「安吾さん、行ってきます!」
安吾さんに見送られ、一週間ぶりの雄英に登校だ。(私は途中でリカバリーしてもらいに行ったけど)
「お、理世ちゃん。職場体験終わって、今日から通常登校かい?」
「はい!」
すっかり顔馴染みになったスタッフさんに挨拶して、フェリーに乗り込む。
(みんなの体験談を聞くの楽しみだな)
――学校に着くと、教室に入る前から何やら愉快な笑い声が聞こえて来た。
「「アッハッハッハマジか!!マジか爆豪!!」」
「笑うな!クセついちまって洗っても直んねえんだ。おい笑うな、ぶっ殺すぞ」
「「やってみろよ、8:2坊や!!アッハハハハハハ」」
(声の主は……切島くんと瀬呂くん?)
「こりゃあ結月の反応が楽しみだな!」
「だよなーっ!」
「んでクソテレポの名前が……!!」
「ねー私がどうしたの〜?」
おはようと教室に入ると呼ばれた名前に、後ろ姿の二人に声をかけた。
「「噂をすれば!!」」
パッと振り向いた切島くんと瀬呂くんの顔は、笑いに堪えきれないという顔だ。
「アァ!クソテレポ!テメェ、気色わりィスタンプ送ってきた挙げ句、未読スルーしやがって!」
「見ろよ、結月っ!爆豪の髪型!!」
「見せもんじゃねえぞ、コラァ!!」
二人がジャジャーンと手を広げるそこには………………ぴっちり七三分けの爆豪くん。
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「……結月さん?」
「何か言えやコラァ!!!」
BOM!!!
「「戻ったぁぁ〜〜!〜〜!〜〜!!」」
爆豪くんがキレた瞬間、髪がボンっといつもの髪型に戻り、我慢が出来ずぷはぁと吹き出す。
「ははは!七五三みたいだねって言ったら可哀想かなって思ってせっかく我慢してあげてたのにぃ〜!」
「七五三!!」
「結局、結月言ってんし!」
「〜〜っ!もう一度言ってみろや、テメェ……!!」
「七五三。……フっ」
「もう一度言ってんじゃねえわ!!ぶっ殺す!!」
朝から笑い過ぎて、お腹が痛い!
「結月、泣いてるし!」
「笑い過ぎて涙出ちゃった」
「分かる。ウチもさっき涙出るほど笑った」
「ベストジーニストの所ではピッチリした髪型が強制なのかしら」
三奈ちゃん、梅雨ちゃんと耳郎ちゃんにおはようと挨拶する。三人が盛り上がっている話題は、もちろん職場体験だ。
「へえー敵退治までやったんだ!うらやましいなあ!」
「耳郎ちゃんはデステゴロのとこだよね」
「避難誘導とか後方支援で、実際交戦はしなかったけどね」
「それでもすごいよー!」
「うんうん」
「私もトレーニングとパトロールばかりだったわ。一度、隣国からの密航者を捕えたくらい」
「「それ、すごくない!!?」」
「あと、海難ヒーローの定例会に参加して、理世ちゃんと船内で爆弾探しの演習をしたわ」
「そうそう!楽しかったよねー!」
「えーいいなぁ!」
「その辺りも含めて理世の職場体験は後でゆっくり聞かないとね。緑谷たちと一緒にヒーロー殺しの事件に巻き込まれたって聞いたし」
「あの時はみんなが通報してくれたおかげで助かったよ〜」
会話をしながらふと梅雨ちゃんの後ろの席を見る。
天哉くんの席だけど、不在なのは焦凍くんの席にでっくんと集まっているからだ。
楽しげに話す三人の姿がそこにあった。(微笑ましいなぁ)
視線を戻し、さらにその後ろの席の主も不在だ。
お茶子ちゃん、まだ予鈴まで時間があるからまだ登校していないのかな?と思っていたら、教室の後ろで背中を向けて、佇む姿に気づく。
「「……?」」
私の不思議そうな視線に気づいた三人も、同じように首を傾げた。
「お茶子ちゃんはどうだったの?一週間」
梅雨ちゃんが声をかけると「よくぞ聞いてくれた」というように反応した背中。
「とても――、有意義だったよ」
「お茶っ子ちゃん……?」
