全力で来い

 でっくんと別れて、敦くんたちとの待ち合わせ場所に急ぎ向かう。

「あ、理世ちゃん!お疲れさま」
「遅い、理世」

 笑顔で手を振る敦くんと仏頂面の龍くん。
 複雑な心境を切り替えるように――私は、二人に笑顔を向けた。

「ごめんね、お待たせ!」

 ――会場の外は屋台が並び、お祭りのように賑やかだ。

「ちらりと見たけど、最終種目進出おめでとう!」
「ありがとう」
「障害物競走ではその"個性"で三位とは解せぬ」
「三位も立派な順位じゃない?お腹空いちゃった。何食べようかな〜」

 龍くんのジト目から逃げるように屋台に視線を向ける。
 定番のたこ焼きやお好み焼き。縁日のように、オールマイトとかのヒーローのお面も売っている。(エンデヴァーのお面を見た時はどきりとしてしまった)

 とりあえずたこ焼きを買って、三人で食べ歩きをしながら他の屋台も眺める事にした。

「理世ちゃん、やり方が太宰さんに似てきたよね……」

 騎馬戦の話になり、そう口にした敦くん。褒められてるのか否か微妙な口振りだ。

「う〜ん、師弟だとやっぱり似るのかな?」

 自分自身ではよくわからない。ただ、太宰さんの天才的思考が似るなら良いけど、人として似てきたなら、私やばい。

「自惚れぬな。太宰さんなら最後の1000万Pも華麗に奪って、徹底的に敵を地面にひれ伏せたはず。理世は足の爪先にも及ばぬ。これからも精進せよ」
「お前が言うと違う物騒な競技に聞こえるよ……」
「私、別に太宰さん目指してるわけじゃないし〜」

(太宰さんが騎馬戦かぁ……)

 太宰さんが騎手なら――前方騎馬が織田作さん、左右の騎馬は安吾さんと国木田さんだな。探偵社&友人チーム。
 相対する騎手は、もちろん中也さんで、前方騎馬は敦くん、左右の騎馬は龍くんと道くんのヒーロー&サイドキックチーム。

「今日こそ決着着けんぞ、青鯖」
「騎馬の君たちは、騎手がちっさいから楽そうだね」
「アァ!?」


 ――超面白そう。すごく見てみたい!


「あっクレープ食べたい」
「それが主食……?」
「理世ちゃん、甘いもの好きだもんね」
「苺のクレープ、一つください」

 私は頭脳派だから糖分取らないと!

「あっそうそう。今朝、相澤先生に会ったよ。理世ちゃんの担任って、相澤先生だったんだね」

 僕たちの担任も相澤先生だったんだよという敦くんの言葉に、やっぱりと私は納得した。

「息災であったな」
「え!?どこが!?」

 龍くんの言葉に素早くつっこむ。包帯ぐるぐる巻きの、あの姿のどこに息災と思ったのか謎だ……。

「それはともかく。今のところ、会場に異常はないから安心してね」
「プロヒーローの数、すごいもんね〜」

 辺りを見回すと、名前は知らなくてもどこかで見た事あるヒーローたちが視界に入る。

「あっ、シンリンカムイだぁ!一緒に写真撮りたい!撮って!」
「僕も!」
「ちゃんと本人に許可を取ってからにしろ」

 シンリンカムイはこの間のドキュメンタリーに出ててかっこよかったんだよねぇ。
 壮絶な過去を乗り越えた姿も。

「シンリンカムイ!一緒に写真撮ってください!」
「……む。君は雄英生徒のテレポートガールと、期待の新人ヒーローと話題の月下獣くんだな」
「わぁ、ヒーロー名を覚えて貰えてたなんて感激だなぁ!」
「私も〜目立って良かった!」

 敦くんと顔を見合わせ喜ぶ。

「ゴホン。わ、我で良ければ……」

 照れてるシンリンカムイを真ん中に、龍くんにスマホで写真を撮って貰う。

「――黒いあなたは、同じく新人ヒーローの黒獸ね」

 そうスマホを構える龍くんに話しかけて来たのは、Mt.レディだ。
 綺麗なブロンドヘアーで、目元をマスクで隠していても美人だと分かる。

 だが、残念ながら私はウワバミ派だ。そして、特に好きな女性ヒーローは、

 ドラグーンヒーロー《リューキュウ》
 ラビットヒーロー《ミルコ》
 ゲイシャヒーロー《紅夜叉くれないやしゃ

 などなど。三人ともかっこいいし強いし好き。

「私があなたと写真を撮ってあげてもいいわよ」
「不用」
「「(いやいやいや!!)」」

 一言でMt.レディを撃沈させた……!!
 龍くん、断るならもっとマイルドに断ろうよさすがに!

