「結月さん、ここから階段だから気を付けて。本当は両手で手を取れたら良かったんだけど……」
「ううん、十分だよ。ありがと、でっくん」
階段をゆっくり上がる。上がりきれば、ヒーロー科の観客席はすぐそこだ。
「結月!」
「結月さん!」
「理世ちゃん!」
「理世!」
――大丈夫!!?
「大丈夫!」
色んな呼び方で同時に。皆からの心配の声に、戻って来た事はすぐに分かった。
敵襲撃の時のように今度もまた、目立つ所に包帯を巻いてるしな。……目だけに。
「理世ちゃん、最後悔しかったね!勝ちでもおかしくなかったのに……」
その声はお茶子ちゃんだ。
「だよな。あのまま勝ちにしちゃえば良かったんじゃね」
続けて上鳴くんが言った。
「目をやられた時点で勝敗はついてたから……。最後のは事故みたいなものだったし」
「でも、すごかったっ!理世ちゃん、めちゃくちゃかっこよかった!!」
「お茶子ちゃん、ありがとう」
「悔しいけど、きらめきの称号を君にあげるよ……☆」
この声、絶対青山くん!
「それは青山くんが持つべきだよぉ」
「やっぱり?」
まず、きらめきの称号とは……。
「爆豪くんを足で挟んで投げ飛ばしたところとか、めっちゃ会場盛り上がってたよー!!うおぉってなった!」
「男らしかったぜ、結月!!蹴りもすごかったしな!!」
次に透ちゃんと切島くん。男らしかったって誉め言葉は、嬉しいようなそうでもないような。
「男らしかったのは切島くんの方だよ。お互い爆豪くんに弱点突かれて惜しかったよねぇ」
「結月の弱点は視覚か。あいつそういうとこ突くのが好きだよな……」
見抜くのとかね!
「弱点を付いたのは結月、おまえもだな」
常闇くんの言葉に「う……」と言葉を詰まらせた。続いて聞こえる「グスン」と、涙声はダークシャドウくん……!?さすがにちょっと心が……
「冗談だ」
「ジョーダン!」
常闇くんもそういう冗談言うのね……。
「結月、おまえはいくつ手を持ってるんだ?」
「さすがに武術の嗜みがあったのには驚いたよ(普段の結月さんからはかけ離れていて)見る限り、小さい頃から習ってたって感じだよな?」
砂藤くんと尾白くん。武道派の二人は興味津々らしい。
「フフフ、能ある鷹は爪を隠すってね!私の場合隠しきれず……」
「あーはいはい。それもう聞いたから。な?」
「……」
瀬呂くんに強引に遮られた。
「……可愛い子は狙われるから気を付けろって、小さい頃にお父さんが護身術を教えてくれて」
「なるほど」
「砂藤。あっさり納得してっけど、つっこむ所だろ、そこ」
「結月さんの原点を知った気がするよ」
尾白くんからくすりと笑う声がした。原点かぁ。確かに今も、お父さんの教訓はしっかり守っている。
「いきなりアグレッシブに戦うから、うちら本当にびっくりしてたんだよ」
「"個性"使わなくたって、結月超強いじゃん!!」
「あれは"個性"ありきの動きだから〜」
続けて「"個性"を使わなかったら私の体力が持たない」って言ったら「うん、理世だね」「本物だ!」そう耳郎ちゃんと三奈ちゃんは納得したらしい。
今まで体術を使う機会がなかっただけなのに、偽者説まで出てたの……。
「包帯はいつ頃取れそうですの?目が見えないとなると生活に支障がでますわね……」
「何か困った事があったら言ってくれ。……口田も心配している」
八百万さんと障子くん、に口田くんが心配してくれている。
そして、なるほどぉ……。口田くんは障子くん以上に今まで声を聞いた事がないレベルですごく無口だ。ジェスチャーでしか会話した事がないから、この状態だと通訳が必要だ。
「心配してくれてありがとう。表彰式には取れるみたい。間近で閃光弾受けちゃったから、少し安静にした方が良いって」
「それなら安心しましたわ」
「目隠し……エ」
「峰田ちゃん」
峰田くんが何か言いかけたけど、ぴしゃりという音と共に、梅雨ちゃんが遮ったから気にしないでおこう。絶対、ろくでもない。
「やあ、結月さん。お疲れさま。なかなか頑張ってたね。自称、能ある鷹って言うわりには詰めが甘かったようだけど」
「…………」
自分で自覚してても、他人に指摘されるといらっとくるよね。(物間くん、またわざわざ来たらの)
「ええと、その声はどちら様?」
「僕だよ!物間だよっ!」
「どちらの物間様?」
「B組!!君、少しは落ち込んだ方が良いんじゃない!?」
「「……………………」」
「コントかよ。もうお前らコンビ組めよ」
それは嫌かな、瀬呂くん。
そして物間くんは再び「本当にごめんな。あ、理世お疲れ。今度あたしと手合わせしてくれよな」と、爽やかな声の一佳に連れて行かれたらしい。
「……あれ。そういえば、飯田くんは?」
いつもだったら一番に声をかけてくれそうなのに。少しの沈黙から、お茶子ちゃんが口を開く。
「飯田くんから、もし理世ちゃんが決勝進出したら、余計な心配かけたくないからって、口止めされてたんだけど……」
余計な心配……?
