『お待たせしました!!続きましては〜』
轟くんと瀬呂くんの試合……。先ほど見た轟くんの表情が頭から離れず、その心情が心配だった。
「オツカレ」
「席、結月くんのトナリあけてあるぞ」
「アリガト!……あれ、結月さんは?」
「理世ちゃん、デクくんに会ってないならあの心操くんの所?」
「心操くん……」
「――あ、でっくん戻って来たんだねぇ!お疲れさま」
そう声をかけた瞬間、隣の席から「わあ」とか「うぉ」とか驚く声が上がる。
「結月くん!!急に隣に現れたら驚くではないか!ちゃんと一言声をかけたまえ!」
「えぇ〜無茶言わないでよ〜飯田くん!」
テレポートの仕様がそういうものなんだから!
「あはは……(離れてテレポートしたら良いんじゃないかな……)」
苦笑いが似合うでっくんの指には、しっかり巻かれた包帯。
私の視線に気づいたでっくんは「見た目よりは酷くないから心配しないで」そう微笑んだ。
『――こいつらだ!』
ステージ上に、すでに二人は立っている。
『優秀!!優秀なのに拭いきれぬその地味さは何だ!ヒーロー科、瀬呂範太!!』
「ひでえ」
VS
『2位・1位と強すぎるよ君!同じくヒーロー科、轟焦凍!!』
準備運動をするように瀬呂くんは腕を伸ばす。
対して轟くんは、ただ前を見据えていた。
START!
「まァ――……勝てる気はしねーんだけど……」
「!!」
「つっても負ける気もねーーーー!!!!」
スタートを切った瞬間の速攻!瀬呂くんのテープは、轟くんの上半身と下半身をそれぞれ拘束した。
『場外狙いの早技!!この選択はコレ最善じゃねえか!?正直やっちまえ瀬呂ーーーー!!!』
(マイク先生、私情ただ漏れ……)
瀬呂くんはテープを操り、轟くんを場外へと引っ張って行く。(そのまま轟くんが、為すがままとも思えない……――)
「悪ィな」
***
「――っ今の震動、敵の襲撃か!?」
「……いや。黒獣、きっとあれだ!会場が半分凍ってる……!」
「!氷の"個性"……となると、あのエンデヴァーの倅の"個性"か。まるで氷山だな……」
「あの威力……僕たちの雄英時代より、"個性"の能力が高いかもな……」
***
――氷が張る音が響き、会場全体がその衝撃に揺れた。
突如目の前に現れた分厚い氷塊。冷気が頬を撫でる。
(い、いくらなんでも轟くん……)
氷の壁で見えないけど、戦況は想像がつく。瀬呂くんは無事……?
「やり過ぎだろ、轟……!あの時の何倍だよ……」
後ろの席の尾白くんがひきつった声で言った。あの時とは、初めての戦闘訓練の時だ。
「……瀬呂くん、凍らされているが大丈夫か!?」
「うちらも危ないとこやったけど……」
飯田くんの言葉に続いて、お茶子ちゃんが震えながら言った。
初夏とはいえ、今はかなり寒い。
調整する冷静さはあったのかたまたまなのか、氷結は観客席、頭上スレスレに伸びている。
モニターを見ると、案の定、巨大な氷の餌食になった瀬呂くんの姿が。
ついでにミッドナイト先生も半分凍っている。
「瀬呂くん……動ける?」
「動けるハズないでしょ……痛えぇ……」
「瀬呂くん、行動不能!!」
瀬呂くんの行動不能により、勝負はあっという間に決着が着いた。
「ど……どんまい……」
「どんまーい……」
「どんまーい!」
周囲から自然発生したどんまいコールが響き渡る。
これは、後から伝説になりそう……。
「どんまーい!!瀬呂ー!!」
「どんまーい!!」
切島くんや上鳴くんたちも同じようにコールを贈る。
「……轟くん。エンデヴァーと何かあったみたい」
「……!」
そのコールに紛れて、私は隣のでっくんに小声で話しかけた。
「それで、こんな……」
唖然とでっくんは呟く。
「私たちに出来ることってあるのかな……」
目の前の氷を見つめる。まるで、轟くんの心を表しているかのような、冷たく透明な壁だ。
