サポート科のマッドサイエンスト

「まぁ何はともあれ。全員で行けて良かったね」

 放課後、帰り仕度をしながら尾白くんが皆に向けて言った。

「一週間の強化合宿か!」
「けっこうな大荷物になるね」
「旅行って、準備をするのが楽しいんだよね〜」
「あ、それすっごくわかる!」

 私の言葉に同意した透ちゃんは、わくわくするように半袖を上下に揺らす。

「水着とか持ってねーや。色々買わねえとなあ」

 水着は持ってるけど、新しいの買ってもいいなぁ。

「暗視ゴーグル」
「……峰田くん、それは何に使うの?」

 答えによっては君の昨日上がった高感度、一気に暴落だよ……。

「あ、じゃあさ!明日休みだし、テスト明けだし……ってことで、A組みんなで買い物行こうよ!」

 ニコッと聞こえてきそうな効果音と共に、透ちゃんが提案した。

「おお、良い!!何気にそういうの初じゃね!?」
「だね〜!行きたいっ」

 皆と買い物ってわくわくする。上鳴くんと一緒に顔を見合わせて賛成した。

「おい爆豪、おまえも来い!」
「行ってたまるか、かったりィ」

 通常運転で断る爆豪くん。ちゃんと誘う切島くん、えらいなぁ。

「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」

 でっくんの誘いに、これまたクールに焦凍くんは断った。(まあ、焦凍くんは仕方ない)

「ワリィ、俺も明日は予定が……」

 瀬呂くんも申し訳なさそうに手を上げて。

「ノリが悪いよ、空気を読めやKY男共ォ!!」
「俺は参加するぞ!!」

 峰田くんの言葉にシャッと両手を上げる天哉くんに「どんだけのアピールだよ……」と、尾白くんのつっこみが入って、皆で声を出して笑った。


 明日の楽しみも出来たところで、帰る皆とは別に、私はリカバリーガールに治癒してもらうため保健室へと向かう。その後、サポート科へ見学に行く予定だ。

「あっ、心操くんだ!」
「結月さん……って、どうしたんだよ、その足!」

 途中、廊下で出会した心操くんの驚き方が他の人とまったく同じで、またもや笑う。

「いや、笑い事じゃねえだろ。マジでどうした?」
「昨日演習試験で、対先生方とだったから、オールマイト先生にボコボコにされてね〜」
「……なるほどな。ほぼ実戦だったってわけか」
「しかも私、二試合したんだよ。課題体力で」
「課題に体力出されるって結月さんぐらいだろうなぁ」
「まあ、表向きはだけどね。体力ないのは本当だから、治癒が追い付かなくて、これから保健室に行くところなの」

 そう心操くんに話してから、ピコンと頭の上にひらめいた。

「その後、サポート科に見学に行こうと思うんだけど、心操くんも一緒に行かない?」

 心操くんもいずれヒーロー科に来たらお世話になるだろうし。

「サポート科か……確かに普通科の俺じゃ行く機会ないしな……。便乗させてもらう」
「じゃあ、待ち合わせ!先に保健室行って治癒してもらうから待ってて〜」

 心操くんと約束をしてから、改めて保健室へ向かった。

「――これで、8割は治ったはずだよ。あとは自分の治癒力で治しな」
「ありがとうございます。でも、うわぁ、何もしてないのにすごい疲労感……」
「そりゃあそうさね」

 それは誤算だった。ぐったりしながらテレポートで心操くんの元へ向かう。

「歩けるようにはならなかったのか」
「いや、逆に疲れて」
「……松葉杖がなくなっただけだな」

 そんな会話をしながら訪れたサポート科校舎。えっと、開発工房は…………


「!(あれはヒーロー科一年の……!)」
「!(テレポートガールこと結月理世氏!)」
「!(サポート科に訪れたってことは……!)」

 ――僕の、
 ――私の、
 ――俺の、

「「(サポートアイテムを売り込むチャンス!!!)」」


 ……!?私を見るサポート科の人たちの目がギラリとしてる!

「心操くん。私、今すごく身の危険を感じてる」
「鴨がネギ背負って来たって感じなんだろ」

 誰が面白いこと言えと!
 き、来た〜〜!

「あ、あああの……結月さん、ですよね!ぜひ、僕のサポートアイテムを使ってみませんか!?今なら自動たこ焼き器と、癒しのボイスで二重の気持ちよさを与える喋る耳掻きをお付けしますッ!」
(サポートアイテムより、自動たこ焼き器と喋る耳掻きが気になるよ!)

