「プルスウルトラ!」

「これ、貸して頂きありがとうございました」

 問答無用に担架でリカバリーガール出張保健所に私は運ばれた。
 ポケットから手鏡を取り出し、リカバリーガールに返す。(リカバリーガールの私物ではないみたいだけど……良かった、割れてなくて)

「有意義に活用できたなら良かったよ。怪我は多いけど、深くはないようだし、熱も大丈夫みたいさね」

 リカバリーガールの言葉に「大事に至らず良かったですわ」と、百ちんがほっとした笑顔を浮かべた。

「ちゃちゃっと治すよ」

 そのリカバリーガールの言葉に「あ」と、制止の声が出る。

「リカバリーガールの"個性"は、治癒力を活性化させて、怪我を治すから体力消耗するんですよね……」

 私の弱点であり、表向きとはいえ、課題である事には変わりない体力。

「結月は二回目もあるもんな」

 焦凍くんの言葉に頷く。しかも、チームはでっくんと爆豪くんという複雑な幼馴染みペアで、相手はオールマイト先生だ。
 正直、今回のようにチームプレーで攻略出来る気がまったくしない。
 単純にあのNo.1ヒーローに、ぐんと試験のハードルが上がるようにも感じるし……

(相澤先生の"個性"は強力だけど、突ける隙もあった。オールマイト先生みたいな身体強化系の"個性"は、これと言って弱点が見当たらないんだよね……)

「……ほとんど切傷だし、治療は止めておきます。打ち身だけ湿布貼ってもらえますか?」

 この決断が吉と出るか凶と出るか。それに――……

『硝子で切ったのか……!破片は刺さってねえな?』
『轟さん、すぐに包帯とガーゼを創りますわ!』
『俺は傷薬を持ってる。少し染みるが我慢しろよ、結月』

 想像以上に二人が心配してくれて、必死にこの傷を手当てしてくれたから。
 もう少し、このままでいたいなんて――丁寧に巻かれた腕の包帯に触れる。

「代わりに寝ます!ベッド貸してください」

 そう続けて言うと「そうかい。構わないよ」と、リカバリーガールは朗らかに笑った。

「理世さん、差し出がましいですが……頬の傷だけでも治してもらったらいかがですか?せっかくの綺麗なお顔が……」
「ああ……傷跡が残るかも知れねえしな」

 確かに。二人の言葉に、頬の傷だけ治してもらう事にした。目立つ顔に傷が残ったら、また安吾さんに心配かけちゃう。

「……そうだ。あのね百ちん。一つお願い事してもいい?」
「ええ、なんなりと!」
「(プリプリ(?)してるな、八百万)」

 百ちんにお願い事をすると、プリプリしながら張り切って引き受けてくれた。

「……――ありがとう。でっくんに会ったら「体力回復するのに休んで万全な状態で望むから安心して」って伝えてもらっていい?」

 試験の制限時間は30分。最後、出番が来るまで残り5組だ。(早く終わったと考えても2時間ぐらいは休めるかな)

「お安いご用ですわ」
「ゆっくり休めよ」

 二人に笑顔で答え、保健所を後にする姿を見送ると、リカバリーガールに今度は湿布を貼ってもらう。

「可愛い顔して根性あるじゃないかい。見直したよ」
「痛っ!リカバリーガール、もっと優しく貼ってください〜」

 そして、諸々の装備だけ外して、ベッドに潜り込む。

(次はお茶子ちゃんと青山くんか……)

 青山くんには今回感謝しないとな……。
 おかげで、鏡の活用法を思い付いたから。
 目を閉じて、微睡みに身を任せる――……


「フフ……吸引力が変わらない唯一つの"個性"……」
「言いたいだけやん!ピンチだよ、これえ!」


 ……――この時。二人が大変な事になっているとは夢にも思わず、私はぐっすり眠りについた。(スヤァ……)


 ***


 自然と意識が浮上し、目が開いた。

 時間を確認すると、思ったより早くに目が覚めたようだ。
 体を起こすと、まだちょっとだるいけど、頭はすっきりしたような気がする。

『口田・耳郎チーム、条件達成!!』

 ちょうどその時、試験終了を告げるアナウンスが流れた。(耳郎ちゃん、口田くん、やったね!)

