魔獣の森を突破せよ!

 我先に、四人は魔獣にも臆せず飛び込んで撃破する。

 森の中を走る氷結と、響く爆発。

「邪魔すんなよ半分野郎!!」
「してねえ」
「行くぞ!緑谷くん!!」
「うん!!」

 回転数が上がるエンジンに、木々の間をジグザグに駆け抜ける緑色の閃光。
 
「僕たちが先陣を切る!!みんなは策敵班を中心に、フォローや横からの魔獣をお願い!!」

 でっくんが叫ぶとすかさず「勝手に仕切ってんじゃねえわクソデク!!」爆豪くんが怒鳴りながら、その怒りを魔獣にぶつけた。

 残った皆と先頭を追いかけるも、魔獣は左右からも次々と現れ、なかなか先に進むのが困難だ。

「左右からのは相手するだけ無駄だから、なるべく峰田くんのもぎもぎや常闇くんとダークシャドウで対処して!」

 最小限の労力で――!

「おうっ、まかせとけ!!」
「フッ……指名なら仕方あるまい」
「ナ!」

 返ってきたのは頼りになる声だ。

「チクショーー!!お前らのせいでズボンびっちょびちょじゃねえかーー!!」
「ダークシャドウ!」
「アイヨ!」

 峰田くんのもぎもぎによって、行動不能になる二足歩行の怪獣みたいな魔獣たち。
 反対では、常闇くんから現れたダークシャドウが一体を投げ飛ばし、もう一体を巻き添えにする。

「俺たちも負けてらんねえ!!行くぞ、切島!!」
「おう!!」
「はぁい、二人とも一旦落ち着いて」

 勢いよく飛び出そうとした砂藤くんと切島くんの後ろにテレポートして、二人の肩をがしっと掴んで阻止した。

「な、なんだぁ結月……?」

 拍子抜けする二人に、呆れ顔をしてみせる。

「二人とも、期末試験で真っ向勝負を仕掛けてどうなったかもう忘れたの?」

 その言葉に二人は「うっ」と、言葉を詰まらせた。

「で、でもよ……あいつらだけ戦って俺たちが何もしないってのは……」

 切島くんの言葉に「うんうん」と、砂藤くんも頷く。

「いいのいいの、あの4人は好きに暴れさせておけば。それより、二人にやって欲しい重要な役目があるの」
「「重要な役目……?」」

 不思議そうな顔をする二人に、私はにっと笑いかけた。


 ――正確な施設への距離は分からないけど、機動力に優れた数人ならともかく。
 そうでない者も含めての、この大人数での移動。
 普通に考えて、三時間で着くなんて到底無理なわけで。(すでに予定時刻過ぎてるし……)

 腕時計を見つつ、周囲を観察する。
 私のやるべきことは一つ――

「クソテレポ!サボってんじゃねえわ!!」
「サボってないよ〜ただ今省エネ中です」
「てめェいつもだろ!!」

 私自身の最悪なパターンは、形容量を越えて"個性"が使えなくなること。
 私の体力なんてたかが知れているから、そうなったら爆豪くんにおんぶしてもらうしかなく「縄つけて引きずるからな!!」
 ……引きずられるのは避けたいので、自分のキャパを見誤らないようにしないと。

 そう思いつつも……上から来た魔獣を捉える。空を飛ぶ魔獣は結局、私が倒すのが一番効率がいいので、ここは動く。

 瞬時に背中に乗るようにテレポートして、手で触れると同時に、別の魔獣の中に転移させた。

「合理的だな!結月くん!」

 落ちる前に地面にテレポートする。天哉くんがこちらに走って来たので、片手を上げてぱちんとハイタッチ!

 それにしてもぉ……

「轟くん!こっちの土から数体生まれようとしてる!」
「ああ!その前に氷結で阻止する!」

 言葉を交わした時には、すでに二人は動いている。
 でっくんは木を蹴って、焦凍くんが向かい合っていた魔獣を拳で貫き、その下を素早く駆け出す焦凍くんは、でっくんが見据えていた場所を氷結。新たな魔獣が生まれるのを阻止した。

 臨機応変、互いの敵を入れ替えて戦う見事な連携。

 時には天哉くんを交えて(爆豪くんは単独)こんな風にかれこれ彼らは数時間、前衛で戦っている。

(君たちの体力、どうなってるの……!?)