「私!Mt.レディとも写真撮りたいなぁ〜!」
「ぼ、僕も!お願いします!」
「……っっ!そ、そこまで言うなら……いつもはファンと撮るのは断ってるんだけど、特別に撮ってあげる!」
「気を遣ってもらったようですまない……」
「いえいえ」

 代わりにフォローするシンリンカムイ、良い人。

 Mt.レディを真ん中に、一緒に写真を撮る。

 後から写真を確認したら、彼女の口許にソースが付いていて、ちょっとレディの好感度が上がった。


「じゃあ、行ってくるね」
「理世。無様な敗北はやつがれが許さぬ」
「会場の外から応援してるよ!頑張って、理世ちゃん」

 お腹もいっぱいになり、そろそろお昼休憩も終わりだ。
 真逆な応援をしてくる二人に手を振り、私は会場に戻る。


『最終種目発表の前に予選落ちの皆へ朗報だ!あくまで体育祭!ちゃんと全員参加のレクリエーション種目も用意してんのさ!』

 再びプレゼント・マイク先生の実況が辺りに響く。
 行きと同じように通路を抜けて行くと、ちょうどB組面々と鉢合わせになった。

「お、理世じゃん。お疲れ」
「一佳も鉄哲くんもお疲れ〜」
「おう!」

 一佳と鉄哲くんたちは明るく挨拶してくれたけど、物間くんはプイッと明後日の方向を向いたままだ。
 よっぽど爆豪くんに敗れたのが悔しかったみたい。(今はそっとしておこう)

「最終種目進出おめでとう!理世の活躍すごかったよ!」
「最初にハチマキを捨てた時は驚いたけどな」
「してやられたって感じだ!」
「えへへ、ありがとう」

 一佳だけじゃなく、円場くんや回原くんにも褒められて照れ笑いを浮かべる。

「そういやぁ結月、騎馬戦で最後に会ったのおまえのチームだったよな」

 ぎくっ。鉄哲くんのその先に続く言葉は予想がつく。ちょっと不意打ちな手を使ったから、鉄哲くん怒るかなぁ。

「……なんだありゃあ」

 って考えていたら、鉄哲くんの口から次に出た言葉は、まったく違ったすっとんきょんなものだった。

「なあ、(結月以外の)A組の女子はどうしたんだ?」
「うん?」

 泡瀬くんの言葉に首を傾げる。

「あれ……」

 そう控えめに指を差して言ったのは、鬼太郎ヘアーのB組女子。

 その指の先を追うと……

『本場アメリカからチアリーダーも呼んで一層盛り上げ……ん?アリャ?』
『なーにやってんだ……?』
『どーしたA組!!?』

 そこにはチアガールの姿をした皆の姿が。
 何故チアガール。可愛いけど。そんな余興する予定あったかなぁ?

「本場からチアリーダーを呼んだというのにA組はよっぽど目立ちたいみたいだね!!」
「物間……お前なぁ」
「急に元気になったねぇ、良かった」

 水を得た魚みたいなに物間くん。生き生きしてる。


「峰田さん、上鳴さん!!騙しましたわね!?」

 ボンボン片手に怒る八百万さん。何となく読めたような……。

「なんでみんなチアガールの格好してるのー?」
「結月さん……!」

 一応、事情を聞いてみると、八百万さんが悔しそうに説明してくれた。

「峰田さん、上鳴さんのお二人が『午後は女子全員チアガールの姿で応援合戦をする』と、相澤先生からの言伝だと偽ったんです……!!」
「あぁ……」
「アホだろ、アイツら……」

 ボンボンを地面に投げつける耳郎ちゃん。

「発想が小学生だねぇ……」

 騙した二人が悪いのはもちろんだけど。
 あの合理性を極めた相澤先生がそんな事言うはずないと、誰も気づかなかったんだね……。

「何故こうも峰田さんの策略にハマってしまうの私……」
「八百万さんは悪くないよぉ。悪いのはいつだって、騙した人だからね」
「――って、理世ちゃん写真撮っとるし!!」
「衣装は八百万さん?創造、万能だなぁ」

