衣替えの時期に、私も半袖シャツに袖を通した今朝……
とうとうこの日がやって来た。
季節的には一足早いというのに、そいつはやって来た。
「台風だね〜……」
「台風ですね……」
安吾さんと窓の外を呆然と眺める。
暴風が吹き荒れ、窓に雨がびしびしと当たっている。
早朝なのに灰色の雲に覆われ、どんより薄暗い。
「フェリーはやはり欠航のようです」
ネットで調べてくれている安吾さんが言った。この天気じゃそうだろうな、と私はすでに諦めモードだ。
「今日は早く出て電車で行くね」
さすがにこの台風の中、テレポートで海は渡りきれないかなぁ。
「新幹線を使っても良いんですよ」と笑顔で言う安吾さんに「大丈夫」と改めて言う。
さすがにこの距離の通学で新幹線を使うのはハードルが。
レインコートを羽織って、レインブーツを履いて、準備はばっちり。「気をつけて行ってらっしゃい」という玄関先での安吾さんの言葉に「はい!行ってきます」と、元気よく答えて家を出た。
「あわわ……っ」
一応、傘は持って来たけど、風に煽られて危険……!
テレポートした方が風の抵抗は受けにくいから、短い感覚を跳ねるように移動していると。
「敦くーん!」
ヒーローコスチュームにレインコートを羽織った敦くんに遭遇。
「理世ちゃん、おはよう!」
「パトロール?」
「うん。台風で風が強いから、看板とか飛ばされてないかとか見回りしてるんだ」
確かに物が飛ばされて、人に当たったら危ないもんね。
「朝からお疲れさま、敦くん」
「ありがとう。理世ちゃんも今日は電車通学だよね?」
気をつけて行ってらっしゃい――!
雨空の下でも晴れやかな笑顔の敦くんに見送られ、私は駅に向かった。
(朝の満員電車……死んじゃう!!)
湿気で不快指数MAXの中、電車の揺れにぎゅうぎゅうと押され、く……苦しぃ……。(1時間もこのまま!?無理……!)
途中の大きな駅でどっと降りてくれたから助かったけど……朝のラッシュ……恐るべし……!(もう疲れた……テレポしたい)
ぐったりしてホームを歩いていると「君、雄英のテレポートの……」スーツを来た若い男性に声をかけられた。
「……はい?」
「ご、ごめんね!急に話しかけてっ」
思わず不機嫌顔のまま答えたら、お兄さんは慌てて謝りそそくさと離れていく。(……え〜そんなに私、顔怖かったかな……)
ちょっと傷心しつつ、乗り換えのホームにやってきた。
『台風の影響のため、電車の到着が遅れています――』
「…………」
これ、間に合うのかなぁ?まあ、遅刻しても台風だから、相澤先生も許してくれるよね。(一応、遅延証明書貰っておこう)
再びラッシュに揉まれ、やっとたどり着いた雄英最寄り駅。(テレポートすればぎりぎり間に合うかも……!)
***
「今朝は結月さん、遅いですわね。もうすぐ予鈴が鳴ってしまいますわ……」
「たぶん、台風で電車通学に変えて、遅れてるのかもな」
「結月は横浜からフェリーだったか。さすがにこの天気じゃ、欠航だろうな」
「私、理世ちゃんに連絡入れてみるよ!」
***
「――ぎりぎりセーフ!!」
「理世ちゃん!」
「結月さん!」
「結月!」
「理世!」
靴を履き替えると、一気に教壇近くに飛んだ。直後に鳴った予鈴に、相澤先生が来る前に席に着かないと。
「結月くん!ボロボロだが、まさか海をテレポートで飛び越えて来たのか!?」
「え、マジ?」
「まあ、理世ならやりかねないような……」
天哉くんの言葉に上鳴くんと耳郎ちゃんが続く。気づくと、皆の視線が私に集まっていた。
「まさか!満員電車に揉みくちゃにされて最悪だったよぉ〜!むしろ帰りはテレポートで海越えて帰るっ私!」
「いや、普通に危ねえからそれは止めとこう結月」