「結月さん……」
自身の氷を左手で溶かす轟くんの姿が目に映る。
そうやって、これからも生きていくのなら……それは、やっぱり悲しいことだと思う。
(氷は熱で簡単に溶けるのに……)
「轟くん、二回戦進出!!」
ミッドナイト先生の声が勝敗を告げた。これで二回戦、轟くんとでっくんが当たる事が確定だ。
「……結月さん。僕も、どうしたら良いのか分からない。轟くんがこのままで良いわけないのは分かるのに……。でも、彼と当たるなら……全力で戦うだけだ」
でっくんはこちらをまっすぐ見た。その言葉にも、その表情にも、迷いはない。
彼には彼の信念があり、トップを目指す理由がある。
『ステージを乾かしてから次の対決だ!!』
「瀬呂!お疲れ!!速攻かけたのに惜しかったな!!」
戻って来た瀬呂くんの肩を、切島くんが健闘を称えるように叩いた。
「瀬呂、ドンマーイ!」
「あとは俺にまかせろ!どんまい!」
「オメーら、どんまいコールはもうやめろっての」
瀬呂くんは凍傷もなく、三奈ちゃんや上鳴くんにからからわれて笑う姿に、元気そうで良かったと安心する。
「あれ、轟は戻って来てねーのか」
「そういや、戻って来てねえな」
「ふーん……。あいつ、イラついてたって言ってたけど、なんかあったのか?」
そう言いながら、瀬呂くんは席に座った。
きっと、轟くんはもうここには戻って来ないだろう。
「チッ……私情タラタラじゃねえか、あの野郎」
「轟も爆豪にだけには言われたくねえと思うぜ。何があったかは知んねーけど」
そう笑って言う瀬呂くんは、いつも絶妙な正論を突く。
「んじゃあ、そろそろ俺、行ってくるわ」
上鳴くんがスッと席を立った。次の試合、上鳴くんの対戦相手は……
「上鳴ちゃん、ずいぶんと余裕満々ね」
「油断してすぐにアホにならなきゃ良いけど……」
梅雨ちゃんの言葉に、耳郎ちゃんは上鳴くんの背中を見送りながら言った。
相手はB組の塩崎さんだ。
「ねえねえ結月ー、上鳴の対戦相手の、B組の塩崎って子。前に結月がB組の人たちとご飯食べた時にいた子だっけ?」
「そうだよ〜うちのクラスと仲良くしたいって言ってた子」
三奈ちゃんの言葉に、でっくんの前からひょいっと顔を出して答える。
「ち、近い……!」
でっくんは恥ずかしそうに両手で口元を覆った。……あんなにお茶子ちゃんに至近距離で話しかけられて、私とも普通に話しているのに、未だに慣れないってどういうこと?
「そうなんだ!違うクラスだけど、同じ女子だし、塩崎さんも頑張ってほしいな!」
「私は塩崎さんを9、上鳴くんを1の割合で応援する」
「ほぼ塩崎さんだね!?」
お茶子ちゃんの言葉に笑って答えると、でっくんがしっかりつっこんでくれた。
「結月くん、次の試合が始まるみたいだぞ!」
飯田くんの声に前を向くと、すっかり乾いたステージに二人が立つ。
瀬呂くんの周りの氷は轟くんが溶かしたけど、大きな氷を片付けたのは13号先生だ。
器用に氷だけを吸い上げる13号先生に、自然とその場から拍手が湧き起こった。(私もお茶子ちゃんと一緒にたくさんの拍手を送った)
『B組からの刺客!!キレイなアレにはトゲがある!?塩崎茨!』
VS
『スパーキングキリングボーイ上鳴電気!!』
その直後、塩崎さんがス……と手を上げる。
「申し立て失礼いたします。刺客とはどういうことでしょう。私はただ勝利を目指し、ここまで来ただけであり……」
『ごっごめん!!』
毎度のごとくマイク先生が独自のノリで選手紹介をするから、ついに塩崎さんから丁寧な指摘が入った。慌てて謝るマイク先生、ちょっと面白い。
「そもそも、私が雄英校の進学を希望したのは、決して邪な考えではなく、多くの人々を救済したいと思ったからであり……」
(塩崎さん、続けるんだ……!)
