勇学園

「いきなりだが、本日のヒーロー実習に、いさみ学園ヒーロー科の生徒4名が特別に参加することになった」
「「新キャラクター来たあぁ!!!」」


 本当にいきなり過ぎる……!!

 いつもの日常を送ると思っていたら、あっけなくひっくり返された。
 時間きっかりにいつも通り相澤先生が入って来たと思ったら、続けて普通に入って来た違う制服姿の人たち。

「緑谷ぁ、眼鏡女子だぜぇ!!」
「(峰田くん、興奮し過ぎ……!!)」

 喜びのあまり泣きながら、峰田くんは前の席のでっくんの肩を揺らしているらしい。
 確かにうちのクラスには眼鏡男子はいるけど、眼鏡女子はB組にもいない。

「彼女彼女〜LINE教えて?」

 すぐさまスマホ片手に眼鏡女子さんに近づくのは上鳴くんで、すぐさま耳郎ちゃんのイヤホンジャックが伸びてその耳に刺さり、爆音。

「他校にバカを晒すな」

 同感。心底呆れる耳郎ちゃんと、切島くんと瀬呂くんがケラケラ爆笑している。

 そして、相澤先生が髪を逆立て睨むと、教室は静かに……。

 この一連の流れだけで、うちのクラスがどういうクラスか、他校の皆さんにも半分お分りいただけたと思う。(それにしても……眼鏡女子さん確かにめっちゃ可愛い!私もLINE交換したいっ)

「自己紹介を」そう何事もなかったように相澤先生に振られ、眼鏡女子さんは「あ、はい」と少し驚きつつも、落ち着いた声で自己紹介する。

「実習に参加させて頂く、勇学園ヒーロー科、赤外せきがい可視子かしこです」

 最後にふふっと綺麗に微笑んだ。

「「おおっ……!!」」

 男女ともにクラスから声が上がった。
 それとは別に、赤外さんの後ろに隠れている子も気になる。(人見知り屋さんなのかな?)

「同じく……多弾だだん打弾だだんです」

 続いて自己紹介したのは、ふくよかでちょっと気の弱そうな男の子。
 ハンカチで顔を拭う側から汗をかいてるところを見ると、緊張屋さんなのかも。多弾くんはぺこりと頭を下げる。

「よろしくお願いします」
「「おおー」」

 露骨に声が下がったな!

「……藤見」
「「お……おぉ……」」

 一言だけのぶっきらぼうの自己紹介に、クラスの声は戸惑いに変わる。
 三白眼が睨み付けるようにこちらを眺めて、不意に止まった。

 その先にいるのは、爆豪くんだ。

 お互い似たような雰囲気だし、何か通じるものがあったのかも知れない。
 まあ、すごく合わなさそう。(喧嘩しなきゃ良いけど……)

「もう一人いるはずだが……」

 相澤先生の言葉に、おずおずと赤外さんの後ろから顔を出す彼女は――

「梅雨ちゃん!」
「羽生子ちゃん!」

 お互いに気づいた二人は、ひしっと抱き合う。

(今朝、ちょうど話していた梅雨ちゃんの友達……!?)

 すごい、偶然だ!

「梅雨ちゃんのお友だち……?」
「なんだろう……すごくハラハラするぞ。ネイチャー的に」

 お茶子ちゃんにでっくんが驚いている。……うん、言いたい事は分かる。ネイチャー的なハラハラ感が。(でも、二人ともすごく嬉しそう)

「万偶数!雄英のヤツなんかと仲良くしてんじゃねぇ」
「おいっ今なんつったァ!二流以下のクソ学生が!!」

 藤見くんの言葉にやっぱりというか、椅子から立ち上がりキレる爆豪くん。

 むしろ、こっちの仲の方が危険!

「まずいよ、かっちゃん……」
「黙ってろクソナード!!」
「そういうお前も黙れ」

 相澤先生の一言で、さすがの爆豪くんも押し黙る。直後、SHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。

「時間だ。全員コスチュームに着替えて、グラウンドΩに集合。飯田、勇学園の生徒たちを案内してやれ」
「承知しました!」

 張り切る天哉くんの力強い返事だ。そして、相澤先生が教室を後にした瞬間……

「……なんか二人、昔のヤンキーみたいにめっちゃ至近距離でガンつけあってるねぇ」
「不安ですわ……」

 八百万さんの背中にこっそり言えば、げっそりした声が返ってきた。

 一触即発。二人の仲を取り持つヒーローは!