な?と切島くんに真面目に心配されて止められた。レインコートを後ろのロッカーにかけて、席に着いた途端。
「おはよう――」
予鈴が終わり、時間きっちりに入って来た相澤先生。
今朝のSHRが始まるなか、手櫛で髪を整えていると、ふと先生と目が合った。
「結月……おまえ、まさか"個性"で海渡って来たんじゃねえだろうな……」
「違います〜!ちゃんと電車で来ました!」
一応、遅延証明書も手元にある。
「ならいい。普通に何かあったら危ねえからな」
(切島くんと同じこと言われた)
「おまえならやりかねん」
「えぇ……」
まったく皆、私を何だと思っているのかしらと不本意にしていると「日頃のおまえを見てればやりそうだと普通に思うんじゃねえか」と、若干隣の席の焦凍くんに含み笑いと共に言われた。
「さて、六月最終週――期末テストまで残すところ、一週間だが」
月日はあっという間に過ぎて、中間テストが無事に終わったと思えばもう期末テストだ。(押せ押せの雄英のスケジュールのせい)
「お前らちゃんと勉強してるんだろうな。当然知ってるだろうが、テストは筆記だけでなく演習もある。頭と体を同時に鍛えておけ」
――以上。
相澤先生が言う通りに、確かにこの一週間が勝負だ。ラストスパート。授業にも身が入るというもの……
「セイイエー!!台風にも負けずに盛り上がって授業するぜーーー!!アリーナ――!」
「「………………」」
……。アリーナ、どこ。
気合いを入れたところで最初の授業は、台風に負けじといつも以上にハイテンションなプレゼント・マイク先生が担当の英語だった。削がれたやる気。
「三階席――!!」
「……あ、ここでしょうか?」
「八百万さん、無視無視」
「テレポートガール!レスポンスカモン!問1の問題!」
「いえー、答えは…………3です」
「イエア!なんか間があったけど正解!次、レッドホットマン!!」
「(え、誰?)」
「(レッドホットマン??)」
「(誰のこと?)」
「(初めて聞いたぞ)」
「レッド……赤い……ホット……熱い……。俺か!!」
正解は切島くんでした。(そのまんま)
***
「全く勉強してね――!!」
「あっはっはっは」
お昼休み――教室では中間テストの通告を受けた時と同じ光景が繰り広げられていた。
「授業参観やら手紙やらで全く勉強してね――!!」ああああああああ
あの時以上に切羽詰まって頭を抱えているのは上鳴くんだ。なお、彼の中間テストでの成績は、21/21位と最下位。
「あっはっはっは」
現実逃避しているのか笑うしかないのか、笑顔が張り付いている三奈ちゃんの順位は、20/21位だ。
「確かに。行事続きではあったな」
常闇くん。頭キレそうに見えるから意外だ。15/21位。
「中間はま――入学したてで範囲狭いし、特に苦労なかったんだけどな――……」
砂藤くん。13/21位。
彼の言葉に頷く甲田くん。12/21位。
「行事が重なったのもあるけど、やっぱ期末は中間と違って……」
「演習試験もあるのが辛えとこだよな」
くるりと振り返り、そう砂藤くんの言葉を引き継いで言ったのは峰田くんだ。
足を組み、机に肘をついて何だその態度。何だそのいらっとする顔。10/21位。
………………中間10位!?
上鳴くん、21/21位。
三奈ちゃん、20/21位。
峰田くん、10/21位。
「あんたは同族だと思ってた!」
「おまえみたいな奴なバカではじめて愛敬出るんだろが……!どこに需要あんだよ……!!」
「"世界"かな」
(その頭はブドウが詰まってるわけではなかったの、峰田くん……!?)
「アシドさん、上鳴くん!が……頑張ろうよ!」
二人の背中に励ましの声が響く。でっくんだ。
「やっぱ全員で林間合宿行きたいもん!ね!」
でっくん。4/21位。さすが!