 モニタールームへと向かう事にする。


「試験、どんな感じ〜?」
「結月さん!」
「もう起きて大丈夫ですの?」

 中に入ると、でっくんと百ちんが心配そうに声をかけてくれ、て……!?

「結月くん!!君はよく一人で傷を負いながら頑張った!!僕は涙なしでは……!」
「一人で耐え抜いてマジ男だった!!かっこよかったぜ、結月!」
「俺らも見習わなきゃならねえ!!」
「結月っ〜!一緒に合宿行きたかったよぉーー!!」
「俺らだって頑張ったんだぜ!?あんなん反則じゃね!?」
「僕の輝いてた活躍、録画で見てね☆」

 皆が同時に話し出して何がなんだか!?
「聖徳太子〜〜!!!」とりあえず叫んでみる。

「いつぞやのオールマイト先生ね、理世ちゃん」
「理世ちゃああん!!違うんよ!?あれはそういうんじゃなくって!あの時私、理世ちゃんのことも一緒に思い出して〜……!!」
「お、おぉちゃ……」
「麗日さんっ、そんなに理世さんの肩を揺すられては……!」

(お茶子ちゃんは何があったん……?)

 百ちんが止めに入ってくれて、落ち着いた所で。

「青山くんたちは13号先生の隙を突き、麗日さんが「G・M・A」を応用して青山くんと共にカフスを掛けて条件達成。芦戸さんたちは工場地帯で巨大クレーンで道を破壊する根津校長に翻弄されてタイムアップ。口田くんたちは耳郎さんがフォローしつつ、口田くんが虫を操ってプレゼント・マイク先生を襲わせて気絶させてから脱出ゲートを通って条件達成。次の試験はちょうどこれから始まるところだよ」
「めちゃくちゃ分かりやすい説明、ありがとうでっくん」
「よく噛まずに喋れるな……」
「轟ちゃんの着目点はそこなのね」

 でっくんのおかげで、試験の様子はすこぶるよく分かった。

 三奈ちゃんと上鳴くんが落ち込み具合から、聞かずとも察するけど……。(それにしても、虫に襲われるなんて恐ろしい……。口田くん、強い!)

 そして、ちょうど次の障子くんと透ちゃんの試験がスタートする。

 地下の遺跡のようなステージだ。

 開始早々に、スナイプ先生は威嚇発砲し、脱出ゲート前に待ち構える。

「スナイプ先生の早撃ちは危険過ぎるから、まずは隠れるのが得策だな」

 尾白くんが画面を見ながら言った。二人は柱に隠れて、様子を窺っているようだ。
 透ちゃんの手袋の動きから、困っているようにも見える。

「でも、隠れてるだけじゃタイムアップになるぜ」
「そこは透ちゃんの出番だろうけど、うっかり撃たれたら大変だわ」

 切島くんの言葉に続いて、梅雨ちゃんが言った。私も同様に思う。無差別に撃たれている銃弾の中、動くのはリスクが高過ぎる。(危険なのもそうだけど、怪我して血を流したら、姿が見えなくても居場所がバレちゃう)

「……スナイプ先生の"個性"ってなんだっけ、でっくん」
「《ホーミング》遠距離にいる相手の位置を一瞬で把握し、急所を撃ち抜くことができる"個性"。驚異の命中率を持つすごい能力だけど、欠点があるらしく、狙う部位を選べないらしいんだ」

 何気なく聞いたら、当たり前のように返ってくる答えになるほどと頷いた。
 完璧遠距離攻撃タイプか……。逆に近接戦闘に持ち込めれば勝機がありそう。

「そういやぁ……俺、スナイプ先生に助けてもらったんだよな」

 ポツリとそう言ったのは、ずっと落ち込んでいた上鳴くんだ。
「そういえば、そうでしたわね……」
 上鳴くんに続いて百ちんも思い出したように呟く。

 詳しく話を聞くと、USJのヴィラン襲撃事件の時の事らしい。
 上鳴くんがアホになって、人質に取られたって話には聞いていたけど。そのヴィランを的確に撃ち抜いて、上鳴くんを解放させたのがスナイプ先生だという。