「うん。すぐに分かることだし……、飯田くん。お兄さんが敵の襲撃を受けたって早退したんだ……」
「お兄さんが……?」
頭にガツンとハンマーで打たれたような衝撃を受けた。ヒーローなら、いつ何時危険な目に合ってもおかしくはない。
けど、まさか飯田くんの大切なお兄さんが……。
「詳しいことは全然……。僕たちは、お兄さんの無事を祈るしかない」
でっくんのその言葉に、私も頷くしかなかった。
(突然の別れだけは、どうかならないで欲しい)
その痛みは、よく知っているから。
『さァいよいよラスト!!雄英1年の頂点がここで決まる!!』
それでも――最後の試合は始まる。
『決勝戦、轟対爆豪!!!』
どっちが勝ってもおかしくない実力の二人。
轟くんが左も使えば、有利になるけど……。
「でっくん、お茶子ちゃん。簡単に実況してくれると嬉しい」
「もちろん!」
「まかせて!」
『今!!スタート!!!!』
マイク先生の声と同時に、氷が張る凄まじい音が耳に届く。
『いきなりかましたぁ!!爆豪との接戦を嫌がったか!!早速優勝者決定か!?』
「瀬呂君戦ほどの規模じゃない!一撃を狙いつつ……次を警戒した!」
なるほど。分かりやすいでっくんの解説。目が見えない分、耳に集中する。
微かに聞こえるのは、ドン、ドンという鈍い爆発音。
あの爆豪くんがこのまま氷漬けになるわけない。そう思っていると、一際大きな爆発音と氷が崩れる音が響いた。
「爆豪くん、モグラみたいに掘り進んで来た!」
「モグラ……!」
想像すると……可愛いくはなかった。爆豪くんだし。最初の氷結も、きっと爆破で防いだんだ。
「右側を避けて掴んだ!すごい……!」
「爆豪くんが轟くんを投げ飛ばしたよ!」
「ナメ……ってんのかバァアアカ!!」
右側を避けて掴んだのは、氷結を避けるためね。今のところ、爆豪くんが優勢?
『氷壁で場外アウトを回避ーーーー!!!楽しそう!!』
『左側をわざわざ掴んだり爆発のタイミングだったり……研究してるよ。戦う度にセンスが光ってくな、アイツは』
『ホゥホゥ』
『轟も動きは良いんだが……攻撃が単純だ。緑谷戦以降どこか調子が崩れてるなァ……』
これまた分かりやすく的確な相澤先生の解説。
飯田くんの時は早い決着がついたせいか、そんな風には感じなかったけど……。爆豪くん相手では、そう簡単にはいかないということか。
「てめェ、虚仮にすんのも大概にしろよ!ブッ殺すぞ!!!」
「!」
爆豪くんの怒声が会場に響く。
「轟くんに炎を使う気配はないの……?」
「うん……僕には、轟くんが迷っているように見える」
――迷っている。でっくんの返答に、思い出す。轟くんは考えてみると、あの時話してくれた。
それはきっと、簡単には出ない答えだ。
「俺が取んのは完膚なきまでの一位なんだよ!舐めプのクソカスに勝っても取れねんだよ!」
「デクより上に行かねえと意味ねえんだよ!!」
「勝つつもりもねえなら俺の前に立つな!!!」
「何でここに立っとんだクソが!!!」
――爆豪くん。叫んだ言葉は、全部勝利への信念から来てるものだ。
でも、轟くんの中にも葛藤があって、それを抱えながら今、戦っている。
「負けるな頑張れ!!!!」
張り上げたでっくんの声援に、驚いて思わずそちらに顔を向けた。
「でっくん……?」
「結月さん。初戦の試合の時「根性見せろ」って、君の声が聞こえたんだ」
「――っ」
本当に聞こえてたんだ……。でっくんの照れくさそうな声に、急に私もすごく恥ずかしくなって来た。
「あの声に僕は励まされた。だから……」
「……うんっ。きっと、今度も届くよ!」
君の声なら――……
「轟くんから炎が!」
お茶子ちゃんの声にはっとする。
届いたんだ、でっくんの声!!