 大きな誤算。いや、良い意味で。

 でも、何事も油断は禁物だ。視野を広くして、注意深く全体を観察する。
 前衛は主にでっくんが指揮を取り、後衛は百ちんに任せている。

 私がするべきこと。この"個性"と、私の天才的頭脳があるからこそ可能とする――クラス全体を把握し、統率、采配。

 言わば、最高司令官トップコマンダー――!!

「ふふふ………」
「どうした、結月。頭が痛いのか?」

 ……。頭は痛くないよぉ、焦凍くん。
 心配したのか、側に来た彼は珍しく涼しげな顔に汗をかいている。この暑さだ。氷結に自身の体温調整と大変なんだろう。
 
 時刻はすでに、13時を回った。

 近くに水源があったから、水分補給はなんとかなったけど。食料もないなか、動き続けるのはしんどいものがある。

 ――ここまで来れたのは、彼ら四人が前衛で頑張ってくれたおかげだ。

「(魔獣は無限に出てくる……!施設まで体力が持つのか……!?)」
「(……汗をかくことなんて、今まで滅多になかったが……)」
「(く……!ガソリンであるオレンジジュースはバスの中……!)」

 彼らの様子を見て、私は切島くんたちに目配せする。
 彼らは待ってましたとばかりに……

「(チッ……さすがに手が痛んできやがったな)」
「爆豪、お前マジでタフだよな!」

 砂藤くんと、

「……アァ!?」
「手ェ痛むんだろ?休んでろって」

 切島くんが、爆豪くんの肩にぽんと手を置いて前に出る。

「クソ髪……!!ふざけ――」
「オフェンス甲の前衛4人!後方に下がって!交代!」
「「……!(オフェンス甲……?)」」

 声を張り上げて言うと、四人は驚き顔で振り返った。
 新たに行く手を阻むように現れた、魔神のような姿をした二体を迎え撃つのは――

「ここからは、俺たちが相手だ……!!」

 硬化した切島くんは、手のひらにガツンッと拳を打ち付ける。

「お前らは後ろで休んでろ!!」

 フシューと息を吐き出した砂藤くんは、シュガードープでムッキムキだ。(シャツ破れたよ)

「やっと出番が来たな!」

 構える尾白くんに……

「待ちくたびれたぜ!」

 木からテープで伝って、くるんと枝に飛び移った瀬呂くん。

 新たな四人は、魔獣を強く見据える。

(今まで体力を温存してただけでなく、待ったをかけられた状態だから士気も上々……!)

「代わってオフェンス乙!常闇くん作戦を!」
「「(オフェンス乙……?)」」
「作戦コード……『白刃の共鳴』!!」
「「(作戦コード……!?)」」

 私は指揮官らしく、手を前に翳し、号令をかける。

「出撃――!!」
「「うおぉ――!――!――!!!」」

 ……決まった!!
 常闇くんと満足げに顔を見合わせる。

「結月さんも常闇くんもノリノリだなぁ……!」あはは〜
「楽しそうだな」
「それがやりてェだけだろ……!!」
「なるほど……!俺たちが戦っている間は体力温存し、疲れが溜まった頃に交代か!」

「――そういうこと」
「「!」」

 四人の前に現れた。

「4人とも、勢いよく飛び出したのは良いけど、絶対ペース配分考えてなかったでしょ」
「「……………………」」

 私の言葉に、でっくんは「たはは…」と
ばつが悪そうに笑い、天哉くんは「む、むぅ…」と唸り、爆豪くんは「チッ」と舌打ちをして、焦凍くんに至ってはそ知らぬ顔をしている。

「まあ、実力があるからこそ躊躇がなく、体が動いちゃうんだろうけど……」

 しかも、四人とも並外れた体力があるから、今まで限界近くまで動く事もなかったはず。(体力オバケ……)