 あとで皆にも送ってあげるね、とスマホを縦や横にして何回かシャッターを切る。

「なんで結月がチアガールになってないんだ!?着るべき人材だろ!!」
「おまえ、見た目だけが取り柄なのに!!着ろよチアァァ!!」

 ……。なんで二人に批難されなきゃいけないの。しかも、

「見た目だけが取り柄って……!」
「峰田さん、結月さんに対して失礼ですわ!」
「見た目「も」!取り柄の間違いでしょう!?」
「……。ウチ、理世のそういう逆に清々しい所、好きだよ」
「まァ本選まで時間空くし、張りつめててもシンドイしさ……いいんじゃない!!?やったろ!!オラァァ!」
「透ちゃん好きね」
「ちなみに、結月さんの分の衣装もあるんです……」
「ありがとう八百万さん。あの二人がいない時に着るね」
「「ガーン!!」」

 あの二人の策略じゃなかったら、皆も着ているし、せっかく八百万さんが創ってくれたから今着ても良かったんだけどね……。


『さァさァ皆楽しく競えよ、レクリエーション!それが終われば最終種目。侵出4チーム総勢17名からなる。トーナメント形式!!』

 生徒たちも全員集まり、いよいよ最終種目が発表される。

 今年の最終種目は――
 
『一対一のガチバトルだ!!』

「トーナメントか……!毎年テレビで見てた舞台に立つんだあ……!」
「去年トーナメントだっけ」
「形式は違ったりするけど、例年サシで競ってるよ。去年はスポーツチャンバラしてたハズ」

 トーナメント……細かいルールにもよるけど、"個性"の相性もあるから対戦相手が重要だ。

「それじゃあ組み合わせ決めのくじ引きしちゃうわよ。組が決まったらレクリエーションを挟んで開始になります!」

 ミッドナイト先生がクジ箱を取り出した。

「レクに関して、進出者17人は参加するもしないも個人の判断に任せるわ。息抜きしたい人も温存したい人もいるしね。んじゃ1位チームから順に……」
「あの……!すみません」

 ミッドナイト先生の説明が終わる前に、すっと上がった手は――尾白くんのものだ。

「俺、辞退します」
「「!!」」

 尾白くん……。辞退の申し出に驚くけど、理由には心当たりがある。

「尾白くん!何で……!?せっかくプロに見てもらえる場なのに!!」
「騎馬戦の記憶……終盤ギリギリまでボンヤリとしかないんだ」
「!?」
「奴の"個性"で……」

 尾白くんはその"奴"に視線を向けた。その本人はス……と顔を背ける。
 心操くんが悪いというわけではない。
 ルール違反じゃないし、それも戦略のうちだ。けど……。

「チャンスの場だってのはわかってる。それをフイにするなんて愚かな事だってのも……!」
「尾白くん……」
「でも、同じチームの結月は明らかに意識あったよな?」
「私は序盤で、たまたまその"個性"が解けたの」