「結月氏!私と手を組みましょう!目立つあなたとなら自然とサポートアイテムも目立つ!プロヒーロー有力候補のあなたと契約できれば私の未来も安堵!!」
(潔いほど自分のことだけだね!)

「理世姫」

 ……姫?

「ぜひ、俺にその身を預けて下さい。貴女にぴったりのサポートアイテムからコスチュームまで仕上げて差し上げよう。俺の作品が必ず姫を護ってみせる!!」
(もはや君は何キャラだっ!執事なの王子なの騎士なの!?)

 ――サポート科の生徒たちに囲まれ、謎キャラの彼に至っては、私の手を恭しく取る始末。
 心操くん連れてテレポートで逃げるかなと考えていると……

「強引な押し売りは迷惑だぜ。邪魔だからとっと退いてくれ」

 そう言って、心操くんは私の手を取っているその手を払いのけた。

「なんだ君は!俺は理世姫と話しているんだ!」
(姫がパワーワード過ぎる……!)
「その理世姫とやらが迷惑してんの、見て分かんない?」
「……大体君は普通科だろ!サポート科と無縁な普通科がなんでここにいるんだ!?」
「それこそお前には関係ないだろ」
「っ、体育祭でちょっと活躍したからって、調子乗んなよ普通科!」

 もはや何キャラか分からないだけでなく、悪役キャラのような台詞が飛び出した。

 なにこの少女コミックにありそうな展開。

 まあ、私はそのヒロインや姫のように大人しく黙っている系ではないので。さと、どうしよう。

「あんなに必死になってたのも、ヒーロー科に落ちたから意地になってたんだろ?」

 よしっ、イラっとしたから殴ろう!

「敦くん直伝!猫パ…」
「ちょっ、待て、結月さ…」
「オイオイ!俺のダチたちに何してんだゴラァ!?」

 ――心操くんの声も一緒に遮る、厳つい声が響いた。私の拳は、ファインティングポーズのまま止まる。

「鉄哲くん!」

 そこには怒りを露にしている彼と、

「俺もいるぜ!ヒャッヒャッ」

 ええと確か……鎌切くん!話すのは初めてだけど、腕が鎌みたいな"個性"のB組男子だ。(ちなみに爆豪くんをライバル視してるという噂がある。なぜ!?)

「こいつら刻むならまかせておきなァ」
「「ひい!?」」
「むしろ刻もうぜェ……」

 鎌切くんが爆豪くんと似たような物騒な言葉を呟くと(あ、ちょっと理由がわかった気がする。同族嫌悪ね、きっと)蜘蛛の子を散らすように辺りから人が引いていった。

「なんだ、逃げんのかよォ」

 残念そうに呟いた鎌切くん。まさか、脅しじゃなくて本当に刻みたく……

「あ、あの彼が失礼なことを言って、本当にすみませんでした!!」

 最初の丸眼鏡の男の子だけが、逃げずに心操くんに勢いよく頭を下げた。

「あんたに頭下げられてもな……。まあ、一応その謝罪はもらっとくよ」

 それに、と心操くんは続けて私を見て……

「俺に謝るなら、結月さんにもじゃないか?」

 私は多少の迷惑ぐらいだけど。その人は「そうですね……すみませんでした!」と、今度は私に深々と頭を下げた。(サポート科の良心みたいな人だ……ちょっとでっくんに似てるかも)


「あいつは良いやつだったけどよ!お前ら災難な目に合ったな!」
「ある意味、あんたらが来てくれて助かったよ。あのままだったら結月さん、殴りかかるところだったからな」

 心操くんの言葉に鉄哲くんは「いいってことよ!」そう気のいい笑顔を向ける。

「ヒャッヒャッ、気の強ェ女は嫌いじゃないぜェ」

 ありがとう、鎌切くん。私、普段は穏やかだけどね。

「珍しいな!結月なら手より足が出るだろ!」
「そこなのか」
「"個性"で飛ばしたら怒られるかな〜って……」
「殴っても怒られるぞ」
「俺なら刻むけどなァ!」
「刻むなよ」

 三人にそれぞれつっこみ終えた心操くんは「……ヒーロー科のやつらはこんなんばっかなのか」疲れたため息を吐いた。

 いやいや〜
 
「心操くん……本場のヒーロー科に比べたら、これ、序の口だよ?」
「マジかよ。つっこみ力鍛えるか」

 冗談のように言うと、心操くんも乗っかるように笑って答えた。(つっこみよりボケの比率が多いからねぇ)

「そういえば、鉄哲くんたちはどうしてここに?」

 サポート科の奥からやって来たような……

「昨日の試験でコスチュームがボロっちまったから直してもらっててな!」

 少しの修繕なら、サポート科でも受け持ってくれるらしい。鉄哲くんは手に持つケースを見せるように持ち上げた。

「んで、これから鎌切とトレーニングに行くところだ!」
「今日も刻むぜェ!」(……何を?)

