Let's 初めての戦闘訓練

「おっはよう〜」
「おはよう!結月くん!」
「おはよう、結月ちゃん」

 教室に入り、仲良くなったクラスの皆と挨拶する。飯田くんは一番に登校してそうだなぁ。

「あ、おはようかっちゃん」
「アァ!?次そう呼んだらブッ殺す」

 でっくんがあだ名で呼んでたから、真似して呼んだらめっちゃ怒られた。そんなに怒らなくても……爆豪くんは朝から元気だ。

「おはよう、でっくん」
「お、おはよう、結月さん……ひぃ!か、かっちゃんおはよう……」

 次に登校して来たでっくんに挨拶したら、気づいた爆豪くんが彼に一睨み。
 怯えながらもちゃんと挨拶するでっくんは、人が良過ぎるというか何というか……。
 この二人は幼馴染みらしいのに、どうして仲が悪いのかは謎だ。今度聞いてみよう。

「おはよう。ホームルーム始めるぞ」

 相澤先生は昨日と同じように寝袋から登場した。手にゼリー飲料を持って。
 教師とヒーローの両立はよっぽど忙しいのか。激務の安吾さんもゼリー飲料で済ます事が多いらしいし。
 そう考えると、あの寝袋はこまめに睡眠を取るため?合理的を権化したような人だな……。

「今日から通常授業が始まる。心して受けるように。以上」

 短い!

 心してと言われたけど、午前は必修科目である、普通の内容の普通の授業から始まるわけで。

「んじゃ次の英文のうち間違っているのは?――おら、エヴィバディヘンズアップ!盛り上がれーー!!!」
「(普通だ)」「(普通だ)」「(普通だ)」
「(くそつまんね)」
「(関係詞の場所が違うから…4番!)」

 ――教師がプロヒーローということ以外は。

(プレゼント・マイク先生、授業も自分のライブ化してる……。うるさいからおかげで苦手な英語も眠くならずに済みそうだけど)

「我、数学ヲ担当スル者……」
「「(顔怖っ!)」」
「(うわぁ……!!敗北から立ち上がった不屈の男、エクトプラズムが数学担当なんだ!ヴィランっぽい見た目ランキング入賞常連で、"個性"は〜〜……)」

 今度は静かだけど、独特な話し方の先生が現れた。

 個性豊かな先生たちによって、案外退屈せずに授業を受けられ――あっという間にお昼休み。

 向かうのは、雄英名物の大食堂。

 クックヒーローランチラッシュの一流料理を安価で食べられると評判で、私も楽しみにしていた。(メニューも豊富らしい)

「八百万さんはお昼は食堂?一緒に食べようよ」
「結月さん。せっかくのお誘い頂いたのにごめんなさい。私、お弁当なんです」

 申し訳なさそうな八百万さんが手にしたのは、大きな重箱二段のお弁当。
 八百万さんの"個性"は自身の体から創り出すから、これぐらい食べないとやっていけないのだろう。(食べても太らないのは羨ましい)

「お弁当はお母さんが?」
「いえ、母は料理が苦手なので……これは専属の料理人が……」

 さすがお嬢さま!よく見ると気品溢れる風呂敷に包まれている。

「じゃあまた今度の機会に。ねえ、轟くんは――」いない!!

 もうすでに食堂に行っちゃったのかな、いつの間に。仲良くなれるチャンスだと思い、誘おうと思ったんだけど…。

 ほとんどの生徒は食堂に行くようで、皆一斉に席を立つ。

「私はお弁当なの」と言う梅雨ちゃんに「八百万さんもお弁当だよ」と伝えると、嬉しそうに梅雨ちゃんは八百万さんの席へ向かって行った。

「アタシ、ランチラッシュの料理楽しみにしてたんだー!!」
「私も私も!」

 食堂に向かう廊下で、前の方で三奈ちゃんと透ちゃんがはしゃいでいる。二人は明るいノリが似てるなーって思っていると、

「なあ、結月は好きな食べ物なに?あ、俺、上鳴電気ね」

 隣に並んで来た男子に、自己紹介と共に軽いノリで声をかけられた。(ヒーロー科にもこういうチャラそうなタイプ、いるんだ)

「好きな食べ物?甘いものかなー、一番はチョコパン!」

 コンビニやスーパーによく売ってる四つ入りのね。おいしいし、一つで満足するのに四つ入って100円(税抜)で買えるなんてコスパ最強で神!