 不思議そうに切島くんに聞かれ、肩を竦めて答えた。

「でもさ!皆が力を出し合い争ってきた座なんだ、こんな……こんなわけわかんないままそこに並ぶなんて……俺は出来ない」

 辞退を決断するのだって、苦渋の決断だっただろうに……。

「もし……尾白くんと同じような状況でも、私は気にせず出場してたかも」
「ああ、確かに……俺もあんな風に辞退できたかわかんねえ」

 そうは言っていても、切島くんなら尾白くんと同じようにしてたと思うな。男らしく。

「気にしすぎだよ!本選でちゃんと成果を出せばいいんだよ!」
「そんなん言ったら私だって全然だよ!?」
「違うんだ……!」

 葉隠ちゃんと三奈ちゃんが引き止めようとするも、尾白くんの意思は固いようだ。

「俺のプライドの話さ……。俺が嫌なんだ。あと何で君らチアの格好してるんだ……!」

 ……。最後のそれは今聞く事なのかな。

「僕も同様の理由から棄権したい!実力如何以前に"何もしていない者"が上がるのは、この体育祭の趣旨と相反するのではないだろうか!」

 尾白くんに続いて声を上げたのは、庄田くんんだった。礼儀正しいのは言葉遣いだけじゃなかった。

「なんだこいつら……!!男らしいな!」

 隣で切島くんが涙ぐんでいる。本当、二人とも誠実過ぎるよぉ。

『何か妙な事になってるが……ここは主審ミッドナイトの采配がどうなるか……』
「そういう青臭い話はさァ……」

 そっか、ミッドナイト先生が二人の宣言を認めるかどうかに……

「好み!!!」

 ぴしゃんと鞭が空を切った。

「庄田、尾白の棄権を認めます!」
「「(好みで決めた……!!)」」

 さすが雄英クオリティ……!!

「……尾白くん。私が言うべきことじゃないけど……尾白くんのその決断は、きっと次に実を結ぶと思うよ」
「結月さん……ありがとう。君は偶然解けたとはいえ、その後はちゃんと自分の力で活躍してたんだ。気にせず僕らの分も勝ち進んで欲しい。その方が同じチームを組んだ者として嬉しいよ」あと何で君だけチアじゃないんだ?

 応援している、と手を差し出され、私はその手をしっかりと握り返した。

「逆に背中を押されちゃったね。ありがとう。頑張るよ」
「僕は、やるからね?」

 スッと現れた青山くんは、そう言って尾白くんの肩を掴んだ。

「繰り上がりは5位の拳藤チームだけど……」
「そういう話で来るんなら……ほぼ動けなかった私らよりアレだよな?な?」

 ミッドナイト先生の言葉に、一佳は他のチームの子たちと顔を見合わせる。
 異論はないというように、彼女たちは頷いた。

「最後まで頑張って上位キープしてた鉄哲チームじゃね?馴れ合いとかじゃなくさ。フツーに」
「お……おめェらァ!!!」

 うおおおと鉄哲くんの感激の声が空に響く。
「良かったな……!良いダチに恵まれて……!!」
 切島くんはさらに泣いていた。

 似たような"個性"を持つライバル同士、余計感化されたらしい。

「鉄哲くんチームのPを土壇場で奪ったの、うちのチームなんだよね……心操くんの"個性"で」

 そんな感動の中、小声で尾白くんに言うと「マジか」というように、尾白くんは顔をひきつらせた。

「それ、彼らは知ってる?」
「知らない」
「結月さん、あいつと友達なら早めに教えるのが相手に対しての誠実だと思うよ」
「尾白くんが言うとめちゃくちゃ説得力あるね」

 頃合いを見て、鉄哲くんたちに話さそう。誠実に。

 思わず二名枠を手にした鉄哲くんたちは、誰が進出するか話し合いをしているようだ。

「鉄哲と塩崎が繰り上がりで進出が決定!!」

 進出が決まった鉄哲くんと塩崎さんは、枠を譲ってくれた泡瀬くんと骨抜くんに何度もお礼をしていた。
 塩崎さんは頭を深く下げ、鉄哲くんは……再び号泣!

 美しい友情――いかにも青春な光景をうっとりと眺めているのは18禁ヒーロー、ミッドナイト先生。
 まさか、それ見たさに教師になったんじゃ……。


 組み合わせは先ほどの説明通りに、1位チームから順に箱からクジを引いて行く。

「当たっても手加減しないから恨まないでねぇ、心操くん」

 順番待ちの中、こっそり心操くんに声をかけた。

「……そっちこそ」

 射貫くような視線がこちらを見る。

「あの手この手で口割らしてやるから」

 不敵な笑みを浮かべる口元とは裏腹に、真剣な口調だった。
 その"個性"は強力だけど、それは初見だけだと本人がよく分かっているはず。

 知られてもなお動じない心操くんに、この体育祭での本気度が窺えた。

(尾白くんたちが辞退しちゃって落ち込んでないかなって思ったけど、さすが生半可な気持ちで"個性"を使ったわけじゃないか……)