何があった。振り返ったお茶子ちゃんは闘気に満ちたオーラを醸し出して、無我の境地に達したような謎の戦うポーズをしている。
「目覚めたのね、お茶子ちゃん」
「バトルヒーローのとこ行ったんだっけ」
「たった一週間で人って変わるもんだねぇ〜……」
どうやらお茶子ちゃんの中で眠る何かが目覚めたらしい。
「理世ちゃん……ぜひとも手合わせを願いしたい」
そう言って、ボッボッと拳を繰り出すお茶子ちゃん。
「いいよ。でも、しかるべき場所でやろうね」
今ここでと言わんばかりにやる気満々のお茶子ちゃん。ここでやったら間違いなく相澤先生に怒られる。
「たった一週間で変化すげぇな……」
そう私と似たような事を呟いたのは、上鳴くんだ。
「はよ、結月」
「おはよう、上鳴くん。峰田くん」
自分の席に向かう途中、二人に挨拶する。
「変化?違うぜ、上鳴」
峰田くんが意味深に口を開いた。
「女ってのは……元々悪魔のような本性を隠し持ってんのさ!!」
「Mt.レディのとこで何見た」それやめろ
ガジガシと爪を噛む峰田くんを横目に呆れる。下心で行くから……。
「八百万さん、おはよう」
「結月さん、おはようございます」
「一佳から聞いたよ〜八百万さんたち、CM撮影したんだってね!いつ放送されるか楽しみだねぇ」
席に着きながら言うと、八百万さんは「ヒーロー活動をするはずが、いつの間にかCM撮影になってしまいましたわ……」と、困った顔で恥ずかしそうに微笑した。
「おはよう!結月くん。その後の怪我の具合はどうだ?」
「おはよう、天哉くん」
おはようとでっくんと焦凍くんにも挨拶してから答える。
「リカバリーしてもらったから、もう平気だよ〜」
昨日の龍くんとの鍛練で切り傷が増えて、筋肉痛にはなったけど。三人も元気そうだ。
「あ、今……轟くんのその後の職場体験の話を聞いてたんだ。結月さんはどうだった?」
「僕たちは怪我でそれどころじゃなくなっちゃったから……」と、天哉くんと顔を見合わせて言うでっくん。
その後というと……
「グラヴィティハットに会いに来た紅夜叉がちょうど手合わせをしてくれたり――」
「ゲイシャヒーロー、紅夜叉かぁ!花魁のような格好をした艶やかな見た目の実力派女性ヒーロー!金色の夜叉を操る超強力な"個性"の持ち主で、本人も仕込み傘で戦うかなりの使い手らしいけど、夜叉の"個性"が強すぎて紅夜叉本人が戦う姿は滅多に見れないという……」
「「(……さすが……)」」
「女性プロヒーローとの手合わせならまた違った観点からアドバイスもらえそうだよね!」
でっくんは歩くヒーローWikipediaだね。
「焦凍くんは?その後何かあったの?」
「緑谷たちにも話してたんだが、事件がある度に「俺を見てろ」って親父がうざかった」
いつもクールな表情の焦凍くんの眉間に、うんざりと皺が寄った。苦笑いするでっくんと天哉くんと同じように曖昧に笑う。
エンデヴァー、よっぽど焦凍くんが自分の所に来たのが嬉しかったのね……。
「見ていただけで俺自身は特に何もしてねえしな。サポートっつっても敵が逃げないように氷結で逃げ道を塞いだりしただけで……」
「それ、十分活躍してるね、焦凍くん」
「うん」
「プロの活動を間近で見るのも勉強になるぞ!」
あとは熱の"個性"を使いこなせるように特訓していると焦凍くんは言った。
テレビのニュースで、ステイン事件の功労者(になってる)エンデヴァーの活躍している映像がよく流れていたのを見て……。
確かに炎の扱いが多彩で、強力な"個性"に頼る一芸だけのヒーローではないと感じた。
間近で見た時にエンデヴァーの炎は業火のように感じたけど、あれぐらいの威力を焦凍くんも出せるようになったらすごいだろうなぁ。
(決勝戦ではあれだったけど、爆豪くんと焦凍くん。本気で戦ったらどっちが強いんだろうね?)