「とにかく、君たちは後衛で休んでて」
「そうそう!お前らばっかかっこつけさせねえぜ!」

 そう言って現れたのは、上鳴くんだ。
 彼らを追い越し、前へ駆け出す。

「デクくん、飯田くん!お疲れ!」
「あとはアタシたちにまかせて!」
「4人とも、無理は禁物よ」

 呆然とする四人の横を、お茶子ちゃん、三奈ちゃん、梅雨ちゃんも続いて、残りの皆も走り抜けていった。
 私も彼らに笑顔を向け、"個性"を使ってその場を離れた。

「耳郎ちゃんに、障子くん!」
「理世……!?」
「……!」

 飛んだ先で二人を掴まえ、共にテレポートで前へ進む。

「二人ともお疲れさま。このまま私が連れてくからちょっと休憩して」

 最小限の労力で済ますために、四人と同様に策敵班の2人にもフルで働いてもらっていたから。ここからは前方と左右に人数を置き、力押しで一気に進む。

「サンキュ。ウチも理世ほどじゃないけど体力には自信ないからさ。"個性"使うより長距離移動の方がしんどいよ」
「本来の目的は魔獣を倒すんじゃなくて、山のふもとの施設にたどり着くのが目的だからね。あの距離を……!自力で……!」

 力説。私にとってはそれだけで十分訓練だ。

「……理世が言うとめっちゃ説得力あるわ」
「……同意」
「伊達にこれまで雄英の壁を乗り切ったわけじゃないからね〜体力配分のさじ加減は得意だよ!」
「……そこは体力を付けるという選択肢は……」
「障子、それ無意味な質問」

 よく分かってるねぇ、耳郎ちゃん!

「……しかし。あの二人はすごい勢いだな……」

 切島くんと砂藤くんの勢いを前に、あっという間に土塊と化す魔獣を見て、障子くんが呟いた。

「オラオラオラオラ……!!」
「オラァ!!」

 切島くんが拳を連続で叩き込み、その隣で砂藤くんが飛び上がる。強烈なアッパーは、亀みたいな魔獣の顎を軽く吹っ飛ばした。
 た、確かに……。予想以上に二人の勢いは凄まじい。

「……理世、前!」
「!」

 耳郎ちゃんの言葉に前方を見ると、空飛ぶ魔獣がこちらに突っ込んでくる。

「まかせとけって!!」

 瀬呂くんが、魔獣と私たちの前に素早く滑り込んだ。
 その翼にテープを巻き付け、強く引きながら重力に従い下に落ちると、共に魔獣も音を立て地面に墜落した。

「ありがとう!瀬呂くん!」
「いいってことよ!……青山、行くぜ!」
「ウィ☆」

 瀬呂くんは青山くんを荷物を抱えるように連れて、先行している切島くんと砂藤くんのフォローへと向かう。

「今だ!青山!」
「とどめね!」

 青山くんのレーザーによって、魔獣はボロボロと崩れた。(今日は一段と輝いてるんじゃない?青山くん)

「皆さん!左右からの魔獣は打ち合わせ通りに!」

 百ちんの指示に、元気な声で返事をした皆の声が辺りに響く。

「えい!――いいよ、梅雨ちゃん!」
「まかせて!ケローーー!!」
「解除!」

「麗日さんの"個性"で浮かして、蔦を掴んで上から現れた蛙吹さんが舌で頭上に投げ飛ばし、そこで麗日さんが"個性"を解除すれば……魔獣は地面に激突!!」
「緑谷くん……?」

「森の鳥たちよ!悪しき獣をここから排除するのです!!」
「ほいっと!そっちも!」

「口田くんが"個性"で鳥をけしかけ、気を引いてる隙に芦戸さんが酸を魔獣の足にかけ、行動不能……!!」
「急に実況を始めたな……」

「わあ〜!!大変〜!!やられちゃう〜〜!!」
「(葉隠さん、ナイス囮ですわ!)」
「葉隠、バトンタッチ!上鳴ー!集めたよ!」
「よっしゃ!みんな離れてろ!!」

 ――130万ボルト……!!!