そして、特大の爆発音が会場に響いた。氷の弾ける音に、体に感じる爆風。
(でも、"あの時"の爆発には劣る……)
『麗日戦、結月戦で見せた特大火力に勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!』
……人間榴弾!?爆豪くんはまたとんでもない技を……!!
『轟は緑谷戦での超爆風を撃たなかったようだが、果たして……』
「轟くん……火を使おうとして、直前で消した……」
「………」
消した理由は轟くんにしか分からない。
「オイっ……ふざけんなよ!!」
そう叫ぶ爆豪くんの声は怒りだけじゃなくて、苦しそうにも……聞こえた。
「こんなの――こんっ……」
途中でその声はぷつりと途切れる。
「爆豪くんも倒れてもうた!」
「ミッドナイトの"個性"だ」
きっと、危険と判断されたのだろう。
二人の勝敗は……
「轟くん場外!!よって――……爆豪くんの勝ち!!」
ミッドナイト先生の声が、高々に勝敗を告げた。
『以上で全ての競技が終了!!今年度、雄英体育祭1年優勝者は――……A組、爆豪勝己!!!!』
――体育祭が終わった。
一つしかない頂点に登りつめたのは、爆豪くんだった。……彼が納得するかどうかは別として。
歓声がどこか遠くのように聞こえる。
まだ表彰式があるとはいえ、とても長い一日に感じられた。
やり切った達成感と、少しだけ感じる心残り。
たぶん、目指せる上がまだあるから。
それらはすべて、来年の体育祭まで持ち越そう――……
「それではこれより!!表彰式に移ります!」
表彰式――私は三位の台に、同じく三位の常闇くんと立ち並ぶ。
常闇くんは目に巻いた包帯を取り外した私を見ると、少し残念そうな顔をした。
「包帯は取ったのか」「包帯は取ったよ」
……いや、分かるよ。私もちょっとこのまま表彰式に出たらかっこいいんじゃない?って一瞬思ったもの。(後から恥ずかしくなりそうだったからやめたけど)
ただフラッシュが眩しくて、報道陣が多いこの今の状況はちょっとしんどい。(目がしょぼしょぼする〜笑顔ひきつってないと良いけど)
「……爆豪くん。あれだけ暴れてまだ抵抗してるよ……。体力無限なの?」
「もはや悪鬼羅刹」
「常闇くん。例え上手」
「ん゙ん゙〜〜〜〜!!」
隣でガチャガチャと激しく鳴る太い鎖。
暴れるという単純な理由で、一位の台の上に爆豪くんは張り付けられ、厳重に拘束されている。
両手を覆う頑丈な手枷に、猛獣にするような口輪まで。
まあ、だいぶ仕方がない。起きた途端にあんな大暴れをしたら――……
「さあ、包帯を外したからゆっくり目を開けてごらん」
「……あ、大丈夫そうです。ちょっと目に疲労感を感じますが、見えます」
決勝戦後、会場も表彰式の準備がぼちぼち終わった頃。
目の包帯を外すのに、リカバリーガール出張所に来ていた。
「瞳孔を閉じる目薬でもと思ったけど、その様子だと大丈夫なようだね」
「良かったな、結月」
「うん。障子くん、連れて来てくれてありがとう」
「俺も保健委員だからな。当然のことをしたまでだ」
出張所まで連れて来てくれたのは障子くん。
おんぶで連れて来てもらったけど、かなりの安定感と安心感に寝てしまうところだった。
「じゃあ、表彰式までとりあえず待機ですか?」
「そうだね。轟って子も起きたし、あとは爆豪って子がそろそろミッドナイトの"個性"から起きる頃だから、そしたら表彰式の始まりさね」
――今思えば、そのリカバリーガールの言葉が爆豪くん目覚めのフラグだった。
「納得できるかアァァァ!!!」
「!?この爆発音とこの叫び声って……」
「おやおや」
壁の向こうで聞こえた爆発音と、壁を突き抜けるような怒声。
何が起こっているか大体察しはつくけど、一応。"個性"の触手を壁に当て、様子を探る障子くんの言葉を待つ。
「…………向こうで爆豪が暴れている」
「……。だろうね」
「やれやれ」
「…………ミッドナイトとセメントスが爆豪を抑えるのに苦戦している」
「……。ねえ本当に何してるの、爆豪くん」
「最近の若い子は力がありあまっているのかい?」
ありあまっているのは爆豪くんだけだと思います、絶対!!
