろう。
 Pを持っていない事を知りながらチームを攻撃したら、それは私怨。悪質と見なされ、一発退場になる可能性があるため、迂闊には手を出せない。

「……っ、Pを持ってないなら君にはもう用はないよ。せいぜい巻き返しを頑張るが良いさ」

 そう。私に構っても時間の無駄。

 ならばせめて、私の投げたハチマキを手に入れようとするよね、爆豪くんなら――。


「しょうゆ顔!テープで取れ!!舐めた真似しやがって……!次クソテレポがP取った瞬間、奪い獲ってやる……!!」
「瀬呂だって!名前覚えろよ……」
「結月もやることがハデだな!!」
「きっとP取られて身軽になる作戦だよ!アタシ案!」

「蛙吹、俺が近くまで跳ぶからその隙に取れ」
「梅雨ちゃんと呼んで、障子ちゃん。任せて。ケロケロ」
「妨害はオイラにまかせときな!」

「チャ〜ンス!P取られちゃったけど、あれ取って盛り返すよみんな!!」
「ウチのプラグ、ぎりぎりまで伸ばして頑張るから!」
「おう!他のチームへの牽制はまかせとけ!なっ口田!」
「……っ、っ!」

「まったく、結月くんは自らのPを差し出すとは何を考えているんだ!」
「結月さんのことですから何か策があるはずですわ!」
「だな……。どちらにせよ、あれは無視で良い。狙うは緑谷の1000万Pだ」
「おっしゃー!!大物狙い!」

『落ちてくる500Pのハチマキに近いのは爆豪、峰田、葉隠チームだ!他のチームも虎視眈々と狙ってるぜ気を付けろ!!最初にハチマキを手にするのはどのチームだ!!?会場も大盛り上がりーーー!!!』
『いらん演出しやがって……。非合理的だ』


「――さて、心操くん。これで身軽になったわけだし、あとは後半、君の"個性"と私の"個性"でPを取り返すだけ」
「めちゃくちゃだな、アンタ……。でも、まあ悪くない作戦だ」

 心操くんは不敵に笑う。

「その様子だとまだ何か手があるんだな」
「もちろん。超秘が、ね!」

 私たちが動くのはまだ先。それまでこの状況がどう動くか。

「……風向きが変わった」
「ん?ああ、そうだな」

 風向きが変わり、ちょうど500Pのハチマキは、瀬呂くんのテープから寸前で逃れる。

「何やってんだよ!!しょうゆ顔!」
「わりぃ!」

 風が吹いてる方向は――

「デクくん!ハチマキがこっちに飛んでくる!」
「……っあれは結月さんが飛ばした!!」
「風も俺たちに味方したか。ダークシャドウ!!」
「アイヨ!」

『なんと!!風向きが代わり、ハチマキはちょうど浮いている緑谷チームの元へ向かってるぞ!!そして今……その手に取ったァァ――!!』

 観客席から歓声が湧き起こる。

 最初に手にしたのはでっくんチーム!
 他のチームから逃げるため、サポート科の人の道具と、お茶子ちゃんの無重力で宙に浮いた際の偶然。

「まさか風向きが変わるなんて、運も味方につけてるみたい」

 できすぎた展開に思わず笑ってしまう。
 てっきり瀬呂くんの"個性"に、爆豪くんの執念で彼らのチームが取ると思ったけど……。

「調子乗ってんじゃねえぞクソが!!」
「!?」

 いや、爆豪くんなんで君飛んで来てるの――!――!――!?

 騎馬から離れて単独、でっくんたちを宙まで追いかけて来た爆豪くん。
 予想を越えた執念にどん引きだ。

 というか騎馬から離れて良いの!?

「常闇くんっ!」

 爆豪くんの爆破の一撃を、常闇くんの"個性"ダークシャドウが迎え撃つ。

「何だこいつ――……」

 爆豪くんの攻撃を見事防いだけど、なんだか様子がおかしいように見える。(ダークシャドウが怯んだような怯えてるような……)

 その隙に背後から伸びた瀬呂くんのテープによって、爆豪くんは騎馬の上に引き戻された。

『騎馬から離れたぞ!?良いのかアレ!!?』
「テクニカルなのでオッケー!!地面に足ついてたらダメだったけど!」

 ……なんか細かいルールはミッドナイト先生の匙加減次第じゃない、コレ。(瀬呂くんは良い仕事してる)

『やはり狙われまくる1位と猛追をしかけるA組の面々共に実力者揃い!現在の保持Pはどうなってるのか……7分経過した現在のランクを見てみよう!』

 マイク先生の言葉に、あちこちにあるモニターから順位が映し出された。

『………あら!!?』
『………』

「良い感じに片寄ったな」
「ちまちま奪うより、まとめて回収できるから好都合だね〜」

 でっくんチームは1位をキープし、以下上位は一部のB組が占め、半数近くが0Pの状況だ。

(鉄哲くんと一佳は皆が500Pに注目してる隙を狙って奪ってた。クレバー)

『ちょっと待てよコレ……!心操チームは例外として……A組、緑谷以外パッとしてねえ……ってか爆豪あれ……!?』


 まさかの0Pとなった爆豪くんチーム。


「単純なんだよ、A組」
「んだてめェコラ返せ殺すぞ!!」
「さっきのやつ!やられた!」


 今まさに、物間くんチームによってハチマキを奪われていた。
 そして、何やら物間くんが爆豪くんを煽っているように見える。何を言っているかまではここからじゃ聞こえないけど……。

「爆豪くん、めちゃくちゃキレてる……!」
「アンタの非じゃないな、ありゃあ」

 爆豪くんから立ち昇る黒い怒りのオーラ……!

「何を言ったらあんなに爆豪くん爆ギレするんだろう……これは後で物間くんに教えてもらわないと」
「命知らずだな……」

『さァ残り時間半分を切ったぞ!!』


「そう上手くは……いかないか」
「そろそろ奪るぞ」


 そうアナウンスされる中、ついにでっくんチームの前に、轟くんチームが立ちはだかった。


『B組隆盛の中、果たして――1000万Pは誰に頭を垂れるのか!!!』


- 22 -
*前次#