華麗なる騎馬戦・後編

「良い策だったからあなたでも組んだのに……いつハチマキ失ったの」
「わかんねえよ!!けどこれでもう失うもんはねえ!あの2組のP!!全力でかすめ取るぞ!」


 障子フルアタックモード――!!


 ――梅雨ちゃんと峰田くん。姿が見えないと思っていたら、障子くんの腕の中に隠れてたのね!

「さすが障子くん。私もあれ狙ってたんだけどなぁ(峰田くんとは嫌だけど)まあ、別の良い"個性"の人と組めたから良いけどね」

 笑みを浮かべて心操くんを見上げる。洗脳された事と、騎馬なのは納得いかないけど。
 心操くんは反対に、自虐めいた笑顔を浮かべた。

「良い"個性"、ね……。ヒーロー向きではない、良い"個性"だけどな」
「…………」

 ヒーロー向きではない。

 ああ、そうか……。精神操作系は、忌み嫌われる"個性"だから。
 生まれながらにして人は、平等ではないと言う。
 犯罪に向いてる、ヴィラン向き――その一般的感性だけで、生まれ持った"個性"は否定される。
 政府が危険と判断したら、要警戒対象や監視対象にされてしまう場合もある。(それを行うのが特務課だったり)

「……なんだよ。同情なら勘弁してくれ」
「同情なんてしないよ」

 生まれながら生きづらいんだろうなとは思った。
 それも、ヒーローを目指すなら、尚更。

「アンタは良いよな。希少で価値がある上に、救助活動にもヴィラン退治にも活躍できる良い"個性"だ」

 よく言われる言葉だ。紙より薄い、簡単に手のひら返しされる社交辞令。

「私は心操くんって、ヒーローに向いてそうだなって思ったよ」
「ハッ、バカにしてるだろ。これだからヒーロー科は……」
「してない。私は真面目に言ってる」
「……じゃあ、この"個性"のどこがヒーローに向いてるって言うんだよ」
「"個性"じゃなくて、心操くん自身が」
「……は?」

 ぽかんとする心操くんに、続けて言う。

「うちの担任の先生が『ピンチを覆していくのがヒーロー』だって言ってた。偏見とかそういう逆境を乗り越えて来たから、今この場所に立ってるんじゃないの?」
「…………」
「他の普通科の人たちは愚痴をこぼしながら体育祭に参加してるけど、心操くんはうちのクラスに宣戦布告までして来て、本気で挑んでいるのがわかるよ」

 これまで見てきて、その普通科の人たちに、正直私は良い印象を持っていない。
 ヒーロー科(特にA組)が持ち上げられて面白くないのは分かる。でも、愚痴だけをこぼすなら何故雄英に入学したのか。
 体育祭なんてそれこそ毎年放送されて、観ていればヒーロー科と普通科の格差なんて分かりそうなものなのに。

「本気でヒーローを志す人をバカにするような人は、ここのヒーロー科にはいないと思う」

 例えばあの爆豪くんだって、彼は完璧主義者で実力主義者だから。自分より下と見下す事はあっても、真剣に目指す人をバカにする事はないんじゃないかな。……たぶん。

「……そうかよ」

 心操くんは前を見据えたまま、小さく呟いた。
 私の言葉がどう伝わったかは分からないけど、少なくとも心操くんの"個性"を否定する人ばかりじゃないと知って欲しいな。

「……さて、お喋りしてたら良い頃合いかな。私たちも動こうか!でっくんから500Pも返してもらわないとねっ」

 再びあのハチマキを手にしてこそ、あんな目立つ事をした意味がある。

「……一つだけ、アンタに聞きたい」
「え、なに?」
「アンタが今の"個性"じゃなくて、俺の"個性"を持っていたとしたら……ヒーローを目指したか?」
 
 斜めに構えた目線と口調ではなく、まっすぐとしたものだった。
 他意はなく、純粋な疑問というように感じる。

「そうだね……」

 だから、私も正直に答えようと思う。

「私がヒーローを目指す理由はね。両親から受け継いだこの"個性"を、誰かを救けるような素敵なことに使いたいと思ったから」

 小さい頃は、お母さんとお父さんと同じ特務課のエージェントになりたいと思ってた。
 周りの子がヒーローを夢見る中、私は両親が大好きだったから。

 そして、二人が自身の"個性"の暴発による事故で亡くなった。

 この"個性"が否定されたのがくやしくて、悲しくて……この"個性"が怖くなった。

「なら、ヒーローを目指すと良いって、私の尊敬する人が言ってくれたから……私はヒーローになるって決めたの」

 あの時――もし、乱歩さんに特務課を目指せと言われたら、私は特務課を目指していたと思う。
 だって、世界一の名探偵の乱歩さんが言うなら間違いないって、私は今も信じている。