『だからごめんってば!!俺が悪かったから!!』
だいぶ面白い。さすがのマイク先生もたじたじだ。
「分かって頂けて感謝致します」
最後にそう言ってお辞儀する塩崎さん。
ある意味、最強キャラだな……。
「塩崎くんは真面目なのだな」
「それ飯田くんもや!」ブフッ!
「良いよね〜塩崎さん。飯田くんと気が合うんじゃない?」
「B組にもこういう感じの人がいるんだね」
そんな風に話しをしていると、飯田くんがスッと席を立つ。次の試合に備えて控室に行くらしい。
「飯田くん、早いね」
「少し準備もあるものでな」
準備?ウォーミングアップかな。
『す、START!!』
若干動揺したマイク先生の声で、試合はスタートした。
開始早々、上鳴くんが何やら塩崎さんに話しかける。それに、怪訝そうな顔で振り向く塩崎さん。(どうせ塩崎さんをナンパでもしたんでしょう)
「多分、この勝負」
最初に仕掛けたのは上鳴くんだ。その体から、稲光が発生する。
「一瞬で終わっから――」
あの放電は強力……!!気を付けて、塩崎さん――!
『瞬殺!!』
「ウェ……」
早すぎる決着――!――!――!!
そこには、塩崎さんによる大量の茨のツルで、ぐるぐるに拘束されたアホ面の上鳴くんの姿が。
飯田くん。早めに行って、ちょうど良かったかもね……。
『あえてもう一度言おう!瞬・殺!!!』
「ウェイ……」
前回の試合とはまた違う、早い展開に整理するとこうだ。
得意の強力な放電を放った上鳴くんに対し、塩崎さんは背を向けると、髪の茨を切り離し、盾にして放電を対処。
さらに地面の下から茨を伸ばし、上鳴くんを拘束、というわけだ。上手な"個性"の使い方。
「二回戦進出、塩崎さん!」
「ああ……与えられたチャンス無駄にせずに済みました……」
塩崎さんは神に祈るように両手を組んでいる。その姿は、まるで天から光が差しているように見えた。
「よっしゃー!塩崎、よくやったー!!」
隣のB組観客席から聞こえた大きな声は、鉄哲くんのものだ。
「あっちゃー……」
反対に耳郎ちゃんが残念そうに呟く。試合前に耳郎ちゃんが心配してた事が当たったねぇ……。
「あれあれぇ〜?一瞬で決めるんじゃなかったっけ?おかしいなぁ一瞬でやられたよねぇ?A組はB組より優秀なはずなのにおかしいなー!あはははは!」
わざわざ言いに来た物間くん……。なんかどんどん情緒不安定になってる気がするけど、大丈夫なの……。
「はははは…………ウっ」
「ごめんなー」
「「(……。今のなに)」」
仕切りの向こうに物間くんが消えたと思ったら、代わりに一佳がにっこり顔を出した。
どうやら一佳の手刀によって、物間くんは強制連行されたらしい。
「……塩崎さん、強いね。障害物競争も5位だったし…………ん?」
お茶子ちゃんはごくりと言った後、異変に気づいた。……うん、私も隣のでっくんが気になって仕方がなかったよ。
「上鳴くんの"個性"も強力なハズだけど……塩崎さんは入試で5位の実力者……ツルか。シンリンカムイと同じようなものかな。やっぱり拘束系は強いよなあ。破られてるのあまり見ないし。あの無数のツルを避けつつ、間合いを詰めるのは無理だから、拘束をひきちぎったりとか力任せな対策しかないけど……ああ、でもそれをさせない為にまず手を縛りにくるよな、うーん……ブツブツ」
「「……………………」」
ノートにカリカリとペンを走らせながら、ぶつぶつとでっくんは考察している。
そんな彼を真ん中に挟んで、お茶子ちゃんと一緒に苦笑いした。