「勇学園の諸君!俺はこのクラスの委員長の飯田天哉だ!宜しく!何かあったら俺に何でも聞いてくれ。では、更衣室に案内しよう。さあ――君も来るんだ!」

 と、藤見くんは無理やり天哉くんに引っ剥がされ、連れて行かれた。
 さすが委員長!まあ、またすぐに更衣室で顔合わせするけど……。

「爆豪くんって」
「アァ!?」
「昔、髪型リーゼントとかにしてた?」
「してねえわ!ワケわからんこと言ってんとブッ殺すぞ!!」

 両手を爆発させながら教室を出て行く爆豪くん。「よしっ」

「いやいや、待て待て結月!何が『よしっ』なの?」

 つっこんで来たのは瀬呂くん。

「爆豪くんの怒りを分散させようと思って……」
「さすが理世ちゃんっ策士だね!」
「でしょ〜透ちゃん」
「むしろ燃料投下してんじゃねえか」
「え〜」
「(結月さん……僕も轟くんと同意見だよ……)」


 場所を移して、更衣室でコスチュームに着替える。もちろん、勇学園の二人も一緒だ。

「あ〜!やっぱり、二人は同じ中学出身やったんやね」

 着替えながら、お茶子ちゃんは二人を横目に言った。
 梅雨ちゃんと万偶数さんは見つめ合い、手を握り締めている。

「ええ。とっても仲のいいお友だちだったの」

 梅雨ちゃんの言葉にシャ〜と同意なのか、万偶数さんは蛇のような舌をちろちろと出した。

「そ、そうなんだ……」
「危険な感じは拭えないけど……」

 これぞ危険な関係?

「でも、びっくりだね!ちょうど今朝、梅雨ちゃんに万偶数さんの話を聞いてて……」
「!」

 え?私の方を見たと思ったら、万偶数さんは何故かじーっと見つめてくる。(ちょっと恐い……)

「……?」
「あなた!!」
「っあ、はい」
「梅雨ちゃんのお友だちね!」
「え?あ、うん」

 そう言って、今度は手を握り締められた。

「私、高校に入って新しく友だちができた時に梅雨ちゃんに写真を送ったの。そしたら、代わりに梅雨ちゃんが送ってくれた友だちの写真はあなただったわ!」
「入学したての頃、理世ちゃん一緒に撮ってくれたでしょ?その写真を送ったの」

 あ〜あの時のと、思い出した。

「いつかお互いのお友だちを紹介したいねって話してて……良かったら……私ともお友だちになってくれるかしら?」

 その言葉にもちろん!と頷く。

「私、結月理世。よろしくね」
「……!理世ちゃんと呼んで良いかしら?」
「うん!じゃあ私は〜……はーちゃんって呼びたい」
「……!はーちゃん!」

 そんな風に呼ばれたのは初めて!と喜ぶはーちゃん。
 じっと見つめられた時はちょっと恐かったけど、梅雨ちゃんと仲良しなお友達だ。良い子に決まっているよね。

「ケロケロ、良かったわ。二人がお友だちになってくれて」
「さすがやね〜理世ちゃん」
「マジ結月って感じだねー」
「コミュ力オバケ……」

 椅子に座ってブーツを履く赤外さんが、くすりと笑った。

「良かったね、羽生子。仲良い友達と再会できて、新しく友達もできて」
「うん!最初は私が選ばれてびっくりしたけど、来て良かったわ!」
「私は赤外さんとも仲良くなりたい」
「(どストレートや、理世ちゃん!)」
「LINEやってる?」

 手にスマホを持って。

「いや、理世。それ、上鳴と同じレベルだけど良いの?」
「上鳴くんと同じレベルはいやだ……」
「あはは!結月さん、面白い人ですね。良いですよ、交換しましょうか」
「やった〜」

 アタシもアタシも!と三奈ちゃんも続いて、赤外さんやはーちゃんも一緒に皆で連絡先を交換した。

「赤外さんはクラス委員長をしてらっしゃるのね」
「はい。……でも、色々大変なんです。一人問題児がいて」

 ああ……。その一言でこの場は赤外さんの心情を察する。

「それは……こちらも同じですわ……」

 八百万さんは眉を下げて困った笑みを浮かべた。


「不良上がりみたいな奴がトップにいるとは……雄英も地に落ちたもんだ」
「んだとこの陰気野郎が……!」
「気に入らねえんだよ、雄英に入ったてだけでお前みたいなのが世間に認められてちやほやされてんのがッ」
「止めろよ、緑谷…」
「無理だよ……」