あんだけ戦ってまだ暴れるの!?
収まる気配のないそれに、私は障子くんと様子を見に行くと……
「あんのクソガキっ!誰が[ピ――]ババアじゃ――!――!――!!!」
「落ち着けミッドナイト!!」
「オラアァ!!クソ舐めプ野郎どこだァァァ!!もう一度勝負しろやァ――!――!――!!!」
「「………………」」
カオス――思ったよりカオスだ。
爆豪くん……いくら目覚めたばかりの爆ギレ状態だからって、ミッドナイト先生にそんな(私の口からは言えない)ことを言うなんて……!
さすがのミッドナイト先生も、そりゃあブチギレるよ〜!
「……と、とにかく、これじゃあセメントス先生が大変……!私、他の先生の応援を呼びに行ってくる!この勢いだと出張所まで被害が広がりそうだから、障子くんはリカバリーガールをお願い!」
「了解した……!」
「万が一、もしも轟くんが先に来ちゃったら……よろしく!!」
「……。来ないことを祈ろう」
先生たちの居場所をリカバリーガールに聞いて、急ぎテレポートする。
関係者室――ここだ!
「失礼します!」
ノックしてすぐにドアを開けた。
「お!テレポートガールじゃねえか!表彰式前に包帯取れ」
「何かあったのか」
マイク先生の空気を読まない言葉を遮り、すぐに緊急事態だと気づき察してくれる相澤先生。
こういう時の相澤先生は本当に頼りになる。
「目が覚めた爆豪くんが暴れています!」
「……。あのバカ……」
「ミッドナイト先生とセメントス先生が抑えていたんですが、爆豪くんの暴言でミッドナイト先生が我を忘れて……」
「………………」
「修羅場になってるのでどなたか応援お願いします!」
「「……………………」」
相澤先生を含むその場いる先生方が、一瞬固まった。
「……結月、案内しろ」
「おいおい、イレイザー。そんな体でか?俺が代わりに行くぜ」
「俺のクラスの生徒だ。担任が始末しなくてどうする」
今の始末の言葉が不穏な響きに聞こえましたけど、先生……。
「それに、お前が行けば余計拗れるだろ」
納得。とは言え、ミイラマン状態の相澤先生も心配だけど……。
その時、ぽんと相澤先生の肩に置かれた逞しい手。
「いや、俺が行こう」
こうして――爆豪くんはセメントス先生と、一緒に来てもらったブラドキング先生のプロヒーロー二人がかりで拘束。(ブラドキング先生の"個性"、初めて見たな〜)
ちなみにミッドナイト先生は先にセメントス先生に気絶させられたらしく……
「あら……痛っ……私は一体……?」
と、起きたら暴言を吐かれた事など、綺麗さっぱり忘れてたらしい。
「頭をこう、すこーん☆と殴ったからね」
そう朗らかに笑いながらぶんッと殴る仕草をするセメントス先生。……いや、セメントス先生がそんな風に殴ったら「すこーん☆」という可愛い効果音にはならないと思います!
――という回想から。
「ん゙〜!!」
爆豪くんが口輪まで付けられているのは、また暴言を吐かないようにという裏事情からだ。
「今回、人数の関係上、3位には結月さんと常闇くん。それにもう一人飯田くんがいるんだけど、ちょっとお家の事情で早退になっちゃったのでご了承下さいな」
「メディア意識……!」
「いつものミッドナイト先生に戻って良かった……」
記憶喪失オーライ!
