これが「私/僕」のヒーロー名

 考えていたヒーロー名。

『テレポ』

 そのまま"個性"を略した名前。あだ名もそうだけど、呼びやすい覚えやすい名前が良いと私は思っている。あ、あと響き。

 でも、これは残念ながら却下だ。――爆豪くんのせいで……

(「クソテレポ」なんて先に呼んでくるからぁ)

 それに決めたら、なんか爆豪くんが名付け親みたいで嫌だ。(今さらだけどクソって余計だよねぇ、失礼しちゃう)

 というわけで、改めてヒーロー名を考えないと……。
 ペンをくるくる回しながら思考も回す。(そういえば。今朝、女の子にプリユアみたいって言われたな……――)

『どこにだって救けにいくよ☆神出鬼没のプリユアテレポ!』(いやいやいやいや)

 くだらないことを考えてないで真面目に考えよう。(これじゃあ大人のお友達のファンが増えるだけだ。それ以前に色々アウト!)

 そもそも、既にプレゼント・マイク先生が呼んだ『テレポートガール』で世に認知されてるような気も……。なんてこった!

(悪くはないけど、可愛い感じよりはかっこいい名前が良いかなぁ。イメージを一新したい的な……)


 ――悩むこと、15分経過。


「じゃ、そろそろ。出来た人から発表してね!!」
「「!!!」」
「(発表形式かよ!!?)」
「(え〜これはなかなか度胸が……!)」

 やばい。私、まだ決まっていない。先生たちも言ったように適当に付けられないし……。
 発表形式なら、一先ず他の人たちの名前を参考にさせてもらおう。

「行くよ」

 最初に名乗りをあげたのは、青山くんだ。
 教壇の前に立ち、青山くんはフリップを腕いっぱいに伸ばして掲げる。

「輝きヒーロー、"I can not stop twinkling"(キラキラが止められないよ☆)」
「「短文!!!」」英語か仏語かどっちかにせい!

 初っぱなから参考にならない!!

「そこはIを取って、Can'tに省略した方が呼びやすい」
「それね、マドモアゼル☆」
「「(なァァ……!これは……!!)」」
(ちゃんと指導するミッドナイト先生、えらいな……。てかこのヒーロー名良いの!?)

 なんか一人目でおかしな空気になったけど。

「じゃあ次、アタシね!」

 気を取り直して、三奈ちゃんの発表。

「リドリヒーロー、エイリアンクイーン!!」

 可愛くない!!

「2!!血が強酸性のアレを目指してるの!?やめときな!!」
「ちぇー」

 却下されて残念そうに席に戻る三奈ちゃん。

「「(バカヤロー!!最初に変なの来たせいで大喜利っぽい空気になったじゃねぇか!!)」」

 誰かこの流れを止めるヒーローは!!

「じゃあ次。私いいかしら」
「「梅雨ちゃん!!」」

 クラスの期待の視線が梅雨ちゃんに集まる。

「小学生の時から決めてたの。梅雨入りヒーロー、フロッピー」

 フロッピー!!

「カワイイ!!親しみやすくて良いわ!!」

 これにはミッドナイト先生も大絶賛だ。

「皆から愛されるお手本のようなネーミングね!」

 呼びやすいし、小学生から決めてたの可愛い梅雨ちゃん!

「「(ありがとうフロッピー。空気が変わった!!)」」
「フロッピー!」

 教室に湧き起こるフロッピーコール!

「んじゃ俺!!剛建ヒーロー、列怒頼雄斗レッドライオット!!」

 カタカナ名のヒーローが多い中の漢字、なんか強そう……!

「「赤の狂騒」!これはアレね!?漢気ヒーロー、"紅頼雄斗クリムゾンライオット"リスペクトね!」
「そっス!だいぶ古いけど、俺の目指すヒーロー像は"クリムゾン"そのもなんス」

 なるほど!私は知らないヒーローだけど、切島くんの目指すヒーロー像かぁ。

「フフ……憧れの名を背負うってからには、相応の重圧がついてまわるわよ」
「覚悟の上っス!!」

 拳を握り、切島くんは言い切った。かっこいいねぇ!(憧れのヒーローをリスペクトするのもありかも)
 って、そこまで憧れのヒーロー像も特にないしなぁ、私……。

「うあ〜考えてねんだよな、まだ俺」
「つけたげよっか「ジャミングウェイ」」
「「武器よさらば」とかのヘミングウェイもじりか!インテリっぽい!カッケェ!!」
「〜〜〜いやっ。折角強いのにブフッ!すぐ……ウェイってなるじゃん……!?」
「耳郎、お前さァふざけんなよ!」

 楽しそうな上鳴くんと耳郎ちゃんの会話が聞こえてきた。面白い。
 上鳴くんが抗議している途中で、さっさっと耳郎ちゃんは教壇に向かって……

「ヒアヒーロー、イヤホン=ジャック」

 おぉ、耳郎ちゃんの"個性"を表してかっこいい。クール!