そのノートとペンはどこから取り出したの、でっくん。
「終わってすぐなのに、先見越して対策考えてんだ?」
ハッとした反応から、でっくんはすっかり自分の世界に入り込んでたらしい。
「ああ!?いや!?一応……ていうかコレはほぼ趣味というか……せっかくクラス外のすごい"個性"見れる機会だし……」
でっくんはアタフタする。時々ノートに何やら書き込んでるな〜って気づいていたけど、"個性"の考察ノートだったんだ。
「あ!そうそう、A組の皆のもちょこちょこまとめてるんだ。麗日さんと……結月さんの"個性"も」
「「……………………」」
でっくんは「こっちが結月さんで、こっちが麗日さん」と、ノートをパラパラと捲って見せてくれた。少し覗いただけでも、思ったよりびっしり書き込まれていて、ちょっと絶句した。
「……でっくん。そのノート、他の人にはあんまり見せない方が良いかも」
「ええ!?」
100パー引かれるよ。
「あはは……。デクくん、会った時から凄いけど……体育祭で改めてやっぱ……やるなァって感じだ」
そう笑ったお茶子ちゃんだったけど、なんとなくその笑顔は弱々しく見えた。
『さァ――どんどん行くぞ、頂点目指して突っ走れ!!』
「どんまい、上鳴!ウェーイ!」
「ウェーイ」
先ほどのお返しどんまい。瀬呂くんは上鳴くんに手を向けてハイタッチした。(ウェーイってそういうウェーイだったの!?)
「上鳴くん、よく自力でここまで戻って来れたね〜」
あのアホ状態で。そんな上鳴くんを見て、耳郎ちゃんたちは笑いを堪えきれないようで楽しそうだ。
「帰巣本能だな」
私の純粋な疑問に答えてくれたのは、隣に座る常闇くん。鳥っぽい常闇くんが言うと、説得力があるような……ないような。
「それは……違うんじゃないか……」
無口な障子くんがつっこんだ!
『ザ・中堅って感じ!?ヒーロー科、飯田天哉!』
VS
『サポートアイテムでフル装備!!サポート科、発目明!!』
「どんな戦いになるんだ……?」
「つーか何だアリャ……」
会場がざわつくには理由がある。
「飯田くん……サポートアイテム、フル装備!?」
「準備ってあれのことだったの?」
でっくんと一緒に驚きながら飯田くんを見た。
「ヒーロー科の人間は原則そういうの禁止よ?ないと支障をきたす場合は、事前に申請を」
「は!!忘れておりました!!青山くんもベルトを装着していたので良いものと……!」
「彼は申請しています!」
ミッドナイト先生と飯田くんのやりとりにハラハラする。
どういう理由で飯田くんがサポートアイテムを装備しているかは分からないけど、ルール違反で退場とか……。
「申し訳ありません!だがしかし!彼女のスポーツマンシップに心打たれたのです!」
飯田くんはよく通る声で訴える。
「彼女はサポート科でありながら『ここまで来た以上、対等だと思うし対等に戦いたい』と、俺にアイテムを渡して来たのです!この気概を俺は!!無下に扱ってはならぬと、思ったのです!」
「青くっさ!!!」ひゃー「許可します!」
私の心配は超杞憂だった。
『いいんかい……』
『まァ、双方合意の上なら許容範囲内……でいいのか……?』
実況室の二人も困惑しているらしい。
「発目さんてそんな事言う人かな……?ひょっとして……」
ノート片手に疑問げにでっくんは言った。
確かに……第一印象では、そんなスポーツマンシップを持っているようには見えなかったな、その発目さん。(どちらかと言うと、明け透けな自分の欲求に素直というか……)
――START!
