「ハイ。私が来た」
運動場γに全員集まると、普通にオールマイト先生がやって来た。
「ってな感じでやっていくわけだけどもね。ハイ、ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」
「ヌルっと入ったな」
「久々なのにな」
「パターンが尽きたのかしら」
「迷走中?」
皆、言いたい放題。まあ、私もだけど。
「尽きてないし迷走もしてないぞ。無尽蔵だっつーの」
オールマイト先生は説得力のない声で否定した。
「職場体験直後ってことで、今回は遊び要素を含めた救助訓練レースだ!!」
オールマイト先生が今日の授業の内容を発表すると、すかさず後ろから勢いよく伸びる手の気配。
「救助訓練ならUSJでやるべきではないのですか!?」
もの申す天哉くんは、1−Aのヒーロー基礎学の冒頭ではお馴染みである。
「ゴールデンエイジのコスだぁぁ」
でっくんがオールマイト先生のコスチュームの変化に感激しているのも。(さすがでっくん……!)
「あそこは災害時の訓練になるからな。私は何て言ったかな?レ」
「レースとおっしゃいました!」
(てんてん、オールマイト先生の言葉に被せてるよ……!)
「そ、そうレース!!」
ひきつりながら答えるオールマイト先生。気合いの入った天哉くんにペースを乱されて面白い。
「ここは運動場γ!」
オールマイト先生は気を取り直して、説明を続行。
「複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯!4組に分かれて1組ずつ訓練を行う!」
4組という事は1組、5〜6人で分かれるのね。
「私がどこかで求難信号を出したら、街外から一斉スタート!誰が一番に私を助けに来てくれるかの競争だ!!」
なるほど。でも、このレース。密集工業地帯ってのが厄介だ。下から行くとなると。
「機動力だけでなく、方向感覚も試されるな」
「そうね。道が入り組んでるから迷わないようにしないと」
常闇くんと梅雨ちゃんの言葉にそうそうと頷く。
視界から情報を頼りにしている私にとって、こういうごちゃっとした所は苦手。
「俺に機動力を求めないでくれ!」
上鳴くんが叫んだ。
「もちろん、建物の被害は最小限にな!」
「指さすなよ」
最後に付け足した言葉と共に、ススススと動いたオールマイト先生の指先。
「爆豪くん。君『目的地まで爆破で壊してまっすぐ進めば早えな』って考えてたでしょ」
「……。考えてねーわ!!クソが!」
「「(……考えてたんだな……)」」
「じゃあ、初めの組は位置について!」
組の選出はいつものクジ引きランダム。
最初の組は、でっくん、尾白くん、天哉くん、三奈ちゃん、瀬呂くんの五人だ。
それぞれが別々のスタート地点に向かい、私たちは野外ステージにあるような、大型モニターでレースを観戦。
座りながら、映し出される五人の姿を眺める。
「飯田くん、準備体操しとる」
お茶子ちゃんが吹き出しながら言った。うん。キレッキレだ。
「飯田、まだ完治してないんだろ。見学すりゃいいのに……」
「今日の飯田は止まらねえ」
砂藤くん。それな。
「クラスでも機動力良い奴が固まったな」
「本命の私の出番はまだね!」
「うーん。強いて言うなら緑谷さんが若干不利かしら……」
「確かにぶっちゃけあいつの評価ってまだ定まんないんだよね」
「何か成す度に大怪我してますからね……」
八百万さんと耳郎ちゃんの会話に、確かにと小さく苦笑いして頷いた。(でも、それもきっと……)
「俺、瀬呂が一位」
トップ予想な!と切島くんの発言に、皆で誰が一位になるか予想する。
「あー……うーん、でも尾白もあるぜ」
上鳴くん。
「オイラは芦戸!あいつ運動神経すげえぞ」
峰田くん。
「デクが最下位」
爆豪くん。って予想じゃなくてそれ願望。
「ケガのハンデはあっても飯田くんな気がするなあ」
お茶子ちゃんの言葉に「ケロ」と梅雨ちゃんも頷いた。
「フフフ……私の天才的な予想ではこのレース、でっくんが一位だよぉ!」
「職場体験で頭打ったかクソテレポ」
頭は打っていないよ、爆豪くん。なんだなんだと皆の視線が私に集まる。
「緑谷かぁ確かにあいつは色々とすげえけど、瀬呂には勝てねえって!」
「そうそう、他のメンバーは尾白、芦戸、飯田だぜ?」
以前のでっくんなら、切島くんと上鳴くんの反論ももっともだけど。
「いやいや、でっくんもこの一週間で成長したからね!ジュース賭けてもいい」
「オラ、ペプシ買って来いや」
「爆豪ちゃん、まだレース始まってもないわ」
気が早すぎる以前の問題だよ、爆豪くん!