「いいわね!次!」

 その後は、さくさく発表が続く――

「触手ヒーロー、テンタコル」

 障子くん。TENTACLE(触手)とタコのもじりねっとミッドナイト先生が解説した。なるほど……自分の特徴もじり。

「テーピンヒーロー、セロファン」
「分かりやすい!大切」

 瀬呂くん。そのまんまと苦笑いしているけど、分かりやすいの大切に同感。

「テ……テイルマン」
「名が体を表してる!」

 尾白くん。武闘ヒーロー!シンプルなのが尾白くんぽくて良いね!

「かぶった」
「甘〜い!」

 尾白くんとかぶってしまったらしい砂藤くん。フリップには「甘味ヒーロー、シュガーマン」という文字。うん、甘そう。

「ピンキー!!」
「桃色!桃肌!」

 そっちの方が断然良いよ、三奈ちゃん!可愛いし!

「スタンガンヒーロー!チャージズマ!!」
「痺れる〜」

 チャージ(帯電)+イナズマ=チャージズマね!
 考えてないって言ってたけど、捻りがあるかっこいいヒーロー名だ、上鳴くん。

「ステルスヒーロー、インビジブルガール!!」
「良いじゃん良いよ!」

 透ちゃん。ステルス+インビジブルとクールな感じだけど、ガールが付くと可愛い響きになってバランスがよい。

「さァどんどん行きましょー!!」

 ミッドナイト先生のテンションもどんどん上がってきた。(若干コメントが雑になってきてる気もするけど……)

「この名に恥じぬ行いを。万物ヒーロー、クリエティ」
「クリエイティブ!!」

 さすか八百万さん。向上心の高さを伺えるヒーロー名。彼女にぴったりだ。

「焦凍」

 ショート!!

「名前!?いいの!?」

 ミッドナイト先生の問いに「ああ」と答える轟くん。
 名前って名付け親の思いがこもっているし、何か特別な意味があるのかも知れない。

「漆黒ヒーロー、ツクヨミ」
「夜の神様!」

 ツクヨミ&ダークシャドウか。かっこよすぎでしょ、常闇くん。

「モギタテヒーロー、グレープジュース!!」
「ポップ&キッシュ!!」

 教壇から峰田くんの掲げるフリップだけが見えた。下心の権化のくせにマスコットキャラみたいなヒーロー名、可愛いな!

「うん!!」

 分かったとサムズアップして頷くミッドナイト先生。
 口田くんのフリップには「ふれあいヒーロー、アニマ」と、書かれている。平和的。

「爆殺王」
「そういうのはやめた方が良いわね」
「なんでだよ!!」

 超真面目に却下したミッドナイト先生。
 不満げな爆豪くんだけど、君のセンスはどうなっているの。ヒーロー名にそぐわないっていう想像力はないの。

「爆発太郎は!?」
(切島くん!何その駄菓子にありそうな名前……センスある!)
「黙ってろクソ髪!!」

 その時、私はピコンと閃き、挙手をした。

「ミッドナイト先生」
「あら、次は結月さん?」
「爆豪くんのヒーロー名を思い付いたので提案してもよろしいでしょうか?」
「テメェ自分のヒーロー名先に発表しろや!!」
「うん。面白そうだから提案を許可しましょう」
「「(面白そうで決めた!!)」」

 ささっと簡単にフリップに書いて、その場で掲げる。

「じゃじゃん。ばくさつヒーロー、カツキング!!」
「「カツキング!!」」

 爆豪くんの下の名前とキングをもじったヒーロー名。
 響きも良いし、思い付いた私天才。

「爆殺はアウトだけど、爆豪くんの下の名前に、勝ちへのこだわりの王というイメージが合ってなかなか良いんじゃないかしら。どう爆豪くん?」

 ミッドナイト先生から真面目な評価をいただきました。

「ざけんな!!却下に決まってんだろうが!!」
「俺の爆発太郎もいいけど、カツキングもいいな!」
「どっちもよくねえわ!!」
「えー結構真面目に良いと思ったんだけどなぁ、カツキング」

 しぶしぶとフリップをひっくり返して、席に付く。真っ白の裏面。爆豪くんのヒーロー名を考えてる暇じゃない!