でっくんはグラントリノさんにアドバイスというよりガミガミ言われて終わったと言った。
「でも、最後にヒーロー名聞かれて、ちょっとは認められたのかなって」
そう照れくさそうに言うでっくんに「きっとそうだよ」と、肯定するように三人で頷いた。
天哉くんはというと……自宅で養生中、家族とちゃんと話し合って、さらに家族の絆が深まったとか。
「兄も……今度は俺が一人前のプロヒーローになれるようにサポートしたいと言ってくれた」
『インゲニウム』という名を、天哉くんが今度こそ継ぐために――。
「ま。一番変化というか大変だったのは……お前ら三人と結月だな!」
不意に呼ばれた名前に、上鳴くんを見る。
「そうそう、ヒーロー殺し!!」
「……心配しましたわ」
「命あって何よりだぜ、マジでさ」
続けて瀬呂くん、八百万さん、切島くん。
瀬呂くんと切島くんに至っては、爆豪くんに掴まれてまだ絡んでいたらしい。
他の皆の視線も集まって、話題はヒーロー殺しの件に。
「結月さんは既読も連絡もなかったので気になっていましたら、まさか一緒に巻き込まれていたなんて……」
八百万さんの言葉に心配かけてごめんねと答えた。改めて色んな人に心配かけたんだなと気づく。
「エンデヴァーが救けてくれたんだってな!」
「すごいね!さすがNo.2ヒーロー!」
砂藤くんや透ちゃんの何気ない言葉に、思わず焦凍くんを見てしまうも……
「……そうだな、救けられた」
頷いて、そう素直にその言葉を口にした彼に。でっくんも「うん」と一言頷いた。
以前の焦凍くんなら、きっとその一言は出なかっただろうな。
「俺、ニュースとか見たけどさ」
次にそう切り出したのは、尾白くんだ。
「ヒーロー殺し敵連合ともつながってたんだろ?もし、あんな恐ろしい奴がUSJ来てたらと思うとゾっとするよ」
まあ、つながったのはその後だけど。
その前だとしてもあのステインが一緒に乗り込んでくるとは思えないかな。
思想も戦い方も何もかも違うのに、本当にどうして死柄木なんかと手を組んだんだろう。その辺りも、ステインが受け答え出来るようになったら聴取するんだろうけど……。
「でもさあ、確かに怖えけどさ。尾白、動画見た?アレ見ると一本気っつーか、執念っつーか、かっこよくね?とか思っちゃわね?」
「上鳴くん……!」
上鳴くんの発言に、場の空気が凍った。
慌ててでっくんが窘めるようにその名前を呼ぶ。上鳴くん、よりによって天哉くんの前で……。(アホなのは顔だけじゃなくて頭もだったの?)
「バカ!空気読めっての」
「え?」
隣から耳郎ちゃんも小声で叱る。
「あっ……飯……ワリ!」
でっくんの隣の天哉くんを見て、上鳴くんは自分の失言に気づいた。
悪気はないのは分かるけど、悪気はなかったでは済まされない事もあるわけで。
「いや……いいさ」
天哉くんは静かに口を開いて、見つめるのは自身の左手だ。その袖口の下には、巻かれた包帯がちらりと覗いている。
『――俺が本当のヒーローになれるまで、この左手は残そうと思う』
「確かに信念の男ではあった……クールだと思う人がいるのも、わかる」
皆で黙って、天哉くんの言葉に耳を傾ける。
「ただ奴は信念の果てに、"粛清"という手段を選んだ。どんな考えを持とうとも、そこだけは間違いなんだ」
今ままでより、ずっと力強い声で。
「俺のような者をもうこれ以上出さぬ為にも!!改めてヒーローへの道を俺は歩む!!!」
ビシィっと直角に曲げた腕を力強く前へ。
指先まで真っ直ぐに伸ばした腕は、天哉くんそのものの生き方だ。
「飯田くん……!」
「完全復活だねぇ」
「ああ、そうだな」
胸を張る天哉くんを見て笑う。焦凍くんも微笑を顔に浮かべて言った。
「さァそろそろ始業だ。席につきたまえ!!」
「やっぱ飯田はこうじゃないとな!」
「うんうん!うちのクラスの委員長だもんね!」
「もう大丈夫そうだな……」
「……っ……っ(コクコク)」
「僕はもうずっと前から席に着いてるよ☆」
「飯田くん、元気なって良かったよー」
「飯田ちゃん、前にも増してはりきってるわね」
「非常口飯田!これからも頼むぜ!」
「熱いぜ!飯田ー!」
おおっとクラス中が盛り上がる。1−Aはやっぱりこうじゃないとね!
