どんでん返しが来た!

 一般的な高校だと試験休みがあったりするけど、雄英ヒーロー科は普通に翌日も元気に登校だ。

「安吾さん、港まで送ってくれてありがとう」
「これぐらい当然ですよ。気を付けて行ってらっしゃい」

 港まで安吾さんに車で送ってもらい、手を振って見送ると、フェリー乗り場まではテレポートで向かう。

「おや理世ちゃん、おはよう――ってどうしたんだい!?その怪我!」
「ちょっと演習試験で無茶しちゃって〜」

 フェリーの受付のおばちゃんに驚愕され、あははと笑ってごまかした。

 オールマイト先生に容赦なく教育的指導を受けました――なんて言ったりでもしたら、今日の午後には「あのNo.1ヒーロー、オールマイト!まさかの体罰か!?」と、尾ひれはひれ付いてネットニュースに飛び交うだろう。格好のマスコミの餌食。

「あらまあ、壮絶なのねえ〜」
「雄英のヒーロー科なので」

 それほどまでにおばちゃんたちのネットワークは早い。

 例えば……「あの二人もフェリーに乗って雄英に通ったもんよ」「懐かしいわね〜」と、敦くんと龍くんは私の兄弟子とか。
 例えば……「太宰くんってモデルさんみたいに素敵じゃない!?」「あの若い丸眼鏡の人はお兄さん?似てないのね〜」と、太宰さんと安吾さんの存在とか。

 すでにこのフェリー乗り場で知らない人はいないだろう。(私がプロヒーローになった暁には、ここの人たちがインタビュー受けそう)

 雄英に着いて、人にぶつからないように短い感覚でテレポートして移動していると――見知った後ろ姿に、その隣へ飛んで声をかけた。

「一佳、ポニーちゃんおはよう!」
「理世……!おはよう――ってどうした!?」
「オーマイガッ!?」

 私の姿を見て驚く二人。(ポニーちゃん良い反応)

「いやぁ、昨日の試験の対オールマイト先生の時にね〜」
「oh……ボッコボコにされた……デスね!」

 ボッコボコにされたよ〜

「こっちもオールマイト先生には容赦なくやられたよ……」

 そう言って一佳は、頬を掻いて苦い声で言った。やっぱりオールマイト先生の担当が一番難易度高そう。

「理世、昨日はすぐに試験が変更になったって、教えてくれてありがとな。急に先生たち相手ってどうすることもできないけど、心構えが違うからさ」

 一佳の言葉に「お互いさまだよ」と答える。先に教えてくれたのは一佳の方だし。

「じゃあまた!」
「お大事にしてクダサーイ」

 一佳とポニーちゃんと教室前で別れると、がらっとドアを開け「みんな、おっはよう〜!」元気よく教室に入った。

「「おはよう、どうした!!」」

 先程廊下で会った二人とまったく同じ反応で、笑ってしまう。

「最後のオールマイトとの試験でだよな……?俺が寝てる間に何があったよ」

 ずっと寝てたんだねぇ、瀬呂くん。

「体力がなくてね〜昨日は歩けるまで治癒できなかったの。でも、今日の放課後またリカバリーガールの所に行くから、松葉杖は取れるまでは回復するだろうって」

 そう説明すると、皆はほっと顔を安堵させた。

「オールマイト先生と本気の戦闘だったもんね……!すごくハラハラしたけど」

 やっぱり理世ちゃんはすごい!と麗かな笑顔のお茶子ちゃん。(いやいや、それほどでも〜)

「最後、三人でゲートくぐったところとか……ウチ、ちょっと感動しちゃったよ」

 耳たぶのフラグを弄りながら言う耳郎ちゃんに、コクコクと頷く口田くん。

「緑谷くんと爆豪くんのあの険悪ムードからの!だもんね!」

 透ちゃんが続いて。

「結月くん!!何か困ったことがあったらすぐに!委員長の俺に!言ってくれ!!」

 シュパっと目の前に現れたのは天哉くん。

「いいえ!副委員長の私だって、理世さんのお役に立ってみせますわ!」

 の、前に遮るように現れた百ちん。(!?)