「焦凍くんもでっくんだと思うでしょ」
あの時、一緒に戦った君なら!
「入り組んだ工業地帯に"個性"から見て、俺は瀬呂が有利だと思う」
「………………」
START !
開始と同時に、テープを鉄棒に引っかけた瀬呂くん。
三奈ちゃんは人一人乗れるぐらいの鉄のパイプの上を"個性"の酸で滑って進む。
尾白くんは尻尾をバネにして、天哉くんは狭い道を走り抜ける。
「ホラ見ろ!!こんなごちゃついたとこは上行くのが定石!」
切島くんが熱く声を上げた。
瀬呂くんはテープで某蜘蛛の糸を操るヒーローのようにスイスイと宙を行く。(まあ、予想していた通りの動きだねぇ)
「となると、滞空性能の高い瀬呂が有利か」
「オイ!クソテレポ!俺ァ、上から行くことを考えてたんだよ!!」
「え?なんの話?」
「現段階では瀬呂が一位だけどよ、勝負は最後まで分からねえぜ!芦戸ー!負けんな!」
(峰田くん、たまには良いこと言うね!勝負はこれからが本番!)
――だって。瀬呂くんの横を、緑色の閃光が通り抜ける。
「おおお緑谷!?」
「何だその動きィ!!?」
皆が驚く様子に「来た!」と、ガッツポーズをした。
画面には、工業地帯の入り組んだパイプや壁を足場に、縦横無尽に飛び交うでっくんの姿。
「確かにすげえな、緑谷のあの動き」
「……!?焦凍くん、今気づいたような口ぶりだけど、君知ってるよね?」
天然か。いや、焦凍くんは天然だった。
「すごい……!ピョンピョン……何かまるで……」
(まるで爆豪くんみたい、だよね)
驚くお茶子ちゃんの言葉に、ちらりと爆豪くんを見る。まあ、ブチ切れ案件……
その爆豪くんは、ギリっと歯を噛み締めていた。
爆豪くんが爆発するようにキレるのではなく、静かにキレている時は要注意だ。
"精神的"にキてる。(悪い方向に転がらなきゃ、良いけど……)
これまで以上に。
「一週間で……変化ありすぎ……」
「結月、これ知ってて賭けしたんだな!ずりぃぞ!」
「ずるくはないと思いますわ、峰田さん。瀬呂さんも後ろから追い上げていますし、飯田さんは速度を増してます。緑谷さんの動きには驚きましたが、決着はまだ分かりませんわ」
「そうそう。逆にでっくんが一位になったら賭けに参加した人は私にジュースおごってね」
***
「ッソだろ!!」
「緑谷――!?飛んでんのー!?」
「骨折克服かよ!」
「君のその動き……!分かっていたさ、緑谷くん!だが、俺も負けないぞ――!!レシプロバースト!!」
***
「キタ!!飯田くんの超秘――!!」
お茶子ちゃんがおおと声を上げる。
ラストスパート。
天哉くんは上へ飛び上がり、レシプロバーストで一気に距離を詰める!
「瀬呂、緑谷、飯田……勝利はこの三人に絞られたな」
常闇くんの言葉に、皆で固唾を飲んで画面に釘付けになった。
「……一応、これは救助訓練レースだが、皆趣旨を忘れているな……」
「……障子。それは言わねえお約束だぜ」
上鳴くんがグッとサムズアップした。
確かに授業そっちのけで盛り上がっている。
まあ、オールマイト先生も遊び要素を含めたって言ってたし?