「五月蝿い……」騒がしい教室に常闇くんがクールにそう呟いて。「ケッ」と、爆豪くんが一人うざったそうにしているのも含めて。
「……皆さん。たまには副委員長のことも思い出してください……」
「「(……うん)」」
フ……と黄昏てる八百万さんの背中。
「八百万さんの副委員長があってこその委員長だよぉ!」
「そうそう!ウチらめっちゃ頼りにしてるよ、副委員長!」
「そうだよっヤオモモ!!」
「や、ヤオモモ……ですか?」
八百万さんは悪くなくて、こればっかりは委員長の天哉くんのキャラが濃すぎるのが問題だからなぁ。(なるほど。八百万百ちゃんを略してヤオモモ)
「なんか……すいませんでした」
上鳴くん、素直に謝ることは良いことだけど……。
「上鳴くん。天哉くんが許しても私はがっかりだよ。もう君とは終わりだね」
「え!?俺と結月いつ始まってたの!?……ハッ気づかないうちに俺たち始まってたのか……!!」
「いや、始まってないから。で、始まる前に終わり迎えてんから」
「つーか、いつの間に飯田のことも下の名前で……!!」
「おい、上鳴。私語」ギロリ
このぴりっとした感じも一週間ぶり。相澤先生がドアを開いた瞬間、SHRはすでに始まっていて、私語厳禁が暗黙のルールだ。
「おはよう。まずは職場体験、お疲れさまでした。一部事件に巻き込まれはしたものの、無事に終了して何よりだ。んじゃ、実習レポート回収すんから、後ろから回せ――」
***
「お茶子ちゃんはガンヘッドの所で、でっくんが言ってた「G・M・A」を学んで来たんだね〜」
「うん!無駄のない動きですごかったんだ。言動は可愛いのに!」
昼休み――ランチラッシュの食堂にわいわい話ながら皆で向かう。
お茶子ちゃんは中也さんに似た『無重力』の"個性"だ。近接格闘術で活かしたら強くなりそうだなぁお茶子ちゃん。
「耳郎ちゃんとこのデステゴロはなんかギャップはなかったの?」
「見たまんまだったね。でも、最終日に『まあ、一週間頑張ったな。……持ってけ』ってこう、そっぽ向きながらお土産にお菓子くれて」
「「優しい!」」
「ちょっとキュンとした」
「「分かる!」」
無骨で、口調が荒いヒーローの不意な優しさ。
「いいなぁ女子たち楽しそうで…オイラもキュンとしたかった……」
「いい加減諦めろって」
「お前の場合はキュンなんて爽やかなもんじゃなくて、ラッキースケベ狙いだろ」
「なんだよ瀬呂〜お前だって心の中で虎視眈々と狙ってんだろ?」
「虎視眈々と狙ってたらそれはもうラッキースケベとは言わねえだろ」
「甘いぜ。起きるのを待つのではなく、自分から起こしに行く……!そう思わねえか、緑谷」
「なんでそこで僕に振るの!?」
……峰田くん……。
「デクくんたちもなんや盛り上がっとるね」
「いや、盛り上がってるというか、でっくんが小人に絡まれてるとしか……」
「峰田のやつ、全然懲りてないね!」
三奈ちゃんの言葉に深く頷く。Mt.レディ、もっと締め上げてくれて良かったよ……峰田くんに限っては。
食堂は相変わらず賑やかっぷりだ。
久しぶりのランチラッシュのご飯に、今日のお昼は何にしようかなぁと悩んでいると……
「結月さん。職場体験もありましたし、なんだかお久しぶりですね」
「あ、塩崎さん」
軽い会釈と共に微笑む塩崎さん。塩崎さんはシチューにするらしく、じゃあ私もそれにしようと一緒に列に並ぶ。
「そういえば、塩崎さんは職場体験はシンリンカムイの所へ行ったんだよね」
どうだった?と聞くと、塩崎さんは思い出すようにゆっくり口を開く。
「尊敬するヒーローの元で学べて、とても有意義な一週間でした。シンリンカムイによる自然保護の話はとても勉強になり、人にも地球にも優しいヒーローになりたいと新たな決意を胸に……」
どうやら、塩崎さんも何かに目覚めたらしい。
「塩崎さんならそんなヒーローに絶対なれるね」
すでにそんな風格さえもある。
「ありがとうございます。結月さんはステイン事件に巻き込まれたと噂を耳にしましたが、お元気そうで何よりです」
どうやら事件の話はB組に伝わっているらしい。まあ、知り合いが見ればあれが誰か分かる動画だったしね。
「拳藤さんたちも心配していましたので、お元気でしたとお伝えしておきますね」
「ありがとう」
塩崎さんと別れて、皆が待つ席へと向かう。
「あれ、焦凍くん。どこ行くの?」
途中、私の目の前を通りすぎる焦凍くんを呼び止めた。
