『START!!』
「ダークシャドウ!」
「アイヨ!」
スタートを切ると、常闇くんからダークシャドウが早速お出ましだ。
まずは――
『結月!速攻、常闇の背後にテレポート!!』
小手調べ!常闇くんに手を伸ばす前に、ダークシャドウが立ちはだかった。
予想通りの反応だと分かったところで、テレポートし、一旦距離を取る。
「俺とダークシャドウに死角はない」
「知ってる」
私としては「ダークシャドウに私の"個性"が適用するのかどうか」が知りたいところだけど、出来なかったら反撃食らうリスクが高いからなぁ。
ダークシャドウは姿形はあれど、"個性"だからテレポートの条件の『物体』に当てはまるのかどうかが謎だ。(出来たとしてダークシャドウのみテレポートするのかとか、常闇くんも一緒にするのかとか)
「謎だらけだね〜常闇くんの"個性"は」
「おまえを捕まえても逃げられるのは明白。悪いが攻撃させてもらう。ダークシャドウ!」
「アイヨ!」
ダークシャドウの鋭い爪攻撃を避ける。
縦横無尽にテレポートしてみるけど、確かに死角を突くのは難しそうだ。
――それなら。
(左右が無理なら頭上はどう?)
常闇くんの真上に現れる。
「上から来ることも予想の範囲」
ぱっと上を向いた常闇くんと目が合って、思わず口角が上がった。
(お茶子ちゃんの攻撃もあったし、頭上も警戒するのは当然だね)
下から迫り来るダークシャドウに大人しく退散する。
距離を取って地面に立ち、再び常闇くんたちを見据えた。
『続く攻防!思ったより地味な戦いだ!!』
***
「理世ちゃんは触れさえすればテレポートで常闇ちゃんを場外に出来るし、逆に常闇ちゃんの一撃さえ入れば、打たれ弱い理世ちゃんはダウンするわね」
「どっちも触れさえすれば勝ちって事か」
「それか、結月のやつは体力ねーから、消耗戦になったら厳しいかもなー」
***
「――地味な展開って酷いなぁ。ねえ、常闇くん?」
「フ……やはりおまえの"個性"は厄介だな。だが、弱点は分かっている」
「えー?」
「体力が乏しくない。消耗戦なら俺の勝ちだ」
そう言って常闇くんが走って向かって来る。
いやいや、体力って言っても"個性"を使っているからあんまり消耗していないんだよ。
ダークシャドウの攻撃を再びテレポートで避ける。
でもまぁ、私の"個性"も無限に使えるわけじゃないし、自分をテレポートさせるだけと言っても、ちょっとずつ集中力やら精神やらを削られていくわけで。
私が短期戦ありきなのは確かだ。逆に、常闇くんの弱点は――
「……暑くなって来たな」
ちょうど良い感じに。
『おっと!結月が今度はファイティングポーズで常闇の真っ正面に現れた!真っ向勝負を仕掛ける気か!?』
『あからさまだな』
私が真っ向勝負を仕掛けたワケ。
「勝負だよ、常闇くん!」
「ダークシャドウに物理攻撃は効かないぞ。ましてや、そんな非力な拳で……」
「な〜んてね」
構えたのも、常闇くんの真っ正面――正確にはやや上に現れたのは計算の内。
思惑通りダークシャドウがこちらに向かって来た瞬間。
テレポートでその場から姿を消す。
「!?マブシイ!!」
「っ後ろに光!!」
急に太陽光を直撃したら、誰でも眩しいよね。
ましてや、――光に弱いダークシャドウなら。
正午の一番太陽が眩しい中。狙う時は、確実に。微かにかかった雲が流れるのを待ち、角度とタイミングを計った。
「私の勝ちだよ、常闇くん」
常闇くんの後ろからその肩にぽんと手を置いて、場外に飛ばす。
「常闇くん、場外!!よって結月さん、準決勝進出!!」
ミッドナイト先生の勝敗を下すと、ワアァァと会場から観戦が上がる。
気を良くして、カメラに向かって笑顔で両手を振ってみせた。
『なんだ決着はあっさりだな!?結月進出で、これでベスト4が出揃ったぞ!』