「緑谷くん、パルクールみたいだね!」
「緑谷、このまま逃げ切るか!?」
「行っけー!でっくんー!!」
……あ。
その瞬間。面白いくらい皆で声が重なった。
建物の上を駆けて、フェンスに足をかけ、でっくんは下にある細いパイプの上に着地しようとして……
「「落ちた――!――!――!?」」
それはもうずるっと。ちなみにゴール目前だった。(でっくんんん!?)
『フィニ――ッシュ!』
オールマイト先生の声が音声で届く。
第一レースは、やっぱり勝負は最後の最後まで分からない、的に終わった。
「緑谷さん、惜しかったですわね……」
「いやぁ……さすがでっくん、見事なオチ」
画面には人差し指を上に向けた、得意気な瀬呂くんの姿だ。
一位になった人は「助けてくれてありがとう」と書かれたたすきをかけられるらしい。
「一位は瀬呂だったけど、緑谷すげえし白熱した戦いだったな!!」
「戦いじゃなくて競争だけどな。切島」
まあ、確かに白熱した競争だった。
二位は天哉くんで、三位は尾白くん。四位は、悔しそうに地団駄を踏んでいる三奈ちゃんだ。(三位の尾白くんと僅差だった)
最下位の彼は、ちーんと効果音が聞こえそうな感じで地面に倒れている。……惜しかったねぇ、でっくん。
「結月、約束は守れよ!オイラ、ファンタグレープ」
「んじゃ、俺ポカリ」
「俺は……なんかワリぃからいいや!当たっただけで満足だし」
「みんな!切島くん見習って!!」
人間出来てるよ、切島くん……!!
「一番は瀬呂少年だったが、皆入学時より"個性"の使い方に幅が出てきたぞ!!この調子で期末テストへ向け、準備を初めてくれ!!さあ!二組目、準備して!!」
二組目の走者は、爆豪くん、お茶子ちゃん、梅雨ちゃん、切島くん、障子くんの五人だ。
「デクくんや飯田くんに負けんよう私も頑張らんと!」
「ええ!頑張りましょう、お茶子ちゃん」
気合いを入れるお茶子ちゃんと梅雨ちゃんを頑張ってと、女子皆で見送る。
「ひぃ!!か、かっちゃん頑張って……」
帰ってきたでっくんとすれ違う瞬間、爆豪くんは無言でものすごく睨んだ。
「やったな、瀬呂!!ウェーイ!」
「ウェーイ!途中、緑谷には焦ったけどな!ま、俺の独断場だったぜ」
「緑谷は最後惜しかったなードジっ子が許されるのは女だけだぜ?」
「あはは……」
「一週間でよくあそこまでコントロール出来るようになったな!かっこよかったぜ!」
「あ、ありがとう!砂藤くん!」
「天哉くんは二位おめでとう!」
「ありがとう、結月くん。だが、二位で甘えてはいけない。もっと精進しなくては」
「真面目だねぇ。あ、三奈ちゃんもお疲れ!酸で滑る方法は見たことあったけど、応用して壁に登ってたのあれすごい!」
「エヘヘ!あれ、壁を溶かして登ってんだけど、酸の濃度を前より調整出来るようになって出来た技なんだぁ」
「(熱で溶かして登るあいつと似たような技か……)」
次の組がスタート地点に着く間「次は誰が一番になると思う?」そう上鳴くんが皆に聞いた。
「爆豪一択じゃね?」
「だよなー!」
瀬呂くんの返答に、満場一致の空気だ。
「梅雨ちゃんも壁登れるし、良い線行くとは思うけどな〜」
「爆豪さんは空中移動ができる上に、体育祭のレースでも好成績で、速度もありますからね」
私の言葉を引き継ぐように八百万さんが言った。
切島くんと障子くんは機動力に特化した"個性"ではないし、お茶子ちゃんは未知数だ。
浮いて行ければ有利だけど、自分を浮かすには反動が高いみたいだから。(私も予想するなら爆豪くんが一位かな。でも、面白くないよねぇ)
「あーあ、爆豪くんと同じ組じゃなくて残念だな。秒で泣か……あ、間違えた。負かすのに」
「結月ならレースで爆豪に勝てそうだけど、泣かすのは止めようぜ」
「結月……おまえ、実はミッドナイトと同じ属性……」
START!