「葉隠さんが囮で集めた魔獣に、上鳴くんが放電……!!皆、個々の"個性"を活かした息の合った連携だ……!!うおお……!ノートに……っ、ノートに早く書き込みたいぃ……っ!!」バスの中だぁぁ
「「………………」」
「さっきからうっせえんだよっクソデク!!!」

(でっくん……もはやそれって中毒症状なんじゃ……)

 …………まあ、でっくんの実況のおかげで、すぐさま状況が分かって助かる。

「……理世。上鳴のバカ、速攻アホになってるみたいだけど」

 ……あ。

「ごめん、二人とも。上鳴くん回収してくる」
「俺たちのことは気にするな……」
「余計な手間かけさせるあいつが悪い」

 耳郎ちゃんと障子くんを降ろして、私は「ウェ……イ」と、ショートしきった上鳴くんの元へ向かった。

「ちょっと上鳴くん!アホ面モードにならない程度の電力でって、私言ったのに〜」
「……!ウェ!ウェ!」
「……?そんなに両手を上にサムズアップさせて、一体…………」

 !?

 不意に後ろを振り返ると、頭上から木の枝を伝って蛇みたいな魔獣が襲ってきていた。

(ウェってその上――!?)
「はあっ!」

 ……っでっくん!

「色んなタイプの魔獣を作れるみたいだね……!」

 気づいた時には、でっくんが横から魔獣を吹っ飛ばし、ズザァと滑りながら地面に着地する。

「でっくんごめん!ありがとう」

 せっかく休んでもらっていたところを……。

「ううん!これぐらいなら平気だよ。それより、結月さんすごいよ!!」

 でっくんは目を輝かせて言う。

「周りのことをよく見てるっていうか……。さっき結月さんに言われた通り、魔獣を倒すことに夢中で、そこまで気が回らなかったから……」
「ここまで来れたのはでっくんたちのおかけだけどね」

 私自身が体力配分を大事にしているせいもあるけど……

「そうそう。働き蟻の法則だよ、でっくん!」
「働き蟻の法則……?」

 笑って言うと、でっくんはきょとんと首を傾げた。
 上鳴くんを連れて、私はテレポートで前に進みながらでっくんに話す。

「私の"個性"の師匠が、昔言ってたことを思い出して……」

 それは、武装探偵社でのいつもの日常の一コマ――……

「太宰!!貴様、いつまで休憩を取ってる!さっさと働かないか!!」

 客用ソファに寝っ転がる太宰さん。
 当然、怒る国木田さんに、毎度同じような事を繰り返して飽きないなぁと思っていると……太宰さんににっこり話しかけられた。

「理世、君の目には私がサボっているように見えるかい?」
「普通にサボっているように見えますね〜むしろ、誰の目から見てもそう見えると思います」
「ふふふ、これは働き蟻の法則なのだよ」
「集団にすると、2割が働かなくなるっていう法則ですか?」
「あれには続きがあってね。実は、その2割は他の8割に何かあった時のために待機しているのだよ」
「……なるほど。太宰さんはその2割だと」
「そうとも!私はこうして、いざという時の有事の際のために……。もしくは国木田くんが倒れた時のために力を温存しているのさ」
「へえ〜ちょっと勉強になりますね」
「安心しろ、俺が倒れるという予定は今年はない!さっさと働かんと生ゴミと一緒に捨てるぞ!!」
(倒れるって予定……?)
「国木田くん、今日は生ゴミを出す日じゃないよ」