『でたらめに飛んでいると思わせて、機会を伺っていたな』
『機会??』
***
「結月さん、さすがですわ……」
「常闇、一瞬怯んだよね!?アタシたちんときは超攻撃してきたのに!!」
「あの影の弱点を突いたんだろ。わざと太陽を背に現れ、光で怯んだところを狙いやがった。クソ性格悪ぃ」
「切島に対してえげつない戦いしたお前が言うの、それ」
「結月さん、常闇くんの弱点に気づいてたのか……」
「理世ちゃん、次の対戦相手は爆豪くんだ……!!」
***
――次の試合は飯田くんと轟くんで、その次に私と爆豪くんの試合だ。爆豪くんが最初に言った通りの展開になった。
「知っていたのか……」
ステージを降りる前に、常闇くんからくやしそうに聞かれた。
「騎馬戦の時に観察してたからね〜。ダークシャドウが爆豪くんの攻撃に怯んでたように見えて、ちょっと気になってたの」
まあ、何より……
「闇と光は相容れないから、普通に光が弱点かなって」
「同士……!!」
「同士??」
何故か握手を求められ、常闇くんと熱く交わした。会場から拍手が湧き起こった。
ステージを後にすると、一度観客席に戻る事にする。飯田くんと轟くんの試合、少しは見られるかな。
「結月さん、お帰り!」
「理世ちゃんお疲れさま!準決勝進出おめでとう!!」
笑顔のでっくんとお茶子ちゃんが出迎えてくれた。
離れた席では上鳴くんや透ちゃんも手を振ってくれて、私も笑顔で振り返す。
「ありがとう!一試合だけだから、次が準決勝ってあんまり実感ないな」
ちょうど元いた席が空いていたので、そこに座る。
「理世ちゃん。次の試合、爆豪くんとだね……私の分まで頑張って!」
「うん。まかせて!」
お茶子ちゃんのくやしい気持ちも持っていく!
「ところで、でっくん。なんか爆豪くんのコレ!っていう弱点ない?」
「さっきと言ってること違うね!?」
「でも、聞きたくなる気持ちはめっちゃ分かる……」
苦笑いを浮かべながらお茶子ちゃんは同意してくれた。
「そういえば、その爆豪くんの姿が見当たらないね〜?」
ひょいっと顔を出し、反対側の席を見ると……
「爆豪ちゃんなら悪い顔して早々に控え室に向かったわよ、理世ちゃん」
教えてくれたのは梅雨ちゃんだ。
「やけにやる気満々だったよなー」
続いての瀬呂くんの言葉に「なー」と上鳴くんも頷く。
これは……"殺る"気の方かも知れない……。
「結月、気を付けた方が良いぜ。あいつああいう趣味なんだよ!!」
「ああいう趣味ってなに!?」
「さすがにかっちゃんに女の子をいたぶる趣味は……」
峰田くんの忠告に、でっくんがやんわり否定した。まずそういう発想をする峰田くんがアウトだな……。
『準決!サクサク行くぜ。お互いヒーロー家出身のエリート対決だ!飯田天哉対轟焦凍!!』
本当にサクサクの選手紹介。
(飯田くんと轟くん……。飯田くんも負けられない戦いだ)
START!
スタートの合図と共に、轟くんの右足から氷結が発生。
「立ち幅跳び!!」
隣でお茶子ちゃんがおおっと叫んだ。
体力テストでも飯田くんが上位の記録を残した種目。躱し方上手い!
そこから目にも止まらぬ速さの蹴りをお見舞いする。
「レシプロバースト……!!」
早々に切り札を使ってきた飯田くん。
今の蹴りをしゃがんで避けた轟くんもさすがだ。たぶん、使ってくると読んでいたのもあるんだろうけど。
轟くんは氷で応戦するも、飯田くんの猛攻は止まらない。エンストが起きるまでの数秒で、決着を決めるつもりだ。
「決める!!!」
ついに飯田くんの蹴りが轟くんの頭に直撃した。
轟くんは地面にうつ伏せに倒れる。
速さもあるけど、重そうな一撃だった。
それでも轟くんは意識を保ち、手から氷結を繰り出す。飯田くんは再び跳んで避けて、そのまま轟くんの背中を、掴んだ!