モニターには「1位」という表示と、激しく爆破の勢いに乗って、宙を行く爆豪くんの姿が映し出される。
でっくんのように足場を使わずに、そのまま飛んで行くらしい。
まるで、違いを見せつけるみたいに。
「強い"個性"の上に機動力もあって、良いよなー爆豪は」
上鳴くんが恨めしそうに言った。
「上鳴くんって、頑張ったら某とあるコミックのヒロインみたいに磁力操ってぴょんぴょん行けないの?」
「それ出来たら俺、超活躍してると思うぜ」
「だよね〜」
帯電は帯電でしかないらしい。何とも残念。
「結月は良いよなぁ……テレポート」
「ジャッジメントですの!」
――第二レースは予想通り、爆豪くんの一位で終わった。
「爆豪少年!速いな!今度はちゃんと受けとれよ」
「たすきを掛けりゃあいいんだろ」
二位は梅雨ちゃん。壁を伝い、鉄棒に舌を引っかけてぐるんと跳んだり、上手く進んではいたけど、爆豪くんの爆速には届かずに残念だった。
三位はお茶子ちゃんで、自分を浮かせて上から行き、障害物には浮きながら跳んでと途中まで二位と良い感じだったけど、襲いかかる吐き気に失速。
何とか吐き気を抑えながらオールマイト先生の元にたどり着くお茶子ちゃん。
「麗日少女!よくここまで順位をキープして堪えたが、これはあくまで救援!救出者が具合を悪くしてはいけないぞ!」
「は……はい……」
そして、四位は障子くんで五位は切島くん。
二人とも機動力に優れている"個性"ではないけど、障子くんは情報収集に優れたその"個性"で、最短距離を行くというその差だった。
「やっぱすげえな、爆豪!!」
「ったりめーだ。てめェ、最下位かよ。クソダセェ」
「ひでえな、オイ!!」
四人が戻って来て「お疲れー!」と、皆で出迎える。
最下位でばつが悪そうな顔の切島くんには健闘を称え。顔には出ないけどくやしがる梅雨ちゃんと障子くんと、落ち込んでいるお茶子ちゃんを皆で励ました。
そして、次の組は……
「正直、おまえと同じ組だったら一位になれなかったから安心したわ」
瀬呂くんが苦笑いしながら言った。
「それは分からないよ〜」
次の組は、私、耳郎ちゃん、上鳴くん、峰田くん、砂藤くんの五人だ。
「だって、私。下から行くから」
指を下に差し、にやりと笑う。そう宣言すると皆は「え!?」って驚く顔をした。
「宙からだったら速攻で行けるからね。ごちゃごちゃした下からだと、どれぐらいで行けるか試そうと思って」
せっかくの授業なのに、簡単に終わらせるのはもったいない。
「素晴らしいな、結月くん!!己に更なる試練与えるとは……!」
「ええ、さすがですわ……!」
「男らしいぜ、結月!!」
「ケッ、せいぜい迷って最下位になれ」
単純に自分がつまらないからって理由もあるんだけど、褒められると照れるなぁ。なんか不快な雑音も一緒に聞こえたけど。
「まあ、ゲームで言う……縛りプレイ的な?」
「縛りッ……!プレイ……!!」
「えっなに雷直撃したみたいな衝撃受けてるの峰田くん!!変なこと考えてないよねぇ……!?」
「さあ、次の組ー!!位置に着いてー!!」
峰田くんにどん引きしながら、オールマイト先生の指示に従って、位置に着く。
まあ、気を取り直して。
下から行こうが、この"個性"なら一位は譲れない。
START !
打ち上がる救助信号を確認したと同時に、テレポート!