「ヒーローになりたくてヒーローを目指すってより、私の目指すものがヒーローにあるからって方が近いかな」

 純粋にヒーローを目指すヒーロー科の皆にはちょっと言いづらい理由。
 真剣に目指している心操くんにもだけど。

「その理由に当てはまるなら、心操くんの"個性"でも違う"個性"でも、私は目指すと思う。当てはまらなかったら別の道を選んでたかもね」

 思えば、ここまで包み隠さず話したのは心操くんが初めてかも知れない。

「……そうか。きっとアンタは両親や周りに愛されてるんだな。いや、嫌みとかじゃなくて」
「……そうだねぇ。私、蝶よ花よと育てられたから」
「ああ、そんな感じするよ」

 心操くんはおかしそうに笑う。その笑顔は不敵なものでも、自虐めいたものでもなかった。

『何だ何した!?群がる騎馬を轟、一蹴!』

「戦況が変わったみたいだよ、心操くん」

 轟くんチームの上鳴くんによる、無差別放電だ。(轟くんたちは八百万さんの創造によって対策ばっちり)
 そして、間髪入れず轟くんの氷結攻撃。

 これによって、複数のチームが動けずにいる。

『上鳴の放電で確実に動きを止めてから凍らせた……さすがというか……障害物競争で結構な数に避けられたのを省みてるな』
『ナイス解説!!』

 相澤先生の的確な解説。要は轟くんはくやしかったという事ね!

 そんな轟くんは動けない一佳たちのチームから「一応貰っとく」と、抜け目容赦なくハチマキを奪って行った。
 一方、爆豪くんチームVS物間くんチーム。
 ここは心行くまで二人で争ってくれてて良いよ。

「拳藤チームは凍りついて動けないでいるけど、持ち点が多い鉄哲チームの方を狙う」

 轟くんに取られちゃったからねぇ。

「遠いなぁ……良いよねー心操くんは楽で」
「右側ほとんど担いでないくせによく言うよ。ヒーロー科が情けないこと言ってないで、ほら行くぞ!」
「わかったよ〜」

 人使い荒いんだからぁ。

『残り時間約1分!!轟、フィールドをサシ仕様にし……そして、あっちゅー間に1000万奪取!!!――とか思ってたよ5分前までは!!緑谷なんと、この狭い空間を5分間、逃げ切っている!!』

「まさか、あいつがあそこまで粘るなんてな。まだ"個性"を使ってない……よな?」
「使ってないねぇ。でっくんはちょっと何をしでかすか分からない人だから、私にも全然読めないかな」

 常に轟くんの左側に距離をおいて、その氷結攻撃を牽制している。(轟くん、一対一に持ち込んだのは逆に失敗だったかもね?)

「――そのハチマキ、俺たちにくれないか?」
「あぁ!?なに言っ――……」

 一瞬にして、答えた鉄哲くんを洗脳完了。

 続いて骨抜くん、泡瀬くん、塩崎さん。心操くんは巧みに問いかけ、洗脳していく。
 一度の問いかけで洗脳できるのは一人だけみたいだけど、複数人洗脳できたりと、精神操作系でもかなり強力な"個性"なんじゃ……。

「鉄哲くんたちには悪いけど、これで一気に上位だねっ」

 そのまま茫然としている鉄哲くんから、心操くんは簡単にハチマキを奪った。

「よし、このままやり過ごすぞ」
「待って心操くん!まだあの500P獲り戻してない!」
「はぁ?別にこれで上位は確実なんだから良いだろ」
「良くない!手放した時に獲り戻すって決めたんだから!君の"個性"は使わなくて良いからほら行くよ〜!」
「マジか。(急にやる気になったな……)」

 持っているのはでっくんだから、氷のフィールドへと向かう。
 残り1分半――まあ何とかなるでしょう。

「付き合ってやるけど、こっちが獲られることだけは勘弁してくれよ」
「大丈夫!まだ心操くんに私の超秘を見せてないしね」

 まずは、行く手を阻むこの氷を何とかしなきゃ。
 反対側に低い部分もあるけど、そこまで行く時間が足りない。

 そこで、ちょうど適した"個性"の持ち主の出番だ!

「心操くん。青山くんにネビルビームを打つように命令して」
「……わかった」

 青山くん。君の出番、勝手に作ってあげたから感謝してね!


