次の日は快晴で、天気が良いとそれだけで明るい気持ちになれるから不思議だ。(昨日はあんなことがあったけど、今日も元気にいってみよう!)
「理世、僕があれほど注意せよと忠告した否や事件に巻き込まれおって……!」
「………………」
――矢先。むすっとした仏頂面に出会した。
というか、待ち伏せされていた。(しかも昨日と説教の内容若干変わっているような……)
「敵に髪を焼かれたと聞いたが、それ以外の外傷はないのだな?」
「うん、ないよ。ていうか情報早いね」
「緊急性や事件性が高い敵情報はヒーロー事務所にすぐさま送られるんすよ」
その疑問には隣の八千代さんが教えてくれた。
「村社さんが護衛についてるなら安心だね」
敦くんは微笑みながらそう言って「それにしても……」と、私をまじまじと眺める。
「燃やされたの片側だけだったから、敦くんみたいなアシンメトリーに切ってもらったの!似合うかな?」
昨日、八千代さんにちゃんとハサミで切ってもらう際にお願いした髪型だ。
「うん!僕とおそろいだねっ」
嬉しそうに笑う敦くんに、照れ笑いを返す。
敦くんの髪型は、孤児院で小さい子と美容院ごっこで切られたきっかけでその髪型らしい。似合っているし、かっこいいと思う。
「よりによって人虎のみょうちくりんな髪型とは……解せぬ」
「龍くんその言葉、私たち二人とも敵に回すからね!」
「お前の髪型も大概だからな!」
「(三人とも顔は似てないけど、本当の兄弟みたいっすよね〜)」
八千代さんに見送られ、無事学校に到着。
教室に入れば――……
「理世ちゃん、新しい髪型素敵ね」
「うむ、アシンメトリーだな!良いではないか!」
「ちょっと耳郎っぽくね?」
「ロックでかっこいいじゃん!」
そんな風に皆から新しい髪型を褒められ、ご機嫌に自分の席へと向かった。
「……髪。敵にやられたんか」
途中、爆豪くんに独り言みたいに言われた。通りすぎる前に「あ、うん」と答えると。
「反撃したんだろうな」
「え、してないよ」
「てめェ、ただじゃ転ばねえクセに肝心な時に何してんだよ」
「えぇ〜」
「いや、かっちゃん……!」
「てめェもだ。骨折してでも殺しとけよ」
「ちょっと爆豪。二人がどんな状況だったか聞いてなかった!?そもそも公共の場で"個性"は原則禁止だし」
「知るか。とりあえず骨が折れろ」
「かっちゃん………」
「なんたる暴言……」
「緑谷も結月も気にすんな」
常闇くんが言う通り、爆豪くん、相変わらずなんたる暴言。
「でっくん、今朝は何事もなかった?」
「あ、うん!大丈夫だったよ」
実は特務課のエージェントが、こっそり尾行して影からでっくんを見守っていたとは気づかないだろうな。
「あ、結月さん……!」
「?」
「か、髪型……すごく似合ってるよ!」
続けて「月下獣みたいだね」と気づいたでっくんはさすが!
百ちんと、若干隣の席の焦凍くんに朝の挨拶をして、自分の席に着いた。
「……俺も、行けば良かった」
――二人を守れたかも知れねえ
(焦凍くん……?)
そう何やら小さく呟いた焦凍くんに、話しかけようとしたら……ちょうど予鈴が鳴って、相澤先生が入って来る。
「…………とまあ、そんなことがあって、敵の動きを警戒し……」
昨日の事件を相澤先生が簡潔に話す中、「マジかよ」と驚いてるのは昨日不参加だった瀬呂くんだ。
「例年使わせて頂いてる合宿先を急遽キャンセル。行き先は当日まで明かさない運びとなった」
「「えーーー!!」」
まあ、当然の結果だ。雄英も何かしら手を打つとは思っていたし。
「もう親に言っちゃってるよ」
「故にですわね……話が誰にどう伝わっているのか学校が把握出来ませんもの」
「合宿自体をキャンセルしねえの英断すぎんだろ!」
(学校側の判断みたいだけど、安吾さんは行き先とか知ってるのかなぁ)
「改めて終業式に校長から挨拶があるが……夏休みの間の長期の外出を控えてもらうことになった。なるべく単独行動も控えるように。これはうちのクラスだけじゃなくて、全生徒にだ」
再び不満な声が上がり、SHRは終了。
そして、残りわずかの一学期の授業が始まる――。
「理世ちゃーん!お昼行こう!」
「行く〜!」
お昼休憩を告げるチャイムと共に、麗らかな笑顔のお茶子ちゃんからのお誘い。
「……あれ、あの人。普通科の……」
「心操くん?」
食堂へ向かう廊下を歩いていると、前方には相澤先生と一緒に歩いている心操くんに出会した。(おやおやおや〜?)