「……じゃあさ、今日の放課後チョコパン食べに行かね?」
「え、どこに?コンビニ?」

 首を傾げていると「ナンパ目的なら他所でしろ」そんな冷ややかな声が廊下の反対側から届いた。

「げっ……相澤先生……」

 上鳴くんの表情が歪む。書類を脇に抱えた相澤先生が通り過ぎて行った。反対の手にはゼリー飲料を持っている。
 まさかこの先生、三食ゼリーだったりして……。


「うわ〜迷うなぁ!結月は何にするか決めた?」
「迷うねぇ。……あっ私、オススメの鶏南蛮定食にしようかな」
「あー!おいしそう!じゃあアタシはねー……」

 科も学年も問わずほとんどの生徒が集まるので、大食堂はかなりの賑わい。
 食券を買って定食コーナーに並ぶ。ファーストフード店もびっくりの早さで、すぐに料理が出てきた。

「結月!こっちに席取ってあるぜ!」

 切島くんが手を上げて呼んでいる。あらかじめ席を取っておいてくれたらしい。できる男子、切島くん。

 クラスの皆で集まって(一部の人除き)わいわいと会話をしながらお昼を食べる。
 特に盛り上がったのは、入試の実地試験の話。

「そういやぁ、葉隠はどうやって入試試験突破したんだ?」その"個性"で
「フフフ……後ろからこっそり近づいてね、電源スイッチを切ったんだよー!」
「「(あれ、電源スイッチあったんだ!!)」」


 透ちゃんから衝撃の事実を知ったところで、お待ちかねの午後の授業『ヒーロー基礎学』が始まる。


「いよいよだね、理世ちゃん!なんかわくわくして来たよ!」
「ね!どんな授業なんだろうね〜!」

 教室に戻り、お茶子ちゃんと軽く言葉を交わしてから自分の席に着く。
 単位数も最も多く、最も気合が入る科目であり、何より――

「わーたーしーが――!!」

 この声!このセリフ!

「普通にドアから来た!!!」

 オールマイトが普通にドアから入って来たぁ!!(!?)

 そう、あのNo.1ヒーローオールマイトが担任なのだ。

「オールマイトだ……!!すげえや、本当に先生やってるんだな……!!!」
「銀時代のコスチュームだ……!」
「画風違いすぎて鳥肌が……」

 オールマイトの登場にざわめき立つ教室。
 間近で見るとすごい迫力というか、コントラストが違いすぎ的な……。
 誰かが言った、画風が違うって的確な表現。

「(結月少女か……。大きくなったな……。今日初めて会ったけど!)」

 ふとオールマイト先生と視線が合って、微笑んでくれた気がした。
 安吾さん繋がりで合図を送ってくれたのかも知れない。ずっとテレビ越しで見てきたヒーローだから、不思議な気分だ。

「ヒーロー基礎学!ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う課目だ!!単位数も最も多いぞ!」

 早速だが今日はコレ!!オールマイト先生は手の中のカードを見せる。
 書かれている文字は"BATTLE"。つまり……

「戦闘訓練!!!そして、そいつに伴って…こちら!!!」

 普通の壁だと思ってたそこからは、音を立て棚が現れた。かっこいい!