 二人はトレーニング仲間らしい。昨日の今日で熱心だなぁ。

「結月たちも開発工房に行くなら、ここをまっすぐ行ってすぐだ」
「ありがとう、いってみる!」

 二人と別れ、反対方向に歩こうとした時……「結月っつったか」不意に鎌切くんに名前を呼ばれる。
 振り返ると、彼も足を止め、顔だけこちらに向けていた。

「……なァ、アンタんとこの爆豪勝己に伝えといてくれよ」
「え、やだぁ」

 速攻笑顔で拒否った。

「アァ!?なんでだよ!?」
「だって私、爆豪くんと仲良くないもん」
「……仲良くねえなら仕方ねェ!」

 何が面白かったのか、ヒャッヒャッと独特な笑い声を上げる鎌切くん。「仕方ないよねぇ」ここは負けずと、私もうふふと笑ってみせる。

「……。ハードル高えなヒーロー科(つっこみの)」
「いいか、心操……ハードルなんてもんはなァ、あるようでそこにはねえんだよ!!」
「……鉄哲、昨日の試験で誰かに言われただろ、それ」

 ――一悶着も過ぎて、廊下を進めば。

「ここだな、開発工房」

 心操くんが、鉄製の頑丈そうな引き戸式の扉を見ながら言った。
 その足元には何だか分からない部品が転がっていたり、ウィン…と謎の機械が動いている。

「これ、何の機械だろ?」
「見当も付かないな……」

 とっ散らかった雰囲気が、いかにも物作りの作業場だ。

「すみません、見学させて……」

 がらりと引き戸を開けて、入ると……

「フフフフフ……待ってましたよ!テレポートガールさん!」

 その声、そのしゃべり方!

「あなたがここに!来たということはっ!」
「発目さん……!」
「(ああ、あのトーナメント戦で飯田が振り回されていたサポート科の……)」

 待ち構えていたように出迎えてくれたのは、制服姿ではなく、上はタンクトップと頭にはゴーグルとエンジニア風のスタイルの発目さんだった。

 どちらかと言えば嬉しくない出迎えだ。

 発目さんがエキセントリックなキャラなのはよく知っている。

「私たち見学……」
「フフフ……それ以上言わなくてもわかってますとも!体育祭での私の活躍を見て、どっ可愛いベイビーに興味を持ったのでしょう」
「ううん、違う」

 興味を持ったならもっと早くに会いに行ってると思う。(予想はしてたけど、発目さん。人の話を聞かない系みたい)

「俺たち、見学に来たんだけど」

 見かねた心操くんが口を開くと、発目さんのターゲットがあからさまにそちらに移った。(早いな!?)

「あなた!普通科でヒーロー科の転入を目指してる人ですね!?お名前忘れましたが!」
「……心操人使だ」
「ぜひ、転入した暁には私にコスチューム作製をまかせてください!」
「……考えとくよ」
(大人なかわし方だ、心操くん!)