***
「結月が下から行くとなると……このレース、誰が一位になるかね」
「それでも俺は結月が有利だから、一位になると思うぜ!」
「僕も結月さんかな。有利な"個性"に、判断力も早いから最短距離を行くと思う」
「他に機動力優れてる対抗馬が峰田ぐらいか」
「今のところ、その峰田さんが一位ですね」
「結月が最下位」
「あいつの"個性"を考えてもそれはねえだろ……爆豪」
「ああ、結月くんは速いぞ!」
「真面目に反論してんくんじゃねえわ!半分野郎とクソ眼鏡!!」
***
結果、見事に皆の予想を裏切ったんじゃないかと思う。
「フィニッ――シュ!」
「おかしいだろ!なんで結月と耳郎が一緒に一位!?」
最後の上鳴くんが息を切らしながら到着して、レースは終了。
地面に膝をつけてこちらを見上げる上鳴くんの顔は、少しアホになりかけていた。
「途中で迷ってたら耳郎ちゃん見つけて、一緒に連れてきた」
「そんなんアリか!?」
「迷ってたんだな……」
「オイラ、途中まで一位だったのに、後半あっさり抜かされた……」
いやぁ、下はまさに迷路だったね。見える範囲にしかテレポート出来ないから結構苦戦してたり。
「本当、理世って予想外のことするよね」
同じたすきをかけた耳郎ちゃんが隣で苦笑いを浮かべた。旅は道連れ的な。まあ、それは冗談として。
「実践的な救助だとしたら、救助者の居場所を素早く特定できる耳郎ちゃんと機動力に優れた私が組めば最強だし。適材適所ってね!」
現に近道調べてもらって、レースを巻き返した。
耳郎ちゃんは耳のプラグを壁に挿して、自身の心拍を流し、音の伝わり方を聞いて道なりを把握するというすごい技で。(耳郎ちゃん、天才……!)
「確かに理に適ってるな」
納得するのは三位の砂藤くん。
砂藤くんは飴を食べてパワーアップし、その勢いで壁をよじ登り、フェンスを飛び越えて来たという。なんていうゴリ押し的。
「レースとしてはアウトだろ!?」
納得いかない二位の峰田くん。
峰田くんはもぎもぎで足場を作りながら、跳ねるように移動していたのを見かけた。
「確かに個々で競うレースとしては微妙な所だが、あくまでこれは"救助"訓練だからな!お互いの長所を活かした協力の結果だからセーフだ!」
オールマイト先生は私たちにグッとサムズアップする。耳郎ちゃんと顔を見合わせ、パチンとハイタッチした。
戻ってくると「お疲れ!」と皆に出迎えられて、反対に次のレース組に「頑張って」とエールを送る。
「まさか結月が耳郎を連れて、二人とも一位とは思わなかったぜ!」
驚きながら切島くんが言った。
「理世ちゃん。最初、ペースが悪かったのは迷ってたからだったのね」
「あんな自信満々だったのに、意外に方向音痴だったのか?」
梅雨ちゃんと瀬呂くんの言葉に、肩を竦めて答える。
「実はごちゃっとしてる所、苦手で。思った以上に苦戦して危うかったから耳郎ちゃんには助けられたよ〜」
「ウチの方こそ。機動力ないから諦めてたからさ」
耳郎ちゃんは照れくさそうにプラグをいじりながら答えた。
「二人とも良い救助コンビね、ケロ」
「わ〜じゃあコンビ名、何にしよっか?耳郎ちゃん」
「いやいや、コンビ名はいらないでしょ」
「次で最終レースだな……」
「六人での対決だから白熱したレースになりそうだね」
障子くんとでっくんがモニターを見上げながら言う。
最終の組は、焦凍くん、八百万さん、透ちゃん、常闇くん、青山くん、口田くんだ。
「やっぱ、推薦組が強そうだよなー」
「確か、推薦入試の試験内容が3qマラソンだっけ」
八百万さんがそう言ってたな。
「常闇だって負けないよー!ダークシャドウいるしさ!」
「対して葉隠さんや口田は厳しいな……」
「青山くんは……うん、わからへん!」
「青山ちゃんは、お腹が持てばネビルレーザーで距離を稼げそうね」
「実際走ってみっと分かんけど、結構距離あるからなー」
皆の一位予想は焦凍くん、八百万さん、常闇くんの三人に分かれた。
私は八百万さんと予想。
平坦な道なら焦凍くんが速そうだけど、レースは工業地帯だ。八百万さんの創造の"個性"が活躍するんじゃなかろうか。
START!