天哉くんと焦凍くんと歩いていたでっくんが手を振ると、心操くんはぷいっと顔を背けた。素直じゃないなぁと思っていると、目が合う。
「……結月さん、髪型変えたのか」
「イメチェン。似合う?」
「やあ、心操くん!元気か!?」
「飯田はなんでそんなに張り切ってんだ?」
「!?(僕の時と全然違う……!)」がーん
「?どうした、緑谷」
「理世ちゃんも飯田くんも心操くんと仲良いの……?」
「私はヒーロー科の先輩だから」
「同じヒーロー志望、友好関係を持つのは当然のことさ!」
私たちの言葉に納得しつつも、皆は不思議そうな顔をした。
***
ヒーロー基礎学。コスチュームに着替えると、本日はグラウンド・β集合だ。
「わーたーしーが――!!」
!?今日は一体どこから……!
「君たちの後ろから来た!!!」
新しい!
「今日は1学期の復習をするぞ!!一番初めにやった戦闘訓練を覚えているかな!?」
「はい!屋内での対人戦闘訓練です!!」
すかさず天哉くんがビシッと手を上げ答える。オールマイト先生もそれを見越して、皆にと言うかほぼ天哉くんに聞いていた。
先生も教師として成長したなぁとしみじみ思う。
「今日は再び、同じルール、同じチーム、同じ対戦でその訓練を行う!」
「「!」」
「ただし!違うのはヒーローと敵役が今度は逆だ!!」
という事は。私と天哉くんと爆豪くんが同じチームのヒーロー役で、対戦相手はでっくんとお茶子ちゃんの敵役かぁ。ちらりと爆豪くんを見る。
相変わらずでっくんをめっちゃ睨んでるけど、あの時よりはさすがに冷静そう。
初めての戦闘訓練での勝敗は、思い出深く――これはリベンジ戦でもあるだろう。
「(あの時は何も出来なかったけど、今度は……!)」
「(次は負けねえ……!)」
「(マントの恨み……!)」
何名かそんな顔をしている。
「ルールは覚えていると思うが、簡単に説明するぞ。『ヒーロー』は制限時間内に『敵』を捕まえるか、『核兵器』を回収する事。『敵』は制限時間まで『核兵器』を守るか『ヒーロー』を捕まえる事」
制限時間は15分。テープを巻き付ける事によって捕まえたと見なす。
「はい、オールマイト先生」
「なんだい!?結月少女!」
「うちのチーム三人ですが、今回は何かハンデとかありますか?」
「………………HAHAHA!プロは他事務所のヒーローと急造チームアッ」
※以下略
(オールマイト先生、すっかり忘れてたな)
今度は敵チームのでっくんたちが先にビルに入ってセッティング。
5分後にヒーローチームが潜入でスタートし、他の皆はモニターで観察だ。
「敵チームの時は室内を先に事前に確認できたからテレポートできたけど、今回は地図だからすぐにテレポートできないなぁ」
「使えねえな」
「……。たぶん、でっくんは籠城戦に持ち込むだろうから、爆豪くん。核のある部屋で暴れちゃだめだよ」
核があるのに爆破を使うのは、暴発する恐れがあるから避けるが無難。
「クソナードは俺がやる。てめェら手出しすんなよ。完膚なきまでにあの野郎ぶっ殺して勝利すんぞ」
「敵に確保テープを巻き付けて勝つってことね。今日はわりと冷静だね、爆豪くん」
「うっせ、いつも冷静だわ」
「(爆豪くんは冷静なのか……?)」
5分後――私たちはビルに潜入して、スタート。
「クソデクどこだぁぁ!!!」
「天哉くん、まずは核の居場所を突き止めよう」
叫ぶ爆豪くんを無視して隣の天哉くんに話しかける。
「だが、一つ一つ探すのは大変だな……。結月くんは何か良い案でもあるのか?」
「索敵に優れていない私たちに、方法は一つだよぉ」
それは……人海戦術!!「三人しかいないのだが!?」
つまりは、地道に手分けして探すしかない。
「お茶子ちゃんの"個性"もあるし、でっくんのことだからきっとトラップを仕掛けてあるだろうから、気をつけて」
「わかった!!」
爆豪くんにも聞こえるように天哉くんに言った。まあ、頭もキレる彼ならそれも分かっているだろう。
二人と別れて、一つ一つ部屋を探す。
"個性"を駆使し、早々に5階を調べ終わると、4階へテレポート。
同じように順に探して行くと、何かがつっかかっているのか、押しても開かないドア……ここね!