 ……うん。思い出してみると、ちょっと違うような気もしてきた。まあ、つまり。

「全員で戦って、途中で全員力尽きたら大変的な……」
「確かに!それに……結月さん、師匠がいるんだね」

 納得という風にでっくんは笑う。

「"個性"の扱い方も応用も上手だし、最初は結月さんも、飯田くんや轟くんみたいなプロヒーロー一家の生まれなのかなって思ってたんだ」

 続けて「そんな結月さんの師匠って、きっとすごい人なんだろうなぁ」想像するように話すでっくん。

「私の師匠はね、天才なんだ――」

 "個性"もすごくて。人間性は問題あるし、自殺愛好家で困った人だけど。

 乱歩さんに次ぐ驚異の頭脳の持ち主。
 誰もが認める、天才・太宰治。

「天才"の"弟子なら、これぐらい出来て当然でしょ?」

 でっくんの方を向いて、笑って言う。

 太宰さんの弟子と、敦くんと龍くんの兄弟弟子と名乗るならば……

 私は、そこに立ってみせる。

「――そっか。結月さんはその人のことをすごく尊敬してるんだね」

 でっくんにそんな風に微笑まれて言われると、ちょっと照れくさいけど。

「いつか、会ってみたいな。結月さんのお師匠さん」
(もう会ってるんだけどね)

 授業参観で。

「でっくんは気に入られると思うよ」
「えっ、そうかな……?」

 すでに気に入られてるか。自殺愛好家の素質があると、不名誉な気に入られ方だけど。


 ***


「あの4人以外にもなかなかやるじゃない……!だったらこれは、」

 どうかしら――!!


 ***


「……うおお!!なんだ!?」
「すげえ数だ!!」

 先頭を切っていた切島くんと砂藤くんの、驚きの声が響く。
 大きさは大した事ないけど、ゴブリンのような姿をした魔獣たちが一斉に押し寄せてきた。

「数で押して来たのかしら……」
「ずいぶんとバリエーション豊かだね〜」

 百ちんの言葉に苦笑いして言う。

「結月……お、俺がやるか……?」
「上鳴くん、まだ回復してないでしょう。一気に叩きたいから、ここは……」
「ええ、まかせてください!」

 百ちんを見ると、彼女は凛々しく笑ってみせた。
 切島くんと砂藤くんにはインターバルを入れたいので、下がってもらい――

「お茶子ちゃん、行くよー!」
「うんっ、理世ちゃん!」

 笑顔でお茶子ちゃんと頷き合う。お茶子ちゃんの手を掴むと、共に魔獣の群れに向かって飛んだ。
 テレポートを繰り返すなか、魔獣に触れていくお茶子ちゃん。
 無重力になった魔獣は浮かんで……ここまでは梅雨ちゃんの時と一緒。

 ここからは――

「尾白くん!準備できた!!」

 お茶子ちゃんが叫ぶ。

「ああ!――障子!!」

 尾白くんは答えると、待ち構える障子くんに向かって駆け出した。

 その組んだ両手に足を踏み込み、

「行くぞ、尾白――!」

 障子くんは尾白くんの片足を持ち上げ、空中へ!

「うおお……!!」

 尾白くんは空中で体をひねり、その強靭な尻尾で、浮かせた魔獣たちをまとめて吹っ飛ばす。

「解除……!」

 直後、お茶子ちゃんは"個性"を解除した。
 無重力が解け、魔獣は流星のように下の群れに降り注ぐ。

「すごい……!尾白くん!」
「空中でも自在に動かせる尻尾が、彼の強みだな!!」

 でっくんと天哉くんが歓声を上げる。

「「いえい!」」

 上手くいったと、私はお茶子ちゃんはハイタッチした。
 それでも残った、数で押してきたゴブリン型の魔獣たちは――

「皆さん、下がっていてください」

 シャツを第3ボタンまではだけさせた百ちんが、一人、魔獣たちを見据える。

「一気に片付けますわ……!!」

 その間に創り出した大砲と共に。そこから次々と砲弾が撃ち込まれ、魔獣たちの群は木っ端微塵!
 
「やったね!ヤオモモ〜!」
「さすが!」

 壊滅した魔獣の群に、三奈ちゃんと耳郎ちゃんの歓声が響いた。


 ***


「むぅ……これもあっさり突破されるとは……。だったら――これはどうかにゃん!!」


 ***


「「土流だああぁぁぁ!!!」」

 木をバキバキと音を立てながらなぎ倒し、背後から襲いくる巨大な土流。

 悲鳴と共に逃げるしかない――!!