 そして、後ろから別に声を掛けられる。

「彼女は病的に自分本意だからね……くけけ。昨日の試験を踏まえてかい?見学なら好きにすると良いよ」

 ここの責任者であるパワーローダー先生だ。先生のお許しが出て、改めて工房を見渡す。色んな道具や機材に素材に、パソコンのようなハイテクな設備まで揃っていて……

「秘密基地みたいですごい!」
「はは、最初にこの工房に来た人たちはみんなそう言うよ。ゆっくり見て行ってくれ!」

 先輩らしき人が作業の手を止め、笑顔でそう言ってくれた。先程の眼鏡の人もそうだけど、サポート科にも性格が常識的な人はちゃんといるらしくちょっと安心する。

「一回戦、あっさり敗退したあなたには、このとっておきのベイビーパワードスーツをおすすめします!」
「「………………」」

 出来立てホヤホヤです、と発目さんは、ゴツいセンスの欠片もないロボのような全身スーツを持って来た。……ええ。

「そのスーツはともかく……人が気にしてることをさらりとつっこんできたな、おい」

 心操くんはでっくんに背負い投げされた事をまだ気にしていたらしい。

「私、心操くんは首を守るアーマーが良いと思う。心操くんの"個性"の条件はまず声を出さないとでしょ?私がもしヴィランだったら喉潰しにかかる」
「恐ろしいこと言うなぁ……」
「なるほど!声と言うなら、指向性なども一緒にどうですか?」
「いや、俺の"個性"は自分の肉声じゃないと効果が出ねえんだ」
「肉声というと、機械に通すのはだめということですね。とすれば……ううむ……発明魂が疼きますよ!!」

 なにやら一人張り切る発目さん。さっきの心操くんに対して嫌な態度を取った人とは違い、真意はどうあれ、ちゃんと向き合う彼女にちょっと好感を持つ。(そういえば、試験の時の重りのデザインも、コンペで発目さんのが採用されたんだっけ……)

「ちなみにテレポートガールさんの捕縛布のデザインは私がさせてもらいました!」
「発目さん、君に決めた!」
「(どこかで聞いたようなセリフで何かを即決したな)」

(捕縛布のデザイン、要望通りで気に入ってたんだよね〜)

 てっきり発目さんは自分の趣味を押し付けるものだと思っていたけど、相手の要望もちゃんと尊重するなら安心だ。
 
「ってことで、発目さん。私はサポートアイテムを検討してるんだけど、なんか良いアイデアない?」
「よくぞ聞いてくれました!テレポートガールさんなら……」
「……その前に私の名前知ってる?」
「もちろん知りません!」

 堂々と答える発目さんに「結月理世だよ……覚えてね」若干呆れながら言った。

「では、結月さん。さっそく……――」
「!?」
「「!」」

 いきなり手でぺたぺたと。

「は、発目さん!?」一体何して!?
「体に触れてサイズを計ってるんですよ。ほほぅ、なる程……。これはなかなか……」

 遠慮なしに色んな所を触ってくる発目さんに、慌ててテレポートで逃げた。

「あぁ!まだ終わってませんよ、下半身を計ってません」
「メジャーの存在っ!常識的に計って!」

 そもそもサポートアイテムのアイデア聞いたただけで体のサイズを計る意味なし!

「良いじゃないですか、減るもんじゃないですし。触り心地良かったですよ」
「それセクハラするおっさんのセリフ!」

 そして感想言うなし!

「…………。(触り心地良かったのか……)」
「次、同じようなことをしたら発目さんには二度と頼まないからね」
「ごめんなさい、公平ではありませんでした!お詫びに私を好きなだけ……」
「いらないよ!」
「「………………」」
「はは……まあ、発目はあんなんだけど、天才と変人は紙一重って言うだろ?」

 名も知らぬ先輩は困ったように笑いながら言った。という事は、セクハラエキセントリック発目さんだけど、実は開発に関しては天才――……

「これなんてどうですか!?結月さんは空中にも行けますからね!本体を背中に背負えば、伸びたシャワーホースから毒性の雨が……」
「その攻撃はヒーローとしてどうなのかな」
「その後の始末や毒による自然界への影響が心配だな……」

 天才……?私もまあ天才と言われるけど、ちょっとよくわからない。

「……まあ、私の"個性"の特性を着目した点は悪くないかな」
「フフフ……そうでしょう!?そうでしょう!?」
「ちなみに結月さんはどんなサポートアイテムを考えてるんだ?」
「"個性"をサポートと言うよりは、攻撃の手数を増やしたいから、小道具的な感じかなぁ。昨日の試験だと、スタンガンとか手榴弾とか活用して……」
「手榴弾……!!!」

 ……ん?その時、どこからかそんな声が響いた。
 周囲の人は「あちゃー」という顔をしている。

「?」
「言ってしまいましたか、その言葉を」
「えー?」
「くけけ……爆弾関係は彼の独断場だからね」

 発目さんとパワーローダー先生の複雑そうな言葉に、心操くんと怪訝に顔を見合わせた。

 すると――奥にあるドアがバンッと勢いよく開かれた。

「うわははははは!!爆弾とはすなわち紡錘形!!紡錘形とはすなわち宇宙大元師!!爆弾が必要なら、科学の申し子であるこの梶井に任せるがいい!!」
「「(……やべえ。さらにやべえのが現れた)」」

 高笑いをしながら登場した男。(謎)
 白衣に緑色のスカーフを巻き、サイバーのようなゴーグルに、何故か足元は下駄。

「……。早速、心操くんのつっこみ力が試される時が」
「ここはお手本を見せてくれよ、結月さん」

 私でもあれはハードルが高いよ!