「確か、お前たちが居たのって山岳ゾーンだよな……?」

 驚く砂藤くんに同感。セントラス広場から山岳ゾーンは同じ施設内といえ、かなりの距離があるのに。

「やっぱすげえな、プロヒーロー!」

 改めて感心して言う切島くん。撤退する死柄木の手に数発撃ち込み、最後の最後に一矢報いたのもスナイプ先生だったらしいし。

「俺、スナイプ先生にお礼言ってねえや」
「今からでも遅くないと思うよ」

 眉を下げて言う上鳴くんに、でっくんが柔らかく微笑んだ。

 そんな会話をしていると、モニターには何かを投げるスナイプ先生が大きく映し出される。

 投げた直後の映像は白い煙に包まれ、それは発煙筒だとすぐに分かった。

 視界がだめならと、障子くんは複製碗に耳を作る。スナイプ先生は本気を出したのか、激しい銃弾が隠れている障子くんたちを襲った。

「危ない!」お茶子ちゃんが叫んだ。

 苛烈を増す銃弾は、障子くんたちが身を隠していた巨大な柱を落とすほどで……

「葉隠さんの姿が見えないが、無事か……!?」

 尾白くんの心配そうに言った。同じく目を凝らして、画面から透ちゃんの姿を探すもよくわからない。
 辺りをきょろきょろとする障子くんの様子に、彼も透ちゃんを見失ったようだ。

「あー!」

 その時、ずっと静かだった三奈ちゃんの声が上がる。

「あそこ見て!手袋とブーツが脱いであるっ」
「あ、ほんまや」
「透ちゃんが脱いだってことは……」
「葉隠の本領発揮だ」

 私の言葉を引き継いで言った常闇くん。そして、動いたのは透ちゃんだけではない。

「障子くんが引き返すぞ……!?」
「おいおい、いくらなんでも危ねえぞ、障子!」

 驚く天哉くんと切島くん。銃弾が放たれる方へ向かう勇気はすごいけど……!

「障子くんならそうするよねぇ」
「ああ、障子は気付いたんだろうな」
「危険ですが、適正な判断ですわ」

 私の言葉に続いたのは、焦凍くんと百ちんだ。上鳴くんが「え、何、どういうこと?」と、不思議そうにこちらを見た。

「すぐに分かるよ」

 透ちゃんの行動に、障子くんがやりたい事が――。

 画面を指差した。

 真っ白い煙の中、スナイプ先生が放った銃弾が障子くんの足元を貫く。
 これ以上は……と判断したのか、障子くんは複製も含めて全ての手を上げ、白旗のポーズを取った。

 銃を障子くんに向けたまま、スナイプ先生は訝しむような様子だ。

 その背後から――腕を狙って飛んでくるのは、浮いてるカフス!透ちゃんによって、スナイプ先生の銃を持つ手に、見事カフスは掛けられてた。

『葉隠・障子チーム。条件達成!!』

 試験終了を告げるアナウンスが流れる。
 なんだか慌ててる様子のスナイプ先生に、不思議に思いつつも……

「さすがに隠密行動では、葉隠さんが一枚上手でしたわね」
「うむ。隠密では葉隠くんの右に敵うものはいないな」
「全裸になった透ちゃんは強い」
「結月さん……言いたいことは分かるけど、その言い方はちょっと違うような……?」
「スナイプ先生の気を引き付けた障子くんもナイスアシストだった!」
「うんうん!一時はどうなるかとハラハラしたよ〜!」
「ケロケロ」
「銃弾に立ち向かうなんてすげえよな!」
「一歩間違えればマジで撃たれてたもんなぁ」

 おめでとう、透ちゃんと障子くん!

 そんな風に皆で試験の感想を話していると、早々に次の試験が始まるようだ。

『峰田・瀬呂チーム。演習試験、READY GO!』

「あれ……デクくんと理世ちゃん、次出番でしょ?演習場に行かなくていいの?」

 第9戦目がスタートして、お茶子ちゃんの疑問にでっくんが答える。

「うん、そうだけど……僕はぎりぎりまでみんなの戦いを見るよ。結月さんは?」
「私も。やっぱり気になるしね」
「うん……。"個性"をどう使うか参考になるって言うのもあるけど、それ以上に見てると力をもらえるんだ」