「ピクシーボブ、見境なくない!?」
「なんて凄まじい威力……!!」
「暴挙だよコレ暴挙!!」
「一大事……!」
「とにかく逃げるぞ!!」

 側にいたお茶子ちゃんと百ちんを連れて、テレポートで逃げる。
 横では青山くんを抱えた瀬呂くんが、某蜘蛛ヒーローのようにテープで木と木の間を飛んでいた。

「みんな!呑み込まれるなよ――!!」

 立ち止まって、手で誘導しながら後ろに向かって叫ぶ切島くん。

「まずい!間に合わんぞ……!!」
「ありえねーだろぉぉ!!!」

 峰田くんを脇に抱えて走る天哉くんの言葉通り、全員、呑み込まれるのは時間の問題。

(……っ、どうする……!?)

「……先に行け」
「轟くん!?」

 一人、流れに逆らい立ち止まった焦凍くん。追い越す瞬間、その口から白い息が漏れたのに気づいた。

「氷結で食い止める。その間もお前たちは走れ」
「で、でも……この勢いはさすがに……!」
「これぐらい問題ねえ。他に対処方法はねえだろ」
「……っ、分かった!まかせたよ、轟くん!!」

 でっくんのその言葉を最後に、背後からは体育祭の時のように氷が一気に張る音が響いた――。


「(……さすがに、疲れたな……)」
「――焦凍くん!」
「っ、結月……」
「迎えに来た」

 私が戻って来ると……見事にそこには土流を防ぐ、巨大な城壁のような氷が現れていた。

 ここだけ涼しく感じるほどに。

「すごいね……。結構、無理したんじゃない?焦凍くん」
「別にしてねえ……――!」

 スカートのポケットからハンカチを取り出し、焦凍くんの額から流れる汗を拭く。

「……わりィ」

 申し訳なさそうな一言が返ってきて、私は笑った。

「焦凍くん、食い止めてくれてありがとう。他に手立て思い付かなかったから」

 ハンカチをしまおうとしたら、手首を掴まれた。

「ハンカチ、洗って返す」
「あはは、そんな気にしなくて大丈夫だよ〜」
「いや、俺が気にする。洗って返させてくれ」

 真剣に言われたので「そ、そお?」と、とりあえずハンカチを焦凍くんに渡した。(本当にそんなに気にしなくて大丈夫なのに)

 焦凍くんの肩に触れ、先に行った皆を追いかける。なかなか合流しない所を見ると、結構な距離を進んだようだ。

「前から気になってたんだが……おまえ、いつも手が冷てえな」
「私、末端冷え性だから」

 ――聞こえる爆発音が目印に。
 爆豪くんが元気に暴れているらしい。

「理世さん!轟さん!」
「良かった!無事に合流できて!」

 笑顔で迎えてくれたのは百ちんとでっくんだ。

「状況はどう?」
「変わらず。ただ見ての通り、かっちゃんが先陣を切って暴れてる」

 でっくんが眉を下げて笑い「たぶん、轟くんに触発されたんじゃないかな」と、続けて言った。(爆豪くん……分かりやすいなぁ)

「僕も結構休めたし、前線に戻るよ」

 でっくんはそう言って、すぐさま駆け出していく。

「私も行ってくる!」
「俺も……」
「百ちん、焦凍くんが無理しないように見張りをお願い」
「分かりましたわ!」
「……」

 恨めしそうな焦凍くんの視線は気づかないフリして、私も前に向かった。

「もうオイラ無理……」
「いやぁ今日の峰田くんは頑張っててかっこいいな〜B組の女の子たちに自慢しちゃおっかな〜」
「まだまだ!!オイラはこんな所で終わる男じゃねえ!!」オラアァァ!!

 時には峰田くんを励まし。

「うわっ……!?」
「大丈夫?三奈ちゃん」
「結月……!ありがとう!自分の酸で滑っちゃった」

 時には三奈ちゃんを助けたり。
 基本、私は皆のフォローに回るも――。

(さっきまであんなにあった勢いが……。だんだんとみんなの動きも鈍ってきてる……)

 一向にたどり着かない施設に、焦りと苛立ちが見えてきて、疲れに皆の口数も減っている。
 一度、上空に飛んで見てみると――ふもとまであともう少しの距離のように見えた。

 時刻は15時半。

 施設うんぬんにたどり着く前に、このまま足並みが落ちて、こんな森の中で日が暮れたらアウトだ。

(――よし!)