『何だ何だ!?目映い光線が氷の壁を破壊したぞ!!』
『あれは……青山の"個性"だな』
『道を切り開いたのはなんと心操チーム!!土壇場でPを奪いに来たのか!?今度は何を起こす!!』

「っ!心操チームって、結月さんがいるチームか!!」
「結月……ああ、あのテレポートガールですか」
「理世ちゃん!?なんかめっちゃ嫌な予感する……!」
「嫌な予感ほど当たるというもの……」
「轟さん、気を付けてください!」
「ちっ、いつも面倒な時にあいつは来るな……」
「電撃やるか?俺ならまだウィける……!」
「結月くん……!やはり君は諦めてなかったのだな……!!ならば、俺は――」


 ――観客の期待の視線を感じる。
 狙いは、でっくんの500Pのハチマキ!

「むぅ……心操くん。頭と首、どっちが500Pだと思う?」
「あくまでも1000万Pより500Pにこだわるんだな……」

 ハチマキはどちらもPが分からないように、裏返しにしてある。

「両方取れば間違いないんじゃないか」
「それもそうだね!じゃあ……」
「奪れよ、轟くん!トルクオーバー!――レシプロバースト!!」

 ……え?

「な、なに……今の飯田くん……?」

 目にも留まらぬ速さだったけど、確かにその場を、飯田くんが駆け抜けたのだけは分かった。

『な――!!?何が起きた!!?速っ速ーーー!!飯田、そんな超加速があるんなら予選で見せろよーーー!!!』

 た、確かに!あれはたぶん飯田くんの超秘だ。その超秘で50m走をしたならば、私の"個性"を簡単に越えるだろう。

「心操くん、見えた?」
「見えるわけないだろ……それより、今ので順位が変わったぞ」

『ライン際の攻防!その果てを制したのは……』

「言ったろ、緑谷くん。君に挑戦すると!!」

『逆転!!轟が1000万!!』

 飯田くんがかっこいい……!!

 そしてあの速さの中、瞬時に奪った轟くんもすごすぎる……!!
 どういう反射神経してるの。それはそうと、

「でっくんの首に巻いてるのが500Pね!」
「本当に1000万Pは眼中にないんだな……」

 でっくん、ごめんね――君が茫然としてる今がチャンスなんだ。
 動かれると、さすがの私でも難しいから。

『緑谷!まだ500P残ってるが、これで1位から圏外!……っん!?おいおい、飯田といい続けざまにどうなってるんだ!!?』

「緑谷さん!首のハチマキが……!」
「!!500Pもないっ!!まさか……!」

『何が起こった!?緑谷、急転直下の0P――!!消えた500Pのハチマキの行方!轟があの瞬間に両方取ったのか!?いや、違う!!』

 獲ったぞーー!!というように、私は500Pのハチマキを高く上げてひらひらとアピールする。
 湧き起こる大きな歓声が、答えてくれるようだった。

『500Pは心操チーム、結月が持っていたァァ――!――!――!!?』

 わぁ、モニターに私アップで映ってる!
 鏡花ちゃんも安吾さんも、皆見てるかな!?

『自ら捨てた500Pを、今、ここで取り返した心操チーム!!なんっちゅー布石だぁ!!この一瞬で何をどうしてどうやったんだ!?イレイザー解説ぅ!!』
『結月の"個性"だな。触れずに緑谷の首に巻かれたハチマキを手に転移させたんだろう。ここまで能力を開花させてたとは、俺も驚きだが……』
『そんなんアリなのか!?ならこの戦況はどうなっちまうんだ!?』
「――はい、心操くん」

 驚いてる心操くんにハチマキを渡す。

「君の人選、間違ってなかったね〜」
「……ああ!まさか本当に獲り返すとは思わなかったよ。そのチート"個性"、ムカつく通り越して素直にすごいな」

 心操くんはハチマキを首に巻く。隠さない皮肉っぷりはむしろ清々しく、心操くんの笑顔もどこか爽やかだ。

 これで私の目的は果たした。

 残りわずかな時間、Pを守りきればいい。
 前ならのんびりと終了を待っていたけど、最後の最後まで何が起こるか分からないと、私も先程の障害物競争で学んでいる。

「その超秘なら簡単に1000万Pも獲れんのに、本当に狙わなくて良いのか?」
「私は一位にこだわりないからなぁ。心操くんも通過出来れば良いんでしょ?正直、上鳴くんの反撃が怖いし」

 あの電撃を放たれたら対処の手段がない。

 自分一人なら避けられるけど、チーム戦で一人逃げるわけにはいかない。(静電気でさえ痛いのに電撃ビリビリは嫌だ)