「えっと……あの人は」

 微妙な空気が流れる中、パワーローダー先生に聞く。

「彼はこの開発工房の古くから住み憑いてる主だよ……くけけ」
「「ヌシ……!?」」 
「嘘だよ、嘘!パワーローダー先生のお決まりの冗談だから!」

 名も知らぬ先輩が苦笑いと共に訂正し、

「でも、あながち嘘でもないのでは?」

 すかさず発目さんが言った。エキセントリックな彼女が一歩引いた目線で言うぐらいだ。

 ただ者じゃない事はわかった。

「彼は梶井基次郎――雄英サポート科の卒業生にして、類いまれなる発想力と技術力で、かつて天才児と呼ばれた科学者だ」

 卒業生が何故ここに?パワーローダー先生は続けて詳しく教えてくれる。

「善悪関係なく実験や開発に没頭するから、野に放したら簡単に道を踏み外しそうということで、校長の計らいでこの工房で働いてもらってるんだよ」
「……。奇想天外な経緯ですね」
「ある意味、監視か」

 なんか……すごい事情を持った人が現れた。さすが天下の雄英……。

「寝泊まりもこの工房でしてるんですよ。なら主で間違いないですよね?ああ、なんという羨ましい……!」

 という発目さんの言葉に、初めて同意した。後半以外。

「ちなみに体育祭の地雷を作ったのは彼だよ」一人で手作業で
「あの檸檬型の!」あの数を一人で手作業で!?
「うははは!檸檬……美しき棒錘形は幾何学の究極にして、退屈の世界の破壊者!!」
「…………あの人、いつもあんな感じで?」
「普段はもうちょっとまともなんだけど、爆弾と檸檬が絡むとあんな感じだね……」

 名も知らぬ先輩の言葉に、他の作業をしてた人たちもうんうんと頷く。

「結月理世くん。君は中也くんと知り合いだろう?」
「え!?そうですけど……」

 突然名前を呼ばれ、さらに梶井さんからよく知る名前が出て驚く。中也さんも雄英出身だから、梶井さんと知り合いでもおかしくないけど……。

「誰なんだ?」
「私の地元のヒーロー、グラヴィティハットの本名」

 小さく聞いた心操くんに答えると「ああ、横浜の重力遣いの」すぐに納得した。

「彼のコスチュームを、今のスタイルに手掛けたのは僕さ」
「……!」

 中也くんは元気かい?と聞く梶井さん。あの中也さんのスタイリッシュコスチュームを手掛けたとなると話は別だ。

「詳しく爆弾について教えてください!」
「あ!結月さん、浮気ですよ!!」


 ***


「なんか疲れたね〜」
「色々あったからな」

 疲労感を感じながら、心操くんと並んで途中まで帰る。外はすっかり夕焼けだ。

「結月さんの希望の爆弾が出来れば、攻撃手段が増えるな」

 心操くんの言葉に「だねっ」と頷く。

 私の希望は二つ。

 威力は従来の爆弾より高くないもの。それは無駄な殺傷をしたくないと言うのもあるし、周囲の被害も防ぐため。
 もう一つは煙があまり出ないもの。
 煙幕は戦法の一つだけど、私の"個性"を考えると愚策になるからだ。

「心操くんも良いサポートアイテムが出来ると良いね」
「つっても、まだヒーロー科じゃないから許可が降りるかどうか……」
「発目さんが勝手に作る分には良いんじゃない?」
「あの人のサポートアイテムにはまだ若干不安だけど……」

 確かに。要望がないと、自分の趣味をここぞと押し付けて来そうだ。(他に見せてくれた作品は安全性に欠陥があったしね……)

「結月さんは夏休みは林間合宿か」
「強化合宿だけど、楽しみだよ」
「土産話、俺も楽しみにしてるよ」

 笑って言う心操くんに「うん、ばっちりするよ」と、私も同じように笑い返した。

「まァ、結月さんが過酷であろう合宿に、生きて帰って来れたらだな」
「……。ねーなんでそんな不吉なこと言うのぉ」


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