 その横顔。モニターを見るその目はキラキラと輝いていて。

「本当、みんなすごい!クリア出来なくても最後まで戦って……」

 …………。

 いや、でっくんはすごく素敵な事を言っているんだけど……。私に見えてる映像と、でっくんが見てるものは違うのかも知れない。
 
「決して諦めない立派な雄英生徒だ!」
「うんっ!」

 でっくんの言葉に頷いたのは、お茶子ちゃん一人だけだった。

「いや……」
「一人……」
「思いっきり諦めてるわ」
「だねぇ」

 天哉くん、百ちん、梅雨ちゃんに続いて、私も頷く。
 画面いっぱいに、今まさに涙ちょちょぎれで敵前逃亡する峰田くんの姿に――。

「峰田くんんん!?」

 でっくんがガンとショックを受けたような声を上げた。(あ、良かった。同じものが見えてた)

「あれだけ林間合宿楽しみにしてたのに……」
「不純な動機でね〜」
「なんであんな逃げ腰に」

 始まる前はこれまた不純な動機でやる気満々だったのにね……。

「ああなると厳しいかもねぇ。この演習試験、オールマイトとマイク、セメントス。そして、ミッドナイトは特に難易度が高いからね」

 リカバリーガールが口を開いて、自身の見解を話す。確かにそれぞれ対策が難しい"個性"……って、あれ。(相澤先生は含まれないの?)

「人によっちゃあ詰む。詰んだと認識しても仕方ないよ」

 ミッドナイト先生の"個性"は《眠り香》だ。
 体育祭では続行危険と判断した際に、選手を眠らせて強制終了させていた。

 ……確かに。一名、すでに詰んでいる。

 一嗅ぎすれば、画面の向こうの瀬呂くんのように、ミッドナイト先生の膝枕でぐっすり☆(それにしてもめっちゃ気持ち良さそうに寝てるね……!?)

 走りながら瀬呂くんを見る峰田くんの……

「顔が壮絶」
「何故、血涙!?」
「瀬呂くんが羨ましいのか!」
「そこまでですの……」
「いや、男のロマンだろ!俺も羨ましい……!なぁ、切島!」
「えっ?いや俺は……あー……」
「アンタ、そうやってすぐ他人巻き込むの止めなよ」
「耳郎ぉ!?」いつの間に!
「響香ちゃんに口田ちゃん。条件達成おめでとう」

 やって来た耳郎ちゃんと口田くんの二人も加わり、一緒に見学する。

「あちゃー瀬呂寝てんじゃん」
「峰田は瀬呂の"個性"で飛ばされて無事だったけど、ミッドナイト先生の"個性"によってあっさりな」

 耳郎ちゃんに尾白くんが一部始終を説明した。それはもうあっさりだった。

「峰田くん……」

 画面を見つめ、心配そうにでっくんは呟く。ミッドナイト先生は脱出ゲートに鎮座しており、峰田くんがそこから逃げれば逃げるほど、チームの勝機はなくなる。

「ああいう子はここで生き抜くには辛いかもね」
「どういう意味ですか?」
「雄英は絶え間なく壁を用意し、それを越えさせるって方針。そこに息切れせず乗り越えて行くには、具体的な目標を見据えている必要があるのさ。なんとなくヒーローやりたいで登れるほど、優しい道じゃないんでね」

 リカバリーガールはさらりと言ったけど、なかなか重く聞こえる言葉だ。

「仮にヒーローになれたとして、ヒーローになることがゴールの人間に先はない。果たしてあの子の心に見据える目標が存在するのか」

 心に見据える目標――……

「峰田くんのヒーロー動機って……」

 そういえば。誰にというわけじゃなくて、その場に尋ねると……

「モテたい」
「モテるためじゃね」
「モテたいでしょ」
「モテたいって言ってた気が……」

 複数の同じ答えが返って来た。

 どうやらそれが理由で間違いなさそう。うん、それなら私も知ってた。

 峰田くんは一人佇んでいる。さて、この後どうするのか。

 脱出ゲートの前で鎮座していたミッドナイト先生が、後ろから近づいて来ている事に峰田くんは気づいていない。

「峰田っ後ろ後ろ!」

 代わりに焦る上鳴くんの言葉は、もちろん届かず、ミッドナイト先生の華麗な鞭が峰田くんを襲った。

 ……それより。

 ミッドナイト先生の表情が、なんかイッちゃっているんですけど……!?(やっぱりそっちの趣味が……)