 気合いを入れて前線へテレポートした。
 次々と魔獣に触れて、"個性"で飛ばしていく。(触れる方ならそんなに精神は疲労しないはず。相手は土塊だから気も遣わなくて良い)

「……結月さん!?」
「"個性"そんなに使って大丈夫なのか!?」
「そうも言ってられない状況だからね。――今度は、私が先陣を切る!!」

 みんな、見失わないようにちゃんとついて来てね。

 先頭に降り立ち、前を見据える。

「結月が先陣ー!?心配だからアタシも前に出る!」
「ついに理世ちゃんがキタ……!」
「やったれ!理世ちゃーーん!」
「おいおい、大丈夫なのかー?」
「結月!無理すんなー!」
「倒れてもオイラ背負えねーぞ」
「おいしいところ、持ってくよね……☆」
「ついに参謀が前に出たか……。俺たちが援護しなければ」「ダナ!」
「俺たちもちゃんとフォローしねえとな!」
「……っ……っ」
「理世ちゃんが前に出たってことは、あともう少しの距離ってことかしら?」
「おー!確かに!」
「自称、体力配分のプロみたいだからね」
「もう一踏ん張りか……耳郎、俺たちも最後まで役目を果たすぞ」

 さっきまで静かだったのに、口を開いた皆は言いたい放題で……ちょっと呆気に取られる。

「結月くん、無理は禁物だぞ」
「その言葉、天哉くんにそっくりそのままお返しするよ」

 ガソリンが切れてもなお、素の体力で頑張っている天哉くんに。

「大丈夫だよ。もし、"個性"が使えなくなって動けなくなったら、爆豪くんに引きずってもらう覚悟はできてるから」

 そう笑って爆豪くんを見た。

「ハッ、そうなる気が更々ねえくせによう言うわ。……さっさとこいつらぶっ倒して、いい加減目的地に着くぞ!!」
「珍しく意見があったね〜!」

 飛び出す爆豪くんに、私も続く。


「理世さんが前に出ただけで、まるで皆さんの息が吹き返したみたいですわ」
「あいつに無理させたらすぐぶっ倒れるからな。逆に気が引き締まったんだろ」
「ふふ……そうですわね。理世さんが無理されないように、今度は轟さんが見張ってくれませんか?」
「ああ、そのつもりだ」


 ……――そして。そこからの記憶は、朦朧としている。
 
 とりあえず、皆でラストスパートというように一団となって、気力と勢いだけで進んでいったと思う。

(途中、なんかえらく焦凍くんにストップかけられたけど……。大きな"個性"は使ってないのに、多用でさすがにクラクラ……する……)

 それでも、さすがにあんなに先陣切って倒れるわけにはいかない。……意地だ。

 葉の合間から射し込む夕陽。
 時刻を確認する気にもならない。

 ただ、もう魔獣が出ないという事は、きっと目的地は目と鼻の先――……

「大丈夫?理世ちゃん、私の肩に腕回して!」
「……透ちゃん」

 どこからか現れた透ちゃんが、私の腕を自身の肩に回してくれる。

「ありがとう……透ちゃん」
「全然!……行こう」

 透ちゃんに甘えさてもらって、ゆっくり前に進んだ。

「私、この"個性"であんまりみんなの役に立てなかったから……」
「透ちゃんの適材適所は別にあるからね」
「……そんな風に言ってくれる、理世ちゃんの助けになりたいんだ。――あ、見て!森が開けるよ……!」

 透ちゃんの言葉に、まっすぐ前を見れば、森の終わりが見える――。


「つ、着いたぁっ……!着いたよ理世ちゃんっ……!!」
「長かった……!長かったよぉ……!!」

 やったよ、透ちゃん!!

 疲労、安堵、達成感、歓喜。色んなものがごちゃ混ぜになってわけが分からない感情が込み上げて……
 泣きそうな声と共に、透ちゃんと分かち合った。


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