「それに……3チームのうち、最終的にどのチームが1000万Pを手にするか見てみたくない?」
「3チーム……?」

 残りの1チーム――爆豪くんチーム。

 彼にしては来るのが遅いけど、物間くんの"個性"《コピー》にそんなに翻弄されてるのかな――……


「突っ込んで!!」
「上鳴がいる以上不利だ!心操チームを狙いに行く方が堅実では……」
「ダメだ!!彼の"個性"は把握できてない!それに、僕たちだって……"僕たちのP"を獲り返そう!!」
「よっしゃ!理世ちゃんにも飯田くんにも負けてられへんもん!!私たちも取り返そうデクくん!!絶対!!!」
「麗日さん……!!」


『爆豪!!容赦なし――!!!やるなら徹底!彼はアレだな、完璧主義だな!!!』

 ――実況によって、爆豪くんチームが物間くんチームを撃破したと知る。
 容赦なしの徹底的にやられたらしい物間くん。
 爆豪くんを煽りに煽った宿命である……合掌。(私みたいに上手にやらないと)

『さぁさぁ時間ももうわずか!!』
 
 こっちのPを奪う選択肢もあったのに――迷わず轟くんチームにでっくんたちは突っ込んだ。でっくんらしい。轟くんチームが動かないのは、飯田くんの先程の超秘の反動だろう。
 
 騎手による一騎打ち。

「あああああああああ!!!」

 普段のでっくんからは感じられない気迫。
 少し離れたこっちまで感じられるのに、それを真っ正面から受けて立つ轟くんは――

(ッ炎……!!)

 ガードする轟くんの、左手から腕にかけて炎が生まれた。
 
『戦闘では左は使わねぇって決めてるから』

 この言葉を聞いたのは、確か初めての戦闘訓練の時だ。その宣言通り、轟くんが戦闘で使っているところは今まで見た事がない。
 構わず突っ込むでっくんの手は空を切ったのに、何故か轟くんの左手は弾かれた。

 強い風に煽られたように炎が揺れる。

 それは、でっくんの"個性"の圧によるものだと気づいた。
 まるで、打ち込んだ拳の風圧で天気を変えてしまうオールマイトのような使い方だ。 
 対して、轟くんが左の"個性"を使いかけたのは、無意識だったのだろう。その視線が左手に移り、その生まれた一瞬の隙に――手が伸びて。

「とった!!とったあああ!!」

 でっくんが声を上げる。あの轟くんからハチマキを獲った!

(すごい!すごいけど、でっくん……!!)

「本当にアレが1000万なのかね」

 どうでもよさそうに心操くんは呟いた。

『残り17秒!こちらも怒りの奪還!!それにしても心操チームが動かねぇ!これも何か策の内か!?』

「違う。轟くんはハチマキの位置をすぐに変えてる。本物は一番下のそれ」
「……へぇ。よく見てたな」

 万が一、自分たちのPを取られた際のために、位置は観察していた。(土壇場で逆転できる方法だし)

「待って下さい、そのハチマキ……違いませんか!?」
「やられた……!!」

 サポート科女子の言葉で、でっくんも自分が獲ったハチマキが違うと気づいたようだ。

「轟くん、しっかりしたまえ!!危なかったぞ!」
「万が一に備えて、こちらもハチマキの位置は変えてますわ!甘いですわ、緑谷さん!」
(気づく余裕がなかったとはいえ、でっくんが甘かった所は一気に奪えば良かったところ)

『そろそろ時間だ。カウントいくぜ、エヴィバディセイヘイ!10!』

「デク!!半分野郎!!」

 カウントダウンが始まったと同時に、爆破で宙から登場した爆豪くん。
 これぞ、ぎりぎりHEROってやつ?(色んな意味で)

「爆豪!!」

 三奈ちゃんの"個性"で氷を溶かし、切島くんたちも慌てて追いかけて来たようだ。

「……!チッ、クソテレポ!!」

 どちらを倒すべきか迷う爆豪くんと目が合う。

『8』

「心操くん!被害受ける前に撤退っ!」
「はいはい」

 カウントダウンが進む中、早く早くと急かす。

「えっと……結月さん?何がなんだかわからないんだけど……」
「尾白くん!?気づいたの!?」
「(何かの拍子で洗脳が解けたか)」

『6』

 周囲を襲う稲光。

『3』

 危なかったぁ……絶対この状況なら、上鳴くんの電撃を放つと思ったもの。

『TIME UP!!』

 そして、爆豪くんは無惨にも地面に落ちた。


『第二種目、騎馬戦終――了!!』


 爆豪くんはちょっと来るのが遅かった。
 終了したと同時に、心操くんは騎馬から降りる。


『早速上位4チーム見てみよか!!』

 1位は1000万Pを最後に死守した……

『1位、轟チーム!!』

「勝ちはしましたけど薄氷を踏む思いでしたわ」
「ウェ〜イ」
「すまない。俺のせいで迷惑をかけた」
「ウェ〜イ」
「そんなこと……飯田さんがいなければ、私たちの勝利はなかったですわ!」
「……くそっ……」