「?どこって……」
「せっかくだから一緒に食べようよ」
「……別に、構わねえけど」
じゃあ決まり。焦凍くんを一緒に連れていく。
「お。轟じゃん」
珍しいと瀬呂くんたちが言った。お互い空いてる席に向かい合って席に着く。
「轟くんは蕎麦か。しかし、お昼に蕎麦だけとは栄養価が偏らないか?」
その隣を座りながら天哉くんが言った。
「天哉くんは焦凍くんのお母さんかな」
「朝と夜はちゃんとバランスよく食ってる」
「轟くんは冷たいお蕎麦が好きなんだね」
よく冷たいお蕎麦頼んでるの見かけてたと、でっくんは天哉くんの隣に座る。
「でっくんの好きな食べ物はカツ丼でしょ」
「正解です」
でっくんの目の前には、ほかほかのカツ丼だ。
「ランチラッシュのお米おいしいよね!」
私の隣にはお茶子ちゃんが座って、いつもとちょっとだけ違うお昼だ。
「焦凍くんは温蕎麦も好きなの?」
「いや、冷たいやつだけだ」
「蕎麦って、割合とか奥が深いよね〜」
「大体、二八派と十割派で分かれるな」
「ほう。焦凍くんはどっち派?」
「どっち派……でもねえな。打ち手次第にもよるから。ここのは二八だがうまいと思う」
「じゃあ、明日のお昼はお蕎麦にしよう。冷たいの」
「おう」
「あ、私、蕎麦湯の飲み方もよく分かんない」
「あれは好みでつゆを入れて飲むだけだ。蕎麦がうまいとこはそのまま飲んでもうまいよ」
「へぇ〜そうなんだぁ。勉強になるなぁ」
「「(会話……!渋すぎる……!)」」
焦凍くんは通だな。蕎麦通。新しい一面を見られて面白い。
「理世ちゃん、さすがやね」
「?何が?」
お茶子ちゃんの言葉に、うんうんとでっくんと天哉くんも頷いていた。
***
「轟くんがこんなにしゃべったところ私初めて見たよ!ね、尾白くん」
「うん。なんか意外っていうか……」
「そもそも、高校生の会話じゃなくね?」
「さすが結月だよなー。コミュ力高えっつーか……。お前と仲良いぐらいだもんなっ爆豪!」
「アァ!?知るか!あいつが勝手に絡んで来て迷惑してンだよ、こっちは!」
***
お昼休憩も終わると、午後はお待ちかねのヒーロー基礎学だ。今日は何をするのか、皆で話ながら教室に戻る。
「皆さん。コスチュームに着替えたら運動場γに集合とオールマイト先生から伝言を預かっておりますわ」
「「ありがとう、副委員長!!」」
「こ……これくらいのことは当然ですので!」
嬉しさを隠しきれない八百万さん。デレ方がツンデレっぽくて可愛い。
戻って来たその足で、お弁当組を含めて更衣室へと向かう。
「天哉くんのコスチュームはまだ修繕中?」
私は予定通りコスチュームが戻ってきたけど……。
「ああ、俺のはまだ修繕中のようだ。今日は体操服で参加するぞ!」
「まだ怪我も治りきってないんでしょ?無理は禁物だよー」
はりきっているのは良いけど。
「あれ、結月、コスチューム前と少し変わったんだね」
着替え終わると、真っ先に三奈ちゃんが気づいてくれた。
「うん。修繕の時に、ついでに気づいた要望も出したんだ」
そう言いながら、"個性"で太股にホルダーを付けると、そこに小ぶりのダガーを差し込んだ。
「すごーい!武器?」
「でも、見たところレプリカですわね」
見ただけで分かるとは、さすが八百万さん。
「これはね〜……」
私の新しい攻撃法のための武器。
切り裂いて攻撃するのではないので、本物ではなくレプリカだ。
単なる棒でもなんでも良いんだけど、見た目のかっこよさ的にマジシャンで使うようなダガーにしてもらった。
まあ、授業中に使う出番はないだろうな。(対敵用の戦法だし)
「……そうだねぇ。青山くんのマントにでも飛ばしてボロボロにしたら戦意喪失するかなって!」
「理世……青山になんか恨みでもあんの?」
「青山くんに恨みはないよぉ」
ふふふと怪しげに笑うと、耳郎ちゃんは怪訝に首を傾げながらも深くは追求して来なかった。
「理世ちゃん、このリボンみたいなのにも秘密があるの?」
今度は透ちゃんの質問に答える。
「それは捕縛用。相澤先生が巻いてるのと同じ素材でできたやつ」
一度、脳無で試した捕縛法だ。こっちはコスチュームに合わせて可愛さ追求。
「リボンの先、星になっててめっちゃ可愛いねえ理世ちゃん!」
「ヒーロー名がトリック"スター"だからねっ」
お茶子ちゃんの言葉に、コミックなら星が出そうな感じにウィンクしてみせた。