「そういや……飯田と八百万は昨日、号泣してたな」

 そうクールに言ったのはもちろん焦凍くんだ。(二人が号泣してたとは……)

「まあ、あんな激しい戦いを見せられたら分からなくもないよな」
「まるで、最終決戦……」
「終わっちゃうのは困るわ、常闇ちゃん」

 尾白くん、常闇くん、梅雨ちゃん。

「僕の活躍ほどじゃないけどね☆」

 マイペースな青山くん。

「……思ったより元気そうで良かった、結月」

 障子くんの言葉に私は「超元気だよぉ〜」と笑って答えた。
 私も皆が元気そうで安心したよ。

「結月……あんな戦闘二回もしたのに、おまえのメンタルどーなってんだよ……?」

 そんな怯えた目でまじまじと見なくても、峰田くん。(あれ、なんかデジャヴュ感……)

「……でも、もっと僕がしっかりしてれば、結月さんばかりに負担がかかることもなかったし……いや、かっちゃんにもだけど……。最後、僕たちがオールマイトを引き止めるはずが、まったく歯が立たなくて……」ブツブツ……
「でっくん、ネガティブツブツ……!」
「緑谷ちゃん。最後は頑張ってかっこよかったのに……」
「緑谷くんは普段はからっきしだからな!」
「本当にな」

 梅雨ちゃん、天哉くん、焦凍くんも落ち込むその姿につっこんだ。本当だよー、最後、私を黙らせたあの剣幕はどこへいったのやら。

「でっくんはネガティブツブツ禁止!」
「う……」

 ネガティブツブツね!

「……気に入ったんだな、結月さん。その言葉」
「確かにっ。口に出して言いたくなるかも……!」

 尾白くんの言葉の後に、一緒に「ネガティブツブツ!」と、口にするお茶子ちゃん。

「最後、脱出ゲートにくぐったのは他でもないでっくんの功績だからね!それに、足なら日常生活に支障はないし……」

 私の場合は。

「松葉杖ついてる私も、可愛いでしょ?」

 最後は冗談っぽく笑って言えば、ふっと皆の顔が綻び、でっくんも同じような笑みを浮かべて――

「かっ……(可愛いぃっ……!!)」
「でっくん!?」

 蚊……?でっくんは唐突に両手で顔を覆い、その場にしゃがみこんだ。

「どうした緑谷くん!?もしや昨日のオールマイト先生にやられた傷か!?保健委員の二人!頼む!」

 早速出番が……

「結月も怪我人だから、俺が……」
「だ、大丈夫!何でもないよ!」
「ッケ。朝からうっせえんだよ」

 自分の席に座って、イライラしながら言ったのは、頬杖をついてる爆豪くんだ。(あ、良かった。イライラしてる)

 その姿に自然と安心するぐらい、いつもの光景になっていて……。――問題は。

 どよーーーん。

「「………………」」

 いつもの光景じゃない四人の姿がそこに。そこだけまるで、お通夜みたいだ……。

 切島くんと砂藤くん、三奈ちゃんと上鳴くん。演習試験で条件達成のクリアが出来なかった、二チームの四人。

「皆……土産話っひぐ、楽しみに……うう、してるっ……がら!」

 三奈ちゃんは泣いてる……!

「まっまだわかんないよ。どんでん返しがあるかもしれないよ……!」

 励ますつもりででっくんは言ったけど、フラグを潰しかねないその発言に「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ……」と、瀬呂くんが口を挟んだ。

「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして、俺らは実技クリアならず!これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!」

 普段のチャラさらしからぬ剣幕でそう言葉を並べ、最後はキエエエと奇声を上げて、でっくんに目潰する上鳴くん。荒ぶってる……!(いや、気持ちは分かるけど……でっくん、大丈夫!?)

「落ち着けよ、長え」

 再び瀬呂くんが宥めるように口を出した。

「わかんねえのは俺もさ。峰田のおかげでクリアはしたけど、寝てただけだ」

 峰田のおかげ、でという言葉に耳を澄まし、耳をぴくぴくさせているのはその本人。(まあ峰田くん、今回は一人で頑張ったもんね)

「とにかく採点基準が明かされてない以上は……」
「同情するならなんかもう色々くれ!!」
「「………………」」

 その時――ドアが勢いよく開いた。

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 相澤先生がそう言った時には、すでに全員着席している。(テレポートもびっくり)

 先生が教壇につけば、SHRが始まった。

「おはよう、今回の期末テストだが…」

 来た――赤点疑惑の四人に戦慄が走ったのが分かった。

「残念ながら赤点が出た」
(やっぱり、赤点が……)
「したがって……」

 ……ん、したがって?諦めムードが漂う中、

「林間合宿は全員行きます」
「「どんでんがえしだあ!」」

 死の宣告を待ち受けていた四人に、奇跡が起こった!