 ――壁を突き抜けて聞こえる、隣の男子更衣室からの二つの怒声が。


「す、すみません……」がっくり項垂れて謝る赤外さんに「むしろ、こちらが」と、皆で首を横に振った。


「喧嘩売ってんなら良い値で買ってやんよ……!」
「この実習で俺たちの方が優れてるってことを証明してやる……!」
「かかって来いやァ!!」
「いい加減にしないか!爆豪くん!!」
「ごめんなさい!ふ、藤見くんは口が悪いけど、決して悪い人ではないんです……」
「こちらこそすまない。もっともこちらは悪い人間じゃない……と言えないのが何とも」「アァ!?」
「(大丈夫かな………この実習……)」


 ――大丈夫かなぁ、この実習。
 なんとか、今のところは天哉くんが抑えてくれてるみたいだけど……。


 ***


 グラウンドΩは森林に覆われた演習場だ。
 一足先に待っていた相澤先生が、一同を見回してから口を開く。

「よし、全員集まったな。今日のヒーロー実習を担当するのは、俺ともう一人……」
「私がーーー!!」

 頭上から聞こえた声にハッと上を見上げる。
 ちょうど太陽を背に、逆光の中、スーツ姿のオールマイト先生が降ってくる。(……!?)
 次の瞬間にはズドォォン!と凄まじい音と共に土埃が舞って、ド派手に着地した。

「スペシャルゲストのような感じで――来た!!!」
「オっ……オールマイト!」
「本物……!」
「すごい迫力……!」
「雄英が羨ましい!」

 No.1ヒーローのオールマイトの登場に、勇学園の4人は圧巻と共に感激している。

「……やっぱりオールマイトはみんなの憧れなんだね……」
「……うんっ、藤見くんも嬉しそう……」

 隣のでっくんにこそっと話しかけると、でっくんは自分の事のように嬉しそうに頷いた。

「さて、今回の実習だが、全員参加でサバイバル訓練に挑戦してもらう!」
「サバイバル訓練?」
「バトルロイヤルみたいなもんか?」
「状況を説明しよう」

 オールマイト先生が手に持つボタンを押すと、宙に映し出されるのはバーチャル映像。

「生徒たちは4、5人の一組。全6チームに分かれ、こちらが指定した任意ポイントから訓練を初めてもらう」

 奇数は5人チームとなり、A〜Fに分けられるらしい。

「訓練の目的はただ一つ――生き残ること」

 生き残り……それでサバイバル訓練か。

「他チームと連携しようが、戦おうが構わない。とにかく、最後まで生き残ったチームの勝利となる」

 って事は、逃げたり隠れても良いって事ね。

「他チームとの戦闘に突入した際。この確保テープを相手に巻き付けたら戦闘不能状態にすることができる。雄英生ならお馴染みのアイテムだ」

 説明と共に、相澤先生が確保テープを見せる。

「それではチーム分けを発表するぞ!」

 チーム分けはあらかじめ決められているらしい。

(私は……)

 Aチーム:緑谷・麗日・蛙吹・芦戸
 Bチーム:爆豪・八百万・切島・障子
 Cチーム:轟・結月・尾白・葉隠・口田
 Dチーム:常闇・飯田・瀬呂・砂藤
 Eチーム:峰田・耳郎・上鳴・青山
 Fチーム:藤見・万偶数・赤外・多弾

(Cチーム!)

「全チーム、指定したポイントで待機。5分後に合図なしで訓練を開始する」

 合図なしという事で、腕時計で時間を確認する。

「みんな、生き残れよ!!」
「「はい!!」」

 オールマイト先生の激励に、全員力強く答えた。


「頑張ろうね、デクくん!」
「うん!」
「負けないわよ、梅雨ちゃん!」
「私も全力を尽くすわ!」
「吠え面かかせてやるよ!」
「やってみろやァ!」
「赤外さんの"個性"、どんな"個性"か楽しみだな〜」
「ふふ、すぐに分かりますよ。結月さんはテレポート、ですね」
「正解!」