すぐさま二人を無線で呼び寄せた。
ドアに触れてテレポートさせると、つっかえてた正体が判明。
積み上げられた机や椅子に荷物たち。
お茶子ちゃんの"個性"を使えばバリケードも楽々作れるだろう。
「セコい真似してんじゃねえよ!!デク――!!」
構わず突っ込む爆豪くん。
「核がある部屋で爆破禁、止……?」
叫んだ言葉が徐々に小さく……
「「………………」」
部屋に突入すると……そこには核どころか誰もいない、もぬけの殻ですね……。
(〜〜っでっくんん!!やられたっ!)
「テメェがクソデクのトラップに引っ掛かってんじゃねえわ!!」アホか!
「……で、でも!短時間でこんなトラップを仕掛けるんだから近くにいるかも」
「……なるほど。麗日くんの"個性"で入口前に浮かせた物を密集させ、二人が外を出て、ドアを閉めてから"個性"を解除すれば、バリケードの完成……」
まるで密室トリックの謎を説くように説明する天哉くん。
「結月くん、爆豪くん……これは、時間稼ぎをするための敵のワナだ!!」
「名推理かよッ!知っとるわクソ眼鏡が!!はよ探すぞ!」
再び同じ階を捜索。索敵要員がいない厳しさを痛感……!
***
「最初は人数的にもヒーローチームが有利だと思ったけど、上手いこと翻弄してんのな」
「緑谷さんはヒーローチームに索敵要員がいない所を突いていますわね。それに加えて地道に探すとしたら、一人は一番上の5階から捜索し、もう一人は一番下の1階から捜するのが一般的な行動パターン。三人目は4階、2階どちらかの次の階ですが、彼らはその間の3階を拠点にしてる」
「さらに4階でダミーの部屋を作って、当たった結月が三人を集合させる。仕掛ける時間からしても近くに潜んでいると思わせて、実際は5分以内じゃなくてもヒーローチームが来るまでに下の階に移動すりゃあいい」
「考えた緑谷もすげえけど、それを解説するお前ら推薦入学者もすげえ……」
「緑谷さんの策略は、ほぼ理世さんの性格を含めて考えられてますわね」
「ああ……そうだな」
「理世ちゃん?どうしてかしら?」
「5階から調べるのはこの中で一番機動力が高い理世さんの可能性が高く、彼女なら4階のダミー部屋に気づいたら単独突入せずに二人を呼ぶはずです。待ち構えてる緑谷さんたちを警戒して」
「まんまと結月は緑谷の手のひらで踊らされたってわけか!」
「まあ、それを覆すほどの実力もあの三人は持ってんからなー」
「時間稼ぎっても三人とも機動力は抜群だからすぐに調べ終わっちゃったしね」
「うん。気づいたのか、三人は結月さんの"個性"で三階に飛んだ」
「直接対決来るね……!なんかどうなるかワクワクしてきた!」
「麗日の"個性"で浮いた緑谷が入口近くの天井にテープ持って待ち構えてんからな。ドアが開いた瞬間、麗日が"個性"を解除し、頭上がら一気に奇襲を仕掛けるつもりだ」
「そっか、誰か一人でもテープを巻き付けられたら確保の証……!」
「(私の喋る出番がないぞ……!!)」
***
……――でっくんたちの居場所は3階と特定。
予想以上に振り回された。(相手のさらに先を読んだ策……さすがだね、でっくん!)