『素晴らしい加速じゃないですか、飯田くん!!』
『は?』
「「ん?」」
「マイク?」
スタート開始と同時に走り出した飯田くんは良いとして。発目さんの声が大きくハッキリ聞こえて、でっくんと一緒に首を傾げた。
たぶん会場全体「?」を浮かべていると思う。
『普段よりも足が軽く上がりませんか!?それもそのハズ!!そのレッグパーツが着用者の動きをフォローしているのです!』
その説明に、自然とモニターは飯田くんの脚をアップで映している。ほぅ……あれがそのレッグパーツ。
『そして私は、油圧式アタッチメントバーで回避もラクラク!』
何やら棒が飛び出して、飯田くんの突撃をひょいっと躱す発目さん。
「どういうつもりだ……」
飯田くんは、サポートアイテムに振り回されている。
『飯田くん、あざやかな方向転換!!私の「オートバランサー」あってこその動きです!』
くるっと急カーブを決めた飯田くんだったけど、それもサポートアイテムによってのものらしい。へぇ〜…………
「対等に戦うのではなかったのかーー!!」
敵用の捕獲銃です!と、飯田くんは網にかかっている。
『それらのアイテムを開発したのは、この私、発目明です!!』
……――そんなノリが、10分間繰り広げられた。(もはやマイク先生の実況もなし)
「俺たちは何を見せられているんだろう」
シーンとなっている観客席で、尾白くんがぽつりと溢した。
「ふ――……全てあますことなく見て頂けました。もう思い残すことはありません!!」
「発目さん場外!飯田くん二回戦進出!!」
「騙したなあああ!!!」
「すみません。あなた利用させてもらいました」
「嫌いだぁあ君ーーー!!」
……なにコレ、コント?
キラリと汗を光らせ、満足げに場外の白線を越えた発目さん。残されて叫ぶ飯田くん。
「きっと飯田くん真面目すぎたから、耳障りの良い事言って乗せたんだ……あけすけなだけじゃない。目的の為なら、手段選ばない人だ」すごい……
「なんか話だけ聞くとおっかない人だね、発目さん……」
『気を取り直して、次の試合ーー!!』
再びマイク先生の実況が響く。無いと無いで寂しいもの。
『溶かすぞ危険!!ヒーロー科、芦戸三奈!!』
VS
『こっちは眩しいぞ!!じつは騎馬戦で見せ場が一つあった!ヒーロー科、青山優雅!!』
「三奈ちゃん、ファイトー!」
これはたぶん、ある意味因縁の対決だ。
「三奈ちゃん、頑張って」
「青山、やっちまえーー!!」
梅雨ちゃんの声援をかき消すように、大声を出した峰田くん。二人、そんなに仲良かったっけ?
「格闘ゲームみたいに服が破れる感じで倒せーーー!!!」
「クソかよ」
真面目に二人の仲を思い出していた私がバカだった……。耳郎ちゃんの蔑んだ言葉に超同意。
『START!!』
「1回戦は楽勝だね♪」
「その言葉、そっくりそのままお返しするよ☆マントの恨み!!」
スタートを切ると同時に、青山くんはネビルレーザーを発射した。
「おっと」
それを三奈ちゃんは、持ち前の運動神経で跳んで避ける。
レーザーは直線に飛ぶし、青山くんの体の向きで方向は簡単に分かるけど。
避けるとなると、それなりの反射神経と運動能力が必要なわけで。(ダンスしているみたいにスイスイ避けて、すごいなぁ三奈ちゃん)
「――っし……そろそろ控室行ってくるね」
二人の試合を観賞中、ふとお茶子ちゃんが席を立つ。その表情は窺えず、すっと前を横切って行ってしまった。
「麗日さん……」
そう呟くでっくんも、お茶子ちゃんの様子がいつもと違うのに気づいたようだ。
対戦相手が対戦相手だし……。
私はちらりとお茶子ちゃんのその対戦相手である、反対の席に座る爆豪くんを見る。
爆豪くんが私の視線に気づいたように、こっちに顔を向けて目が合った。
(うわ、こっわ!!野生の勘!?)
猫とか犬とか、遠くからでもこっちの視線に気づいて目が合ったりするけど……。
いや、なんか鋭すぎて怖いから偶然目が合った事にしよう。
「でっくん。お茶子ちゃんの様子が気になるから、私もちょっと行ってくるね」
「結月さん……。うん、僕ももう少し皆の試合観てから行くよ」
――いつも朗らかな笑みを浮かべて、丸い赤らんだほっぺが可愛いお茶子ちゃん。
出会いは入試試験だった。
そして、雄英で再会し、両親の為にヒーローを目指す優しい女の子と知る。
少しでもそんな友達を励ましたくて……そんな思いで、私は控室に向かった。