「うむ!俺もクラス委員長として皆の復帰を期待している!」
腕を振り上げる我らが委員長。
当然の結果である。2/21位。
「普通に授業うけてりゃ赤点は出ねえだろ」
うん。焦凍くんはね。5/21位。
「言葉には気をつけろ!!」
容赦ない焦凍くんの言葉がグサッと刺さったのか、胸元を抑える上鳴くんにほんの少しだけ同情した。
「上鳴くんも三奈ちゃんも一度八百万さんに勉強教えて貰ったら?」
そんな私は、6/21位。5位以内が目標だったけど、焦凍くんに負けた。
「私、ですか?」
「得意科目なら私も教えられるけど、八百万さんならどの科目も万能だし、理路整然、懇切丁寧と教え方上手だから」
「っ、結月さん……!」
授業で分からない事があって、前の席の八百万さんに聞くといつもそんな風に教えてくれる。ありがたい。
「そうですね……!お二人とも。座学なら私、お力添え出来るかもしれません」
そんな八百万さんは1/21位。
堂々の中間テスト1位だ。
「「ヤオモモーーー!!!」」
パアァと笑顔になる二人。
「演習のほうはからっきしでしょうけど……」
「八百万さん?」
打って変わって、八百万さんはいきなりどんよりになった。顔を見合わせた焦凍くんも不思議そうにしている。(八百万さん、最近、時々元気ないよーな……)
「お二人じゃないけど……ウチもいいかな?2次関数ちょっと応用つまずいちゃってて………」
「え」
そう言ってノートを持ってやって来たのは、耳郎ちゃん。8/21位。
「わりィ俺も!八百万、古文わかる?」
「え」
中間の赤点組で後がない瀬呂くん。18/21位。
「おれもいいかな?いくつか分からない部分があってさ」
尾白くん。9/21位。
「良いデストモ!!」
突然、椅子から立ち上がり、八百万さんは両手を上げる。わーいとその場は大盛り上がりだ。
「では、週末にでも私の家でお勉強会催しましょう!」
「まじで!?うん、ヤオモモん家楽しみー!」
「八百万さん、生き生きしてるね〜」
「ああ。初めて見るな、あんな八百万」
焦凍くんと生き生きしている八百万さんを微笑ましく眺めた。
「ああ!そうなるとまずお母様に報告して講堂を開けていただかないと……!」
「「(講堂!?)」」
「講堂ってあの講堂……?」
「話の内容から推測すると、その講堂だろうな」
すごい!八百万家には講堂があるんだぁ。(さすがお嬢様!)
「皆さん、お紅茶はどこかご贔屓ありまして!?」
「「(お紅茶!?)」」
「我が家はいつもハロッズかウェッジウッドなのでご希望がありましたら用意しますわ!」
「「(あ!?)」」
生き生きというか、八百万さんは何だかプリプリしていた。
「もちろんっ勉強のこともまかせて下さい!必ずお力になってみせますわ……」
「「…………」」ぽかーん
「初めて見るね〜プリプリした八百万さん」
「ああ、どうしたんだろうな」プリプリ?
八百万さんの新しい一面は、
「(ナチュラルに生まれの違い叩きつけられたけど)」
「(なんかプリプリしてんの超カァイイからどうでもいいや)」
「なんだっけ?いろはす?でいいよ」
「ハロッズですね!!」
いつものキリッとした姿とは違う、とても可愛いらしい一面だった。
「この人徳の差よ」
これ見よがしに爆豪くんに言ったのは切島くん。16/21位。
「俺もあるわ。てめェ教え殺したろか」
爆豪くん。3/21位。
「おお!頼む!」
切島くん、爆豪くんに勉強を教えてもらうって大丈夫なのかな。(教え上手にはとても見えないケド)
「爆豪くん、切島くんに教えられ……ん?教えさせてもらえるなんて良かったね」
「てめェは日本語から学び直せや」
いやぁ、爆豪くんに教わりたいなんて切島くんは良い人だなって。
「あ、あの……結月さんもぜひご一緒にどうですか?」
「講師、ヤオモモで副講師は理世みたいな」
勉強会の計画を練っていた八百万さんにそう声をかけられ、耳郎ちゃんも続けてお誘いしてくれたけど……
「ごめん……週末はB組の女の子たちの勉強会に参加する約束してて……」
唯ちゃんに一緒に勉強しようってメッセージ送ったら、ちょうど開かれる勉強会のお誘いを受けたのだ。この機会は逃せない!
「「(さすが交友関係広し……!)」」
「先約がありましたら仕方ないですわね……」
「せっかく誘ってくれたのにごめんね。私も今度、八百万さんのお家に遊びに行きたいな〜」
「それはぜひ!」
「結月結月、オイラもその勉強会に参加したい」
「峰田くん連れて行ったらA組の恥だから無理」
「ひでえ!!」
「ま、そりゃあそうだわな」
「お前には"世界"があるんだろ?」
瀬呂くんの言葉に続いて、上鳴くん峰田くんの肩にぽんと手を置いて言った。良い仕返し。
「フフ、みんな慌てちゃって。今さらジタバタしてても始まらないのに」
青山くん。19/21位。
「お前は少しジタバタした方がいいんじゃないか?」
障子くん。触手が青山くんに伸びて言った。11/21位。
「それが何かな……」
19/21位。
「何かな!?」
(青山くん……現実逃避してない?)