 中には番号が記されたトランクケースが。

「入学前に送ってもらった『"個性"届』と『要望』に沿ってあつらえた……コスチューム!!!」
「「おおお!!!!」」
「着替えたら順次グランド・βに集まるんだ!!」
「「はーい!!!」」

 なんかこの授業、勢いで進んでいる気がする……。

 "ヒーローコスチューム"

 それは、ヒーロー活動に欠かせない正式な戦闘服。
 ……コスチューム?あれ、あまり記憶にないのは何故だ。

(ああ、そうだ。中也さんと太宰さんに任せたんだっけ……)

 提出する時に相談したら、あの二人は自分のデザイン案が一番だと言い合いになり、収拾がつかなくなり、二人に投げっぱなしにしてたのを今思い出した。

 確か私が最初に出した要望なんて、軽くて動きやすいとか、過度な露出は少なめとか、オシャレで可愛いデザインが良いな〜ぐらいだった気がする。
 この"個性"だと、特にサポート製が必要ないから完璧見た目重視に。

 まあ、中也さんは現役プロヒーローだし、太宰さんはセンスが良いからおかしなことにはなってないだろう!たぶん。


「結月のコスチューム似合ってて超可愛いじゃんっ!」
「ありがとう!えへへ」

 着替えると三奈ちゃんが真っ先に褒めてくれた。嬉しい。

 さすが中也さんと太宰さん!

 喧嘩しながらも仕事は完璧。よし、私はこの路線でいこう。

「ほんまやー!理世ちゃんのコスチューム近未来的!私好きなデザインだ!」

 そういうお茶子ちゃんも宇宙ぽくって、無重力の"個性"のイメージにも合ってて可愛い。本人はパツパツスーツって恥ずかしがっているけど。

 派手な柄の三奈ちゃんや、ロック風な耳郎ちゃん。蛙をイメージしたと一目で分かる梅雨ちゃんなど、皆よく似合って……んん!?

「八百万さん、大胆過ぎない……?」

 思わずそう口にして、目が釘付けになる。

 胸元からおへそまで、服の面積が全くない作りのレオタード風のコスチューム。
 八百万さんの抜群のスタイルを、惜しみもなく発揮はしているけど……。

「私の"個性"の特性を活かしたコスチュームですわ」

 知っている。それは分かるけど。目のやり場というか、男子もいるわけだし……心配になるというか。

「本当はもう少し布地の面積が少ない方が良かったのですが、サポート会社の方から改善されてしまったようで……」

 これ以上に!?

 心底残念そうに言う八百万さん。
 人間完璧ではない。こんな完璧に近い八百万さんでも、欠如しているものがあると私は気づいた。

 それは――羞恥心!

「八百万さん。峰田くんには気を付けて。何かあったらすぐに私を呼んで」
「あ、はい……?ありがとうございます」

 肩を掴んで真剣に言う。意味が分からずきょとんとしている八百万さんに、さらに危うさを感じる。

「理世ちゃん、お母さんみたいね」
「せめてお姉ちゃんとか……梅雨ちゃん」

 ケロケロと笑う梅雨ちゃん。

「理世ちゃん見て見て。私なんてほぼ全裸だよ〜!」

 楽しげな声の主を探すと、宙に浮く二つの手袋。下には同じく二つのブーツ。

 ……なるほど、そう来たのね。

「透ちゃんは見えないから問題なしっ」
「えー!私も心配してよ!」
「風邪ひかないようにね?」
「そっちかーい!」


 準備も出来て、指定されたグラウンドへと向かう。
 すでにそこには、ずらりと集まる未来のヒーロー達の姿が勢揃いしていた。

「あ、デクくん!?かっこいね!!地に足ついた感じ!」
「麗日さ……うおお……!!」

 後から来たでっくんは、緑色のコスチュームに覆面を被っている。うさぎの耳みたいのが付いていて、なんとなくオールマイトをイメージしたように見えた。

「要望ちゃんと書けばよかったよ……パツパツスーツんなった」はずかしい
「ヒーロー科最高」
「ええ!?」

 下心満載にサムズアップしたのはもちろん峰田くんだ。
 さっきも八百万さんを鼻の下を伸ばして見てたし、とんでもないのがヒーロー科に紛れていたものだ。(八百万さんのコスチュームもコスチュームだけど)

「あ、あの……!」
「?」
「結月さんもすごく似合ってるよ…!イメージにぴったりと言うか……!」
「ありがとう。でっくんもうさぎみたいで可愛いねっ」
「か、可愛い……!!(うさぎみたい!)」