「結月さんって、問うに落ちずに語るに落ちるタイプだろ」
「そ、そんなことないよ?」
「次、心操チーム!」

 変な汗が出そうになっていると、クジ引きの順番がやって来た。

 心操くんが引いて、次は私の番。

「あっ、結月さんはこのクジを引かなくていいわ」
「え?」
「あなたはシード枠よ!!」
「……えぇ?」

 ぴしゃりとムチを向けられ、唐突に言われた。

「今回のルール上、結月さんの"個性"はちょっと有利すぎるのよ。場が盛り上がらないと視聴率に関わって困るから、ちょうど奇数だしシード枠にしようと校長からのご提案です」
「「(理由あけすけ……!!)」」
「……もう、何でも良いです……」

 まだ直接、校長と会った事ないのに(入学式ボイコットしたからね)間接的によく関わるのはどういうことなのか。

 根津校長は動物が人間以上の頭脳になるという、世界でも類を見ない"個性"の持ち主らしい。
 ネズミなのか犬なのか熊なのか謎の人物。
 確かに人間以上にゲ……やり手だ。
 さすが雄英の校長なのか、この校長だから雄英がこうなのか。

「じゃあ青山くん、次クジ引きどーぞ」
「結月さん、安心して。見せ場が減った君の分まで僕がきらめくから☆」
「……。ありがとう、安心」

 何が安心なのか分からないけど、青山くんなりの励ましかもしれないから、好意的に返事をしておく。

「ってわけで17名!組はこうなりました!」

 左側の山。
 緑谷vs心操
 轟vs瀬呂
 塩崎vs上鳴
 飯田vs発目
 右側の山。
 芦戸vs青山
 常闇vs八百万
 シード枠:結月
 鉄哲vs切島
 爆豪vs麗日

 シード枠の私は、皆とは別のクジを引き、左側の最初の山に組み込まれる事になった。
 第三戦――三奈ちゃん、青山くん、常闇くん、八百万さんのうち勝ち進んだ人との対戦だ。
 青山くんの言う通り、一試合見せ場は減ったし、勝ち進んだ強者と試合する事にはなるけど……私の場合、体力が温存できてラッキーかな。

(第一試合はでっくんと心操くんか……)

 そして、でっくんと轟くんが当たるなら、早々に二戦目。
 離れた場所にいる轟くんを見ると……彼もまた、じっとトーナメント表を見つめていた。

「麗日?」

 ん?

「おい、クソテレポ。麗日ってどこのどいつだ」
「爆豪君……それ本気で言ってるの?」

 君の後ろで、ヒイイーって青ざめてる女の子だよ……。本当に人の名前覚える気がないんだね……。

(さすがに顔を見ればクラスメイトってわかると思うけど、お茶子ちゃんがボンボンで顔を隠して拒否してるから教えるのは止めておこう)

「ちなみに私の名前、知ってる?」
「あ?クソテレポはクソテレポだろ。何言ってんだてめェ」

 何言ってんだてめェは君の方だよ爆豪くん。

「てめェを潰せんのは準決勝でか」
「私と爆豪くんが勝ち進めば、ね」

 私が一勝、爆豪くんは二勝すれば。

「ったりめェだろ」

 至極当然だというように、爆豪くんはトーナメント表からこちらに視線を移して言った。

「てめェは全力で来い。じゃねぇと意味がねえ。その全力ごと、俺がぶっ潰してやる」

 見透かすような赤い瞳に、じっと見つめられる。そして、何か答える前にさっさと彼は行ってしまった。

(全力で来いかぁ……)

 その口振りだと、まるで、私が今まで全力を出していないみたいだ。

(あれ……?トーナメントで私と当たるのが準決勝って、爆豪くん、私の名前覚えて――)
「結月さん!」

 名前を呼ばれて、そちらに意識を向ける。

「どうしたの?でっくん」
「僕の対戦相手の心操って、確か、結月さんと……」
「あんただよな?緑谷出久って。それとも「でっくん」か?」

 後ろから忍び寄るように声をかけて来たのは、その心操くんだった。

「――よモッ」
「緑谷!!」

 答えようとしたでっくんの口を、慌てて尾白くんが尻尾で塞いだ。

「奴に、答えるな」
「!?」

 尾白くんが警戒するのも無理はない。一瞬だけ二人の視線がかち合って、先に反らしたのは心操くんの方だった。

 心操くんはふっと笑って、踵を返す。

『よーし、それじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 レクリエーション。その時間、私はどう過ごそうと考えていたけど。

「とりあえず緑谷、控室で話そう。結月さんも一緒に来てくれ」


 二人の小さな作戦会議に参加だ。


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