 途中でチームはばらけ、自分たちに指定されたポイントに向かう。


「作戦会〜議!」

 透ちゃんの明るい声で始まった。
 ポイントに着いた私たちは、輪になって地面に座り、五人で顔を突き合わせる。

「俺たちのチームは五人だし、バランス良いよな。策敵には口田。偵察に葉隠さん。支援の結月さんに、遠距離戦闘の轟。そして、近接戦闘の俺」

 尾白くんがそれぞれの顔を見ながら言った。

「私たち最強だね!勝ち残れるんじゃない!?」

 透ちゃんの言葉に、コクコクと口田くんが頷く。

「生き残りだがな」

 焦凍くんが細かく訂正。

「ああ、確かに。別に無理に戦わなくても良いんだよな……結月さんはどう思う?」

 ふと尾白くんが私に振った。よくぞ聞いてくれた的に。

「私の天才的策略、聞きたい?」
「聞きたい聞きたい!」

 尾白くんより先に透ちゃんが元気よく答えて、尾白くんも「うん、聞きたい」と、小さく笑いながら言った。

「今回は"生き残り"がメインだから、たぶん最初はどこも動かないと思う」
「戦闘をしたら、相手に居場所を教えるもんだからな」
「手を組まれて襲われる可能性もあるってことか」

 焦凍くんと尾白くんの言葉に、頷く。

「前半は様子見しながら潜伏して、後半は頃合いを見て動くの」
「その頃合いってのは?」

 尾白くんの問いに、人差し指を立てて。

「最低でも一人。暴れ回る人物がいるでしょう?」

 口角をにっと上げて言うと「爆豪か」と、すかさず答える焦凍くん。正解。

「そう、他チームの壊滅は爆豪くんが勝手にしてくれるから……数が減った後半。戦闘に集中してる時を狙って奇襲をしかけ――」

 爆豪くんの"個性"のデメリット。それは派手な"個性"で居場所が丸分かりな事だ。

「爆豪くんのその首……討ち取ったり!!」
「「……………………」」

 拳を握り締めて、声高々に宣言するように言った。

「……理世ちゃん、可愛い顔に似合わないことを楽しそうに言うよね」
「……結月さん、それがやりたいんだな」
「……っ……っ」
「……まあ、何にせよ。合理的だし、俺は異論はねえよ」

 焦凍くんの言葉に続いて他の三人も賛成し、私たちチームの方向性は決まった。

「じゃあ、私はちょっと他チームの様子を偵察に行ってくる!」

 決まったとこで立ち上がり、準備運動するように腕を上に伸ばす。
 私の"個性"に必要はないけど、気分だ。

「どうやって合流する?場合によっては俺たちも移動するし」
「んー……。口田くん、"個性"で鳥って呼べる?」

 頭上に飛んでもらえれば、目印になるし、鳥なら他チームからは分かりにくい。
 口田くんはコクりと頷くと、この辺りにいる動物たちを呼んでみるそうだ。

「羽ばたくものたちよ……小さな動物たちよ……声が聞こえたら集まりなさい……」

 口田くんの声を聞くのはレアだ。物珍しさもあり、皆黙って見守る。

「あっ小鳥が集まって来たよ!」

 近くの木の上に止まる小鳥たちを透ちゃんの手袋が指差す。

「透ちゃんこっち見て!うさぎ!可愛い!ネズミや狸もいる!」
「すごいな!」
「ああ、こんなに動物に囲まれたことねえ」

 集まって来た動物たちに、透ちゃんと興奮ぎみにきゃきゃっとはしゃぐ。

「この子、可愛い〜」

 地面にちょこんと立つ小さなリスだ。
 しゃがみこんでいると焦凍くんも隣に来て、珍しそうにじっとリスを見つめた。

「焦凍くん、初めて見たって感じだね」
「本物は初めて見る」
「本物、可愛いね」

 手のひらを差し出す。「噛まれるぞ」と、焦凍くんが言うのとは反対に、リスは私の手のひらを伝って肩に乗って来た。

「わぁ……!」
「すごーい!理世ちゃんの肩にリスが乗ってるー!」

 可愛いー!と、透ちゃんの手袋が上下に動いている。

「これも口田の"個性"の能力か?」

 尾白くんの言葉に口田くんはこてんと不思議そうに首を傾げた。

「結月になついたのかもな」
「そうなのかな?私、肩に生き物乗せるの憧れだったから嬉しい」

 小さな相棒って感じで!