 何故か狼狽えるでっくん。

「良いじゃないか、皆。カッコイイぜ!!」

 オールマイト先生の声が、その場に大きく響く。私も同じように視線を動かし、皆のコスチューム姿を観察した。

「轟くんは半分覆ってるんだねぇ」

 たまたま近くにいた事もあり、気になったことを聞いてみる。
 轟くんの衣装はシンプルな白の上下に、左側のみ、足から頭まで氷に似せた物体に覆われていた。
 正直、ちょっと不気味的な……。

「戦闘では左は使わねぇって決めてるから」
「……へえ?」

 左ということは熱の"個性"か。
 理由は分からないけど、何かわけありなのは分かった。
 そう答えた彼の表情は、忌々しいというように一瞬歪んだから。(熱の"個性"が嫌いなのかな……)

「始めようか、有精卵共!!戦闘訓練のお時間だ!!」

 全員揃ったところで、オールマイト先生は声高々に話す。

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 ――あれは飯田くんだ。頭までメカのようなコスチュームで身を包んでいるけど、声と口調と、ついでに仕草ですぐに誰か分かった。

「いいや!もう二歩先に踏み込む!屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 ほほう。オールマイト先生は詳しく授業の内容を説明する。

ヴィラン退治は主に屋外で見られるが、統計で言えば屋内のほうが凶悪ヴィラン出現率は高いんだ」

 屋外は人の目に留まりやすく、テレビで中継されやすい。近年は人気を出したいヒーローたちが、屋外事件にこぞっと集中してしまうらしく、問題になっていると――安吾さんが言っていたのを思い出した。(そう言った事件を特務課が担当することもあるらしい)

「監禁・軟禁・裏商売……このヒーロー飽和社会。ゲフン。真に賢しいヴィランやみ屋内にひそむ!」

 ヒーローが増えすぎた故に起こった問題。
 対してNo.1ヒーローのオールマイトは、事件の内容に関わらず、どんな事件でも耳にすれば必ず解決してしまう。
 どんな小さな事件でも、どんな凶悪事件でも――。
 その安心感が、彼をNo.1ヒーローに昇り詰めた理由の一つだろう。

「君らにはこれから『ヴィラン組』と『ヒーロー組』に分かれて2対2の奥内戦を行ってもらう!!」

 奥内戦かぁ。室内の構造を目視で確認出来れば、自由にテレポート出来る私は有利だ。

「基礎訓練もなしに?」

 小首を傾げながら梅雨ちゃんが聞く。

「その基礎を知る為の実践さ!ただし、今度はブッ壊せばオッケーなロボじゃないのがミソだ」
「……ロボ」

 隣の轟くんが疑問というように呟いた。そっか、轟くんは推薦入試組だったから知らないんだ。

「一般入試の実技試験がロボット相手だったんだよ〜」

 こそっと教えると「そうか」と大して興味がなさそうな反応が返ってきた。
 ……う〜ん、轟くんはポーカーフェイスだし、何を考えているのかいまいちよく分からないな。

 それはそうと。

「オールマイト先生ー!このクラス奇数なんですけどぉ!」
「勝敗のシステムはどうなります?」
「ブッ飛ばしてもいいんスか」
「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか………?」
「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」
「このマントヤバくない?」

 私以外にも皆が一斉に質問し出したので「んんん〜〜聖徳太子ィィ!!!」とオールマイト先生は困惑している。ちょっと面白い。

「いいかい!?状況設定は『ヴィラン』がアジトに『核兵器』を隠していて『ヒーロー』はそれを処理しようとしている!」

 設定、アメリカンだ。質問を無視する事に決めたらしいオールマイト先生。カンペ片手に説明を続ける。

「『ヒーロー』は制限時間内に『ヴィラン』を捕まえるか、『核兵器』を回収する事。『ヴィラン』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事」

(核の場所がヒーロー側には知らされてないとなると、若干ヒーロー側が不利?まあ実際の現場でもヒーローが不利な状況がほとんどだし)