そのまま場外へと猛スピードで走って行く。
塩崎さんと同じ戦法だけど、塩崎さんの時とは違い、轟くんの持ち方が雑だ。(飯田くん紳士なんだなぁと思う)
直後、ガクッと音が聞こえそうな程に、飯田くんは不自然に脚を止めた。
「いつの間に!!!!」
「蹴りん時」
驚く飯田くんの腕を、今まで大人しくしていた轟くんの右手が掴む。そこから、飯田くんの体に氷が張っていく。
(そうか!エンジンのマフラーを凍らせて……)
みるみるうちに氷で覆われていく飯田くんは、身動き一つ取れない。
立ち上がる轟くんの体がふらついた。
片手で頭を押さえ、飯田くんの攻撃が効いていたようだ。あと一歩、及ばずというところか。
『飯田、行動不能!轟、炎を見せず決勝進出だ!』
「飯田くん……」
飯田くんの敗北が決まり、でっくんが残念そうに呟いた。
お兄さんにNo.1の報告するんだって、キラキラと瞳を輝かせた飯田くんの顔を思い出す。
飯田くんにも負けられない理由があって、でも、だからと言って勝負に勝つとは限らない。
「って、理世ちゃん!次だよ試合!早く行かんと……!!」
「あっ!」
お茶子ちゃんの言葉にはっと気づく。
つい二人の試合に見入ってしまい、決着も思いの外早かった。
「私、行ってくるねっ!」
「結月さん、頑張って……!」
「応援しとるから!!」
でっくんとお茶子ちゃんにエールを貰い、慌ててテレポートで向かう――。
***
−B組観客席−
「次はあのヤンキーと結月の戦いか……」
「どっちが勝つと思う?」
「ん……、ルール上は理世の方が有利」
「その気になれば触れずに場外に飛ばせそうだもんな」
「俺ァ結月を応援するぜ!」
「だよな!」
「俺も!」
「僕としてはどっちが負けてもおいしいね!」
「体育祭でますます性格がひねくれてないか?物間」
***
『んじゃ次!選手宣誓の挨拶コンビ!爆豪勝己対結月理世!!』
そのまとめ方は止めて欲しい!
『俺は全面的にテレポートガールを応援するぜ!』
ありがとう!!
さて――試合に間に合い、今まさに始まろうとしている。ステージに爆豪くんと向かい合って立っているわけだけど。
「よォ、クソテレポ。やっとてめェをぶっ殺せる!!」
相変わらずの悪人面で爆豪くんは笑う。
「爆豪くん」
「……あ?」
「私、全力で行くから。せめて跳ねの良い踏み台になってね☆」
クイっと親指で首を切る仕草。
『スタート前に笑顔で煽った結月ーーー!!これはあれだ、選手宣誓の時の爆豪の挑発!!』
これぞ挑発返し!
「上等だァァゴラァァ……!!!」
爆豪くん、良い感じに爆ギレモードだ。
まあ、挑発しても爆豪くんには逆効果だけど、それほど私が本気でいくってこと。
(今の私が全力を出してどれぐらい戦えるか。相手に不足なし――ってね!)
『START!』
「ハッ!全力のてめェをねじ伏せて、勝つのは俺だ――!!!」
スタート同時に先に仕掛けて来たのは爆豪くんの方だ。
両手を爆破させ、一気に迫り来る。
右の大振りによる爆破はお茶子ちゃん時と一緒。違うのはその威力!
その場に爆音が響く。
(爆豪くんがいかに反射神経が良いか分かってるから……)
防げない攻撃をする――!