『2位、爆豪チーム!!』

「ああもうっもう少しだったのに〜!」
「まあ2位なら上々だって。結果オーライ」
「そんなこと思うかよ……あいつが」
「だあああ……!!!」

『3位、鉄て……アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?持ちP、500Pだけじゃ――ねえ!!いつの間に逆転してたんだよオイオイ!摩訶不思議かよ!?』

「っは!僕は一体……」
「記憶が……ナイっ☆」
「俺たち(?)3位?いつ騎馬戦が始まって何が起こったんだ……」

 心操くんはいつの間にか青山くんとB組の人の洗脳を解いたらしい。(あれ、尾白くんはどうやって洗脳が解けたんだろ?)

「ご苦労様」
「あ!ちょっと心操くん!」

 三人に説明ぐらい――心操くんはさっさと背を向け歩いて行く。

「結月さん」
「?」
「一緒に組んで結構楽しかったよ。日頃の行いは良くした方が良いと思うけどな」
「……最後のは余計だよねぇ」

 まったく。素直じゃないんだから。

「結月さん、何か知ってるなら教えて欲しいんだけど……」
「ごめん、尾白くん。後でちゃんと説明するね。青山くんも……えぇと」
「B組の庄田だ。宜しくお願いする」
「あ、結月です。A組の」

 庄田くん……なんて礼儀正しい人だ。
 余計説明するのに心苦しいんだけど心操くん……!!

 そして、最終種目に進出できる最後の一組。4位は――

『4位、緑谷チーム!!』

 えっどうやって!?驚いてでっくんたちの方を見ると、サムズアップして得意気なダークシャドウ。
 口にはハチマキをくわえている。
 できる子……!いつの間に獲ったのか私も気づかなかった。

『以上4組が、最終種目へ……進出だああ――!!』

 喜びのあまり?壊れた蛇口のように涙を流すでっくん。むしろ噴水。どうなっているのその涙腺。

(……良かったね、でっくん。正直、君が最終種目まで残るなんて、ちょっぴりびっくりしてるよ)


 ***


『一時間程、昼休憩挟んでから午後の部だぜ!じゃあな!!!オイ、イレイザーヘッド、飯行こうぜ……!』
「寝る」
『ヒュー』


 ***


 昼休憩は、敦くんと龍くんと過ごす約束だ。

「歩きながら何があったか話すね」

 その前に、三人に説明しなければ。心操くんに代わって。

「結月」
「轟くん?」

 声をかけて来たのは、険しい表情を浮かべた轟くんだった。

「おまえ、最後……緑谷が俺からハチマキを奪った時、何か感じたか?」
「何か……?」

 首を傾げる。轟くんが私に話しかけて来る時は大抵でっくん関係だな……。

ヴィラン襲撃の時のオールマイトに似た気迫」
「!」

 あの時のオールマイト先生って、めちゃくちゃ怒ってすごい迫力じゃなかったっけ……。

「でっくんらしからぬ気迫とは思ったけど、さすがにそこまでは……」

 "個性"の使い方が似てるとは思ったけど……。

「そうか。おまえはあの時、離れていたもんな……」

 どこか残念そうに言う轟くん。という事は、轟くんはそんな風に感じたということだ。
 
 でっくんの気迫に、オールマイトを。

「悪かったな、引き留めて」

 轟くんは、私の後ろにいる尾白くんたちをちらりと見て言う。

「うん、じゃあ……」

 背を向け、尾白くんたちと歩き始める。

「いけねえ……これじゃ……親父の思う通りじゃねえか……」

 少し気になって振り返ると――轟くんはぎゅっと握り締めた左手を見つめ、一人その場に立ち尽くしていた。


「……何が起きたんだ?いつの間にか0Pになって終わったぞ……」
「あの小人の方のP、穢らわしい取り方をしてしまった罰でしょうか……」


 途中、落ち込む鉄哲くんチームとすれ違い……そ知らぬ顔して歩いた。


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