 皆のヒーロー名が決まっていき、まだな人は残り僅かだ。(方向性は見えてきたけど、覚えやすさと響きが良さげな〜〜……)
 
「じゃ、私も……」

 次に教壇に立ったのは、お茶子ちゃんだ。

「考えてありました。ウラビティ」
「シャレてる!」
「麗日のウラに重力のグラヴィティ。お茶子ちゃんの茶のティーもかけてる……!お茶子ちゃん天才!」
「ありがとう、理世ちゃん!最後の名前までは考えてへんかったけど」

 緊張してたのか、いつもより赤い頬っぺた。お茶子ちゃんはホッとした笑顔で席に戻っていく。

「思ったよりずっとスムーズ!残ってるのは再考の爆豪くんと、飯田くんに結月さん……そして、緑谷くんね」
「あれー?結月、ヒーロー名考えてなかったの?」

 三奈ちゃんの疑問に「考えてたんだけどねぇ」答える。

「すでに爆豪くんに呼ばれてるから、それにしたら爆豪くんが名付け親みたいで嫌だなぁって」
「理世ちゃん、テレポって名前を考えてたのね。爆豪ちゃんのせいでケチが付いちゃったわね」
「アァ!?クソテレポはクソテレポだろうが!」
「ほらぁ」

 確かに……と、皆苦笑いを浮かべながら納得してくれた。

「つーか、結月はもう、テレポートガールって呼ばれてね?」
「まあ通り名というか、あだ名みたいなものだから。心機一転したいと思ってね」

 上鳴くんの質問に答えながら、フリップを持って席を立つ。
 先程ちょうど頭に降ってきて「これだ!」というヒーロー名が決まった。

 皆の興味津々な視線を受けながら、教壇に立つ。


 これが、私のヒーロー名。


「神算鬼謀の参謀と呼ばれ、弾き出すのは最適解……」
「「……!?」」
「適材適所に臨機応変!天才の上にこの可愛いさ!天は私に――」
「「長い長い長い!!」」
「アホかッ!さっさと言えや!!」
「前置き!!いいからヒーロー名!」

「……。ヒーロー名は」

 皆に急かされ、フリップをトンと教壇に乗せる。

「神出鬼没ヒーロー、トリックスター」
「おお!今までの結月のイメージとちょっと違うけど、かっこいいな!!」

 さすが切島くん。分かってるっ。

「一応トリックスターの由来は、物語や北欧神話で、話を動かすキャラクターのことを指すけど……」
「へぇ、そうなんだぁ。博識ですね、ミッドナイト先生」
「知らなかったのね!?」
「はい。響きがかっこいいのと覚えやすそうなので」

 てへ。……まあ、もちろんちゃんとした理由もあるけど。

「私の攻撃方法とか"個性"の性質がトリッキーなのと、星モチーフも好きだからそれもかけてみました」

 今後コスチュームにも星モチーフをいれたいなぁと思ったり。

「星……!僕のリスペクトだね、結月さん!!」

 おっと、青山くん!その発想はなかったよ……!?

「青山くん。違うみたいよ」

 すかさず梅雨ちゃんが代わりに否定してくれた。ありがとう、フロッピー。

「体育祭の活躍を見る限り、あなたにぴったりのヒーロー名ね」

 ミッドナイト先生の言葉に、笑顔を浮かべて。「それに……」

「あの体育祭で見せた"個性"も戦いも、私のすべてじゃない。手札も切り札もまだあるって意味もこめて」

 不敵に笑ってみせる。

「……!ハッ面白ェ……!!」

 私の視線にすぐに気づいた爆豪くんが、悪い笑みを浮かべた。まあ、別に爆豪くんに対してだけじゃないけど。

 あの場を見ていた全ヴィランに対して。

 口ではそう強気に言いつつも……私のもう一つの能力の特性も、弱点もあの場で明かしてしまったから。
 プロになるまでに、それを上回る戦い方を身に付けて、あの体育祭での活躍自体が、私の「トリック」だっだ――という事にしたいという決意。

 ――そして、残るは再考の爆豪くんと二人になった。
 次に発表したのは、飯田くんだ。
 ヒーロー名をなのか、ずっと悩んでたみたいだけど……。

「あなたも名前ね」

 クリップに書かれているのは「天哉」の二文字のみだった。

「緑谷くん、出来た?」
「あ、はい」

 ミッドナイト先生に呼ばれて、でっくんは席を立つ。
 でっくんのヒーロー名。
 きっと、オールマイトをリスペクトした名前なんだろうなって思っていたけど――

「!?」
「えぇ緑谷いいのかそれェ!?」
「一生それで言われ続けるかも知んねえんだぜ?」

 その場がざわつく。

「うん。今まで好きじゃなかった」

 頷いて、理由を話すでっくん。好きじゃなかったという言葉に聞いてる?爆豪くんって思う。

「けど、ある人に"意味"を変えられて……」

 ある人――それはお茶子ちゃんだ。

「僕にはけっこうな衝撃で……あだ名みたいに……親しげに呼んでもらって嬉しかったんだ」

 フリップに大きく、でも、ちょっと不格好に書かれている名前。
 でっくんの顔は清々しく前を向いて、堂々と皆に言った。

「これが僕のヒーロー名です!」

 ――デク。頑張れって感じのデクだ。

 最初はちょっとびっくりしたけど、すぐに納得した。

(素敵な理由だと思うよ。"でっくん")


「爆殺卿!!」
「違う。そうじゃない」


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