「これが……ミッドナイトの敵を精神的に追いつめる捕食者の眼……!」
「なんかゲームの技名みたいだな!?」

 真剣な口調で言ったでっくんに上鳴くんがつっこんだ。
 峰田くんは鼻と口を押さえて逃げる。

「まずいぞ、峰田くん……!」

 天哉くん。

「逃げたら勝ち目ないんだってっばー!」

 三奈ちゃん。

「ですが、香りは空気中を漂う粒子です」

 百ちん。

「攻略は至難の技」

 常闇くん。

「息を止めるとしか……」

 尾白くん。

 皆で画面を見守る中――

「……峰田くん……君の"個性"はすごいんだ」

 諦めちゃだめだ――でっくんがそう小さく祈るように呟いた。
 逃げていた峰田くんは手頃の岩影に隠れる。
 モニターにカウントされている残り時間は、あとわずか。

(仕掛けるなら今しかないよ、峰田くん……!)

 二人は何やら会話をしているようだけど、こちらには音声が聞こえないから分からない。
 けど、確かに今、ミッドナイト先生の表情が変わった。
 面白いというように。嗜虐心からではなく、生徒を見守る教師の顔だ。

 次の瞬間、峰田くんが岩影から飛び出す。

 それにミッドナイト先生は鞭を構え、立ちはだかった。

「……!瀬呂のテープで鼻と口を塞いだのか!」
「峰田のやつも無茶に出たな!」

 切島くんと砂藤くんが言うように。あの峰田くんが無茶してでも勝負に出たんだ……!そして、峰田くんが投げつけたのはもぎもぎ!

 ミッドナイト先生の鞭や体にくっついていく。

 峰田くんの強みであり、くっついたもぎもぎは簡単には取れない、強力な粘着トラップ!(私には効かないけどね〜)

 峰田くんは颯爽とミッドナイト先生の横を走り抜けた。

 鞭や手がもぎもぎで張り付いて動けないミッドナイト先生は、笑ってその後ろ姿を見送っている。

「突破したぞ!!」
「ゲートから離れたとこに張りつけたことで、眠り香が届かないように……!」おお!
「器用な子だね……!すっかり騙されちまったよ私ぁ……!」
「峰田のくせにやるじゃん!!」

 これにはモニタールームで歓声が上がった。

「"モテたい"も突き詰めれば見据えるべき一つの"目標"ね」

 リカバリーガールの言葉に、今回ばかりは誰一人、異論はない。

(少し見直しちゃったよ、峰田くん)

 峰田くんは未だに「すぴー」と、熟睡している瀬呂くんの元へ。
 瀬呂くんの腕を肩に回し、体格差に下半身を引きずりながらも、二人一緒に脱出ゲートへ!

『峰田・瀬呂チーム、条件達成!!』

「おしっクリアだ!」
「峰田さんの作戦勝ちですわ!」
「ケロ!」
「デクくん、理世ちゃんっ出番――って、あれ??」


 ――ぎりぎりまで見学してたため、でっくんを連れて、テレポートで急ぎバス乗り場に向かう。

「峰田くん、一人で頑張ったね」
「うん!僕もみんなに負けないように……」

 明るい声で答えたでっくんだったけど、その表情がきゅっと緊張感を伴う。

「ごめん、爆豪くん待った?」

 意識的に明るい声で話しかけるも、鋭い視線は私に眼中はなく、隣へ。

(始まる前から暗雲……)

 心の中でため息を吐いてから、再び口を開く。

「爆豪くん。ここは一時休戦的に一旦忘れて、一緒に試験に望もう。オールマイト先生も三人で挑めって……」
「てめェは喋んな、黙ってろ」
「………………」

 遮った声は張り上げるのではなく、冷静で地を這うような声だった。
 異様な凄みに、さすがの私も口を閉じる。
 不安一色に当惑するでっくんに、ゆるゆると首を横に振った。

「………………と、とりあえず、三人ともバスに乗ろうぜ!!」

 現れたオールマイト先生は、すでにギスギスと最悪な空気が漂っている私たちを見て、笑顔を引きつらせている。

『全く違う二つのチームをサポートしてクリアするのが、おまえの真の課題ってわけだ』

(相澤先生……。無理でしょう、これ……)


 この場合の最適解――糸口さえも見当たらない。


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