そして、まだ何かあるはず。
お茶子ちゃんの"個性"を考えれば――
「……麗日くんか!ついに敵のアジトを見つけたぞ!!」
「解除っ!」
「解除……?」
「飯田くんっ、ごめん!!」
「っ上!?くッ………」
お茶子ちゃんが"個性"を解除し、天井を蹴ったでっくんが緑色の閃光を纏い、重力を味方につけて猛スピードで落下……!(奇襲でこの速度に対応するのは爆豪くんにも難しいんじゃ……)
「天哉くん、テープはまだ付けられてないよね?」
「……っ、結月さん!(ここで結月さんも来たのはマズイ!)」
「理世ちゃん……!(あともう少しだったのに!)」
「痛てて……ああ、ありがとう結月くん。助かった」
テープを巻き付けられる寸前で天哉くんを救出。
形勢逆転に、敵チームの顔が強ばる。今のはテープを巻き付ける最大のチャンスだったけど、残念ながら私は無重力の"個性"の使い方を中也さんでよく知っている。
「そこまでよ、敵。核は回収させ……」
「ここにいたかクソナード!!!」
「かっちゃん……!!」
「クソ敵ども……ぶっ殺す!!!」
「(あ、私もちゃんと入っとる……!)」
……あ、爆豪くんの存在忘れてた。
でも、ちゃんと爆破を最低限にして戦っている。
(なら――)
爆豪くんがでっくんの相手をしているうちに……天哉くんと顔を見合わせ、核とそれを守るお茶子ちゃんを見据えた。
「まだっ……諦めへん!!」
お茶子ちゃんは核と自分に触れて、浮き上がる。核に触れさせなければ、回収と見なされない。
「転移!」
「へ!?核……!」
だから、私が触れずに核を転移させたのも、回収と見なされない。まずは核を安全圏に確保して。
「爆豪くん!核、保護してるから暴れていいよ〜!」
「言われねえでも……!!」
「レシプロバースト……!!」
特大の爆発音に、同時に天哉くんがお茶子ちゃんに向かって飛び上がる――!
『ヒーローチーム……WーーーーN!!』
オールマイト先生の声が響いた。
その場にはでっくんを床に馬乗りに押さえつけた(悪い笑みの)爆豪くんと……気持ち悪そうなお茶子ちゃんを床にそっと置く天哉くんの姿が。
敵役の二人のどちらの腕にも、確保テープがしっかりと巻き付けられていた。
「さあ!お待ちかねの講評の時間だ!!」
今回は5人全員でモニタールームに戻ってきた。
「前回と違ったチームの勝敗になったな!今回のベストは……緑谷少年だ!」
「っ!僕……!?」
「アァ!?」
驚いてるでっくんに「確かに緑谷の作戦すごかった!」「ああ!前回とまた違った熱さだった!」と、飛び交う称賛の声。
「そ、そんな……!僕はただ、麗日さんの"個性"で出来ることを何かと考えただけで……!」
アタフタするでっくんは、謙虚というかなんというか。
「ヒーローを翻弄する敵の策略……その手強さを一番実感したのは、結月少女ではないかな?」
イタズラっぽく笑うオールマイト先生に、困ったような笑みを返す。
「そうですね。時間稼ぎをするための罠なので、今回は訓練で仕掛ける時間もタイムアップもあるけど、これが実戦で、こちらの行動を予測されて延々と振り回されていたらと考えると怖いです」
例えば、時限爆弾が設置された状況とか。
「でっくんにはしてやられました」
そう笑えば、驚き顔をした後にでっくんは照れ臭そうにはにかんだ。
「………オールマイト先生?」
「………そうだな!くぅ……!(今から言おうとしてた実戦を交えた話を先に言われた!!!)」
震えながらオールマイト先生にサムズアップされた。
「今回のベストは緑谷少年ではあったが、皆の動きも以前と比べて成長していた!爆豪少年の周囲の気遣い、麗日少女の最後まで諦めない姿勢も大切だ!」
「爆豪、核がある部屋でも暴れなかったもんな!!」
「シャシャリ出んじゃねえよクソ髪!」