「コンビ及び対戦相手はくじだ!」
「適当なのですか!?」

 公平で良さそうだけど、真面目な飯田くんは不服らしい。

「プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多いし、そういうことじゃないかな…」

 控えめに口を開いてフォローするでっくん。飯田くんは納得した。

「そうか……!先を見据えた計らい……失礼致しました!」
「いいよ!!早くやろ!!」

 奇数問題に関しては特にハンデとかもないらしく、一チームが三人になるだけらしい。

「HAHAHA!プロは他事務所のヒーローと急造チームアップすることが多いからな!アドリブさ!」
(それ、でっくんが今さっき言った説明だし。オールマイト先生、何も考えてなかったんじゃ……)

「――じゃあ、最後は結月少女だ!」

 クジを引く順番は、飯田くん案で出席番号順になった故。
 すでに二組ずつ分かれており、私はどこかのチームの、三人目になる事がすでに確定である。

「結月の"個性"ならこの訓練に有利だから、うちのチームに入ってくれると良いよな!」
「結月〜Eだよ!E!」

 なんかドラスト会議みたい。
 皆の注目が集まる中、これだ!と、私はクジを引いた。

「――Dだ!」
「俺たちのチームか!」
「飯田くんと縁があるみたいだね〜、よろしく。爆豪くんも」
「足引っ張んなよ、モブ女」

 ……チームの足は引っ張らないけど、爆豪くんの足は引っ張るかも〜なんて。

「続いて最初の対戦相手はこいつらだ!!」

 オールマイト先生は、ヒーローとヴィランと書かれた二つの箱からボールを取り出した。

「Aコンビが『ヒーロー』!!Dコンビが『ヴィラン』だ!!」

 早速呼ばれた私たちDチーム。そして、対戦相手のAチームはでっくんとお茶子ちゃん。わぁ、またもやすごい偶然。

ヴィランチームは先に入ってセッティングを!5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。他の皆はモニターで観察するぞ!」

 セッティング……核をどこに隠すとかか。あとは作戦会議とかだけど、飯田くんは良いとして。

「っ……(デク……!!)」

 爆豪くんは協調性無さそうだよねぇ、見るからに。(ていうか、なんか怒ってる……?)

「飯田少年、爆豪少年、結月少女は、ヴィランの思考をよく学ぶように!これはほぼ実戦!ケガを恐れず思いっきりな!度が過ぎたら中断するけど……」

 実戦。爆豪くんの"個性"は派手だから、度が過ぎないと良いけど――。


 オールマイト先生の指示通り、Dチームの私たちは先にビルに入り、待機する。

「訓練とはいえ、ヴィランになるのは心苦しいな……」
「真面目だねぇ、飯田くん」

 オールマイト先生はヴィランの思考を学ぶようにって言っていた。
 とすれば、要は相手の嫌がる事をすれば良いよねっ。

「これを守ればいいのか……ハリボテだ」
「私が持ち上げられるぐらいには軽いから、隠すのは簡単そう」

 それにしても……

「えっと……爆豪くん?」

 爆豪くんはさっきから異様に静かである。
 まるで、嵐の前の静けさだ。

「おい、デクは"個性"が……あるんだな?」
「?あの怪力を見たろう?リスクが大きいようだが……しかし、君は緑谷くんにやけにつっかかるな」

 この俺をだましてたのか――爆豪くんがそう小さく呟いたのが聞こえた。
 背中越しからでも、怒りに満ちているのが分かる。

「……ねえ、爆豪くん。別に緑谷くんは騙してたわけじゃないと思う。昨日、聞いた話だと……」
「うるせェ!関係ねーヤツは黙ってろッ!」
「…………」

 最後まで言い終わる前に怒鳴りつけられた。

「爆豪くん!君は何をそんなに……!」
「飯田くん、大丈夫。私が余計なことを言っちゃったみたい」

 これ以上ギスギスしたら、訓練に支障がでそう。誤解を解きたかったけど、他人が口出しすれば、余計に拗れてしまうのかも知れない。


「クソナードが……!!」


 一抹の不安要素を抱えながら、屋内対人戦闘訓練開始のアナウンスが鳴った。


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