――食堂"LUNCH RUSHのメシ処"
「演習試験が内容不透明で怖いね……」
でっくんが席に着いて、切り出したのはもちろん期末テストの話。
演習試験の内容、雄英卒業生である敦くんと龍くんに聞いたけど、教えてくれなかったんだよねぇ。(事前に知ったら試験の意味にならんって龍くんが)
「突飛なことはしないと思うがなぁ」
「いやいや、甘いね天哉くん。今までを振り返ると結構無茶振りされてると思うけど」
授業参観の時とか。席に着きながら異議を唱える。
「む……そう言われれば……?」
「あはは、確かに。普通科目は授業範囲内からでまだなんとかなるけど……」
「普通科目はまだなんとかなるんやな……」
でっくんの言葉にショックを受けてるお茶子ちゃん。14/21位。
「一学期でやったことの総合的内容……」
相澤先生の声真似をしながら言う透ちゃん。ラーメンが浮いている。17/21位。
「とだけしか教えてくれないんだもの、相澤先生」
透ちゃんの言葉に引き継いで言ったのは梅雨ちゃんだ。7/20位。
「戦闘訓練と救助訓練。あとはほぼ基礎トレだよね」
お茶子ちゃんの言葉にうんうんと頷きながら、いただきますと手を合わせた。
今日の私のお昼はアジフライ定食だ。
「試験勉強に加えて体力面でも万全に……あイタ!!」
その時、ごんっと音と共にでっくんから痛そうな声が。
「ああ、ごめん。頭大きいから当たってしまった」
そう、わざとらしく言ったのは……
「B組の!えっと……物間くん!よくも!」
トレイを持った物間くんがこちらを見下ろしていた。
「ちょっと物間くん、でっくんに何してくれてるの?」
この落とし前、どう付けてもらおうかしら的な。
「やあ、結月さん。今日の君のお昼はずいぶん庶民的だね。僕は今日はフランス料理をチョイスしてみたんだ」
(それは……毎月内容が変わる限定30食の高級メニュー、LRスペシャルランチ……!)
通常より安価とはいえ……さすがにお昼にその値段は出せず、私もまだ食べた事がない。
そして、ワイングラスに注がれたかっこつけたグレープジュースにイラっ。
「揚げたてのアジフライは超絶品なん」
「君らヒーロー殺しに遭遇したんだってね」
「「!」」
言葉遮られたよ。
「体育祭に続いて注目を浴びる要素ばかり増えてくるよね、A組って」
(……何が言いたいのかな、物間くんは)
遭遇したくて遭遇したわけじゃないし、こっちは命懸けだったんだけど。
「ただ、その注目って決して期待値とかじゃなくて……」
黙って聞いてる皆の表情が曇る。
物間くん、私――……
「トラブルを引き付ける的なものだよね」
「「!?」」
さすがに怒ったから!
「(え!結月さん……!?)」
「(結月くん、まさか……!)」
「(理世ちゃん、さすがにそれは……!)」
「(絶対バレちゃうよ〜!)」
「(理世ちゃん、怒ってるのね)」
「(……?)」
まずは物間くんのトレイの上からグラスをこっちにノーアクションで転移させた。
反対に物間くんが喋るのに夢中のうちに、グラスがあった場所に味噌汁を転移。
話を聞いてるフリしてついでにご飯も。あ、案外気づかないもんだ。
「あー怖い!いつか君たちが呼ぶトラブルに巻き込まれて僕らにまで被害が及ぶかもしれないなあ!」
税に入っている今がチャンス……!
メインのお皿のトレード。物間くんの言葉そっちのけで、皆が固唾を呑んで見守る中……
地味に私の新技を披露したいと思う。
アジフライの乗るお皿に触れて集中。
(それはっ、空間転移と座標移動の同時テレポート――!!)