「ですが……最後、何故理世さんは核に触れるのではなく、二人が確保テープで敵役の方々を捕らえるのを優先したのですか?」
"個性"で核を遠ざけてまで。百ちんの疑問に「確かにそうね」と、梅雨ちゃんも頷く。
集まる皆の視線を受けながら、私は答える。
「今日の爆豪くんは冷静だったから、」
「俺ァいつも冷静だっつてんだろ!」
「「……」」
「せっかくチームなんだから、協力して勝ちに行きたいと思ってね〜」
タイムアップが間近とか、状況が劣勢だったら、臨機応変で核に触れていたけど……
「協力してほしいなら、まずはこっちから譲歩するべきだと思うから、爆豪くんの意向である敵チーム確保を優先で動いたの」
「ケッ」
「協力してほしいならまずは自分からか……結月が言うと、なんか説得力あるな!」
「ええ、理世さんの心得……素晴らしいですわ!納得しました」
「サポートの得意な理世ちゃんらしい理由ね」
――場所は移さず二戦目。(建物が無事なため)
「前回は為す術がなく轟の氷結だったからなァ」
瀬呂くんがモニターを見ながら口を開いた。
「今度は轟と障子が敵チームで防衛戦か」
「どう戦うのか見物だな……」
砂藤くんの次に常闇くんが言う。
(そりゃあ焦凍くんだもの。防衛戦でも――)
「氷結で入口を凍らせて籠城ですわね」
「こりゃあ尾白たち厳しいぜ!」
まあ、確実で安全な方法である。
切島くんの言う通り、ヒーロー側にとっては困難な状況。漂う冷気に、二人が核のある一室へすぐにたどり着いたとしても。
「くやしいな……尾白くんも透ちゃんも!場所は分かったのになかなか入られへん……!」
「ドアを壊したところで氷結の壁だからねぇ。侵入するとしたら……」
「窓からしかない」
私に続いてでっくんが真剣な口調で言った。
同じように気づいたのか、尾白くんたちは一旦離れると屋上に向かう。
「なんであいつら屋上に向かってんだ?」
「ハハ!入口は一ヶ所とは限らな…」
「あー!分かったぁ!屋上から窓に侵入するつもりだ!」
「…………」
峰田くんの疑問に説明しようとしたオールマイト先生の言葉を、三奈ちゃんが嬉しそうな声で大きく遮った。……どんまい、オールマイト先生。
***
「……やっぱり、入口凍らされてたね。でも、見た感じ窓は凍らせてないみたい!」
「ああ、途中で葉隠さんが見つけてくれたロープを手摺に結んで……これで窓から侵入しよう」
「うん!」
「それで……葉隠さんには悪いけど……全裸になって俺の背中にしがみついてくれ!」
「よっしゃー!!」
「(躊躇ない返事……!ありたがたいけど、倫理的にいいのか!?)……俺の体が盾になるからガラスの破片が来ることはないと思うけど……」
「大丈夫!私だってヒーロー志望だよ!怪我なんて怖くないよ――!」
***
「い……潔いな、葉隠さん……」
透ちゃんの脱ぎっぷり(と言っても手袋とブーツ)を目の当たりにして驚くでっくん。
「尾白、窓から侵入するのか!なんかかっこいいな!」
「透ちゃんは後から侵入するのかしら?」
上鳴くんに続き、人差し指を口元に当てながら言ったのは梅雨ちゃんだ。
「尻尾を使って振り子の原理か!」
次に天哉くんがなるほど!と、頷いた。
尾白くんは尻尾を前後に揺らして、徐々に振幅を大きくしていく。
そして、勢いついたところで――
手をクロスさせ、顔をガードしながら尻尾から窓を突き破った!
映画さながらワンシーンにモニタールームに「おお!!」という歓声が上がる。(超かっこいい尾白くん!)
「!窓からか……」
「轟!今回はやられっぱなしにはいかないぞ!」
「障子、お前は窓と核を見張れ!」
――二人のやりとりは音声がないからわからないけど。
尾白くんが近接戦闘に持ち込んだ。
焦凍くんの氷結を使わせる隙を与えないような猛攻。
回し蹴りならぬ、回し尻尾が強力!