「……でも、私、偵察に行かなきゃいけないから……」

 ごめんね、と両手で優しく捕まえて名残惜しくも地面におろす。

「お」
「あ」

 今度は足から伝って、再び肩にちょこんと乗った。

「その子、本当に理世ちゃんになついたんじゃない!?」
「はは、結月さんは動物にも好かれるんだな」
「――りっちゃん」
「りっちゃん?」

 焦凍くんが首を傾げる。

「この子の名前。じゃあ私、りっちゃんと偵察に行ってくる!」


 ――テレポートを繰り返し、木々の上から辺りを捜索する。
 りっちゃんは全然動じない、すごいリスだ。(いや、分かってないのかも知れないけど)

「危なくなったらちゃんと逃げるんだよ、りっちゃん」

 まあ、その前に私がちゃんと守ってみせるけど!
 その時――人影を見つけ、追跡開始する。
 小さな相棒を連れて、再びテレポートした。


 ***


「すでに訓練を開始して5分経ちます」
「やはり、どのチームも動かないか。相澤くん、わざわざ勇学園の生徒たちが来てくれているのに、こんな地味な訓練で良かったのか?」
「うちも勇学園の生徒たちも、憧れのヒーロー科に入って、血気盛んな時期……こういう時だからこそ、戦いを避け、自分を律して行動することを学ばせる必要があるんですよ」
「確かに、一理あるが……。おや、あれは結月少女……それに」


 そうでない、生徒もいるようだ!


 ***


「誰が来ようが、片っ端からぶっ潰す!!」

 単騎。元気に爆破しながら現れたのは、爆豪くん。(本当、君って期待を裏切らないよね……)

 そして、見晴らしの良い高台にいるのは、Eチームだ。

「爆豪の声……足音は一人分」

 地面にプラグを突き刺し、音で状況を探っている耳郎ちゃん。

「一人で来てんのか!」
「調子乗りすぎィ」

 峰田くんと青山くんに、

「よっしゃ!全員で仕留めんぞ!」

 上鳴くん。耳郎ちゃんを除いた三人がそれぞれ動く。

「さて、お手並み拝見といこうかな」

 ――爆豪くん。皆に見つからないように、木の枝の上から観察する。

 まずは高台から青山くんのネビルレーザーが爆豪くんを襲う。爆豪くんはすぐにそれを察知し、両手を後ろに向けて、爆破で避けると同時に宙へ移動する。
 そこに大量に投げつけられるのは、峰田くんのもぎもぎ。
 爆豪くんは左右に避けながら上昇する。

「相変わらず爆破の調節加減が器用なんだよねぇ〜」むぅ……

 そして、一気に高台まで飛び上がった。

「耳女かァ!」

 両手を下に向かけての爆破。爆豪くんはイヤホンジャックを逆手に取った。
 逆に爆音を受け、絶叫と共にその場に耳郎ちゃんは倒れた。

「!?(耳郎ちゃーん!!)」

 りっちゃんと共に驚愕する。普段、爆音攻撃を行う耳郎ちゃんに対してその攻撃って……なんて卑劣!

「止まれえぇぇ!!」
「いただきっ」

 今度は峰田くんがもぎもぎを上から投げつけ、青山くんはお腹を向ける。
 爆豪くんはにやりと笑うと、爆破と共に腕を一振りした。
 起こした爆風によって、返されたもぎもぎは次々と青山くんにくっついてく。

「……………………」

 何そのテクニックーー!?再びりっちゃんと驚愕する。爆豪くんは勢いよく突っ込み、派手に爆破して吹っ飛ぶ青山くん。
 
「う……うわ!?――うわあああぁ!!」

 吹っ飛ばされた青山くんの先には、倒れた耳郎ちゃんを支える上鳴くんがいて、響く悲鳴。

「メ……メルシー……」
(良かったね、青山くん……)

 青山くんは無事、上鳴くんをクッションにして着地した。

「せめて女子にしてくれ……ッつか、取れねえ!」

 青山くんにもぎもぎ付いてるからね……。何もしてないまま、上鳴くんは行動不能。(電気放つのも青山くんが巻き添え喰らう)

 これで、無事なのは峰田くんだけになった。

「爆豪のヤツ……!!」
「呼んだか?」

 その彼の運命も……。峰田くんはゆっくり後ろを振り返る。

「……!あ……あああ……っ!」

 そこには、上から見下ろし、悪人面で笑う爆豪くんの姿――再び聞こえる悲鳴に、りっちゃんと共に南無っと合掌した。

「ひでえ……」

 峰田くんも撃沈。四人まとめて確保テープで雑にぐるぐる巻きにされたEチームの皆さん。

 最初の被害……脱落者である。

 もう用はないと、すぐさまその場を離れ、颯爽と爆豪くんは駆け出していった。

(いや、まあ、なんていうか……)