早速、飛び出したのは青山くん。
ネビルレーザーの威力で、後ろに高く飛んだ青山くん。
タンクや建物を越えて、距離を稼いでいく青山くん。
そして、徐々に落下していく青山くん。
着地は大丈夫なのかしら?と心配しているとぱっと画面が切り替わった。
一番気になるところが!
「青山……着地頑張れよ……」
同じ事を考えていたらしい砂藤くんがぽつりと呟いた。
続いて映し出されたのは八百万さんだ。
手のひらから鉄の棒を出して、そのまま地面を突いて、ぐんっと建物の上へ。
そのまま、高跳びの要領で別の場所に跳び移る。
「すげえな、八百万!!」
「ほらほら!やっぱり八百万さんが一位だよぉ!」
「待って、理世ちゃん。奥に氷が見えるわ」
梅雨ちゃんが指差すモニターの奥には氷の塊。
画面が切り替わり、映し出されたそこには。
「……轟の"個性"の威力はホントどうなってるわけ?」
瀬呂くんのひきつった笑みを浮かべながら言った。
あの体育祭のドームの半凍を彷彿される氷の量。焦凍くんにとっては複雑に入り組んだ工業地帯なんて関係なしだった。
何故なら、凍らせてその上に新しく足場を造ってしまったから。
オールマイト先生が待機している場所まで続く氷の道。いや、確かに効率良いけど。
「焦凍くんって、大雑把だよね……」
「う、うん……。でも、あんだけ威力出せるのはやっぱりすごいや……」
「自らの道を作るとは……さすがだな、轟くん」
でっくんと天哉くんも唖然と画面を見上げる。
常闇くんもダークシャドウが彼を引っ張り効率よく進んでいるのに、焦凍くんの存在がインパクトありすぎて。
「……あ、あれ。そういえば透ちゃんは?」
「そういえば画面に映らないわね」
「まさかカメラが葉隠さんを見失った……?」
尾白くんが首を傾げて言った。
手袋とブーツを履いて、透ちゃんは全裸ではなかったけど……。
不思議に思いながら「透ちゃんを探せ」と意識しつつ、モニターを見つめる。
口田くんは"個性"で小鳥に呼び掛け、最短距離を案内してもらっているみたいで、ほのぼの光景。あ、青山くんが走っている。
無事着地は成功したようでよかった。お腹を抱えてるけど。
「フィニッ――シュ!」
透ちゃんが見つからないまま、最終レースは終了した。
結果は……
「轟少年!左の"個性"も順調に扱えてるようだな!」
「はい」
一位、焦凍くん。
「……一歩及ばず」
二位は常闇くん。
「………(私はまた……!)」
三位は八百万さん。
「走った走ったー!」
四位は透ちゃん。(!?)
「君とは良い勝負だったね?」
「……っ」
五位はほぼ同じ到着で、青山くんと口田くんだ。
透ちゃんは四位と、いつの間にかゴールしててびっくりだ。
その透明の"個性"で活躍を見逃すだけで、透ちゃんって三奈ちゃんと同じぐらい身体能力が高いのかも。
「実はね!便乗して轟くんの氷の上を走り抜けて来たのさ!」
聞くと、得意気に教えてくれた透ちゃん。なるほど!確かにゴールまで一直線だけど……まあ、それでもよくあんな足場が悪い氷の上を走り抜けて来た。
「透ちゃん……ただ者じゃないね」
「わっはっは!バレた?でも、超寒かったよ〜」
「そりゃあ葉隠さん。ほぼ全裸で氷の上にいたら……」
尾白くんは困ったように笑う。私も同じように笑いながら、皆と一緒に運動場を後にした。