「くっ……炎か……!」
「わりィな……」
「――っ!轟!部屋全体に氷結を張れ!葉隠が隠れている!」
「だが……!」
「俺は構わん!」
――次の瞬間、焦凍くんの右足によって、室内全体が氷の世界に包まれる。
事前に察知したのか、尾白くんは尻尾で高くジャンプすると、くるりと宙で一回転し、氷の床に着地した。
「――まだだ」
拳を前に。臨戦態勢を取る尾白くんの口から、白い息が漏れたのが画面越しにも分かった。
固唾を呑み、皆と真剣にモニターを見つめるなか、
『TIME UP――!!敵チーム、WーーーーN!!』
終了を告げるオールマイト先生の声が響いた。
「うおぉぉ!タイムアップかよォ!!」
「良いところだったのにィ!!」
全身で切島くんと三奈ちゃんがくやしがった。
「実に惜しかったな、尾白くん!」
「焦凍くんの氷を警戒しつつ、攻撃に転じてすごかったねー!」
さっすがクラス一の武道派尾白くん。
「うん!あの轟くんと武術で渡り合うなんてすごいよ、尾白くん!」
顔を見合わせながら、私も天哉くんとでっくんと興奮気味に話した。
「透ちゃんも惜しかったわね、核さえタッチできればヒーローチームの勝ちだったのに」
「いつ透が忍び込んだか全然分からなかったよね」
梅雨ちゃんと耳郎ちゃんの疑問。その答えは、4人が戻ってきてから。
「「窓から一緒に侵入してた!?」」
「うん……」
そう驚いていると、尾白くんは気まずそうに説明する。
「葉隠さんに全裸になってもらった後、俺の背中に掴まっててもらったんだ。したら見えないし、足音もないからいるか分からないだろ?窓から侵入したその混乱に生じて核に触れてもらう予定だったんだけど……、やっぱ障子の索敵はすごいな」
「……いや。俺が気づいた時に葉隠は動きを止めて、音を拾えなくなってな。だから轟に部屋全体を凍らすように頼んだんだ」
「透ちゃんの隠密技術もレベルアップしたってことだね!」
あの状況なら時間も残りわずかで、焦って核に向かっててもおかしくない。そしたら、すぐに障子くんに見つかって捕まっていただろう。
「実は息も止めてたんだよ〜!でも、結局また轟くんに凍らされてくやしいよ!」
透ちゃんは姿が見えないので、元気な声が聞こえると安心する。尾白くんも負けてくやしそうだけど、前回よりもずっと良い顔をしている。
「尾白ォォ!葉隠の生オッパイの感触教えろよォォ!!」
「「真性のクズかよーーーー!!!」」
そう尾白くんの裾を引っ張りながら叫ぶ峰田くんは、皆から反感を受けて、梅雨ちゃんの強烈な舌ピンタによって成敗された。ナイス梅雨ちゃん。
「二戦目も、前回と見違えるほどの戦闘だった!轟少年と障子少年の互いの長所を活かした防衛戦はもちろん。尾白少年の範囲攻撃をしてくる相手に対しての攻防。葉隠少女は以前より強みを活かしている!」
オールマイト先生の言葉に、ふっと尾白くんの頬が緩む。透ちゃんも「オールマイト先生に褒められた!」と嬉しそう。
そして、次は……ヒーロー、百ちんと峰田くん。敵、耳郎ちゃんと上鳴くんの対決だ。
「オールマイト……オイラ、すでに手負い……」
「峰田少年、プルスウルトラさ!」
さらりと流したオールマイト先生、素敵。
――結果は敵チームが勝利。
上鳴くんが一人ドアの前でバチバチ電気を纏い立つ姿は、まさに人間電気柵的な。
まあ、それは囮で。百ちんが絶縁体シートを創る間に、隠れて機会を窺っていた耳郎ちゃんが"個性"で不意討ち。テープを手負いの峰田くんに巻き付けて確保。
続いて。ヒーロー、三奈ちゃんと青山くん。敵、梅雨ちゃんと常闇くんの対決。
結果、敵チームが勝利。
まず、梅雨ちゃんが単独でその身軽さを活かして二人を陽動し、常闇くんと挟み撃ち。
二人は青山くんと三奈ちゃんの連携の悪さを利用し、テープを巻き付けるのではなく、翻弄して時間稼ぎし、タイムアップを狙った。
青山くんは、今度は三奈ちゃんにサングラスを溶かされ落ち込んだ。(目に入らなくて良かったね……)
最後。ヒーロー、切島くんと瀬呂くん。敵、砂藤くんと口田くんの対決。
結果、ヒーローチームの勝利。
籠城を決め込んだ敵たちだったけど、場所を突き止めたヒーローたちとの2対2との対決で、不意を突いて瀬呂くんが核にタッチしてだ。
「結果は敵チームの勝利が多かったな!皆の実力が上がったことによって、状況というアドバンテージに大きく差が生まれたのだろう」
全員の対戦が終わり、最後にオールマイト先生の締めの挨拶だ。
「1学期ももうすぐ終わるが、君たちは林間合宿がある!!夏休みだからと言って気を緩まずにな!!!」
「「ありがとうございました!!」」
夏休みと林間合宿は、すぐそこに。