「筆記の方はゼロ」

 続けて相澤先生はさらりと言ったけど、その言葉にすごいと純粋に思う。(前回の赤点組のみんな、頑張ったんだね〜)

「実技で切島・上鳴・芦戸・砂糖。あと瀬呂が赤点だ」
(瀬呂くん……やっぱりアウトだったか〜)
「行っていいんスか俺らあ!!」

 切島くんが挙手して言うなか「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな……」クリア出来ずの人よりハズいぞコレ……と項垂れる瀬呂くんの声が届いた。(どんまい……!)

「今回の試験。我々ヴィラン側は生徒に勝ち筋を残しつつ、どう課題を向き合うかを見るよう動いた」
「勝ち筋……?」

 相澤先生の説明に思わず声に出して疑問に思う。最後の試験では、ことごとく私たちの策は潰されたような……

「……。裁量は個々人によるが」

 私のじぃーという視線を受けてか、相澤先生は付け足した。(後出しずるいっ)
 ……まあ、相澤先生に訴えるのは筋違いだ。真っ当な試験を行った先生には。

(相澤先生って、本当に教師に向いてるよねー……)

「でなければ、課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」
「本気で叩き潰すと仰っていたのは……」

 尾白くんが尋ねる。

「追い込むためさ。そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそ、ここで力をつけてもらわなきゃならん」

 確かに理には適っているけどぉ……。

「合理的虚偽ってやつさ」
「「ゴーリテキキョギィィー!!」」

 もうそれ、うちのクラスの定番だよぉ!

「また、してやられた……!さすが雄英だ!」

 何でも良いと言うようにわーいと残像が見えるほどに喜ぶ赤点組とは反対に、くやしがる天哉くん。

「しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ、水差す飯田くん」

 ちなみに相澤先生は口にはしてないけど、授業参観も含めば三度である。

「確かにな、省みるよ。ただ、全部嘘ってわけじゃない――。赤点は赤点だ。おまえらには別途に補習時間を設けてる」

 最後の言葉に、残像が見えるほどに喜んでいた赤点組の動きがピタリと止まった。

「ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな」
「「――!!」」
(意識失う前に一度だけ補習の覚悟をしたけど、逃れて良かったぁ〜)

 赤点組の皆さんには申し訳ないけど、胸に手を当て安堵する。

「じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」


 ***


 今日が登校日のように、あんな激しい演習試験の後でも、もちろんヒーロー基礎学は今日もある。

「なんだ結月。体操服に着替えたっつうことは参加するつもりか」

 やって来たのは、某模擬都市部。

 昨日ぶりの。昨日の試験での戦闘でボロボロになった人は、私と同じ体操服だ。
 まあ、私とでっくんと爆豪くんという対オールマイト戦の三人のみだけどね!

「はい。怪我は"個性"でカバーできるし、昨日の今日の勢いでこのままやってやります!」
「おお!結月が熱い!!珍しいな!」
「アタシたちも挽回できるよう頑張らなきゃ!」
「して、今日は何をするんですか?」
「昨日の演習試験で破壊されたステージの片付けだ」
「先生、見学させていただきます」
「「撤回早っっ!!!」」

 いや、そんな怪我してるのに無理して頑張る授業内容じゃないかなぁ〜なんて。

「……たく。不参加なのは構わんが、変わり身早すぎんだろ」

 相澤先生は呆れながら言った後、授業内容を説明する。

「片付け、つまり街の復興。それも大事なヒーロー業の一環だ。メディアは派手な戦闘ばかりを放送するが、ヴィラン捕縛して「はい終わり」じゃねえ。被害があればもちろん手を貸す。個々によって出来ることは違うから、自身の"個性"や得意分野をどのように復興に貢献できるかを今日は学ぶぞ」
「ということで皆さん、一緒に頑張りましょう!」