テレポートで現れたのは、爆豪くんの真後ろ。すかさず反応しても、それより早く、回し蹴りを叩き込んだ。
何故なら、テレポートで現れたと同時に予備動作はもうできてるから。
「……くッ!!」
『………ン〜〜〜!?!?』
爆豪くんがよろめくように体勢を崩す。意表を突いた。常闇くんもそうだったけど、私と対戦するなら、触れて場外に飛ばされることをまずは警戒するはずだ。
手じゃなくて足が飛んでくるとは思うまい!
爆豪くんが体勢を整える前に、再び宙に現れて、今度はジャンピングキック!
「……ってめ…!コスチュームのブーツ履いてきたのはこの為かよ……!!」
「ご名答!攻撃力増すようにね!」
『あの爆豪が……!!一方的にやられてるぅ!!?』
『あいつ、あんなに動けたのか』
「ブッ殺す!!」
怯んだのは一度きり。爆豪くんはすぐさま体勢を立て直し、手のひらを向けて爆破する。(順応性高いというか、もうちょっと戸惑ってくれたら良かったのに)
大きな爆発音と共にその場に煙幕が広がった。
攻撃力が高い爆破の"個性"も強力だけど、厄介なのはこの煙幕だ。
煙が目隠しになるのは、爆豪くんの方。
視界が肝心の私の"個性"では、彼を見失うのは攻撃をするにも避けるのにも不利だ。
それに、テレポートした際に発生した空間の揺らぎが、煙の流れによって居場所がバレる可能性もある――。
まあ、それをこれから逆手に取るわけだけど。
(お茶子ちゃん!さっきの策、借りるよ――!)
『結月の姿が見えねえが、無事か!?――と、爆豪の後ろだ!!』
『いや……あれは』
爆豪くんの後ろに予め飛ばした体操服の上着。
「……!さっきの丸顔のパクリじゃねえかッ!!」
爆豪くんはすぐさま前を振り返り、爆破する、が、残念。
「不正解だよ、爆豪くん」
「ッ!?」
がら空きの爆豪くんの後ろに肩車するように現れた。まあ、このまま足で首を締め上げて落としても良いんだけどぉ――
『……なるほどな。視界に入りやすい位置に体操服をテレポートさせて、自身はその後ろで煙に紛れて身を潜める。爆豪がそれは囮と反対方向を警戒するのを見越した二重のトラップ』
『ホホウ!!』
『事前に麗日の手口を受けて、意識が高まってるところを、まさか同じ方向に隠れてると思わねぇからな』
「結月さん、麗日さんの策を参考に……いや、むしろ麗日さんの策があったからこそ完成した二重トラップ!!」
「理世ちゃん……!」
「結月くんは麗日くんと爆豪くんの試合観戦を糧にしているのだな!」
――さっきの戦いは地味って言われたし、派手に決めてあげる!!
「ッチ!」
「おりゃあぁっ……っ!!」
抵抗される前に、そのまま体を仰け反り、その勢いで爆豪くんを、後ろに投げ飛ばーーーす!!!
『アグレッシブーーー!!!結月今までと全く違う動き!!可愛い顔してやるな、オイ!!』
爆豪くんは小さく爆破を起こし、受け身を取った。
本当、爆破の使い方も器用だよね。威力の加減も上手いと来たもんだ。
戦闘センスに関しては目を見張る。
その彼は、今は片膝をついて、先ほど切れた口元の血を拳で拭っている。
顔を上げるとギラリとした赤い目。
「面白ぇじゃねえか」
笑って、まだまだ余裕の表情だ。
「……久々に大技出したから、ちょっと疲れちゃった」
「ハッ!よく言うぜ!勝負はこれからだろうがァ……なぁ!?」
そう。勝負はこれから。ここからが本当の実力を試される。
息を短く吸って吐く。
周囲の声が聞こえない程に集中しないと。爆豪くんには、勝てない――。
『再び近接対決か!?今度は爆豪も応戦で激しく繰り広げられる!!』
***
「……――一丁前に教えた技決めやがって。だが、今までの試合を観た限り、相手のガキの方が戦闘に関しては上だ。どうやって戦うか見物だなァ?」