「家の事情か。飯田は張り切っていたのに、共に表彰台に立てずに残念だな」
「……うん」
常闇くんの言葉に小さく頷く。飯田くんと一緒に表彰台に上がりたかった。
でも今は、飯田くんの為にも、どうかお兄さんは無事でいてほしい。
「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」
ミッドナイト先生が手を向ける方角には、西日に照らされた、小さくも大きな影。
「私が」
スタジアムの一番上からの――!
「メダルを持って来」
「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」
カブったよ!?
……くるくると回転して、すたっとかっこよく着地したオールマイト先生。
振り返ってミッドナイト先生を恨めしそうに見ている。(段取りとかしないの雄英)
……まあ、気を取り直して。
「常闇少年おめでとう!強いな君は!」
「もったいないお言葉」
オールマイト先生は、ミッドナイト先生から受け取ったメダルを常闇くんの首にかける。
「ただ!相性差を覆すには"個性"に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば、取れる択が増すだろう」
「……御意」
アドバイスと熱い抱擁だ。
「――結月少女」
続いて名前を呼ばれ、私は背筋を正し、オールマイト先生をまっすぐ見上げる。
「紅一点での入賞、おめでとう」
「はい!」
首からメダルをかけられる。銅メダル……思ったよりずっしりと重みを感じた。
「君はどの種目でもその"個性"を活かし、結果だけでなく観客を驚かせ、楽しませてくれた。明るい世の中の為にも、ヒーローとして大事な要素だと私は思う」
「お茶目なオールマイト先生がそうですもんね」
笑って言うと、オールマイト先生も「まいったなぁ」と笑う。
「来年も楽しみにしてるぞ!」
オールマイト先生の大きな体に包まれ、背中をポンポンと撫でられる。
とても暖かくて、力強さを感じた。
続いて、オールマイト先生が向かう先は二位の轟くんだ。
「轟少年。おめでとう。決勝で左側を収めてしまったのにはワケがあるのかな」
「緑谷戦でキッカケをもらって……わからなくなってしまいました。あなたが奴を気にかけるのも、少しわかった気がします」
オールマイト先生の問いに、淡々と答える轟くんの声が聞こえる。
「俺もあなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺だけが吹っ切れて、それで終わりじゃ駄目だと思った。清算しなきゃならないモノがまだある」
清算、か……。
「………顔が以前と全然違う。深くは聞くまいよ。今の君なら、きっと清算できる」
(私も、そう思うよ……轟くん)
「さて、爆豪少年!!」
最後は今年の優勝者――依然として暴れている爆豪くんの前に、オールマイト先生は立った。
「っとこりゃあんまりだ……」
オールマイト先生は爆豪くんの口輪を外そうとする。その様子をハラハラしながら横で見守る。さすがにオールマイト先生相手なら大丈夫だと思うけど。
「伏線回収見事だったな」
「オールマイトォこんな1番……何の価値もねぇんだよ。世間が認めても俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!」
「「(顔すげえ……)」」
爆豪くんのこの顔。テレビの前のちっちゃい子は泣いてるんじゃないかな……。
「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不平の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない(顔すげえ)」
この顔を前にして動じないオールマイト先生、さすがだなぁ。
「受けとっとけよ!"傷"として!忘れぬよう!」
「要らねっつってんだろが!!」
差し出されるメダルをなおも爆豪くんは拒否る。無視して、オールマイト先生はその鼻にリボンを引っ掛け……
セイっと、爆豪くんが口が開いたところで奥歯に引っ掛けてみせた。(力押しっ!!)
「さァ!!今回は彼らだった!!しかし、皆さん!」
報道陣の方を向いて、オールマイト先生は話す。
「この場の誰にも"ここ"に立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!次代のヒーローは、確実にその芽を伸ばしている!!」
その伸ばした腕は、天高く空を指差し――
「てな感じで最後に一言!!皆さんご唱和下さい!!せーの」
「「プル……」」
「おつかれさまでした!!!」
「「!!?」」
え……ええぇ………!?!?
「「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」」
「ああいや……疲れたろうなと思って……」
……――最後はぐだくだで、初めての体育祭は幕を閉じる。
雄英らしいといえばそうかも知れない。
自然と口元が緩み、茜差す空を見上げながら思った。