「「(おおおっ……!!)」」
私のアジフライと物間くんのフランス料理が乗ったお皿が、トレードするように同時にテレポートさせた。
(やった!成功っ)
これ、難しいんだよね〜と安堵したのも束の間。
「ああ怖……ん?」
「「!」」
さすがに物間くん、異変に気づいたか……!その目線が徐々に下に下がっていき――
「ふっ!!」
「シャレにならん。飯田の件、知らないの?」
ちょうど良いタイミングで一佳の手刀が物間くんの首に直撃した。
反対の手でトレイが落ちる前に素早くキャッチ。
ウィンクする一佳に、私も頷きサムズアップで返した。ナイスアシスト!
「ごめんなA組。こいつちょっと心がアレなんだよ」
「拳藤くん!」
「(心が……)」
「物間くん、ついに病んだの」
なんか前から情緒不安定だったけど。
「あんたらさ、さっき期末の演習試験、不透明とか言ってたね。入試ん時みたいな対ロボットの実戦演習らしいよ」
「え!?本当!?何で知ってるの!!?」
驚くでっくんの問いに一佳は答える。
「私、先輩に知り合いいるからさ、聞いた。……ちょっとズルだけど」
なるほど。それは確かな情報源。教えてくれる先輩、いいなぁ。
「ズルじゃないよ!そうだきっと前情報の収集も試験の一環に織り込まれてたんだ。そっか先輩に聞けばよかったんだ。何で気付かなかったんだ」ブツブツブツ
「……!?」
「あ、それでっくんの通常運転だから気にしないで。教えてくれてありがとう、一佳」
「そ、そうなんだ……」
まあ、初めてでっくんの独り言に遭遇すると皆大体そんな顔になる。
「じゃあ、私はこれで……」
苦笑いと共に、一佳は物間くんの首根っこを掴み、連れていく。
「バカなのかい拳藤。せっかくの情報アドバンテージを!!ココこそ憎きA組を出し抜くチャンスだったんだ……」
「憎くはないっつーの」
「(B組の姉御的存在なんだな……)」
意識を取り戻してなお、懲りずに言う物間くんの首に再び彼女の手刀が入った。
何気に一佳も容赦ないよね……。
そんな一佳はアジフライ定食が乗ったトレイを片手に、もう片方の手で物間くんを引きずりながら元の席へ戻って行った。
(たぶんうちの爆豪くんがでっくん絡むと爆ギレするみたいに、物間くんもA組のことになるとああなるんだろうな……)
そこまで目の敵にしなくてもいいのに……まあ、それはさて置き。
「わぁ〜今日の私のお昼ご飯、豪華になった♪」
目の前にはフランス料理というオシャレなお肉の料理。
揚げたてアジフライもおいしいけど、今日は物間くんに譲ってあげよう。
いただきまーす、と手を合わせて今度こそ頂く。……おいしい!!
「も〜理世ちゃん、私ハラハラしたよ!」
「私もだよ!最後、絶対バレると思ってドキドキだったよぅ!」
胸をなで下ろすお茶子ちゃんに、興奮気味に透ちゃんの制服の袖が上下に揺れている。
「まるでマジックショーを見てる気分だったわ」
「うむ!集中して見てしまって、彼の言葉を聞き流してしまったよ」
「それより、今のどうやったんだ?」
「う、うん!両方のお皿を同時にテレポートさせたよね?結月さんが触れずにテレポート出来るのは知ってるけど……」
「うん、私の新技」
そう一言言ってから、クイっとグラスを傾けて……
「どうやったかは企業秘密」
ふふふ、といたずらっぽく笑ってからジュースを口にした。
***
「あれ?物間は今日はスペシャルランチにするんじゃなかったのか?」
「?何を言ってるんだよ、円場。どこをどう見たって――アジフライ!?!?」
「どこをどう見たってアジフライ定食だぜ」
「っ結月さん〜……!!なんとなく軽くなったり重くなったりしたような気がしてたけど、こっそり"個性"で入れ変えてたのか……!卑劣な手口を……!!」
「普通そこで気づくだろ……」
「あー……何となく事情分かったわ。さっすが結月ちゃんね」
「ん。……グッジョブ理世……」
「拳藤!君もグルだろ!」
「私は暴走してたあんたを止めただけ。喋るのに夢中で気づかなかった物間が悪いと思うな」
「諦めて冷めないうちに食べろよ、物間」
「アジフライ、揚げたて、トテモオイシイデース!」
「結月さん……!この借りは必ず……!」
……揚げたて、おいしいな!?