 現れたのはそ、の筋のプロヒーロー、13号先生だ。

「復興作業を学んだ後は、残った時間で演習試験の観想戦を各自担当教師と共に行う」
「「(後半の方がメインなんじゃ……)」」
「結月はモニターで見学。後日、授業内容をレポートにして提出するように」
「はい」

 モニターには、13号先生の的確な指示によって動く皆の姿。
 特に今回はお茶子ちゃんの独断場だろう。
 転がった車も、その"個性"で浮かせれば片付けも楽々。

「私が――心配して来た!!」
「あ、オールマイト先生」

 いつものお決まりの台詞で現れたオールマイト先生は「怪我の具合はどうかな?」と、聞きなから隣に立った。

「見ての通り、動けるぐらいには」

 笑って答えると、オールマイト先生はどことなくほっとしたようだ。

「リカバリーガールに怒られてしまったよ。私も無茶をさせて申し訳なかったと思うが、おかげで君たちはもっと強くなれると確信できた」
「私もですか?」
「もちろんだとも!最初の君のスタンガンから途中の顔面爆弾……最後の捕縛術までなかなか手を焼かされたぜ」

 そうニッとオールマイト先生は笑う。あまりそうは見えなかったけど、だとしたら体張った甲斐があったな。

「チームワークはまだまだ残念だが、君たち三人をチームアップにして良かったと、私は思ってるよ」

 その言葉にはさすがの異議を唱える。

「え〜それはないですよぉ」
「いやいや、君たちは似てる所もあるぞ」

 似てる所?私情を抜きにしてもあの二人と共通点は……

「君たちは、壁を前にしてよく笑う」

 壁を前にして……?

「私、笑ってますか?」
「無意識なのかな」
「壁にというか、ムカつく相手ほど負けたくなくて笑ってみせることは……」
「(!めちゃくちゃ私にムカついてたのか……!!)」

 あとは自分を奮い立たせる的な?

「ま…まあ、それは置いといて。演習試験、君は二試験だったが、両方とも見事合格おめでとう!」
「……っはい!」

 そこは嬉しさに、笑顔で答えた。
 最初は私だけひどいって思ったし、どうなる事やらと思ったけど。新しい課題も見えたし、成長スピードが早い皆に遅れないように、私も頑張らないとな――モニター越しに、元気に復興活動するその皆の様子を眺める。

「あ、オールマイト先生。私も一つ、いいですか?」
「んん、何かな!?」
「私の怪我の状態を見て、安吾さん「げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリーム」でした」
「(最 終 形 態………!!!)」
「ヒーロー公安委員に陳情書を出すって、昨日張り切って徹夜して作成してましたよ」めっちゃタイピングして

『このやり方はさすがに頂けませんね。即刻抗議しなければ』カタカタカタカタカタカタ

「Ohh……(やっべ、急いで電話しないと……!!)」

 笑顔で青ざめてるオールマイト先生。大量の汗が吹き出している。

「ははは、嘘です」
「……!……!……!?」

 ――そりゃあないぜ、結月少女!!

「まあ、ドン引きはしてましたけどね。安全が確保された上での大怪我なら、安吾さんの許容範囲みたいです」

 まあ、ドン引きはしてましたけど。
 強調するようにもう一回言った。

『言うまいと思ってたんですが、彼は根本的に教師に向いてないんですよ……』

 って、しみじみ言ってたから。

「……。結月少女、怒ってる?」
「もう怒ってませんよ〜」
「……じゃあ、根に持ってる?」
「根にも持ってませんよ〜」

 ふふふ、と笑う。

「戦闘中も思ったが、相手を翻弄するやり方が太宰くんに似てきたね……」
「そうですか?でも、太宰さんは判断力も早いですし、あの思考回路は真似したくても真似できないです」

 太宰さんならその時の状況だけでなく、さらに先も読んで、最適解を導き出せるだろうから。(ちなみに仕返しでも太宰さんだったらもっとえげつないはずだ!)