 普通に勉強になるな――。私は爆豪くんの後を追う事にした。

「――?」
「っ!」

 ふとこちらを振り返る爆豪くんに、慌てて死角にテレポート。

「…………。(気のせいか……)」
(危なかったぁ)

 爆豪くんの野生の勘を忘れていた。
 まあ、見つかったところで逃げ切る自信はあるけど、面倒だからねぇ。

 場所は森の中に変わり、爆豪くんが次に出会したチームはDチームだ。

「いけ!ダークシャドウ!」
「アイヨ!」
「相性悪いって……知ってんだよッ!」
「ギャン!!」

 思いっきり爆破で撃退!ダークシャドウくん、可哀想!

「まかせろ!」

 すかさず天哉くんが常闇くんの後ろから飛び出す。
 爆豪くんは前に爆破して、後ろに飛び引き、素早く脇道にそれた。

「逃がすか!」

 ふくらはぎのエンジンを吹かし、追跡する天哉くんだったけど……

「しまったぁーーー!!?」

 爆豪くんがあらかじめ仕掛けていた罠に、天哉くんが叫んだ。待ち受けていたのは、左右の木に巻き付けられた確保テープ。
 加速した天哉くんは急には止まれない。
 再びりっちゃんと合掌。助けてあげられなくてごめん、てんてん。

(しっかし。力押しだけでなく、天哉くんの"個性"と性格を踏まえた上での罠も仕掛けるなんて、クレバー)

 しかも、それで終わりではない。

「委員長……!」
「飯田!大丈夫か!?」
「爆豪にやられたのか!?」

 常闇くん、砂藤くん、瀬呂くん。そろって駆け付けた三人。

「三人とも来るな!!」

 天哉くんの制止も、遅い――

「揃いもそろって後ろががら空きなんだよ!!」

 確保テープに絡まる天哉くんを見て唖然とする三人の、後ろから現れた爆豪くんは爆破と共に突っ込んだ。

 悲鳴&悲鳴。

「……………………!」

 気づけば口を手で覆い、その場でりっちゃんと共に呆然としていた。

(爆豪くん…………鬼強っ!!)

「爆豪さん!先行し過ぎですわ!」
「敵はどこにいる!?」

 爆発音を頼りに駆け付けたであろう、八百万さんと切島くんに障子くんが現れた。

「終わってるよ」

 爆豪くんは平然と親指を自分の後ろに向けた。
 そこにはまとめて確保テープを巻き付けられ、木からつるされたDチームの皆さん。

「一人で8人を……」

 しかも、ものの数十分で。

「味方だと頼りになり過ぎだろー!!」

 叫ぶ切島くん。

「陰気野郎はどこにいる?」
「誰のことだ?」

 聞き返す障子くんに爆豪くんは「勇学園の奴だよ!!」と、怒鳴り声を上げた。

「あの野郎ぶっ潰したら、クソデクと半分野郎にクソテレポもぶっ潰す!!」

 うん。全チームだね……。

 とりあえず。この様子だと、でっくんの性格からしてもAチームの潜伏は確実で。
 勇学園チームはせっかく実習参加したし、あの藤見くんの性格からしても、迎え撃って出るだろう。いや、もしかしたら向こうもこの騒ぎで居場所を突き止め、どこかで機会を窺っているかも知れない。(私たちも動かないと――)

「りっちゃん、みんなの場所に戻ろう」

 そう一応声をかけると、別の枝に乗って木の実を食べていたりっちゃんは、ぴょんっと再び私の肩に乗った。(……言葉、分かってる……?)

 りっちゃんに不思議に思いつつも、テレポートでその場を離れる。


 ***


「チームに合流したわ。距離100メートル。移動開始。結月さんは単独偵察ね」
「すごいわね、あの爆豪とかいう人」
「チッ……」
「こっちに向かってる!」
「よしっ多弾!だだんと行け!!」
「正直、戦いは苦手なんだけど……」
「距離80メートル」
「ひぃっ!……っそうさ!チームの為さーーー!!!」


 ***


(なにこの音……!?ミサイル……!?)

 突如、キーンという耳をつんざく音が上空に響いた。一瞬で危機を把握し、真っ先にりっちゃんを守るように胸に抱える。

(勇学園の攻撃か……!)

 テレポートで急ぎ飛ぶも――

「きゃあ……っ――!」


 衝撃波によって、吹っ飛ばされた。


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