「君は君のやり方で良いのさ。いや、真似して欲しくないというわけじゃないんだけど」

 彼は自分さえも"駒"の一つにするからね――そうオールマイト先生は言った。
 よく知っているような口振りから先生は太宰さんとも親しいのかな?詳しく聞こうとしたら……

「オールマイトさん来てたんですか。……結月、観想戦を始めるぞ」

 ちょうど相澤先生が呼びに来た。

「お前は二チームだが……」
「あ、今オールマイト先生とお話できたので、相澤先生の方に参加してもいいですか?」
「じゃあ俺と一緒に来い。オールマイトさん、緑谷と爆豪をお願いします」

 オールマイト先生と別れて、相澤先生の後にテレポートでついていく。

「正直、あんな自分が痛めつけられてる姿見たくないっていうか……」

 VTRで痛々しい自分の姿を客観的に観るのは、ちょっとハードルが高い。

「……えらい目にあってたからな、お前ら。まさか脚を潰されるとは俺も思っても見なかったよ」
「まあ、足の一本や二本や三本……」
「……三本もあんのか」
「"個性"が使えれば支障はないですけど……死ぬほど痛かったです」
「だろうな……」

 百ちんと焦凍くんと合流し、VTRを観ながら三人で意見を出し合った。

「焦凍くん……吊し上げられた上、まきびしまで撒かれてたんだね……」
「……そのせいですぐには降りられなかった」
「相澤先生って忍者の末裔か何かなんですか?」
「ただの一般人だよ」
「……ああ、ここで結月は硝子に突っ込んで怪我したのか」
「う〜ん……確かに先生に指摘された通り、受け身取れてないな……。ぎりぎりまで"個性"使おうとしてたし」
「確かに、理世さんの"個性"なら反動をキャンセル出来るのが大きな利点ですが、それを逆手に取られたのですね」

 硝子に突っ込んだ時は容赦ないって思ったけど、今見ると大した事のないように思えて感覚が麻痺してるなぁ……。


 ***


「理世ちゃん、今日はお弁当なんや」
「この姿じゃ目立つし、さすがに食堂ではちょっと不便で」

 午前中のヒーロー基礎学が終わって、お昼。
 お弁当を取り出しながらお茶子ちゃんに答えた。

「では……!」

 前の席から振り返る百ちんの言葉に頷く。

「うんっ、一緒にお弁当食べよう、百ちん」
「っはい!」

 満面な笑顔で答える百ちんに、私もにっこり笑った。

「私もご一緒して良いかしら」

 梅雨ちゃんの言葉に「もちろん!」と、百ちんと声がそろう。

「あ、焦凍くんの席借りていい?」
「構わねえよ」
「ありがとう、轟ちゃん」
「おう」

 三人で顔を突き合わせて、今日はいつもと違うお昼だ。

「わあ、百ちんの豪華でおいしそう!梅雨ちゃんのは理想的なお弁当でおいしそう!」
「理世ちゃんのもおいしそうよ。手作りなんでしょう」
「半分ぐらいは……あとはお総菜」
「それでもすごいですわ!よろしかったらおかずを交換しませんか?」
「したいっ」「ケロ」

 会話に花を咲かせながら。百ちんのも梅雨ちゃんのも、どちらのおかずもとってもおいしかった。

 
 午後の授業は、ミッドナイト先生の近代ヒーロー美術史。


「重厚な武装で行う戦闘はヒーロー活動としては正しくとも、見るものに凄惨さを印象づけてしまい〜〜〜……」

(ヒーローコスチューム……サポートアイテム……)

「〜〜〜テーマやアイデンティティを強調する方向へと転換していき……」

(昨日の試験では小道具が役に立ったけど……サポートアイテムをもっと考えてみても良いかも)

 オールマイト先生も翻弄されたって言ってたし。攻撃特化タイプじゃない私は、手数で勝負するしかない。

 それこそ、私のヒーロー名「トリックスター」だ。

(とりあえず……)

 今日の放課後、サポート科に見学に行ってみようかな。

 確か、サポート科の校舎一階に開発工房があるんだっけ。今すぐにとかじゃなくても、後々お世話にもなるだろうし、何かしらアイデアのきっかけでも得られれば……

「〜〜以降コスチュームの多様性が生まれたことを……?はい、爆豪くん!」
「クラウン・ショック!(デクのヤロー……試験のラスト……ふざけたマネしやがって……)」
「正解!」

 爆豪くん、観想戦でVTR観てからイライラが増してるな……。(だが、頭は良い)


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